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今すぐビジネスを巻き込んだ“Tech Fluency”の向上を図るべきである
日本のコンサルタントの見解
2018 グローバルCIOサーベイ
日本の見解
- デジタル変革の荒波を乗り越えるには、早期に失敗から学び、行動あるのみ
- レガシーモダナイゼーションから始まるIT組織変革を推進すべきである
- 今すぐビジネスを巻き込んだ“Tech Fluency”の向上を図るべきである
日本のコンサルタントの見解
本当に“攻める側”に回れるのか
「何%の予算を戦略的領域に投入できているか?」これは、本サーベイにおいて毎年インタビューしている項目の一つである。
この問いに関して、2016-2017年のサーベイでは新規投資の割合が「3割以下」であったものが、2018年は「4割強」と改善傾向にあるように見える。一方、経済産業省の調べでも、「4割を超える企業が、予算の9割を既存のシステム保守に充てている」という数字が出ていた1。一般のTV ニュースですら、新しいテクノロジーの活用ケースについて紹介する昨今にも関わらず、この“攻め”に対する低いIT 投資レベルが意味するものは何か。企業間の競争が国境や業界・業態を超えて激化する中にあってもなお、新しいものを軽んじ、古いものに重きを置いたままになっているのだろうか?それとも、新興企業のみが先進的なテクノロジーのメリットを甘受し、それが目立っているだけなのであろうか?
確かに、新しいテクノロジーについては、安価で容易に利用できるものが増えているのも事実である。どこの企業でも利用が当たり前になりつつあるクラウドサービスはその最たる例であるし、かつて設計・デザインに使われていたCAD は、今やハードウェア的に卓越した性能を必要とせず、操作も直感的かつ容易なデジタルリアリティ(DR:Digital Reality)にシフトしつつある。
だが、どのようなIT 投資であっても、結局その大部分を占めるのは、開発よりも運用コストであり、テクノロジーそのものというよりも、保守に関わる人件費であることに疑う余地はない2。では、予算も限られ、人材も限られる中、いつ、どうやったら、標準的な従来型の企業も、真の意味での“攻め”に舵を切ることができるのだろうか?私が考える、「攻めに舵を切る」ための施策は二つある。トップからの意識改革と、ビジネス部門のTech Fluency の向上である。
施策1:ビジネスを含むトップからの意識改革
無論、本サーベイを読んでいただいている多くの方は、CIO、あるいはIT やデジタル部門の要職を担われている方であり、そもそもこうした“守りからの転換”に対する高い関心をお持ちの方ばかりであろう。そういったみなさんは、これまでのCIOサーベイで述べているような、「頼りになるオペレータ」を卒業し、「変化の立役者」や「事業の共同創作者」にならねばならないという意識を、既に十分お持ちのことと思う。
ただ、いくらIT 部門のトップあるいは現場の責任者がそのような意識を持ったとしても、変化を起こすのは至難の業である。なぜなら、多くの企業では、投資判断の決定権はIT 部門にはなく、年単位の予算をビジネス部門主導で編成しているためである。つまり、CIOだけでなく、CEOやCFO、COOなどの、ビジネスの執行サイドにいるCxOクラスに対する意識改革を行ってこそ、初めてテクノロジーを活用した“攻める”体質に変わることができるのだ。口で言うほど簡単ではなく、社内でこの変化を起こすのはなかなか骨が折れる作業だ。役職の序列や発言力などを考慮すると、正しいことを正しく伝え、また正しく理解してもらうということは、自身のクビをかけてチャレンジせねばならないほどの取組みになってしまう。
であれば、どうするのが良いのであろう。例えば、デロイトではグローバル規模で「CxO Program」というサービスを展開している。この「CxO」には、CEOやCFO、CHRO、そしてもちろんCIOも含まれる。このCxO Program の中に、「Transition Lab」というものがある。丸1日をかけ、CxO1人をお招きし、課題の所在の掘り下げや、関連するステークホルダーに対する分析を行い、優先的に取組む施策をプランニングする場だ。こうした客観的な視点や知見といった外部の力を使うことで、CIOのみなさんが、どのように組織を変えていくかを再確認できる。
CIOが参加された後、他のCxOの方に別のTransition Labを受けていただくことで、マネジメント間で方向性を合わせに行く、といったアプローチを取ることもできる。つまり、ビジネス部門のトップを巻き込んだ、テクノロジーに対する意識改革を行うのである。
実際、先駆的な企業ではテクノロジー関連部門のトップを重用する取組みにより、従来の予算策定や投資判断プロセスをより柔軟に実行できるような見直しも行っている。本文中でも紹介したように、年次の予算編成プロセスに縛られることなく、一定の裁量のもと、新しいテクノロジーや新規案件にチャレンジできる仕組みを作り上げているケースもある。見方によっては「遊び」の部分であるかもしれないが、こうした新しい取組みに投資し続けることで、他者に先行する種を蒔き続けていると見ることもできる。実際に効果が出るものだけを時間をかけて選別し、資本投下を行い、刈り取りを待つだけの姿勢では、いつまでも「9割の保守コスト」状態からは抜け出せないのである。
施策2:全社のテクノロジー感度の向上
もう一つの策は、ビジネスのユーザーレベルを巻き込んだ“Tech Fluency”の向上である。“Tech Fluency”とは、簡単な言葉に言い換えるならば、「テクノロジーに対する感度」である。
前述のLab のようなトップに対する意識変革に加え、ボトムアップ的な取組みも重要となる。当たり前のようにテクノロジーの動向を理解し、業務のどの場面で活用できるかを考えることができる裾野を拡大することが欠かせない。その中の幾人かは、確実に将来のビジネス部門でテクノロジーに理解のあるマネジメント層となろう。
実際、大手の銀行でも、経営を担うビジネスマネジメントへ進む上で、何らかのIT 部門に関する経験を積むようなキャリアパスを意図的に組んでいることがある。このような戦略的な異動まで制度化することは、昨今の業務が多様化する中で、難易度が高いかもしれない。そこまで至らなくとも、テクノロジーに興味・関心を持つことが当たり前となるように、刺激を与え続けるプログラムを構築することは、比較的容易で効果的である。一定レベルの英語力を昇格の要件として設定したり、社内の公用語を英語とする企業があったりするのと同様に、半強制的にでもITに触れる場面を増やすということは、テクノロジーに対する感度を高める上で現実解となる。
これは何も“Techie”な人を増殖させるという意味ではない。一般紙に出ている程度の言葉は当然理解し、自らの組織に置き換えて考えることができるレベルで十分なのである。
とはいえ、ミレニアル以降のデジタルネイティブ世代は別として、それ以前の世代の社員にテクノロジーの「再教育」を行うのは簡単なことではない。「アレルギー」の除去に始まり、いくつもの刺激を一定期間に渡って与え続ける必要がある。その間、刺激の入れ替えも必要になろう。時間のかかる継続的な取組みとなるため、ビジネス部門を含む“TechFluency”の向上は、早く手を打ったもの勝ちである。テクノロジー、デジタルを統括する立場の読者のみなさんには、ぜひIT 部門のトップとしてだけではなく、企業全体のテクノロジーの伝道師としての役割を積極的に担われることを期待したい。システムやデータを利用する側の理解や興味なくしては、人もお金も動かすことなどできないのだから。
脚注
1. 経済産業省「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート ~ IT システム『2025 年の壁』の克服とDX の本格的な展開~」(2018/9/7)
2. 日本情報システムユーザー協会(JUAS)「ユーザー企業 ソフトウェアメトリックス調査2018 システム運用調査~運用コストの内訳と管理指標に関する調査・分析」(2018/4/24)。左記の調査データからも運用コストの実に7割近くが人件費であることがわかる。
寄稿者
箱嶋 俊哉 執行役員 パートナー
金融、公共、製薬業界を中心に、テクノロジーを軸としたコンサルティングサービスを担当。企業統合や基幹システム再構築などの、グローバルおよび大規模プロジェクトに強みを持つ。デロイト トーマツグループとして提供するCIO Program 全体の責任者も務める。人材育成も得意としており、外部講演や執筆も多数手掛けている。
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