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不確実な時代に強みを再定義-「現場エコシステム」で確実なる底力

増大する不確実性の背景にある3つの世界的潮流に対して、日本企業はどのような強みを意識して新たな競争優位を構築するのか――。そのための3つの指針とは何か?


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最も確実な強みを見出す

不確実な時代に確実な強みを見いだす

こうした不確実性を生み出す潮流のさなかで、日本企業は再び遅れを取ってはならない。むしろ先手を打ってアクションを起こすべきだ。そのためには、足元から強みを見いだし、不確実だからこそ「確実なる底力」を戦略的に具現化することが大事だ。

最も確実な強みは、日本企業の競争力を支えてきた「現場」にある。ここでいう現場とは、高度な技術やノウハウを築き上げてきた製品やサービスの生産はもとより、品質の選別基準で「世界一厳しい」と言われるユーザーや消費者を含めて、情報・知識・財貨・人材の間で絶えざる化学反応が起きる「場」の総体――と定義する。
日本の生産現場の強さを象徴しているのが「擦り合わせ」だ。異なる考え方ややり方を柔軟に吸収し、一つにまとめ上げる手法は、長期にわたりロイヤルティー(忠誠心)が高く、探求心旺盛な人々が長い時間の蓄積を経て実現した暗黙知である。複雑化・ブラックボックス化されているからこそ、容易に真似できない高付加価値の原動力だ。

同時に、「世界一品質に厳しい日本の消費者」も現場の強さのもう一つの要素だ。日本には「廉価で高品質」や「和洋テイストの融合」など矛盾する概念に価値を見いだす消費者が多い。昨今の日本のポップカルチャーや和食への世界的な人気の高まりといった現象も、こうした日本の消費現場に起因するものと言える。このように生産と消費の双方で、複雑で相対立する概念に直面するたびに、それらを融合させ新たな価値に変えてきた創造的な経験の蓄積により、日本企業は鍛えられ、「ジャパンクオリティー(日本品質)」を生み出してきたのである。これらを日本の強みの源泉として捉え直すことは重要だ。

だがその一方で、グローバル化やデジタル化の流れの中で、日本の製造業を中心とする伝統的な現場は、自前主義に拘り、ともすると保守的になり、変化の流れに乗り遅れ、方向を見失いつつあるのも事実だ。今求められているのは、旧来の現場の強みを、そのまま妄信することでも「時代遅れ」として葬り去ることでもない。ポストグローバル化・デジタル化の文脈の中でそれらを再定義し、新たな成長の強みの源泉に変えて行くことである。そのためには、過去の成功体験に由来する日本の閉鎖性、企業の自前主義に自らメスを入れる覚悟も必要だ。

「現場」とは、高度な技術やノウハウを築き上げてきた製品やサービスの生産はもとより、品質の選別基準で「世界一厳しい」と言われるユーザーや消費者を含めて、情報・知識・財貨・人材の間で絶えざる化学反応が起きる「場」の総体である。

これからは、国内外の多種多様なプレーヤーとの開かれた競争やコラボレーションをさらに積極的に推進して、現場に新たな活力を注ぎ込む生態系とも呼ぶべきメカニズム―「現場エコシステム」が必要だ。

これからは、本来の現場が有する強みを競争力に変えるために、国内外の多種多様なプレーヤーとの開かれた競争やコラボレーションをさらに積極的に推進して、現場に新たな活力を注ぎ込む生態系とも呼ぶべきメカニズムが必要である。ここでは、これを「現場エコシステム」と再定義する。現場エコシステムとは、長い時間をかけて築かれた信頼関係を基軸とする現場の強みを維持しつつ、グローバル視点で広範囲のステークホルダーを巻き込み、デジタル化に対応できるより一層ダイナミックな化学反応を促進する仕掛けだ。各企業が自らの特性、強み、存在意義などを見つめ直し、同時に他企業やステークホルダーと積極的に繋がりを作るオープンな現場エコシステム、 いわば「“開かれた”現場」ができれば新たな競争優位につながるはずだ。

さらには、不確実性をもたらす潮流の三つ目であるソーシャル化の時代を迎えて、現場エコシステムを形成することの戦略的重要性は急速に高まっている。国際社会を取り巻く社会課題が深刻さを増すなか、日本は少子高齢化をはじめ他国よりも先行している「課題先進国」であるからだ。社会課題には政府、自治体、国際機関やNGOなど、多様なステークホルダーが関与し、まさに現場エコシステムの出番である。
日本の複雑な社会課題を解決するために、本来の現場の強みを活かし、多様なステークホルダーの知恵や力を掛け合わせて解決策を生み出して行けるならば、日本市場はイノベーションを生み出す巨大な実験場とも見なせる。1億人以上の人口を抱えて規模も比較的大きい。ここで社会課題を起点として世界に先駆けてイノベーションを起こせば、国内で膨大な潜在需要を掘り起こすだけにとどまらず、グローバル市場全体をリードする事業機会を生み出すことが出来るからだ。まさに、日本発の「現場エコシステム」という強みを一段と磨き上げることができるはずだ。

次からは、ポストグローバル化、デジタル化、ソーシャル化といった不確実性をもたらす3つの潮流を念頭に、現場エコシステムの強みを活かし日本企業が取るべき3つの指針を提起する。