Posted: 18 Nov. 2022 5 min. read

「“男らしさ”って何?」 国際男性デーに考えるジェンダーの在り方と産後パパ育休の普及

シリーズ: Diversity, Equity and Inclusion

男の子は、強く、かっこよくあるべき?

人間は、およそ2~4歳頃からジェンダー規範を身に付けていくという。

小さな男の子が転んでも泣かなかったときに、「さすが男の子!泣かなくて偉いね、かっこいいね!」と周囲の大人が声を掛けていたら、あなたはどう感じるだろうか?特段、違和感はないだろうか。それとも、「『男の子は泣くべきではない』『男の子はかっこよくあるべき』といったジェンダー規範を刷り込む言葉」と感じるだろうか。

近年は、ジェンダーは多様であるという認識も広がってきているものの、やはり旧来的な「男か、女か」という大区分は強固であり、「男の子/女の子だから(なのに)」といった、ジェンダー規範要素は社会に根強く染みついている。社会的なジェンダー課題施策に関して、男性から「女性活躍推進は女性優遇であり、逆差別だ」「男だってつらい」といった声が寄せられることが多々あるが、この声をひも解いていくと、「男が弱音を吐くな」「男なら稼がないと」などといった“男ならば当然”とされている社会的価値観による影響が色濃い場合も多い。

「産後パパ育休」という新たな風

日本は長年、「仕事にまい進する男性」という、ある種の“男ならば当然”を主軸として経済社会を構成してきたが、2022年10月から、育児・介護休業法の改正によって産後パパ育休(出生時育児休業)が施行された。ひと昔前であれば、「男性が休業して育児」は想定すらされておらず、従来の“男らしさ”とは一線を画すような新たな風だ。しかし一方で、この国のすべての職場で、産後パパ育休の制度を利用しやすい環境が既に実現されているかというと、それはまた別問題であろう。

各種調査結果で示されている、男性の育休取得を阻む代表的な壁は<職場における休みにくさ>だ。内閣府調査によると、「業務が繁忙で休むことが難しかったから」「日ごろから休暇を取りづらい職場だったから」など、働いている職場の環境事由の休みにくさを挙げる声が多いことがわかる。しかし、一人ひとりの意識という部分では、別の内閣府調査にて<同僚の男性が育休取得することへの抵抗感>が調査されており、「(同僚の男性が育休取得することへの)抵抗感が大きい・抵抗感がある」とした回答者比率は、女性21.9%に対し、男性は36.7%であり、14.8%ポイントもの差が存在する。両者の間でこれだけの差があることを考慮すると、もしかすると男性自身の中で “男は仕事を欠いてはいけない(しかも、育児理由で長期休業をするなどもっての他)”というジェンダー規範が強く内在化しており、その視線を自他共に向けてしまうことによって、同性である男性同僚の育休取得への過度な抵抗感、ひいては男性自身が育休を取得する際の心理的障壁となっている可能性も高いのではないだろうか。

男性の育休取得率向上を目指して

前述の内閣府調査では、配偶者出産休暇制度に加え、男性の育児休暇取得を促進する勤務先の取り組みや、男性の家事・育児に理解のある上司の有無で分類したところ、制度・取り組み・上司のうち2つ以上が揃っている職場では、育休を取得した男性の割合が高くなる傾向が報告されている。加えて、デロイト トーマツ グループで実践を重ねてきた草の根活動からも考察すると、周囲の同僚や上司からの理解に重ねて、職場におけるロールモデルの有無も、男性育休の取得促進への影響が大きいといえる。当グループでも、2021年度の男性育休取得率が73.7%となり、さらなる取得率アップを目指して複数の施策を実施しているが、中でも現場で効果を実感したと声が多く挙がっているものの一つに、男性の育休取得実例もふんだんに盛り込んだハンドブックがある。これは複数の育休取得経験者による経験談・アドバイスをはじめ、業務の引き継ぎなどを含む事前準備や社内手続きなどを網羅したものであり、経験者によるストーリーやナレッジの共有はもちろん、育休取得を希望するメンバーの疑問・不安を解決できる内容となっている。また、周囲の同僚・上司が、法改正の要点をはじめ、それぞれの行動ポイントやサポートの方法を学ぶことができる研修や、理解啓発のための社内イベント等はもとより、日本社会全体の風土醸成も重視し、社内外のあらゆるメディアなどを通じて男性育休の普及を後押しするためのメッセージも積極的に発信している。

産後パパ育休開始に伴うSNS投稿の写真。企業や組織の発信により、ビジネスパーソンが「育児をする父親像」に見慣れていくことは、「育児=母親」という、社会全体のジェンダー・バイアスを除去していくためにも大切なことである。

男性の生き方の多様性を求めた、その先で

日本の社会環境を考えると、「男が育休なんて」と逆風の中での取得となる職場もあるかもしれないが、女性も以前は「結婚(妊娠)したのに仕事を続けるなんて」と言われていたのだ。社会は変わる・変えていけるということを忘れず、皆が少しずつ意識をアップデートし、アクションを重ねていければ、近い将来、「男性の育休取得は当たり前」という組織・社会を実現することができるだろう。そして、男性の育休取得を推進することは、長時間労働や休まないことを美徳とするような、日本での従来型の就業スタイルや性別固定役割の意識を打破することでもあり、すべての人の選択肢の多様化や生きやすさを間接的に後押しする取り組みともいえる。実際に当グループでも、育休を経験する男性が増えることが、無意識に抱いていた働き方に対するバイアスの再認識に繋がってきている。そして、その中でも「ジェンダー平等はマイノリティ側の課題ではなく、マジョリティとなっている男性の課題である」という意識をもった有志の男性リーダーがWorking Groupを立ち上げ、男性主体でのジェンダー平等を推進する活動が生まれるなど、DEI推進をリードするステークホルダーもかなり多様化することとなった。

11月19日は、国際男性デーである。デロイト トーマツ グループでは今後も、男性の育休取得や国際男性デーをきっかけに、誰もが多様な働き方や生き方を実現できる社会の創出に向け、男性によるジェンダー課題解決に向けた活動を積極的に展開していきたい

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