世界メノポーズデー 性差医療のパイオニアから学ぶ更年期 ブックマークが追加されました
2022年10月18日の世界メノポーズデー(*1)を機に、医師 天野恵子氏をお招きした社内イベントを開催。更年期についての基礎知識や性別による違い、留意点や医師へのかかり方などをお伺いしました。
(*1)世界メノポーズデー:毎年10月18日。「メノポーズ(Menopause)」とは閉経・更年期などを指し、1999年に開催された第9回国際閉経学会において、「更年期の健康に関わる情報を 全世界へ提供する日」として、更年期についての情報を広く知ってもらうことを目的として定められた日。
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※画面右・天野 恵子 氏、写真左・大久保 理絵(ファシリテーター:デロイト トーマツ グループ CTO(Chief Talent Officer)、DEIリーダー)
※所属・肩書・氏名などはイベント開催当時のもの
(以下、ディスカッション概要 ※一部抜粋)
大久保:本日は、身体的な性別の差異によって発生する疾患や、病気の状態における性差を重視した上で診断・治療を行う「性差医療」のパイオニアでいらっしゃる天野先生から、更年期について、医学的な観点からの解説や、不調を感じた際にどうすればよいのか?ということをお伺いしたいと思います。天野先生、どうぞよろしくお願いいたします。
天野:「更年期=女性」というイメージが強いかもしれませんが、更年期は男女ともにあり、男性の更年期症状も女性の症状とほとんど一緒です。精神症状としては不安、イライラ、うつ、不眠、集中力の低下、記憶力の低下、性欲の減少などがあります。身体症状としては、疲労感、ほてり、発汗、頭痛、めまい、耳鳴り、性機能の低下、頻尿などですね。ただ、ホルモンの関係で女性の方が更年期症状に悩む方が多く、各種調査や総務省の統計局が持っているデータを突き合わせると、40代から50代では、女性がおよそ46万人、男性がおよそ11万人、更年期と思われる症状によって退職していると推測できるので、組織にとっても非常に大きな問題だと思います。
また、女性の場合は閉経が大きく関係してくることから、「平均閉経年齢の50歳くらいが更年期にあたるのかな」と思っていらっしゃる方が多いかもしれませんが、月経周期が急に短くなってきたり、または長くなって40日~50日のスパンで来たりという月経不順が始まった段階から、エストロゲン(※女性ホルモンの一種であり、卵胞ホルモンともよばれる。子宮などの生殖機能をはじめ、女性の身体の様々な機能の調整に作用するホルモン)の急減による更年期症状が始まるということを知っておく必要があります。ただ、「更年期症状かも」と来院された方が、実際は脳腫瘍だったというパターンもあるなど、更年期症状と似た症状を部分的に有する病気もたくさんありますので、何でも「更年期かも」と決めつけず、まずは他の疾患でないかということを診てもらうとよいと思います。
大久保:女性の場合は、閉経前の月経不順の段階から更年期症状は始まるんですね。でも、30代など若いうちから同様の症状に悩んでいる人もいると聞きます。
天野: 40代以下でまだ閉経する年齢でないにもかかわらず、更年期症状のようなイライラ、意欲の低下、不眠、不安感、鬱症状などを訴える女性が増えていると言われています。これは急激な体重の減少、肥満、重度のストレス、厳しいトレーニング、睡眠不足、喫煙などによって、ホルモンバランスを崩してしまうことが原因です。また、過度なダイエットで月経が止まり、更年期と同じような症状が現れることがあります。あとは、「私はまだ若いから大丈夫」といった頑張りすぎもよくないですね。ご自身が思っている以上にストレスがかかり、更年期症状のような体の不調につながってしまうこともあります。
大久保:ありがとうございます。 先日社内で開催したメンタルヘルスのウェビナーでも、そのような話がありました。心や感情は体と密接につながっているので、早い段階で、自分の体の声をキャッチしてあげることが大切なのだと。自分が無理をしていないか、自分自身をしっかりチェックすることが大切ですね。
大久保:ここで、参加者からチャットにきている質問をお伺いしたいと思います。<私の母は、40代前半で閉経。遺伝的に閉経のタイミングが似たりする可能性はあるのでしょうか。また、早めに閉経すると骨粗しょう症になりやすいと聞いたことがあるのですが、予防策はありますか?>と質問が来ています。いかがでしょうか?
天野:女性ホルモンは30歳代後半から減少し始めます。40代前半で閉経する場合は早発閉経といわれ、この原因として、染色体由来によるものが20%、それ以外(甲状腺機能低下症などの自己免疫疾患、卵巣の手術、化学療法、放射線治療などの影響など)が80%と言われています。また、女性は閉経後に大幅なエストロゲン不足で骨密度が下がって骨粗しょう症になりやすくなります。骨粗しょう症の予防としては食事も大切ですが、一番の予防は若い頃から運動を通じて骨に刺激を与え、閉経前に基礎となる骨密度を上げておくことです。
40代になると更年期を意識し始める方も多いかと思いますが、更年期不調への対策としては、女性は特に体を冷やしてはダメですね。体を温めるために、入浴、サウナなどがおすすめですが、お腹にカイロを当てるのも効果的ですよ。あとは、40歳くらいからエストロゲンの減少とともに基礎代謝が低下し、気がつかないうちに筋肉が落ちてしまいます。基礎代謝が落ちると太りやすく万病の元となってしまうので、40歳を過ぎたらまずは基礎代謝を上げることが重要です。そのためにも、筋トレなどの適度な運動は効果的です。運動後にはアミノ酸をしっかりとってくださいね。筋肉に負荷をかけて筋肉をつけることが健康に長生きすることにもつながります。
大久保:運動がそこまで重要だとは知らなかったです。特に40代以降の方は筋トレをしっかりしたほうがよさそうですね。運動については話題にしやすい一方で、更年期について話をすることはタブーといった雰囲気がまだまだありますが、正しい知識をつけることで更年期に対する偏見や恐れをなくし、一人一人が自分の体と向き合い、更年期とうまく付き合っていくことが大事ですね。
天野:そうですね。更年期とうまく付き合っていくためにも、「更年期かも?」と感じたら、「耐えるしかない」と決めつけず、まずは他の疾患でないかを確認した上で、更年期外来や女性外来、総合診療内科などの専門家に相談してみてください。あとは、仕事面でいえば、必要に応じて周囲へ業務調整を相談してみること。更年期ではなくとも、病気で体調が悪かったら、業務調整を相談してみることが望ましいのと一緒です。更年期は一生続くものではありません。サステナブルに働き続けていくために、どのように更年期と付き合って乗り越えていくかを考えていきましょう。
大久保:急に汗をかくホットフラッシュなど事前対応が難しい更年期症状も多々ありますが、漠然と不安を抱えたままというのはメンタルヘルス的にもつらいですし、更年期=加齢と強く捉えすぎてしまって、必要以上に怖がってしまうのもよくないですよね。個人で大切なのは、一人で抱え込みすぎないこと。そして組織として大切なのは、更年期も「個人の問題」として片付けず、組織として支えられる部分がある課題として捉え、あらゆるバックグラウンドのメンバーがサステナブルに働いていけるための仕組みや風土作りを行っていくことですね。私もデロイト トーマツ グループのCTOとして、更年期世代のビジネスパーソンの一人として、更年期を含め、働くメンバーそれぞれが体調やライフスタイル/ステージの変化にも柔軟に対応しながら活躍し続けることのできる環境づくりを、より一層考えていきたいと思います。
デロイト トーマツ グループでは、女性の働く環境整備の一環として生理・更年期症状のための有給休暇制度の重要性を挙げた調査レポート、「Women @ Work 2023: A Global Outlook」も公開しています。ぜひご覧ください。
*2021年に社内開催したメノポーズデーイベントのレポートは、こちらからお読みいただけます。
*DEI関連の他イベントレポートはこちらからご覧ください。
「Diversity, Equity, & Inclusion(DEI)」を自社と顧客の成長を牽引し、社会変革へつなげていくための重要経営戦略の一つとして位置付けているデロイト トーマツ グループにおいて、様々な「違い」を強みとするための施策を、経営層と一体となり幅広く立案・実行しているプロフェッショナルチーム。インクルーシブな職場環境の醸成はもちろん、社会全体のインクルージョン推進強化に向けて様々な取り組みや発信を実行。 関連するリンク デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusion