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CFO Insights 2022 February

令和4年度税制改正大綱 

CFO InsightsではCFOが直面する課題に関する最新情報や知見を毎月発信しています。今月は令和4年度の税制改正大綱の中から特に押さえておくべき重要事項について説明します。

新たに誕生した岸田政権は、2021年の総裁選において「富の再分配」と、社会における「新しい資本主義」の実現を公約として掲げており、国内景気の活性化と企業の雇用確保の取り組みは直近の法改正の要となっています。令和3年12月10日、令和4年度税制改正大綱が連立与党によって公表され、成立に向けて国会提出後、現在議論されています1

法人に影響を及ぼす税制改正

1. 給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度の改組

継続雇用者に対する給与等支給額を3%以上(前年度と比較)引き上げる大企業においては、給与等支給額の増額合計の15%から25%の税額控除を受けることができます。一方、中小企業は、同様の税額控除を最大30%まで受けることが可能とされています。また、企業が従業員の教育訓練費を増額する場合、税額控除率は更に5%から10%加算されることとなります。一定規模以上の大企業については、説明責任と変更点・個所開示の目的から、給与引き上げ方針とその他所定の事項をオンラインにて公表することが義務付けられています。この税額控除制度は、一時的な措置であり、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度においてのみ適用可能となる見込みです。


2. 大企業につき研究開発税制等の税額控除規定を適用できないこととする措置の見直し

平成30年度税制改正後、大企業が継続雇用者への給与等支給額を前年度と比較して引き上げを行わない場合、研究開発税制等の税額控除規定が適用されないこととなりました。

令和4年度税制改正大綱ではこの規定の強化が求められています。令和4年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度は、継続雇用者比較給与等支給額と比較して継続雇用者給与等支給額が0.5%以上増加、それ以降の期間については1%以上増加としています。また、本改正大綱では、企業収益が拡大しているにもかかわらず従業員の賃上げに消極的な大企業に対し、控除規定適用外等の停止措置がさらに強化されるものとなります。

 

3. オープンイノベーション促進税制の拡充

スタートアップ企業(特別新事業開拓事業者)に対し、一定の要件を満たす出資をした場合に、取得株式の一部を課税所得から控除できるオープンイノベーション促進税制は、当初、令和4年3月31日に終了する予定でしたが、令和6年3月31日まで2年延長されることになりました。また、同インセンティブ制度の他の要件も一部緩和される見込みです。

 

4. 過大支払利子税制の適用対象の拡大

過大支払利子税制は、日本国内に恒久的施設(PE)を有する外国法人のみが適用対象でしたが、令和4年度の税制改正案では、日本国内にPEを有しない外国法人についても過大支払利子税制の適用対象とされています。同税制は今後、PEに帰属するか否かを問わず、日本の法人税の課税対象となる国内源泉所得の全てに適用されることになります。従って、外国法人が日本の不動産等から稼得する賃料収入も過大支払利子税制の対象となります。


5. 完全子法人株式等に係る配当等についての源泉徴収の見直し

国内の完全子法人等(株式等保有割合100%)、及び関連法人株式等(株式等保有割合3分の1超)に係る受取配当で、令和5年10月1日以後に支払を受ける分については所得税を課さないこととし、その所得の源泉徴収は行われないこととされます。

6. 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置の整備

2021年11月に発行したCFO Insights、『電子帳簿保存法の改正に伴い迫られる企業の対応』の中で、「電子帳簿保存法に遵守するには、電子取引データは電磁的記録(電子データ)として令和4年1月1日までに保存する必要がある」と述べました。しかしながら令和4年度税制改正では電子帳簿保存法の遵守にあたり、企業に時間的猶予を与えるため(一定の条件を要する)²、令和5年12月31日までの移行期間が設けられることになりました。

 

財産債務調書制度の見直し

財産債務調書については、提出期限が緩和される一方、財産債務調書を提出する義務のある納税者の範囲は所得基準に関わらず高額な資産保有者に拡大され、提出義務が課せられることが示されています。

また、現在は財産債務調書の提出が期限後となる場合において、宥恕措置が適用されますが、令和5年以降は、期限後に財産債務調書が提出された場合、税務調査通知前に提出されたものでなければ、宥恕措置の適用とはなりません。

おわりに

令和4年度税制改正大綱で公表された改正案は、新たなビジネス産業の創出を進めるとともに、既存企業の事業革新を促し、付加価値の向上につなげることを目的として策定されています。しかしながら、大企業や高額資産を保有している人に対しては追加の要件を課すことで引き締める傾向がみられます。従って企業は、自社の状況に応じて新しい制度に適切に対応する必要があります。

令和4年度税制改正大綱には具体的な内容は盛り込まれていないものの、政府は将来的にはOECD及びG20において現在議論されているデジタル課税とグローバルミニマム課税に関する措置を導入する見込みです。

今回の大綱には広範囲に及ぶ改正案が盛り込まれており、今後も更なる改訂が予想されることから、各企業は法改正に関連する自社固有の特有のニーズの分析と、当該制度施行に先駆けた行動計画の策定の助言を税務専門家に求めることを推奨しています。

 

【注】

1. 令和4年度税制改正大綱に盛り込まれている各種措置に関する詳しい内容については、Japan Tax Newsletterをご覧ください。

2. 納税地の所轄税務署長が当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存することができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、当該保存義務者が質問検査権に基づく当該電磁的記録の出力書面の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとし、令和5年12月31日までの移行期間が設けられることになりました。

引用元:令和4年度税制改正大綱(2021年12月10日)


その他詳しい情報をご希望の場合は、Jun Tamura (jun2.tamura@tohmatsu.co.jp)又はBrian Douglas (brian.douglas@tohmatsu.co.jp)にお問い合わせください。

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令和4年度税制改正大綱の概要(月刊誌『会計情報』2022年2月号より)

令和3年12月10日、与党より令和4年度税制改正大綱(以下「大綱」)が公表され12月24日に閣議決定された。本稿では、大綱の項目のうち、法人に関する分野(法人課税一般、グループ通算制度や国際課税など)を中心に解説する。

なお、本文の内容は大綱に基づくものであり、実際の適用に当たっては、令和4年3月までに成立が見込まれる関連法令等を確認する必要がある点に、留意されたい。

 

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