ワークも、ライフも。国際男性デーだからこそ考えたい、新たなシナジー。 ブックマークが追加されました
男性であり、コンサルティング部門のマネジャーだった私が、社内制度でDiversity, Equity & Inclusion (DEI)のチームに異動してきたのは9月半ば、奇しくも第2次岸田再改造内閣において、副大臣26名、政務官28名、計54名全員が男性というニュースが衝撃をもって国内外で報道された頃である。意思決定層における男女格差と併せて示された選定コメントは、「適材適所、チームとして人選した結果」 ——つまり、「このメンバーだから最大限の成果を出せると判断した」とも解釈できる。
同属性が高いからといって、同質性が高い(=思考などの多様性に欠ける)とは限らないが、国民の約半数を占める属性である女性が不在の状態で、「多様な視点」が担保されている可能性は非常に低いのではないだろうか。しかも現代は、「多様な人材による視点が、課題解決に向けた新規発想へ繋がる」としてDEI推進の重要性が提唱されて久しく、更にいえば、たとえ同属であっても、その属性内での多様性も必要とされている。つまり、政界における男女格差解消はもとより、男性閣僚内での多様性も必要とされる時代であり、そうした意味では、2020年に当時の環境相であった小泉進次郎氏が取得した「閣僚で初めての男性育休」は、男性の働き方の多様性をひと押しした一幕であったともいえるだろう。
日本全体における男性育休の取得率は17%*と、世界的に見ても非常に低い水準であることはよく知られている。そして半数以上が2週間未満の取得とされており、その後また長時間労働に復帰することも多い。そのような社会では、男性の育休取得や子の送迎のための時短勤務などに関して、「男性がプライベートを『優先』し、業務量を減らすなんて」という周囲の圧力が強かったり、生産性や稼働状況が評価軸の基準となりがちな組織においては、「自身の評価に影響しそうで言い出しづらい」という懸念へ直結したりして、男性が自身の業務調整の希望を言い出せない職場もまだまだ多いのではないだろうか。
しかし、マネジャーとして現場でチームマネジメントを行っていた私からすると、「業務調整の希望を言い出せなかった」という事態は、本質的な課題の顕在化を阻害するトリガーであり、何としても避けたいものだと感じている。最初は当人の工夫で何とかなる範疇で上手く業務をこなせていたとしても、関係者が多ければ多いほど、そして期間が長くなればなるほど徐々にほころびが出てきてしまったりする。すると、当人が家族に無理を強いて家庭不和になったり、業務進捗の悪化から同僚がそのメンバー分のタスクを緊急で巻き取ったり、プロジェクトに遅延が生じてしまったりするなど、誰かの「言い出しづらい」は後々、当人や周囲はもちろん、組織的な大きな課題へと発展するリスクをはらんでいるといえるだろう。
*厚生労働省・令和4年度雇用均等基本調査より引用
「プライベートに起因する業務調整の希望を言い出しづらい」という状況を打開するためには、一定の信頼関係と心理的安全性が必要だが、その中には「自身への評価が揺らがない」という信頼や安全性も含まれるのではないだろうか。
日本には『滅私奉公』や『公私混同』といった言葉があるが、これらは公(仕事)と私(生活)を分けた考え方に基づく言葉であり、その上で「公は私よりも優先順位が高い」「公の場で私を混ぜるのは望ましくない」といった文脈で使用されることが多い。もちろん、法令順守やプロフェッショナリズムの維持においてルールとして公私を分別するのは必要だが、そもそも、ひとりの人間の中には“公”と“私”は個々で独立しているものではなく、何らかの形で相互に影響を及ぼしながら存在しているものである。そう考えると、AIによる労働市場への影響が議論される今こそ、ヒトにしか出せない価値の一つとして“公”と“私”の組み合わせがもたらしうる価値や可能性を目指し、「ワークライフシナジー」という形を目指して多様な評価軸について議論を深めていくべきではないだろうか?
冒頭で言及した小泉氏は「育休には“休む”という言葉が入っているが全然休みじゃない」というコメントとともに男性育休から復帰し、今後男性育休で得た視点を公務に活かしていきたいと表明した。ワークライフシナジーの発展の過程において、プライベートでの経験も職場での業務同様、その人を評価する多様な価値軸として歓迎される社会に近づくことができれば、日本の男性育休の取得も一気に進化し、ひいてはジェンダー格差是正にもつながってくるだろう。
国際男性デーはジェンダー課題解消に向けた記念デーだが、その先にあるのは誰もがサステナブルに活躍し、それにより社会が発展していくことである。そのために取り組むべき課題のひとつは、男性が中心として築いてきた画一的な価値観や評価軸を多様化していくことだと私は考える。評価軸の多様化は多様な人材の活躍へと繋がり、ゆくゆくは多くの観点を入れ込んだ課題解決や、検討時点での視点が偏ったことによる検討漏れリスクを防ぎ、最終的に組織の競争力の向上へとつながるだろう。
いま私が生きるこの時代を後から振り返って、ジェンダー平等・DEI観点でのパラダイムシフトが起きた過渡期であったと言える日がくるよう、一人の男性として、組織運営を担う一人として、そして日本という国に住む一人として最大限尽力していきたい。
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「Diversity, Equity, & Inclusion(DEI)」を自社と顧客の成長を牽引し、社会変革へつなげていくための重要経営戦略の一つとして位置付けているデロイト トーマツ グループにおいて、様々な「違い」を強みとするための施策を、経営層と一体となり幅広く立案・実行しているプロフェッショナルチーム。インクルーシブな職場環境の醸成はもちろん、社会全体のインクルージョン推進強化に向けて様々な取り組みや発信を実行。 関連するリンク デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusion