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レガシーモダナイゼーションから始まるIT 組織変革を推進すべきである

日本のコンサルタントの見解

日本のコンサルタントの見解

基幹のリプレイスは本当に必要か?

2018年のグローバルCIOサーベイの結果においても、理想とするCIOパターンと現在認識しているCIOパターンとのギャップは依然として大きなものがある。「事業の共同創作者」を理想としつつも、「頼りになるオペレータ」の位置付けのままというのが実態である。テクノロジーを駆使した事業推進役をIT 部門に期待する経営者が多いものの、直面する多くの課題により期待に応えられていない、あるいは取組みのスピードが遅いといった状況の企業がほとんどである。

期待に応えられていない要因の一つとして、デジタライゼーションなどの新たな取組みに応えようとしても、基幹システムの維持・運用が重荷となり、IT投資や人的リソースのシフトが思うように進まないという状況が挙げられる。基幹システムが安全で継続的に運用できていないと、いかに華々しく最新テクノロジーを活用しビジネス成長をけん引したとしてもCIOの責務としては評価されないのである。

「頼りになるオペレータ」から「事業の共同創作者」へ変化する第一歩を踏み出すためには、重い基幹から脱却することを真剣に考えることから始まる。システムの延命措置に執着したままでは、重荷となっている基幹システム維持・運用は従前のままであり、依然として「事業の共同創作者」に向けた一歩を踏み出せない状況は変わらない。

クラウド化は有効な選択肢となり得るか?

基幹システムの維持という重みから脱却する一つの選択肢として、クラウド活用を積極的に検討することも必要である。いくつかのクライアントと会話すると、「保守切れによる単純なアップグレードでは経営者に投資の意義とその効果を説明できない」、「クラウドを利用しても現状のITコストが低減できない」といった相談を受けることがある。

コスト削減への期待のみをクラウド活用の目的と据えてしまうと、意思決定を迫る材料としては不足感が否めない。結果として、基幹システムをクラウド化する思考が薄れ、重い基幹を重いまま移行する思考の呪縛から逃れられない日本企業がまだ多いのではないかと感じる。

2018年にデロイトが実施した企業のアウトソーシングに関する実態調査においては、93%を超える企業が何かしらの領域でクラウドを活用もしくは検討しており、すでに最新テクノロジーでも戦略性の高い取組みでもなく、ビジネスを推進するための現実的な選択肢の一つとなっている結果が出ている1。また、2016年の同様の調査においては、「コスト低減」がクラウド活用目的の1位として挙がっていたが、2018年の調査においては、「イノベーションのための触媒」あるいは「マーケット進出に対するスピード向上」などがクラウド活用目的の上位を占めた2。クラウド活用の意義を、今まで以上のスピードによる商品・サービスのリリースの実現や従業員の新たなアイデア創出、生産性向上に寄与するものと海外の企業は捉えている。この結果からも分かるようにクラウド活用でコスト低減を期待するのではなく、企業のイノベーションを起こす起爆剤としてクラウドを活用するという思考に、たった2年で海外企業はクラウド活用の捉え方を変化させている。

もちろん、個人データ保護や事業継続性などの面で十分な考慮は必要ではあるが、基幹システムにおいてもクラウドを活用する事例は今後増えていき、将来は当たり前な状況になっていくと想像できる。コスト削減目的だけの選択肢としてクラウド活用を検討するのではなく、クラウド活用によって引き起こされるビジネスへの貢献やIT 運用体制の見直しを、今仕掛けていかなければ、向こう四半世紀同じ課題を抱えたままの「頼りになるオペレータ」に留まってしまうのではないだろうか。

どのように基幹の重みから脱却するのか?

技術者不足やブラックボックス化した現状システムのリスクを考えると、基幹システムをすべてクラウド移行することは、非常に難しい判断が求められるのではないだろうか。

基幹システムをクラウドへマイグレーションする手法はいくつかあるが、リフト&シフト(Lift and Shift)というIaaS環境へリホストするアプローチを選択することもマイグレーションの第一歩として有効な手段と考える。簡単に言うと、第1ステップとしてブラックボックス化・複雑化した仕様のまま、大きな機能変更を伴わずクラウド環境に移し、第2ステップとして、SaaS利用あるいはクラウドネイティブ環境の構築などへマイグレーションを図るというアプローチになる。基幹システム移行のリスクを抑え段階的な移行を行うことで確実性を高めることができる。

いきなりすべてをクラウド移行するのではなく、アプリケーション機能は重いままではあるが、インフラ環境や開発言語などをマイグレーションすることで、まずは汎用的な技術に移行して、技術者確保の容易性を高めるなど、部分的にシステムを軽くしておき、その後に複雑化し重くなったアプリケーション機能を本格的にクラウドにしていくアプローチである。

デロイトの事例では、欧州の運輸企業において、リフト&シフトのアプローチにより、技術者不足や運用費の高止まりなどの課題を解決した事例がある。デロイトが提供するマイグレーションツールを活用し、メインフレームで稼働している古い言語で視認性の低いUI(ユーザーインターフェース)システムを、Java 言語でWeb ベースのUI システムへ自動でIaaS環境へマイグレーションするプロジェクトを実行した。検証パイロットを6週間という短期間で実行し、将来的にクラウドネイティブな環境の構築を目指している。基幹システムのクラウド移行に関しては、クラウド化するスコープ、IT部門メンバーやベンダー要員、データ保護、災害対策、コスト、現行システムのライフサイクルなどの観点を考慮し、チャレンジとインパクトを明確にして入念な計画を立てて進めていくことが必要となる。

米国では、オンプレミスで稼働しているシステムからクラウドへマイグレーションするニーズが2018年に入ってから急激に多くなってきている。日本企業においても基幹システムのクラウドマイグレーションを真剣に考えるタイミングに来ているのではないだろうか。

何から手をつけるべきか?

日本の企業においては、基幹システムを四半世紀使い続け、維持・運用コストの高止まり、仕様のブラックボックス化、機能建て増しによる複雑化、システムを理解している従業員の高齢化など多くの課題に対しどこから手を付けるべきか悩み、思考停止している企業が多い。CIOとして、限られたリソースを前提にどのように取組みの優先順位を決定していくのか手腕が試されている。

ビジネス環境の変化に追随するためのグローバルを含めたIT 部門のあるべき姿の再定義が求められ、IT コスト低減に対するプレッシャーの中で、効果的なIT 投資を期待する声が高まっており、今後の向かうべき方向性に対して明確なビジョンが描けない状況に陥っているCIOもいるのではないだろうか。

また、複雑に絡み合った課題に直面し、どのように現状から前に進んでいくべきか悩んでいる新任のCIOもいるのではないだろうか。CEOや他の経営層からの期待理解、組織内メンバーのケイパビリティ把握、現行システムやオペレーションの課題理解など、周囲を見渡し、理解し、将来像を描き、取るべき施策を考えていくことを就任早々行うことが求められる。

デロイトでは、そのように複雑に絡み合った課題解決や今後向かうべき方向性を検討しているCIOに対して、打つべき施策をコンサルタントとワークショップ形式で議論しながら1日で立案する「CIO Transition Lab」という支援プログラムを提供している。このような場を活用して迅速に戦略立案を進めることも有用な手段と考える。

脚注
1. Deloitte, 2018 global outsourcing survey.
2. Deloitte, 2016 global outsourcing survey.

寄稿者

山本 有志 執行役員 パートナー

多様な業界に対して、IT戦略立案、IT組織改革、グローバルITガバナンス強化、IT投資コストマネジメント高度化等のTechnology Strategy & Architectureに関するコンサルティングに従事。企業の戦略実現を左右する大規模ITプロジェクトのマネジメント経験も多く、戦略から開発・運用までITライフサイクル全般の知見を活かし、CxOに対してアドバイザリーサービスを提供している。

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