【別所哲也氏対談】Deloitte Digital Awardの”For Connect”

  • Digital Organization
2021/8/24

今年6月、Deloitte Digitalは米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(以下、SSFF & ASIA)における、企業や広告会社が制作したブランディングを目的としたショートフィルムの部門『BRANDED SHORTS』に「Deloitte Digital Award」を新設することを発表した。

デジタルを駆使した価値創造に取り組んでいるDeloitte Digital。今回は、その活動テーマのひとつであるエンターテインメントについて、俳優としてご活躍されるとともにSSFF & ASIA代表を務める別所哲也氏を迎え、ショートフィルムの祭典を日本で始めたきっかけから新たに設立されるDeloitte Digital Awardの詳細まで、Deloitte Digital Japanをリードする宮下剛と対談。ファシリテーターは、同じくDeloitte Digital Japanの若林理紗が務めた。

23年前に輸入したショートフィルム

――別所さん、本日はお越しいただきどうもありがとうございます。新たに設けさせていただくことになった「Deloitte Digital Award」についてはもちろんですが、多方面で活躍されている別所さんがどのようにフィールドを広げてきたのか、まずはお聞きかせいただけますか。

別所:大学の時に英語劇に出会い、俳優として映画・演劇に携わりたいと思うようになりました。その後、ハリウッドで映画デビューし、「俳優とは、演技をする前に行動する人」ということと、「Know HowよりもKnow Whoのほうがより重要」ということを学びました。誰と繋がっていけばいいのかと考えながら自ら行動することを続けてきた結果、いろいろなことが繋がってきたのだと思います。

――その結果のひとつであると思いますが、SSFF & ASIAを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

別所:まず、ハリウッドで俳優をしていた1997年にショートフィルムに出会いました。撮影スタジオでショートフィルムを10本ほど観る機会がありましたが、正直なところ観る前は、「ショートフィルムは短くて、実験的なものばかり。見る意味なんてないんじゃないか」という先入観を持っていました。

ところが、実際に観てみると、どの作品もとても魅力的で、一瞬で魅了されてしまったんです。ショートフィルムに興味を持ち、調べてみて分かったのは、僕が当たり前のように参加している映画の原点がショートフィルムだったということ。ジョージ・ルーカス監督やトム・クルーズといった有名なハリウッドスターも、はじめの一歩はショートフィルムなのです。

別所哲也 / Tetsuya Bessho

1965年静岡県生まれ。90年、日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビュー。99年よりショートショート フィルムフェスティバル&アジアを主宰し、文化庁長官表彰受賞。映画、ドラマ、舞台、ラジオ等で幅広い活躍を遂げるとともに、観光庁「VISIT JAPAN大使」や映画倫理委員会委員、外務省「ジャパン・ハウス」有識者諮問会議メンバーに就任するなど、日本の文化を国内外に発信し続ける

技術面では、写真がモーションピクチャーとして動き出した時にさまざまな技術が生まれ、磨かれてきたことを知りました。映画はとてもイノベーティブなものだということが分かり、もっともっとショートフィルムのことを知りたくなったんです。

ちょうどその頃、インターネット時代が到来し、「映画配信の時代が来る」と夢見た多くの人たちがシリコンバレーに集まってきていました。そのような潮流を現場で感じながら、「ショートフィルムは21世紀初頭に向かって動き出す」と確信し、1999年にショートフィルムの映画祭を日本で始めたんです。

宮下:23年も続けていると、さまざまなご経験があると思います。どのような世界や社会の変化を感じているのでしょうか?

別所:ショートショート フィルムフェスティバルを始めた1999年は、フィルムを輸入し、税関を通して字幕を焼き込んでいました。まさに作品を輸入していたんです。それがデジタル化され、どこにいてもデータのやりとりができるようになったのですから、これは大きな変化ですね。「作品を輸入する」といった感覚は大きく変わっているように感じます。

そのほかにもいろいろあります。たとえば映像を投射する技術も映写機からデジタル機器に変わっていますし、創作という点でも、その内容がどんどん変化しています。ドローンやVR/XRといったものも使われていますし、「縦型動画」やスマートフォンだけで作られたショートフィルムなどもご紹介しています。同時に、SDGsや環境問題というものに向き合った作品もどんどん増えていますね。

作品のクリエイティブの部分にも変化が生まれています。たとえば、今回新設していただく企業の広告とシネマのハイブリッドである「ブランデッドショート」というコンテンツは、企業と顧客とのコミュニケーションの主流が動画になりつつあることを示しています。

宮下剛 / Go Miyashita

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員。Deloitte Digital Japan Lead. Customer & Marketing組織責任者。CRM組織全般において戦略立案からデジタル変革まで業界横断で手掛ける。近年はCRMおよびデジタルの知見を活用した社会課題解決、NPO支援、スポーツビジネス、元プロスポーツ選手のキャリアチェンジ開発等にも取り組む。早稲田大学大学院非常勤講師

ブランデッドムービーの価値

――ブランデッドムービーとは何か、別所さんはどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

別所:「ブランド」という言葉を聞くと、宝飾品や時計と言ったラグジュアリーブランドを思い浮かべる人が多いと思いますが、僕自身はブランドをそう捉えていません。俳優でいうと「パーソナルヒストリー」がブランドだと考えています。

つまりある役を演じているときに来ている洋服だったり立ち振る舞いだったり、言葉遣いだったり。そうしたことが役柄を演じる上での情報であるように、企業の皆さんが伝えたいことも、その立ち振る舞いや考え方というものに表れ、形として伝わると考えています。そういった「ブランド」を伝えることができるのがブランデッドムービーです。

生活者が主体的に情報検索し、情報発信するようになった現在、企業による一方的なマス広告だけでは想いを伝えきれなくなっています。広告のあり方が変容していく中で、ブランデッドムービーはインターネット上の新たなマーケティング手法として大変注目されている分野となっています。

ブランデッドムービーの制作目的はさまざまで、なかには人事採用の分野や企業の周年事業などで作られているケースもあります。また創業者の理念や商品開発の物語などを伝えるためのコミュニケーション手段にもなっているのです。

もう一つは、観光です。地域振興のために多くの観光映像が作られています。たとえば、コロナ禍で大変な思いをされている観光事業やホテルなどのサービス事業の方々の物語をショートフィルムとして届けることで、「いつかそこに行ってみたい」「あの地方のあの商品を買いたい」というお客様が増えるかもしれません。ブランデッドムービーはそういった地域振興のお手伝いができると考えています。

実は、私たちは国際短編映画祭としてさまざまなショートフィルムをお届けしていますが、ブランデッドムービーの企画制作にも携わらせていただいています。SSFF & ASIAにはたくさんのクリエイターや映画監督が集まっています。その数と質を活かし、ユニークな制作バリエーションで企業や地域の皆さんの想いに応えることができます。制作作品を、国内だけでなく海外の映画祭に出展したりすることができることも私たちSSFF & ASIAの特徴です。

宮下:商品やサービスの差別化が難しい時代に「ストーリー」はとても大事です。こういった時代だからこそ、ブランデッドムービーが必要になってきていますね。

若林理紗/Risa Wakabayashi

デロイト トーマツ コンサルティング スペシャリスト。公共放送や民間放送の報道番組のキャスターとして国際情勢や教育問題、サステナブルビジネスなどを取材。2020年夏より現職。事業構想策定等のコンサルティングプロジェクトに従事するほか、SDGs教材やデジタル人材育成教材の開発・普及など産学連携プロジェクトを推進

映画とヒューマンエクスペリエンス

別所:僕は「映画の本質って何だろう」と常々考えていますが、つまるところ「Better Life」 と「Another Life」を見たいのではと思っているんです。みんな、よりいい生き方を模索しているし、そのヒントをコンテンツに求めている。その先には、文化やアートが存在します。ショートフィルムを通じてもう1つの人生を疑似体験し、「こんな生き方もあるんだ」と思うことで、元気になったり頑張ろうという気持ちになったりすることもある。

「Better Life」 と「Another Life」の種は、身近な企業や地域にある物語です。その種がブランデッドムービーになり、世の中を良くしたり、ほかの人と繋がっていったりできる時代になっているのだと思います。

宮下:我々は「ヒューマンエクスペリエンス」という言葉を大事にしています。これは、「お客様だけでなく、働く従業員の方やパートナー企業の方を含めた関係者全員の満足度を上げていくことで、全体の質も上がっていく」ことを表現した言葉です。別所さんのお話を聞いて、ブランデッドムービーはまさにヒューマンエクスペリエンスそのものだと感じました。

また、海外への展開というのも大きなチャンスになるんじゃないかと思っています。そういった仕組みの中で、新たなネットワークや繋がりを作っていくことができる。ボーダーレスで国境を越えるコミュニケーションコンテンツのひとつが、ショートフィルムかもしれません。とても広がりを感じますね。

別所:人と人がコミュニケーションすることが、まさに大切な人と人との繋がりや文化を作っていくことになる。最近は、そこに軸足が移ってきていると感じています。同時に、大きな物語より小さな物語が活かされる時代になっていますよね。

映画の場合、大作といわれる映画は3〜5年前に構想が練られています。しかし、それでは今抱えている社会課題をパッと映し出すことはできない。そういったテーマは、小回りの利くショートフィルムの得意分野です。ショートフィルムであれば、企画立案から発表まで3カ月以内で出すことができますからね。

Deloitte Digital Award: For connect

――改めてデロイト デジタルとブランデッドショートの親和性を感じています。私たちはDeloitte Digital Awardのコンセプトを”For connect“と定めました。

宮下:デロイト デジタルでは、最新のデジタル技術を駆使したビジネス変革を”For Business”、デジタルを広義にとらえデジタルを駆使した新たな価値創造の”For New Value“の循環に取り組んでいます。今回のアワード設立は、アワードを通してショートムービーやブランディングの可能性に対する想いや知見を持つ方々が集い、繋がる機会を広げ、企業や社会が伝えたいメッセージの届け方のNewを創造することを目指しています。

アワードは、ブランデッドショートとデロイト デジタルのコンセプトを基にPurpose、New、Design、Human Experience、Engagementの5つの観点で応募作品から選定し、受賞作品は来年2022年6月のSSFF & ASIAにて上映、配信頂く予定です。

経済的価値に加えて社会的意義の関心が高まる中で、企業や社会もパーパスの伝え方やブランディングがより重要となっており、新たな手法のひとつとしてブランデッドムービーへの期待も高まっています。 “For Connect”ということで、受賞者とのネットワーキングやサービス提供/クリエイティブ制作におけるDeloitte Digitalとのコラボレーションなどを検討しており、デジタルと人間らしさの融合について多くの方々と意見交換、表現できればと思います。

今後スケジュールなどの詳細を詰めていきますので、引き続きご注目いただけたら嬉しいです。

別所:2022年のブランデッドムービーでは、よりボーダーレスなコミュニケーション、まさにどのように人々が”Connect”していくのかに焦点をあてたいと考えています。新型ウイルスの影響で人々の繋がりが限定的になった一方で多様化した今、どのような作品が集まってくるのか、期待しています。

【BRANDED SHORTS 2022「Deloitte Digital Award」|2022年2月末までエントリー受付中】
Deloitte Digital Awardは、「デジタルと人間らしさの融合」をテーマに、Purpose(存在意義)、New(新奇性)、Design(デザイン性)、Human Experience(人の体験・体験価値)、 Engagement(愛着)
の5つの指標から特に優れた作品に贈られる賞です。

応募要項はこちらをご覧ください。

PROFESSIONAL

  • 宮下剛

    デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員/Deloitte Digital Japan Lead/Customer & Marketing組織責任者

    CRM組織全般において戦略立案からデジタル変革まで業界横断で手掛ける。近年はCRMおよびデジタルの知見を活用した社会課題解決、NPO支援、スポーツビジネス、元プロスポーツ選手のキャリアチェンジ開発等にも取り組む。早稲田大学大学院非常勤講師。

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