独占|書籍「Provoke望む未来を創り出せ」 ジェフ・タフ×翻訳者対談

不確実性の高まる時代を生き抜くためにリーダーが採るべき行動として“Provoke”を提唱している書籍『望む未来を創り出せ』(原題『Provoke』)。厳しい状況下でリーダーがとるべき決断、そして成長に必要な行動を起こすための方法を体系化し解説している。書籍の発売を記念して、著者の一人であり米国の気候変動・サステナビリティをリードするジェフ・タフに話を聞いた。聞き手は翻訳を担当したモニター デロイトの藤井 剛、増井 慶太 そして井上 発人。


Provoke:直訳では「挑発」だが、本書に書かれる語意のニュアンスとしては「子供が、お仕置きをうけることなくどこまで欲しいものが得られるか、を試すために周囲に対して行う一連の行為」としている。


『Provoke』の前作『Detonate』では「プレイブックを壊す必要性」を説いた

増井 まず『Provoke』や前作『Detonate』の概要を教えてください。両書には、不確実性に悩む日本の経営者にとって非常に役立つ重要なメッセージがたくさん書かれていると思います。

顧客の一人である日系企業の最高戦略責任者に前作『Detonate』を紹介した際、「まさに従業員に伝えたいことだ」と言われました。日本には良い会社もたくさんありますが、根本的なメンタリティを含め、解決すべき課題が多々あると思います。おそらく日本人はベストプラクティスや既存のルールを追うようなメンタリティを持っているのでしょう。こういった背景も踏まえた上でDetonate/Provokeについてのお考えをお聞かせください。

モニター デロイト パートナー / 増井 慶太

ジェフ 1冊目の『Detonate』は、成功した社会・企業がたくさんあり、何年も何十年も同じように物事を進めてきたという考えに基づいています。そして、それは非常に強力な成功モデルとなっています。しかし、私たちは今までと異なる時代を生きています。

今、私たちを支配しているのは指数関数的な変化です。線形変化を扱っているのであれば、プレイブックやルール、ベストプラクティスに従うことは非常に良いことですが、指数関数的な変化に直面している場合はそれらにすべて従うと価値を破壊することにつながります。

Monitor Deloitte
Sustainability and Climate Leader for Energy, Resources & Industrials | U.S. Hydrogen Practice Leader, Principal / Geoff Tuff
Monitor Groupのシニアパートナーを経て2013年にモニター デロイトのプリンシパルに就任、グローバルイノベーションサービスをリード。それまで培ってきたイノベーション戦略の知見をエネルギー業界で活かすべくサステナビリティ&クライメートのリーダーに就任。現在は米国での水素関連ビジネス、エネルギー・資源に関するサステナビリティ、気候変動関連のすべての活動をリードする。

Detonateのアイデアは「プレイブックを壊す必要もある」ということです。つまり戦略計画を別の方法で考える必要性を説いています。同様にリスク管理についても考え方を変えなければなりません。

イノベーションとは、新しい経済的価値の創造です。不確実性に直面し、指数関数的な変化に直面して、より良いイノベーターになりたいのであれば、そして本当に新しいものを見つけようとするには、今までの考えに捉われない、まさに米国でも流行した“禅”で説かれている「初心(Beginner’s mind)」が必要になります。

また会社は、従業員に行動を促すことを集中させる必要があります。すべてが変わりゆく無常観を受け入れ、すべてが永遠に存在するわけではないことを認識しなくていけません。そして次に、私たちが最小実行可能な動き(MVM: Minimum Viable Move)と呼んでいる、「機敏に行動するための行動」を起こす必要があります。

壊した後、再創造する。『Provoke』は未来へのコンパス。

ジェフ 次にProvokeの内容と、なぜそれが日本の役員や企業にとって特に重要だと思うのかをご説明しましょう。Detonateは、過去を振り返って、今日の私たちを導いたものを示す方法でした。それは本当に過去のプレイブックに従うべきかどうかの疑問を提示するものですが、Provokeは未来に目を向けています。

私たちはより大きな不確実性の時代に生きており、指数関数的な変化が続くことを知っています。企業経営者として、そして企業内の人間として、この不確実性に直面したときに、未来に向けて企業のために利益を生み出せるのか?人が持つ偏見を取り除かない限り、未来を見通すことはできず、あらゆる可能性を見ることはできません。人間は生まれつき自分の考えに合ったデータを選ぶ傾向があります。そのため、最初にそれらのバイアスを認識し、柔軟に受け入れる必要があります。

不確実性は永遠に不確かなままではありません。「なぜ私たちは存在するのか」 のように不確実なこともありますが、ほとんどの不確実性は解消されます。多くの人が覚えているのがいわゆる「2000年問題」でしょう。コンピューターが1999年から2000年に切り替えられたときに何が起こるかわからないという大きな懸念がありましたが、それは解消されています。

不確実性を解消できる方法のひとつは、それが「起こるかどうかという問題」から、「いつ起こるかという問題」に変えることです。そのため、Provokeの重要なアイデアとして、最良のProvocateur(著書の中で、Provokeを実践している人を指す)は、最も早く“もし”から“いつ”の間のフェーズの変化を認識している人であるということです。そして、その変化を通じて利点を生み出せるように自らを位置づけ、行動できる人です。

本書で書かれている内容で、日本の経営者や実業家に注目してほしいのは次の2点です。

一つ目は、日本の特徴の一つは、過去の主要なプレイブックの構築に貢献してきたということです。日本的な考え方から生まれた品質管理だけを考えると、本当にビジネスの世界全体に浸透しているだけでなく、多くの企業に価値を生み出してきました。そしてそれが、とても長い間、運営を管理する「ベストプラクティス」でした。これを「破壊しろ(Detonateしろ)」とは言いません。使い古されたプレイブックをいつ使うべきかを知ることと、違うやり方をいつ使うかを知ることのバランスが大切なのです。

過去に成長に貢献してきたプレイブックを作ったことで、日本のビジネスシステムに誇りがあるとすれば、手放すことがさらに難しいのではないでしょうか。プレイブックを持ち大きく成功した企業であればあるほど難しいでしょう。さらにこれらのビジネスのプレイブックの創始者にとっては、なおさら困難なことです。

二つ目は人間の本性と行動に注意を払うことの重要性です。過去の成功モデルが、自らの行動規範を作っていることを自覚することで、初めて自分を過去のルールから脱却させ、変化させることができるのです。

渡日して、日本のマスク着用について雑談でよく話をふられました。私の推測では、日本にはルールを守り、一線を越えないことについての市民としての成功モデルがあるのではないかと思います。そして、それが健康も保ってくれるのです。コロナ禍を生き抜いてきた私たち全員にとって、ほとんどの人が健康を維持したいと願ってきました。アメリカがマスクの着用について対処してきたことが正しいやり方だとは言いませんし、州にもよります。しかし、日本人はルールを守る人であり、ルールを守ることで成功したいと思っているという考えが非常に多いのではないでしょうか。これは興味深いことです。しかし、小規模の移動や特定界隈での交流のために限定的にマスクを外すことが理にかなっている場合、外す挑戦を始めるのもいいのではないでしょうか。ビジネス課題を解消する時も、小さなステップで小さな成功を収めることができれば、最終的には自信を持ってルールを破ることができるのです。

増井 快適な環境の外へ勇気を持って一歩踏み出すことが必要なのだろうと思います。また、『Provoke』は、不確実性を検出したり対処したりするためのフレームワークを示しています。それは、想像(Envision)、配置(Position)、推進と適応(Drive and Adapt)、起動(Activate)です。次はこの枠組みの概要を教えてください。

ジェフ ベルカーブのように不確実性がいつ問題になるかということから生じる不確実性のサイクルを考えてみてください。不確実性はある期間勢いを増し、それが“もし”から“いつ”のフェーズになると、もはや不確実性ではなくなります。そのサイクルの初期段階で重要なことは、最初のEnvision(想像)アクションです。線形変化がビジネスを支配する時代には、 “過去のデータを元に未来を推定する方法”、それが有力な考え方でしたが、いくつかの利点と欠点があります。

真の不確実性に直面して、将来を見据えてやるべきことは、支配的な未来の観点から考えることではありません。計画を立て、実際に資本を配分し、支出を配分し、準備をして、実際の状況や展開に合わせて戦略と対処を調整し、支出を調整できるようにする「道しるべ」と早期指標のシステムを作成します。つまり、Envisionするという行為の全体像は、優れたシナリオプランナーであることと言えます。

2番目のアクションはPositionを想定することであり、これは優れたシナリオプラニングの拡張にすぎません。ポジショニングは、将来の展開を考慮した方法で、アジャイルな方法で支出を調整し、投資を調整します。

その後、行動するためには3つの異なる選択肢があります。将来の見通しがはっきりしており、展開に影響を与える力がある場合には、自分が有利な結果に「導く(Drive)」ことができる。展開の仕方に大きな影響力を持っていて、十分に素早く行動できるのであれば、その未来に向かって走ればいいのです。時には自力でそれができなくなったときに、生態系(エコシステム)を「活性化(Activate)」させ、複数の異なるタイプのプレイヤーが一緒になって未来に向かってドライブします。

最後の行動は「適応(Adapt)」です。つまり、明確な見通しがなく、未来の展開に影響を与える能力もなく、エコシステムを活性化する能力がない場合はビジネスモデルを適応させる必要があります。時にはやり方を変える必要がある。時には会社を縮小する必要がある。

井上 ご説明頂いた5つの段階は分かりやすく、特に大企業において実装すべき要素が詰まっているかと思います。とはいえ、実際に日本企業において実装することを考えた際には、多くの壁に直面することが想定されます。




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