Posted: 19 Apr. 2021 3 min. read

カーボンニュートラル時代に大きく変わるサーキュラーエコノミーの形

新たな価値基準となるカーボンプライシングの概念

菅政権が出した「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」宣言により、社会は劇的に変化しカーボンニュートラル時代に突入しつつある。具体的には、企業の脱炭素やカーボンニュートラルに向けた取り組みが半ば必須となり、企業の経営戦略に気候変動が組み込まれる。

また、CO2排出量を金額換算すること、つまり俗にいう「カーボンプライシング」の概念が、新たな社会の価値基準の重要な構成要素となることで、CO2排出量をいかに減らすか、いかにその削減に貢献するか、ということが企業価値に繋がる形になる。

その流れの中で、サーキュラーエコノミーの形も大きく変わることとなる。

カーボンニュートラル時代においては、上述したCO2排出量を如何に世界全体で減らし、ニュートラル(世界全体でゼロ)にするかが問われる。つまり、企業の活動をサプライチェーン全体で可視化した上で、製品の原材料調達から廃棄まで、俗にいうLCA(ライフライクルで環境負荷を測定する)でカーボンニュートラルに近づける取り組みが必要となる。
 

企業に求められる社会課題の解決に関するKPI

そこに、既存のサーキュラーエコノミーの概念を加えるとどうなるか。サーキュラーエコノミーはモノを使い続け環境負荷を低減する概念であるが、リサイクルにおいてもエネルギーが必要となる。また遠方からリサイクル材を調達する、もしくは木材やバイオマス素材を調達すると輸送段階でもエネルギーが必要となりCO2を排出する。つまり、単にモノを使い続けるだけでは、CO2を排出してしまいカーボンニュートラルにならない。

ここに、これまでの時代とこれからの時代を分ける大きなポイントがある。これからの時代のサーキュラーエコノミーは、今までの、「モノをひたすら使い続ける」だけではなく「サプライチェーンの環境負荷を、カーボンニュートラル時代のKPIに沿って減らす」必要が出てくるのだ。

今までサーキューラ―エコノミーと銘打っていた企業・製品は、ここ2~3年でサーキュラーエコノミーの対象外になるだろう。

サーキュラーエコノミーは今まで、活動の”質”を問われることが無く、ある意味やっているだけで良しとされていた。これから先は、プラスチックの“質”、リサイクルの“質”、それも、具体的な社会課題の解決に関わるKPIを満たすかどうかといった、時代が要求する”質”を満たすかが問われる。その先駆けが、カーボンニュートラル時代であり、どの”質”をどれだけ満たすのかが各企業がサーキュラーエコノミーで個性を発揮する領域だと考える。

 

カーボンニュートラル時代のサーキュラーエコノミー

昨今のカーボンプライシングの議論の中で、EUの国境炭素調整が取りざたされている。国境炭素調整は、気候変動対策をとる国が、同対策の不十分な国からの輸入品に対し、水際で炭素課金を行うことである。

国境炭素調整のような形での気候変動対応が当たり前になる中で、製品のライフサイクル全体でCO2排出量を把握して環境負荷を低減することが、企業にとっての至上命題となる。これまでの取り組みの中心であった、一次・二次エネルギーの使用量の削減や輸送過程での脱炭素化・エネルギー効率化などに加え、これからは、素材自体の脱炭素化やリサイクルの推進にまで踏み込む形で、サプライチェーン全体での環境負荷の低減をより一層徹底して進めていくことが求められるのだ。こうした流れは、間違いなく、産業界全体でのサーキュラーエコノミーへの移行を急速に促していくことになるであろう。

いまやサーキュラーエコノミーを考える際には、気候変動は不可欠であり、その逆に、気候変動を考える際にもサーキュラーエコノミーは不可欠なのである。

D-NNOVATIONスペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています

プロフェッショナル

丹羽 弘善/Hiroyoshi Niwa

丹羽 弘善/Hiroyoshi Niwa

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 Sustainability Unit Leader

サステナビリティ、企業戦略、及び中央官庁業務に従事。製造業向けコンサルティング、環境ベンチャー、商社との排出権取引に関するジョイントベンチャーの立ち上げ、取締役を経て現職。 システム工学・金融工学を専門とし、政策提言、排出量取引スキームの構築、経営戦略業務に高度な専門性を有す。気候変動・サーキュラーエコノミー・生物多様性等の社会アジェンダの政策と経営戦略を基軸とした解決を目指し官民双方へのソリューションを提示している。 主な著書として「グリーン・トランスフォーメーション戦略」(日経BP 2021年10月) 、「価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略」(日経BP 2023年3月)、「価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図」(日経BP 2024年4月)、「TNFD企業戦略 ― ネイチャーポジティブとリスク・機会」(中央経済社 2024年3月)など多数。 また官公庁の委員にも就任している。(環境省 「TCFDの手法を活用した気候変動適応(2022) 」タスクフォース委員、国交省「国土交通省 「気候関連情報開示における物理的リスク評価に関する懇談会(2023)」臨時委員 他) 記事 ・ 地球はこのままでは守れない──デロイト トーマツが考える「環境と経済の好循環」とは 関連するサービス・インダストリー ・ 政府・公共サービス ・ サステナビリティ &クライメート(気候変動) >> オンラインフォームよりお問い合わせ