自然資本・生物多様性の真の価値とは。“ネイチャーポジティブ”市場とビジネス ブックマークが追加されました
~日本のネイチャーポジティブ市場を推計。2030年で約45兆~約104兆円*1 であり、今後妥当性の検証実施予定。日本の自然を守りながら持続的な経済発展を目指す~
※環境省委託業務「令和4年度経済社会における生物多様性の主流化の促進に関する調査検討」での検討を踏まえて推計。本稿の個別の内容は執筆者の見解であり、環境省の正式な見解ではない
生物多様性に関する国際会議COP15が12月7日からカナダのモントリオールで始まり、2030年までの国際目標を定めた、ポスト2020生物多様性枠組の交渉も、最終局面を迎えている。
COP15を前に世界経済フォーラムは『Nature Positive By 2030: Securing A Global Plan To Save Our Life Support Systems』の提言をまとめており、気候変動の生物多様性への影響についての関心もこれまで以上に高まっている。提言には自然を守りながらの経済発展の言及もあり、“ネイチャーポジティブ”なビジネスの重要性を物語っている。
ネイチャーポジティブ(Nature Positive)とは、「2030年までに生物多様性の減少傾向を食い止め、回復に向かわせる」という地球規模の目標であり、G7コーンウォールサミットにおいて、首脳コミュニケの付属文書として、「2030年自然協約(Nature Compact)」が合意されている。このネイチャーポジティブの市場規模については、世界経済フォーラム Nature Positiveシナリオ*2 にて推計しており、世界全体で1,372兆円と言われている。
一方で、ネイチャーポジティブは地域と密接に関係しており、日本での市場規模をある程度推計することで、企業のネイチャーポジティブの取り組み、生物多様性を保全しつつ、経済発展を目指す取り組みが推進されると考える。
こうした背景を踏まえ、デロイトトーマツでは、環境省事業の一環として、日本における2030年のネイチャーポジティブの市場規模を推計した。また、今回は市場規模を大まかに把握するためにGDPを基軸として算定しているが、現在各ビジネスの詳細を積み上げて、年度内に妥当性の検証を行う予定である。
*1:環境省委託業務「令和4年度経済社会における生物多様性の主流化の促進に関する調査検討」での検討を踏まえて推計。なお、本稿の個別の内容は執筆者の見解であり、環境省の正式な見解ではない。
*2:世界経済フォーラム(2020)”New Nature Economy Report II:The Future Of Nature And Business
図1:ネイチャーポジティブのイメージ
(出所:環境省 次期生物多様性国家戦略素案)
上記の推計結果は、日本のGDPが2020年現在約525兆円*3 であることから、その16.5%に相当する。年間のGDP成長率が2021年は約2.6%であることから、概ね5-6年分の経済成長の増加につながる。よって、ネイチャーポジティブを推進することが、日本経済のさらなる発展の近道になりえる。
また、上述した市場規模は、日本企業の海外でのネイチャーポジティブ経済への貢献も含まれる。このことは、日本企業が自然資本・生物多様性を加味したサプライチェーンを構築することで、日本の経済成長にも繋がることを示唆している。
*3:内閣府(2022)「令和4年度政府経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議決定)概要」
図2:日本の2030年ネイチャーポジティブビジネス機会額(領域別)(出所:環境省委託業務「令和4年度経済社会における生物多様性の主流化の促進に関する調査検討」での推計を踏まえて作成)
個別のビジネスについて、細分化すると最大値で約104兆円の場合、カーボンニュートラルに関係するネイチャーポジティブ(図4内、NPと表記)のビジネスモデルは約23.0兆円(22.1%)以上、サーキュラーエコノミーに関するビジネスモデルは約40.6兆円(40.6%)以上であり、ネイチャーポジティブの取り組みが、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの推進にも大きく寄与する*4。企業としても、一体的にビジネスを推進することが有効であろう。
*4:ネイチャーポジティブビジネス機会のうち、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーとの関連性の内訳については、デロイトトーマツが機会概要を参照の上、分類している。
図3:日本の2030年ネイチャーポジティブビジネス機会額:カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーとの関連性
(出所:環境省委託業務「令和4年度経済社会における生物多様性の主流化の促進に関する調査検討」での推計を踏まえて作成)
ネイチャーポジティブの市場規模を踏まえることで、更に具体的にビジネスモデルの検討が可能となり企業としての自然資本・生物多様性の保全、ネイチャーポジティブの推進につながると考える。デロイトトーマツでは今後、妥当性を検証しながらビジネスモデルの積み上げでの市場推計を実施し、企業のネイチャーポジティブ経済への移行を後押ししたいと考えている。
中村詩音/Shion Nakamura
デロイトトーマツコンサルティング G&PS Sustainability Unit
シニアコンサルタント
気候変動経営、ネイチャーポジティブビジネス戦略をはじめとした自然資本・生物多様性領域のコンサルティングに従事。環境省「ネイチャーポジティブ研究会(令和5年度)」事務局、「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)」の支援等を実施。
※所属などの情報は執筆当時のものです。
サステナビリティ、企業戦略、及び中央官庁業務に従事。製造業向けコンサルティング、環境ベンチャー、商社との排出権取引に関するジョイントベンチャーの立ち上げ、取締役を経て現職。 システム工学・金融工学を専門とし、政策提言、排出量取引スキームの構築、経営戦略業務に高度な専門性を有す。気候変動・サーキュラーエコノミー・生物多様性等の社会アジェンダの政策と経営戦略を基軸とした解決を目指し官民双方へのソリューションを提示している。 主な著書として「グリーン・トランスフォーメーション戦略」(日経BP 2021年10月) 、「価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略」(日経BP 2023年3月)、「価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図」(日経BP 2024年4月)、「TNFD企業戦略 ― ネイチャーポジティブとリスク・機会」(中央経済社 2024年3月)など多数。 また官公庁の委員にも就任している。(環境省 「TCFDの手法を活用した気候変動適応(2022) 」タスクフォース委員、国交省「国土交通省 「気候関連情報開示における物理的リスク評価に関する懇談会(2023)」臨時委員 他) 記事 ・ 地球はこのままでは守れない──デロイト トーマツが考える「環境と経済の好循環」とは 関連するサービス・インダストリー ・ 政府・公共サービス ・ サステナビリティ &クライメート(気候変動) >> オンラインフォームよりお問い合わせ