日本企業の不正・不祥事対応の最新傾向を紐解く ブックマークが追加されました
コロナ禍によるリモートワークの増加は、働く人のQOLに恩恵をもたらした一方、企業にとっては情報セキュリティ対策に頭を悩ます要因ともなっている。サイバー攻撃や情報漏洩の被害に遭ったのは5社に1社—。そんな結果が、デロイトトーマツが476社から回答を得た調査で明らかになった。回答企業の約6割はこうした被害が今後も増加すると予想し、危機意識の高まりが見て取れる。本稿では、会計不正、品質不正、法令違反、サイバー攻撃等の4つの不正・不祥事の類型ごとに企業の意識や取り組みを調査・分析し、刊行した「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2022-2024」から不正・不祥事の最新傾向をご紹介したい。
まずは全体の動向だ。過去3年間に不正や不祥事が発生した企業は52%に上ったが、2020年の調査から2%減少した。コロナ禍のリモートワーク普及により、対面による相互監視、とりわけ海外グループ会社への駐在員派遣や内部監査が困難となり、不正が発覚しづらくなったことが要因と推測できる。年間6件以上の内部通報があった企業の割合が前回調査結果の46%から今回は40%に減少していることも、この推測を補強する。
不正や不祥事の発生は数字の上で微減したが、企業の危機感はむしろ高まっている。今後、不正リスクが高まると予想した企業は前回調査から5%増加の64%となっており、中でも冒頭で触れたサイバー攻撃や情報漏洩への懸念を示した回答数が顕著だ。会計不正の発生についても3割が増加すると予想した。コロナ収束に伴い不正が発覚する可能性が高まるのではないか―。ロシア・ウクライナ情勢などの政情不安に起因して業績が悪化するのではないか―。こうした外部要因が、組織不正のリスクを高める不安感も広がっている。
むろん、企業もただ手をこまぬいているわけではない。品質不正・データ偽装に関する項目では、大半の企業が予防策として「定期的なコンプライアンス教育や不正を防止する企業方針」、「トップメッセージの発信」に取り組んでいた。サイバー攻撃や会計不正に関しても、社内教育等を展開する企業は多い。だが、これらの取り組みは一定の効果が期待できるものの、十分とは言い難く、後手に回っている。例えば、今回調査では関連する複数の部門で「人材不足」が課題となっていることも明らかになっている。また、品質不正・データ偽装では第三者による兆候調査が不十分とされ、サイバー攻撃に備えたバックアップ・リカバリプランの整備率や、不祥事や危機を想定した経営層向けの記者会見トレーニングの実施率なども低い。
危機感の高さに対し、対応が遅々として進んでいないことの背景には、組織風土の問題が横たわっている。後編では本調査で明らかになった組織風土の実態と深層を解説する。
内向き、忖度、当事者意識、、昔ながらの組織風土が不正の温床に?
企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2022-2024
フォレンジック & クライシスマネジメントサービス統括 会計不正、品質偽装、贈収賄など様々な不正・不祥事事案対応に調査委員や責任者として関与。ステークホルダー対応等の危機管理や再発防止策導入など危機に直面した企業を信頼回復まで一貫して支援している。会計監査を経験後、2002年にDTFAに参画。M&A、企業再生、組織再編など広範な領域でプロジェクトマネジメントの経験を有する。2018年より現職。2021年よりファイナンシャルアドバイザリー領域全体のレピュテーション・クオリティ・リスクマネジメント統括、2024年より同領域のビジネスリスク副リーダーを兼務。 公認会計士 一橋大学大学院 経営学修士(MBA) 外部委員等 エネルギーテック企業の会計処理に関する特別調査委員会委員長 ファッション小売業の贈賄事案におけるガバナンス検証・改革委員会委員 外食接客業の会計不正事案における外部調査委員会委員 不動産業の利益相反事案における外部調査委員会委員 食品製造業のサイバー攻撃事案における社内調査委員会委員 マンション管理業の横領事案における社内調査委員会委員 キャラクタービジネスの会計不正における特別調査委員会委員 自動車部品メーカーの品質不正事案における特別調査委員会委員 等 関連サービス フォレンジック&クライシスマネジメント 危機管理センター 不正調査・再発防止 調査委員派遣 危機対応 法令違反対応 サイバー攻撃・情報漏洩対応 関連ナレッジ 企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2024-2026 クライシス対応に求められる人材像 求められる不正・不祥事対策 寄稿記事(デロイト トーマツ メディア) 企業の不正リスク調査白書ーななめ読み 商工中金・関根社長に聞く:不正発覚後に組織風土を変革するには 日本企業の不正・不祥事対応の最新傾向を紐解く 内向き、忖度、当事者意識、、昔ながらの組織風土が不正の温床に? 「不正監査」のすすめ -不正調査手法とテクノロジーの導入で効果的な早期発見を- 不祥事における経営者の役割 寄稿・インタビュー記事(外部メディア) 企業不正、再び増加 内部通報の機能不全が明らかに(日本経済新聞) 川崎重工、成長に水差す不正の連鎖 急務の企業統治改革(日本経済新聞) 燃費を「あえて悪く書き換え」 IHIのエンジン不正が映す製造現場の葛藤(日経ビジネス) 誰のために働きますか 社内より社会の評価(日本経済新聞) 下請け支援に歩み寄れ(日本経済新聞) 製造業不正、どうただす 三菱電機幹部や専門家に聞く(日本経済新聞) なぜ企業は不正対応を誤るのか 専門家に聞く(日本経済新聞) (専門家の見方)意思疎通足りず(日本経済新聞) 日本企業、内部通報に反応鈍く アジア太平洋地域調査(日本経済新聞) 自社で不正発覚、「まず客観証拠の収集を」 識者に聞く(日本経済新聞) 不祥事の初動対応 記者会見をぶっつけ本番で行うのは難しい(東洋経済オンライン) 危機管理対応を支援 デロイトが専門窓口(日本経済新聞) 企業の「風土」はどう変える? 日本企業で相次ぐ不正の一因(朝日新聞デジタル) 品質不正、根は組織風土 企業の51%が「要因」デロイト調査(日本経済新聞) サイバー脅迫「復旧プランなし」6割、デロイト調査(日本経済新聞) コロナ禍で増加するサイバー攻撃、3Rの視点で平時からクライシスに備える(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー) DXでフォレンジック加速(日本経済新聞) >> オンラインフォームよりお問い合わせ