Posted: 17 Feb. 2023 3 min. read

内向き、忖度、当事者意識、、昔ながらの組織風土が不正の温床に?

かつての日本企業の強みが、不正の温床に

 

企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2022-2024」では、企業が抱える組織風土上の課題を明らかにしている。「内向き、忖度等の傾向がある」、「考え方の多様性が乏しい」、「当事者意識が薄い」といった人の意識や姿勢に由来する課題は、コロナ禍以前から存在すると答えている企業が多い。公表されている不正に関する調査委員会の報告書でも、おしなべて組織風土の問題が指摘されており、日本企業に以前から存在する不変的かつ本質的な問題と考えて差し支えない。

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「内向き志向」とは、意思決定や行動が顧客や株主と向き合った結果ではなく、内部の政治や圧力の影響を受けやすい状態のことを指す。よくいわれるように、この背景には、日本企業の高い同質性がある。終身雇用・年功序列の気風は未だ残っており、安定的な雇用関係の中で、濃密な人間関係が形成されている。元請・下請などの取引関係も固定化されがちだ。これら固定的な関係がもたらす同質性は、目標や価値観、暗黙知の共有を促進する側面があり、高密度な技術の擦り合わせを要する自動車や小型電子機器に結実するなど、かつて日本企業の強みともいわれた。

しかしながら現在は、90年代のバブル崩壊以降、リストラや中韓の台頭で日本企業の体力が徐々に削り取られる中で、企業の現場でも少子高齢化が急激に進んで保守的な空気がまん延し、同質性が社内政治の横行や同調圧力へと機能しがちだ。それらが一方で意思決定の遅さとなり、もう一方で忖度による不正を生み出し、見て見ぬふりする風土を醸す。一時しのぎのつもりがいつの間にか常態化する、という不正事例がよく見られる。

組織風土の改善は、経営層のコミットメントと覚悟が起点

組織風土の改善は極めて経営的な課題である。メッセージや研修では不十分で、予算制度や人事評価など、会社のコアとなる制度のドラスティックな改革を伴わねば実現が覚束ないからだ。不正予防やコンプライアンスへの意識強化を伴う場合は、以下のような施策をセットで実行すべきである。

  • 上意下達の計画・予算策定を見直し、ボトムアップで現場職員の声を反映
  • 複数評価者による定性評価中心の評価制度
  • 内部監査の強化等による現場への第三者目線の導入
  • 社外取締役による経営層への監視強化
  • 経営層と現場の直接のコミュニケーション機会の増加
  • リニエンシー制度導入等による内部通報制度の活性化

これらの断行には、かなりのエネルギーを要する。特に、管理職層にはかなりの負荷となり、抵抗も大きくなる。こうした制度改革の意思決定や、高い負荷に正当性を与えられるのは、経営層以外にない。経営層の覚悟を起点に、高い熱量で管理職、職員を巻き込み、お互いの甘えを断ち切って、全員が当事者意識を持てるかどうか。それが組織風土改善の鍵となろう。

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中島 祐輔/Yusuke Nakashima

中島 祐輔/Yusuke Nakashima

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フォレンジック & クライシスマネジメントサービス統括 会計不正、品質偽装、贈収賄など様々な不正・不祥事事案対応に調査委員や責任者として関与。ステークホルダー対応等の危機管理や再発防止策導入など危機に直面した企業を信頼回復まで一貫して支援している。会計監査を経験後、2002年にDTFAに参画。M&A、企業再生、組織再編など広範な領域でプロジェクトマネジメントの経験を有する。2018年より現職。2021年よりファイナンシャルアドバイザリー領域全体のレピュテーション・クオリティ・リスクマネジメント統括、2024年より同領域のビジネスリスク副リーダーを兼務。 公認会計士 一橋大学大学院 経営学修士(MBA) 外部委員等 エネルギーテック企業の会計処理に関する特別調査委員会委員長 ファッション小売業の贈賄事案におけるガバナンス検証・改革委員会委員 外食接客業の会計不正事案における外部調査委員会委員 不動産業の利益相反事案における外部調査委員会委員 食品製造業のサイバー攻撃事案における社内調査委員会委員 マンション管理業の横領事案における社内調査委員会委員 キャラクタービジネスの会計不正における特別調査委員会委員 自動車部品メーカーの品質不正事案における特別調査委員会委員 等 関連サービス フォレンジック&クライシスマネジメント 危機管理センター 不正調査・再発防止 調査委員派遣 危機対応 法令違反対応 サイバー攻撃・情報漏洩対応 関連ナレッジ 企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2024-2026 クライシス対応に求められる人材像 求められる不正・不祥事対策 寄稿記事(デロイト トーマツ メディア) 企業の不正リスク調査白書ーななめ読み 商工中金・関根社長に聞く:不正発覚後に組織風土を変革するには 日本企業の不正・不祥事対応の最新傾向を紐解く 内向き、忖度、当事者意識、、昔ながらの組織風土が不正の温床に? 「不正監査」のすすめ -不正調査手法とテクノロジーの導入で効果的な早期発見を- 不祥事における経営者の役割 寄稿・インタビュー記事(外部メディア) 企業不正、再び増加 内部通報の機能不全が明らかに(日本経済新聞) 川崎重工、成長に水差す不正の連鎖 急務の企業統治改革(日本経済新聞) 燃費を「あえて悪く書き換え」 IHIのエンジン不正が映す製造現場の葛藤(日経ビジネス) 誰のために働きますか 社内より社会の評価(日本経済新聞) 下請け支援に歩み寄れ(日本経済新聞) 製造業不正、どうただす 三菱電機幹部や専門家に聞く(日本経済新聞) なぜ企業は不正対応を誤るのか 専門家に聞く(日本経済新聞) (専門家の見方)意思疎通足りず(日本経済新聞) 日本企業、内部通報に反応鈍く アジア太平洋地域調査(日本経済新聞) 自社で不正発覚、「まず客観証拠の収集を」 識者に聞く(日本経済新聞) 不祥事の初動対応 記者会見をぶっつけ本番で行うのは難しい(東洋経済オンライン) 危機管理対応を支援 デロイトが専門窓口(日本経済新聞) 企業の「風土」はどう変える? 日本企業で相次ぐ不正の一因(朝日新聞デジタル) 品質不正、根は組織風土 企業の51%が「要因」デロイト調査(日本経済新聞) サイバー脅迫「復旧プランなし」6割、デロイト調査(日本経済新聞) コロナ禍で増加するサイバー攻撃、3Rの視点で平時からクライシスに備える(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー) DXでフォレンジック加速(日本経済新聞) >> オンラインフォームよりお問い合わせ