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不確実な時代に強みを再定義-「現場エコシステム」で確実なる底力

増大する不確実性の背景にある3つの世界的潮流に対して、日本企業はどのような強みを意識して新たな競争優位を構築するのか――。そのための3つの指針とは何か?


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第1の指針「真のグローバル化」

集中化と分散化を両立させる

第1の指針は「真のグローバル化」だ。集中化と分散化を高度な次元で両立させるグローバル化のことだ。すでに述べたように、ポストグローバル化時代はグローバル化とフラグメント化が同時進行している。不確実な時代であってもグローバル化は不可避であり、日本回帰志向を強めてはいけない。これからは、やみくもにグローバル化へ突き進むのではなく、目指すべき「真のグローバル化」とは何かを問いかける重要性が増している。

日本企業にとって「真のグローバル化」の一つの拠り所は、強力な現場エコシステムの中核を担う「マザーファクトリー(世界最強の工場)」「マザーR&Dハブ(世界最強のR&D拠点)」「マザーマーケット(世界で最も厳しい消費者)」だ。最も競争力のある経営リソースを日本国内へ集約する「集中化」と解釈してもいい。世界全体で不確実性が高まり、突如としてリスクが表面化しかねない時代に突入し、貿易戦争に巻き込まれて重要な市場から締め出され、中核的工場・研究開発拠点が深刻な影響を受ける事態も想定される。日本国内への集中化は、経済性・安全性の面でも理にかなった戦略といえる。その中で自社にとってどの部分を日本に集約するかは、経営者の戦略眼が問われる部分だ。

半導体製造装置大手の東京エレクトロンは、設計・開発・生産に至るまで一連の工程を国内工場に集約・集中化することで「マザーファクトリー」と「マザーR&Dハブ」の一体化を実現している。ハード・ソフト・プロセス・アフターサービスの4要素を掛け合わせ、デジタル技術と人材による「匠の技」を有機的につなぎ競争力の源泉になっている。地元コミュニティーとの信頼関係を礎に、ロイヤリティーが高い人材が長い時間軸で技術をきちんと継承する仕組みも備えている。まさに日本という現場エコシステムからグローバルに競争力ある高付加価値を生み出す好例の一つだ。

米国・中国・欧州の不安定化に留意して分散化

「集中化」によって足場を固める一方で、米国・中国・欧州等の不安定化に留意しながら、以下の3点を念頭に分散化を進めながら世界各地へ積極的に進出する必要がある。

  • 第1にエリアカバレッジの拡大。海外での成長機会をつかむために成長率の高いアジアを含む新興国へ進出し、グローバル展開の面を広げる。グローバルM&Aや事業提携も積極的に活用する。
  • 第2に現地化・地産地消。貿易戦争に絡んだリスクの最小化を狙って①地域特性に合った現地化②国や地域をまたがない生産・供給体制の強化③地産地消型モデルの構築――を進める。
  • 第3に代替オプションの拡大。不確実性の高まりに伴うリスクを分散させるために、グローバルサプライチェーンを再構築する。状況に応じて生産・供給手段や経路の代替を用意できるようにしておく。

こうした分散化によるグローバル進出を進めるうえでは、現地のリスクに対応すべく現地法人への権限移譲を進めローカルな力を引き出す一方で、不確実性に対応できるグローバル経営の求心力が必要不可欠である。そこにおいては、本社機能の強化も欠かせない。有事の際にも機動的に対応できる事業ポートフォリオ管理は、日本をはじめとするグローバル本社が担うべき重要な役割だ。こうした、遠心力と求心力のバランスという普遍的課題は、不確実な時代だからこそより一層重要になる。

「真のグローバル化」とは、現場エコシステムを基軸に集中化と分散化を高度な次元で両立させること。

日本企業による「真のグローバル化」において、手本になりうる経営方針を取っている企業が建設機械大手のコマツだ。同社は基幹部品とそれ以外に分けて集中化・分散化している。具体的には、基幹部品の開発・生産を日本国内へ集約しつつも、基幹部品以外の組み立て生産については需要に近いところで地産地消を徹底的に進めている。また、代理店など販売政策においては、一度進出した地域は撤退しないとの方針のもと、長期的な視野で現地国やマーケットとの信頼関係を構築している。一方では、常に起こりうる為替や需要の変動に対応できるように、グローバルにどの生産拠点からどの市場へも製品供給できる世界最適生産調達体制を築き上げている。さらには、グローバルな生産・販売・在庫管理の全データは日本で一元的に集約・解析しマネジメントしており、まさに日本を司令塔に、高度な次元で集中化と分散化を両立させているグローバル経営の好例と言える。