Posted: 07 Jul. 2023 5 min. read

(後編)World Circular Economy Forum 2023参加でみえた、世界の最新動向

~サーキュラーエコノミーによるネイチャーポジティブ実現の道筋~

 

前編はこちら

World Circular Economy Forum 2023(以下「WCEF 2023」という)の大きな特徴のひとつは、2日間のプログラムにおいて「自然資本・生物多様性」の要素が随所に盛り込まれていたことであった。開会セッション「Circular solutions for nature and the economy(=自然と経済のためのサーキュラーソリューション)」から始まり、個別セッションや展示ブースなどでも「昨年12月に世界目標として昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択され、各国政府・企業がネイチャーポジティブ*を目指して動き出しているなか、その有効なアプローチはサーキュラーエコノミーである」と語られていた。本編では、サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブの関係性について説明をした後に、WCEF 2023において確認された最新動向や企業事例を紹介する。

*ネイチャーポジティブ:生物多様性の減少を止め、回復に向かわせる概念

 


サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブの関係性

まず自然とビジネスの関係性としては、Global Resource Outlook 2019によると、「生物多様性の損失と水ストレスの90%は、資源の採取と加工に起因」しており、世界経済フォーラムによると、「世界全体で約44兆ドルの経済的価値の創出(GDPの半分以上)が、自然資本や生態系サービスに依存」している。このように、現在のビジネスは自然に大きく依存し、影響を及ぼしているなか、昨今注目が集まっているサーキュラーエコノミーは、「資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら付加価値を生み出す経済活動のシステム」である。つまり、企業はサーキュラーエコノミーの仕組みをビジネスに取り入れることで、自然への依存と影響を抑制し、ひいては、自社の自然関連リスクを低減することに繋げられることとなる。

また、環境省委託業務にて弊社が推計したところ、日本のネイチャーポジティブビジネス機会額(最大 104兆円)のうち、サーキュラーエコノミーに関するビジネスモデルの機会額は約42.2兆円(40.6%)以上となっており、将来のビジネス機会創出も見込める。したがって、リスクと機会の両面において、サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブの一体的な推進は有効なのである。

 

 

食品・農業セクターのサーキュラーエコノミー×ネイチャーポジティブ

サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブの同時推進が比較的進んでいるのは、食品・農業セクターである。食品・農業セクターは土地利用による生物多様性への影響が大きい。また、食品セクターは原材料が多く、長く複雑なサプライチェーンの把握・管理は大きな課題となる。一方で、既に、食肉の代替製品の開発、リジェネラティブ農業の導入、アップサイクル食品の販売等のソリューションも徐々に普及しつつある。

エレン・マッカーサー財団はCircular Design for Food(食品のサーキュラーデザイン)フレームにて、サーキュラーな食料品をデザインする際の観点として、①原材料の選定・調達*、②食品包装の選択を挙げており、本フレームに沿った製品開発・販売のトライアル事業Big Food Redesign Challengeへの世界各国の食品企業参画をWCEF 2023のセッション内で呼びかけていた。

*①の要素:リジェネラティブ農業による生産、アップサイクル、環境に低負荷、原材料が多様

また、セッション登壇者であったネスレは、2025年までに20%、2030年までに50%の主要な原材料をリジェネラティブ農業により調達することを目標としている。また、その実現のために、農家のトレーニングプログラム等を展開している。先進企業の特徴として、サプライチェーンの上流まで遡って把握し、サプライチェーン上流への支援を含めた面的な対応を推進している。

 

 

建築環境におけるサーキュラーエコノミー×ネイチャーポジティブ

建設セクターも木材・金属をはじめとした資源利用による生物多様性へのインパクトが大きいセクターであるため、サーキュラーエコノミーモデルの適用等の対応が求められるが、その際の課題は、以下の3点である。

① ステークホルダーによる建築物に対するオーナーシップの欠如:建設・管理運営・取り壊し等は別業者が実施する場合が多く、オーナーシップを持ちづらいため、ライフサイクル全体の環境負荷低減が進まない

② 持続可能な建設プロジェクトを評価するファイナンスモデルの欠如:持続可能な建設プロジェクトの価値評価・リスク分析手法が発展途上であるため、それらのプロジェクトへの投資が進まない

③ 再生材市場の欠如:再生材開発は推進されているものの、制度・法律の未整備によって、市場の拡大が進まない

③でも言及している通り、再生材をはじめとする「環境負荷が抑えられる建設資材」の開発は日本企業も含めた各社が推進している。WCEF 2023では、ヘンプクリート(麻と石灰を原料とした建築材料・用断熱素材)が取り上げられた。原料の麻は栽培期間にCO2を吸収し、ヘンプクリート廃棄時には肥料として活用可能であることから、原産国であるアフリカ諸国での活用が進んでいる。

なお、制度面では、WCEF 2023の開催国フィンランドにて2025年から適用開始となるNew Building Act(新建築法)が紹介された。本法律における4本柱は、低炭素構造、ライフサイクルの質向上、リユースとリサイクルの推進、デジタル化である。なかでもデジタル化については、「2030年までの建築環境情報プラットフォーム構築」が掲げられており、達成されれば、建設プロジェクトにおける包括的なアプローチの実現につながるだろう。また、フィンランドではエネルギーシステムとして水素活用が進んでいるが、水素はグリーン発電だけでなく、副産物(酸素や熱)の利用、水素からアンモニア等の代替燃料への加工が可能であることから、サーキュラーエコノミーの実現につながる点で取り上げられていた。

 

 

企業のネクストアクション “What gets measured gets done(計測できるものは、達成できる)”

サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブ、どちらの対応をする場合でもファーストステップとなるのは、自社と自然との関係性を、指標を用いて把握することである。定量的な指標による「自社の現在地の確認」は、今後の戦略策定の土台となる。

自然関連指標を含めたフレームワーク開発は各種イニシアティブによって急速に進行しており、今年5月にScience Based Targets for Natureが公表され、9月には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークが公表予定である。また、WCEF 2023期間中には、Circular Transition Indicators v4.0が公表され、これにも自然関連指標が追加されている。今後、各国政府を含めたその他主体による指標開発も行われていくだろう。

脱炭素から始まり、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブと企業が対応すべきサステナビリティアジェンダは日々、拡大・高度化している。なかでもネイチャーポジティブは、地球の極めて複雑に絡み合っている生態系を読み解きながら対応していくことが求められるアジェンダである点で、難易度が非常に高い。デロイトトーマツでは今後も、これらのアジェンダの一体的な対応を可能とする経営戦略の策定、施策の実行を後押ししていきたいと考えている。

 

執筆者

中村 詩音/Shion Nakamura

デロイト トーマツ コンサルティング所属。気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応の案件をはじめとして、気候変動を含めた様々なサステナビリティアジェンダのコンサルティング経験を有する。官民双方へのソリューションの提示を目指しており、昨今は主に、生物多様性・自然資本領域を担当。

澤田 茉季| Maki Sawada

デロイト トーマツ コンサルティング所属。独立行政法人での日本企業の海外展開支援、環境ベンチャーの海外営業を経て現職。
主に官公庁・自治体・民間企業向けに、気候変動や社会アジェンダを含めたサステナビリティ全般の政策や経営戦略のコンサルティング業務に従事。サーキュラーエコノミーにも精通し、国内外の動向調査や民間企業のサーキュラーエコノミー戦略策定を担当。

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