Posted: 07 Jul. 2023 5 min. read

(前編)World Circular Economy Forum 2023参加でみえた、世界の最新動向

~サーキュラーエコノミー実現のカギ~

筆者が所属する我々デロイト トーマツのサステナビリティユニットのメンバーは、主催者Sitraの招待により、2023年5月30日~31日にフィンランド・ヘルシンキにて開催されたWorld Circular Economy Forum 2023(以下「WCEF 2023」という)に参加した。

日本においても、近年サーキュラーエコノミーが注目され、経済産業省でも2022年に研究会が立ち上がり、産官学連携して推進体制が構築されている。

一方で、このWCEF2023では、“サーキュラーエコノミーの実現とそのさらに先”が議論されており、日本企業がこの状況を把握していないことは非常に危険であることから、本投稿を企画した。

WCEFとは、国際機関やヨーロッパやアメリカの政府機関、サーキュラーエコノミー分野の先進企業約100社が登壇するイベントであり、世界におけるサーキュラーエコノミー最先端事例の紹介と議論がなされている。WCEF2023では、欧州、北米、アジア等世界100か国以上から合計6,000名が来場し、グローバルで重要視されるサーキュラーエコノミー関連のトピックや最新事例の議論が交わされ、熱気に包まれていた。

このWCEFは2017年から毎年開催されており、世界中からビジネスリーダーや政策立案者、専門家が登壇し、世界をリードする循環経済ソリューションを紹介している。昨年までのWCEFでは循環経済のみに焦点を当てた議論が中心だったが、WCEF2023の主題は「自然と経済のための循環型ソリューション」で、サーキュラーエコノミーの実現によるネイチャーポジティブ*を促進する事例や、経済成長や脱炭素化を支えるサーキュラーエコノミーソリューションが紹介された。本編では、WCEF2023で紹介された「サーキュラーエコノミーをとりまくグローバルの議論」や「サーキュラーエコノミー実現に向けたカギ」を紹介する。

*ネイチャーポジティブ:生物多様性の減少を止め、回復に向かわせる概念

 

 

脱炭素が進む中で重要視される鉱物および金属のサーキュラー

WCEF2023ではグローバル全体でプラスチックや建設物、アパレルのサーキュラーエコノミー実現が喫緊の課題と紹介されたが、中でも特に問題視されているのが、金属・鉱物の資源確保だという。

世界の脱炭素化に向けて、太陽光や風力発電等の再エネ設備の導入や、電気自動車の製造が進んでいる。一方で、この「エネルギー革命」の背景で、鉱物や金属の大量消費が起こり、安定供給が大きな課題となっている。カナダのシンクタンクSmart Prosperity InstituteはWCEF2023にて「脱炭素に向けた太陽光・風力発電設備の導入により、2050 年までに現在の生産量の30~60 倍の材料が必要となる」と発言している。

欧州ではグリーンディール産業計画の一環として重要原材料(CRM)の安定的かつ持続可能な供給の確保に向けた「重要な原材料法案」が本年3月に発表された。同法案では、CRMのバリューチェーン強化と供給元の多角化を図るために、欧州域内の採掘量及び加工量に加えて、「域内年間消費量の最低15%を域内で生産したリサイクル原料で賄う」という努力目標が設定された。米国インフレ抑制法でも、リチウムなどの重要な鉱物の再利用や処理に税控除を認めている。

再エネ設備や電気自動車等の脱炭素ソリューションの導入にあたっては、金属や鉱物の安定的確保は不可欠であり、将来的な脱炭素化目標達成や、資源をめぐる衝突回避のためには、鉱物や金属の循環性や資源効率の向上が、グローバル全体での至上命題となっている。欧州投資銀行もWCEF2023にて「循環型経済への移行なくして、炭素中立型経済への移行はありえない」と訴える。

その中で、WCEF2023では先進企業の事例として、Appleによる電子機器や電池の回収やリサイクルの取組み、鉱山大手Anglo Americanによる製造工程における循環ソリューションが紹介された。

鉱物・金属の製造工程では、大量のCO2を排出し、鉱山開発や汚染廃水等、自然へのダメージも大きい。その中で、鉱物・金属の再利用・効率的な利用は、製造工程のCO2排出量の削減や、ネイチャーポジティブともリンクする。

 

 

サーキュラーエコノミー実現のための重要なカギ

WCEF2023の中で有識者らからは、サーキュラーエコノミーの実現における「カギ」として①イノベーションの促進、②イノベーションのための資金、③産業を超えたサプライチェーン全体の連携、④デジタルデータ管理が挙げられた。


②資金について、WCEF2023で欧州投資銀行(EIB)は「過去5年間で、EIBは118の循環型事業への共同融資に34億ユーロを提供した。融資ニーズに応えるため、さらに支援する」と話し、国際開発金融機関(MDBs)、世界銀行、欧州復興開発銀行(EBRD)、アフリカ開発銀行(AfDB)、米州開発銀行(IDB)といった各国際金融機関も「循環経済プロジェクト向けのシェアを増やすことを目指す」と公言している。ここ数年、民間金融機関のサーキュラーエコノミー向け投資やボンドも増加している。今後国内外で金融セクターのサーキュラーエコノミー向けの金融支援の拡大が見込まれる。

④デジタルデータ管理について、欧州では「グリーンディール」政策の一環で、デジタルプロダクトパスポート(以下「DPP」という)の導入に向けた法制化が進められる。DPPはデジタル技術を活用し、製品の原材料データ、生産データ、製造元に加え、消費者の使用データ、リサイクル業者の解体方法などの情報(トレーサビリティ)を記録する「モノのパスポート」のことをいう。2024年までに「繊維」「建設・産業用・電気自動車バッテリー」「家電製品・包装材又は食品」への導入に向け、数多くの材料プラットフォームサービスが展開されている。

WCEF2023では、デジタルプラットフォームの普及における課題についても言及があった。データプラットフォーマーCirculariseの関係者は「トレーサビリティの情報開示は、製品の技術情報にも触れる可能性もあるが、サーキュラーエコノミーの実現のためにはトレーサビリティ等の情報は不可欠で、産業間のオープンな協力が必要となる」と訴える。また、フィンランド経済雇用省らは、現在の課題として、「数多くのプラットフォームが存在するが、課題は各システムの相互運用性。メーカーが複数のサプライヤーから再生材等の原料を調達する際、サプライヤーやメーカーが異なるプラットフォームやシステムを利用している。バリューチェーン全体でのシステムの統合に向け、非常に広範な連携が必要」と話す。

従来、資源確保や廃棄物削減の必要性は唱えられてきたが、脱炭素化やネイチャーポジティブを実現する上でも、サーキュラーエコノミーが喫緊の課題として位置付けられていることを、WCEF2023の議論を通じて体感した。

デロイトトーマツでは、日本政府のプラスチック等資源循環政策の立案や推進の支援や、民間企業のサーキュラーエコノミー戦略や事業推進支援を実施している。今後も官民と連携しながら、サーキュラーエコノミーの実現に向けた後押しをしていきたいと考えている。

後編では、前述したサーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブの関係性や、最新動向・事例について解説する。

 

執筆者

澤田 茉季| Maki Sawada

デロイト トーマツ コンサルティング所属。独立行政法人での日本企業の海外展開支援、環境ベンチャーの海外営業を経て現職。
主に官公庁・自治体・民間企業向けに、気候変動や社会アジェンダを含めたサステナビリティ全般の政策や経営戦略のコンサルティング業務に従事。サーキュラーエコノミーにも精通し、国内外の動向調査や民間企業のサーキュラーエコノミー戦略策定を担当。

中村 詩音/Shion Nakamura

デロイト トーマツ コンサルティング所属。気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応の案件をはじめとして、気候変動を含めた様々なサステナビリティアジェンダのコンサルティング経験を有する。官民双方へのソリューションの提示を目指しており、昨今は主に、生物多様性・自然資本領域を担当。

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