ライフサイエンスの垣根を超える-湘南アイパーク「FUTURE meets FUTURE」

  • Digital Business Modeling
2022/6/8

組織や分野の垣根を超えたイノベーション創出の場となるエコシステムの構築を目指す「湘南ヘルスイノベーションパーク(以下:湘南アイパーク)」は、ライフサイエンスやヘルスケアの視点だけにとらわれない新たな未来を見出すための試みとして、湘南アイパークのイノベーターと「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」押井守監督など異分野の著名人が対談する「FUTURE meets FUTURE」企画を実施した。

Deloitte Digitalが支援した本事例を通じ、なぜライフサイエンス業界においてオープンイノベーションが重要なのか、化学反応を起こすための創意工夫について、湘南アイパークで本企画を推進した、ジェネラルマネジャーオフィス ヘッド 萩迫 孝弘氏、コマーシャル&ビジネスディベロップメント ヘッド兼コミュニケーション ヘッド 中川 弘規氏、コミュニケーション 課長代理 日比野 はるか氏とDeloitte Digital Japan Deputy Lead 熊見 成浩、Deloitte Digital シニアスペシャリストリード/シニアクリエイティブディレクター 八代 圭がオンラインイベント「Deloitte Digital Week 2022」で対談を行った。
(以下敬称略)

湘南から世界へ -世界に開かれたライフサイエンスエコシステムの構築を目指して

熊見:今日は「ライフサイエンスの垣根を超える」と題し、湘南アイパークでライフサイエンスエコシステムの構築に取り組む萩迫さん、中川さん、日比野さんとDeloitte Digitalがご支援する取り組みである「FUTURE meets FUTURE」をご紹介したいと思います。まずは、皆さんから自己紹介をお願いできますか。

萩迫:私はライフサイエンス業界に約25年おり、外資系のヘルスケア企業やコンサルティングファームでの経験を経て現職を務めています。現在は、様々な企業の方々と日々取り組みを進めながら、私たちのミッションである「世界に開かれたライフサイエンスエコシステムの構築」に向けて活動しています。

中川:以前は、ライフサイエンスの事業会社やVC(ベンチャーキャピタル)でライフサイエンス企業への出資等、様々な分野で活動しておりました。現在は営業と事業開発を担当するとともに、コミュニケーションの領域では湘南アイパークの皆さんがよりつながる仕掛けづくりに日々取り組んでいます。

日比野:私はもともと創薬の研究をしておりましたが、湘南アイパークのオープンに伴い、研究者をサポートする場を創る側としてコミュニケーションに携わっています。日頃は、研究者の皆さんがオープンイノベーションを進める上での場創りや、その取り組みを外部に魅力的に発信することに取り組んでいます。

八代:Deloitte Digitalでクリエイティブサービスを提供しています。企業のブランディング、マーケティングに関わるコミュニケーション領域で映像制作や対外的に発信するコンテンツの制作も行います。日々様々な業界のご支援を行っていますが、今日は特にライフサイエンス業界のブランディングという観点でもお話できればと思います。

熊見:湘南アイパークは日本初となるライフサイエンスのイノベーションエコシステムの構築に取り組まれています。どのようなパーパスを掲げて活動されているのか、教えて頂けますか。

萩迫:はい、2018年4月に、もともと製薬企業の研究所だった施設を他の企業や大学にも開放して創られたのが湘南アイパークです。立ち上げ当初から「世界に開かれたライフサイエンスエコシステムの構築」をミッションとして掲げ、日々企業の誘致や活動を進めています。ビジョンには「革新的なアイデアを社会実装する」を掲げ、色々な研究から生まれたシーズを、実際に社会に還元できるような形づくりまでの場を構築しています。
立ち上げ当初は数十社程度でしたが、2022年5月1日現在で入居企業は97社、物理的なオフィスやラボは無いもののメンバーとして参加するメンバーシップ企業は約50社となり、合計約150社が私たちのエコシステムに参画頂いています。規模や業種は、大企業から中小企業、製薬から創薬のスタートアップ、さらにその周辺に関わるようなIT企業、自治体、創薬を支援する企業も入居しています。

萩迫 孝弘氏|Takahiro Hagisako

湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)ジェネラルマネジャーオフィス ヘッド

熊見:ありがとうございます。私も実際に足を運んだことがあるのですが、本当に広大で素晴らしい施設です。湘南という土地柄も大きいですよね。湘南アイパークの特徴や入居されている企業の方からの反響はいかがでしょうか。

萩迫:まずファシリティですが、もともと製薬企業の研究所としてつくられた最先端の施設であり、生物や化学の専門的な研究を行える設備を有していることに加え、ビーチやキャンプ場のような趣きを取り込んだ共有スぺースもあり、気分転換しながら仕事に取り組むことができる環境を整えています。

また、入居企業同士が交流を進められるような場創りに積極的に取り組んでいることも大きな特徴の一つです。夕方集まってワイワイ会話ができるようなバーや仕事の合間や終わってから汗を流せるジムも併設しています。コロナ禍以前はこちらの写真のように対面で交流企画を実施していましたが、現在もオンラインを取り入れながら活発な交流を進めています。約150社の企業との交流を持ち、新しい研究や事業に活かせるコミュニティが構築されている点に、魅力を感じて頂いています。

日比野:入居頂いている企業や研究者の方からは、湘南という場所柄、「都心とは違う時間が流れている」「都心でポツンと一人で研究するよりも、研究者の皆さんと交流ができる」ことに魅力を感じているというお話を頂きます。

オンラインでどのように新しいつながりを創るかは、この2年間私たちも入居企業の皆さんと共に模索・奮闘してきた部分ですが、出身県や専門分野といった共通の話題をきっかけにしながら、交流が進んでいるように思います。

熊見:同じテーマや出身等の共通項でつながりができるのは、コミュニティが出来上がっているからこその強みだと思いますね。

熊見 成浩 | Narihiro Kumami

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー/ Deloitte Digital Japan Deputy Lead

業界の垣根を越え、未来が交わりあう 「FUTURE meets FUTURE」 制作エピソード

熊見:さて、続いてのテーマは「FUTURE meets FUTURE」の企画についてです。私たちDeloitte Digitalも湘南アイパークの理念に共感し、この取り組みを幅広く広げていくためのご支援を行っています。具体的な取り組みについて、八代さんから説明頂けますか。

八代 圭 | Kei Yashiro

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Deloitte Digital シニアスペシャリストリード / シニア クリエイティブ ディレクター

八代:先ほど皆さんからのお話にもありましたが、湘南アイパークは、創薬・製薬に加え、周辺の企業・組織を含めたエコシステムを築いているのが強みと言えると思います。一方で、一般的にライフサイエンス業界のブランディングは、医療従事者をはじめとする業界内のコミュニケーションや患者に対する疾病の啓もう活動といったように、業界内やステークホルダーが限れていることが多いように思います。

今回はこの垣根を越えて、いかにコミュニケーションするかが重要なポイントでした。同時に、エコシステムによって実際にどのような新しい価値が生まれるのか。異文化がコラボレーションすることで新しいイノベーションが生まれるエビデンスを踏まえたコミュニケーションをする必要があり、この2点を踏まえて今回の企画を立案しました。

具体的には、実際に湘南アイパークに入居するイノベーターの方と、全く異文野のトッププレーヤーとの対談セッションを設け、その対話の中から何が生まれていくかという実験的な試みを行いました。この内容を、Forbesと組んで映像や記事としてアウトプットしていくことで、業界内外のより多くのビジネスパーソンの方々に発信しています。

FUTURE meets FUTURE イノベーターたちの異分野対談

計5回の対談企画から、具体的に2つご紹介させて頂こうと思います。1つ目の企画は、生物工学者の小島伸彦先生と「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の押井守監督との対談です。2つ目の企画は、アキュリスファーマの代表取締役社長 兼CEO、共同創業者である綱場一成さんとビズリーチの創業者である南壮一郎さんの対談で、製薬・創薬を取り巻くビジネスの在り方について語ってもらい、新たなコラボレーションを生み出していく企画です。5回の対談収録は終えているのですが、全般を通して思いもよらないアイデアやハッとするような気づきもあり、個人的にも毎回勉強になりました。

熊見:このような企画を実施しようと思った狙いや背景はどのようなことだったのでしょうか?

日比野:湘南アイパークの中では、非常に挑戦的なことに取り組まれ、キャリア含め魅力的なストーリーを持っている方がたくさんいます。こうした皆さんの思いや挑戦を、ライフサイエンス業界だけではなく、ぜひ多くの方々に知って頂きたいという思いがありました。

ライフサイエンス業界は非常に専門性が高く、研究開発も薬の場合は約20年という長い年月をかけて行われることもあり、一番のフロントランナーが外から見えにくいという特殊な課題がありました。ですが今回の企画を通じて、業界内外の方々の未来が交わる機会になればと期待しています。

日比野 はるか氏|Haruka Hibino

湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク) コミュニケーション 課長代理

熊見:対談で印象に残っていることはありますか?

日比野:毎回金言や示唆に富む対話が繰り広げられて、1つの対談のエピソードだけでも1時間話せそうなくらいですが、敢えて一つ上げるとしたら、小島伸彦先生と押井守監督の対談で、科学とSFが互いに追いつき追い越し、切磋琢磨しあいながら未来を創っていくという対話があり、非常に興味深く聞かせて頂きました。

小島先生は押井監督の作品に影響を受けて研究者を目指したという経緯がありますが、SFで描かれていた未来に現在の科学は追い付きつつあって、それが実現すると今度はSFがさらに突飛な未来を描いて・・・というように、SFと科学が未来をCo-creationしていくという、示唆に富むお話が印象的でした。また小島先生、押井監督の双方からも、対談後のコメントで、「ワクワクした」「良い刺激をもらった」という声を頂きました。

八代:私は、お二人の対談の中で「人体を外部装置化する」というお話が印象的でした。思い描く未来のさらに先、もしくは全く違う観点を持つ二人だからこそのケミストリーから生まれたアイデアとして、ある意味衝撃を受けました。

ライフサイエンスの垣根を超える ―オープンイノベーションを加速する仕掛けとは

熊見:最後のテーマは、「ライフサイエンスの垣根を超える」です。湘南アイパークでイノベーションを生むために創意工夫されていることを教えて頂けますか?

萩迫:湘南アイパークの強みを一言でいうと、あらゆるリソースに迅速かつ効率的にアクセスできることが挙げられます。具体的には、人・モノ・情報・お金、これらすべてが連携する仕組みを4年かけて構築してきました。情報については定期的にコミュニティに発信したり、人財については昨年から湘南アイパーク内の求人情報を人事関係者に公開し、より効率的に人財を探せる仕組みを作りました。資金については、2020年7月に「日本VCコンソーシアム」を発足しました。現在25社ほどのCVC、VCの方が毎月1回集まって、共通の目的を達成しようといろんな企画に参加頂いています。

現在約150社、2000名以上の方が湘南アイパークで働いているのですが、今回の取り組みをきっかけにしながら、より周辺の関係業界の方にも参加頂き、また地域の住民の方にも貢献していけるような取り組みを実現していきたいと考えています。

中川:ライフサイエンスに限られた話ではありませんが、革新的なアイデアや技術を、効率的にいち早く市場に届けるという意味で、オープンイノベーションの重要性の高まりを感じます。一例としては、大学で研究していた先生が自身の成果をもって起業する、自身が研究者でなくても、他のメンバーを集めて外からシーズを持ってきてスタートアップを設立するケースもあります。

研究に必要な資金が外部のVCから提供されることで研究が加速し、大手のライフサイエンス企業がその後の開発から市場販売までのプロセスをM&Aや提携という形で引き継ぐ・・・といったように、各プレーヤーがうまく役割分担するケースが増えてきています。

革新的な医薬品やサービスをいち早く市場に届けたいという共通の目的のもと、自前主義にこだわることなく、自分の強みを生かして他のプレーヤーとコラボレーションする。これがライフサイエンスの分野でオープンイノベーションが活発化している大きな要因だと思います。

中川 弘規氏|Koki Nakagawa

湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)コマーシャル&ビジネスディベロップメント ヘッド 兼 コミュニケーション ヘッド

熊見:湘南アイパークでここまで大規模なオープンイノベーションが実現できた要因はどのようなところにあるのでしょうか?

中川:世界に向けて革新的なものを発信したいという思いを持った人が集まっていることが一番大きいと思います。我々含め、何か一緒に新しいものを生み出したいという思いをもって参画しているので、皆さんのコラボレーション、イノベーションをサポートできればと思っています。

熊見:パーパスを実現するうえで、日本企業に一番足りないのは、実現しようとする思いや意思ではないかと考えています。湘南アイパークの場合は、想いのある人が集まっているからこそ、まさにパーパスドリブンな組織なのだと改めて思いました。
最後に皆さんから、今後の展望や取り組みについて、お話を頂けますでしょうか。

日比野:今回の「FUTURE meets FUTURE」の企画とも関連しますが、さらにライフサイエンスのワクワクを発信する場にしたいと思っています。特に製薬・創薬は人の命と向き合う業界ですので、どうしてもまじめに、きっちりやらないといけない、ともするとあまり楽しんではいけないという空気がある部分もありますが、今回の企画で10人のお話を伺い、純粋に新しい未来を発見する楽しさに気づくことができました。
湘南アイパークやライフサイエンス業界の内外の方、さらには、これから業界を目指す学生や子供たちにも魅力を感じて頂けるような取り組みを続けていきたいと思います。

中川:私は事業開発や新しいテナント・メンバーを誘致する役割がベースになりますが、これまで以上に国内外の多様なプレーヤーの皆さんに湘南アイパークに来てもらいたいと思います。湘南アイパークやサイエンスに興味のある方は、垣根無く、世界中から集まってきてほしいですね。皆さんとのコラボレーションを進めながら、世界中の医療に貢献する医薬品や医療機器、サービスが生まれる場所にしていきたいと思います。

萩迫:設立から4年が経ち、約150社の企業に参画頂いていますが、まだまだこのエコシステムを一緒に盛り上げていく企業を募集しています。少しでも興味をお持ち頂ける方にはぜひドアノックしてほしいですし、将来はライフサイエンスといえば湘南アイパークと思っていただけるような場所を皆さんと一緒に創っていきたいと思います。

――本日は、貴重なお話をありがとうございました。

<関連リンク>
FUTURE meets FUTURE イノベーターたちの異分野対談 Forbes特設サイト
FUTURE meets FUTURE イノベーターたちの異分野対談 湘南アイパーク特設サイト

本セッションをオンデマンドで公開中です(2022年6月30日まで)

PROFESSIONAL

  • 熊見 成浩/Narihiro Kumami

    デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

    外資系コンサルティング会社を経て現職。「マーケティング」領域に専門性を持つ。コンサルティングの特徴として「Latest Marketing(新しいマーケティング)」を掲げ、深い顧客インサイトの理解と、プロダクト&サービス、価格+インセンティブ、コミュニケーション、複合的チャネル(特にデジタルやNew Media)、そしてBrandを統合的に考えることで顧客価値を最大化する。近年は、デジタルトランスフォーメーションやグローバルマーケティングのプロジェクトを多数推進。

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