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繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第16回 新型コロナ拡大とこれからのSDGs

繊研新聞連載

近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します(全16回)

新型コロナウイルス感染症の流行は世界中に混乱をもたらしており、SDGs(持続可能な開発目標)にも各方面で大きな影響が出ています。 外出自粛とそれに伴う経済活動の停止がCO2(二酸化炭素)排出量の減少につながるなど、環境面での好影響もありますが、大部分は2030年までのSDGs達成をより困難にするものです。

人権の観点から特に注視すべきは、貧困層や子供など社会的に弱い立場に置かれている人々ほど、感染拡大による深刻な影響・被害を受けていることです。世界銀行は、1998年以来約20年ぶりに世界の貧困率が上昇するとの予測を発表しました。ユニセフ(国連児童基金)とセーブ・ザ・チルドレンは、2020年末までに最大8600万人の子供が新たに貧困に追い込まれる恐れがあるとの分析を発表しています。外出自粛の長期化に伴い、家庭内暴力や児童虐待の増加も各国で報告されています。こういった事態は「誰一人取り残さない」ことを目指すSDGsに逆行するものであり、救済と回復に向けた喫緊の取り組みが必要です。

環境の観点では、SDGs達成に向けた機運の後退が懸念されます。目標13「気候変動に具体的な対策を」に関しては、今秋開催予定だった温暖化対策の国際会議・COP26が延期を余儀なくされました。各国における温室効果ガス削減目標の策定や提出も後ろ倒しとなり取り組みに遅れが生じる見込みです。

アパレル業界において、特に注意すべきは下請け企業や労働者への配慮です。感染拡大による工場の稼働停止で、立場の弱いサプライヤーが賃金未払い・不当解雇などのリスクに直面している可能性があります。

バングラデシュで行われたアンケートでは、アパレルブランドのサプライヤーの80%が「納入先からの支払いが遅延している」と回答しています。また、貧困層の増加により、新興国での児童労働や強制労働が増えている可能性もあります。生産工程のグローバル化を進めている企業は、自社のサプライチェーンで同様の問題が起こっていないか精査する必要があるでしょう。

今回のパンデミック(世界的大流行)を通じて、一時たりとも止まらない前提で構築されたサプライチェーンや、それに依拠した大量生産・大量消費型ビジネスモデルの限界が可視化されました。今後はよりサステイナビリティー(持続可能性)やレジリエンスが重視され、消費者も「一つのものを長く、大切に使う」スタイルに移行することが予想されます。消費者が企業を選ぶ目も一層厳しくなり、人命や人権、環境への配慮が薄い企業は淘汰されるでしょう。

これからは、新型コロナウイルスの流行で後退してしまったSDGsへの取り組みをいかに再度強化し、加速させられるかが企業にとって最大のテーマとなります。「誰一人取り残さない」世界の実現に向けて、全ての企業のたゆみなき努力が求められます。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第16回 [PDF: 552KB]
全世界における貧困層の人数推移 (世界銀行による予測値)
※クリックまたはタップして拡大表示できます

繊研新聞(2020年6月22日付)
繊研プラス:https://senken.co.jp
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繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 
(繊研新聞連載 全16回)

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