第19回:新時代に向けてリセット ブックマークが追加されました
連載ではこれからの企業経営におけるサイバーセキュリティーの重要性について技術的な視点にとどまらず、政治、経済、社会的な観点から説明してきた。最終回はセキュリティーの今後を考察する。
「グレート・リセット」。これは2021年のダボス会議のテーマである。新型コロナウイルス禍を乗り越え、より公正で持続可能かつレジリエンスのある未来を作るため、経済・社会システムの基盤を緊急に構築し、ポストコロナのニューノーマルを見据えて、あらゆる側面で世界を創り直すこと、つまり「グレート・リセット」が必要と提唱している。
ニューノーマルとして考えられることは多数ある。政治的には米中の二極化構造はより鮮明化し、サイバーセキュリティー関連の規制はより厳しくなるだろう。社会的には衛生、プライバシー、働き方、移動などに関する考え方が変わる。
それらの大きな変化を支えるのが、デジタル技術の進展だ。オンラインでの会合や非接触式の決済など、あらゆる分野・業界でデジタル化が一段と加速する。WEFも「グレート・リセット」の方向の一つとして、「第四次産業革命のイノベーションを活用した上で、公共の利益の課題に取り組むこと」としている。
結果として、世界の課題を解決するためにデジタル技術の活用が進み、新しい市場が次々と生まれてくる。デジタル化・DXをリードできる企業が、その新市場を獲得できるようになる。
ポストコロナ時代ではデジタル技術は今以上に社会に必要不可欠なものになり、その分サイバーセキュリティーの重要性は今までと違う次元まで高まることが推察される。それが、サイバーセキュリティーにおける「グレート・リセット」の一つの方向性になると考えられる。
日本経済の「グレート・リセット」においては、サイバーセキュリティーに対する考え方を根底から変革する必要がある。企業経営では、「守りから攻めと守りへ」「ITアジェンダから経営アジェンダへ」「コストから投資へ」「個社の取り組みからエコシステム全体の取り組みへ」などが、サイバーセキュリティーを「グレート・リセット」するうえでの基本的な考え方となる。サイバーセキュリティーを企業競争力の向上の手段、経営の重要課題として捉える時代が来ている。
連載からこのヒントを見つけてほしい。そして新時代に向けたサイバーセキュリティーの在り方についての議論が深まることを期待する。
本稿は2021年1月21日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:DX時代のサイバー対策(20)新時代に向けてリセット」を一部改訂したものです。
>>第1回:サイバー対策は商品力や企業力に直結
>>第2回:外部環境の変化を読み解く
>>第3回:社内守るだけでは守れず
>>第4回:各国政府、厳しい調達基準
>>第5回:安全対策、義務化の製品も
>>第6回:個人情報規制、世界で強化(戦略フォーサイト)
>>第7回:クラウド、業者任せは不可(戦略フォーサイト)
>>第8回:新世代対策ツールが台頭(戦略フォーサイト)
>>第9回:企業ごとの対応では限界(戦略フォーサイト)
>>第10回:テレワークで高まるリスク(戦略フォーサイト)
>>第11回:闇の世界もITで悪賢く
>>第12回:消費者の懸念にも配慮(戦略フォーサイト)
>>第13回:未知の脅威にAIで対抗(戦略フォーサイト)
>>第14回:社内も信頼せず、守り固く(戦略フォーサイト)
>>第15回:人材不足、自動化で克服(戦略フォーサイト)
>>第16回:トップダウンで取り組む(戦略フォーサイト)
>>第17回:事業活動に必須な投資(戦略フォーサイト)
>>第18回:自社に適した戦略を策定(戦略フォーサイト)