新たな課題への解決:再生可能エネルギーと自然資本・生物多様性のトレードオフ ブックマークが追加されました
デロイト トーマツの試算では、日本のネイチャーポジティブ市場は2030年で約45兆~約104兆円となり、自然を守りながら経済も成長することが可能と考えられる(参考:前回記事)。一方で、再生可能エネルギーと自然資本・生物多様性のトレードオフが新たな課題として顕在化している。それに対する対応方針を提言したい。
パリ協定の批准より国際的にも脱炭素の推進、とりわけ再生可能エネルギーの拡大によるクリーンなエネルギーの導入が推進されてきた。“再生可能エネルギー=脱炭素に良いこと”である一方、再生可能エネルギーの開発は、土地開発の要素があり森林伐採や環境破壊を助長する一面も存在する。昨今では、国立公園付近の景観や防災等の観点から、地域住民が再生可能エネルギーの導入に反対することや、自治体が独自の条例を設定し再生可能エネルギーの設置を禁止することが増えている。直近でも小樽市/余市町の風力発電事業計画や、青森県「(仮称)みちのく風力発電事業」が住民反対によって取りやめになった。
この地域の「自然資本・生物多様性」vs「再生可能エネルギーの導入による脱炭素の推進」という、本来双方解決すべき課題が相反する状況を、看過してはいけない。その根本の原因を探りつつアウフヘーベン(対立するものを、統合して価値を生み出す)方法を今検討している。
学識有識者10名程度へのヒアリングを通じて課題を深堀した結果、地域住民と再エネ開発事業者とのコミュニケーションの質の問題が明らかとなった。両者は異なる価値観を持っており、自然資本への考えも異なる。その上で、開発事業者は事業の採算性や地域への資金の還元等の財務価値で事業を評価する。自然資本の価値(総じて社会価値)と財務的な価値(経済価値)という異なる論点が生まれ、対話が進まないのが現状である。結果双方の信頼が損なわれている。
この相互の信頼を勝ち得るにはどうしたらよいか。デロイト トーマツでは、社会価値の定量化を進めており、それと経済価値とを一覧化し(あくまで一覧化する、比較はしない)対話を進めることを提案したい。現在、地質のエキスパート企業でカーボンニュートラルの実現のために各種技術で風力発電事業を支援している応用地質株式会社と、九州大学発のベンチャー企業でありビックデータとAIを活用して価値を定量化する株式会社aiESGと連携して、価値の定量化とGISデータ化を検討している。その中では、需要性にもフォーカスして分析を進める予定である。
上述した取り組みが実装されると、再生可能エネルギーと生物多様性のトレードオフが“ある程度”可視化され、コミュニケーションがなされ、そこで信頼が生まれる。その結果、トレードオフが解消された、真に生物多様性の保全、脱炭素が推進される再生可能エネルギーの導入、それによる地域のwell-beingの向上まで繋がればと考えている。
このような取り組みに賛同したい企業の皆様、自治体の皆様が居れば是非ご連絡を頂きたい。
図 自然資本・生物多様性と、再生可能エネルギーの関連する価値の視覚化のイメージ
図 GISデータ(3Dモデリング)イメージ ©2023 応用地質株式会社
中村詩音/Shion Nakamura
デロイトトーマツコンサルティング G&PS Sustainability Unit
シニアコンサルタント
気候変動経営、ネイチャーポジティブビジネス戦略をはじめとした自然資本・生物多様性領域のコンサルティングに従事。環境省「ネイチャーポジティブ研究会(令和5年度)」事務局、「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)」の支援等を実施。
※所属などの情報は執筆当時のものです。
サステナビリティ、企業戦略、及び中央官庁業務に従事。製造業向けコンサルティング、環境ベンチャー、商社との排出権取引に関するジョイントベンチャーの立ち上げ、取締役を経て現職。 システム工学・金融工学を専門とし、政策提言、排出量取引スキームの構築、経営戦略業務に高度な専門性を有す。気候変動・サーキュラーエコノミー・生物多様性等の社会アジェンダの政策と経営戦略を基軸とした解決を目指し官民双方へのソリューションを提示している。 主な著書として「グリーン・トランスフォーメーション戦略」(日経BP 2021年10月) 、「価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略」(日経BP 2023年3月)、「価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図」(日経BP 2024年4月)、「TNFD企業戦略 ― ネイチャーポジティブとリスク・機会」(中央経済社 2024年3月)など多数。 また官公庁の委員にも就任している。(環境省 「TCFDの手法を活用した気候変動適応(2022) 」タスクフォース委員、国交省「国土交通省 「気候関連情報開示における物理的リスク評価に関する懇談会(2023)」臨時委員 他) 記事 ・ 地球はこのままでは守れない──デロイト トーマツが考える「環境と経済の好循環」とは 関連するサービス・インダストリー ・ 政府・公共サービス ・ サステナビリティ &クライメート(気候変動) >> オンラインフォームよりお問い合わせ