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複雑課題にスピーディーに対応できる組織になっているか

「既存事業」・「新規事業」の両輪経営に向けた組織のあり方 第1回

本連載の趣旨

本連載では、全3回にわたり、「既存事業の推進」と「新事業創造/イノベーション」を持続的に両立していくための組織のあり方・仕掛けづくりについて示していく。第1回では、複雑な課題へスピーディーに対応する組織の必要性・あり方について、第2回は、スピード対応力の高いネットワーク型組織の具体像について、第3回では、ネットワーク型組織を既存組織(階層型組織)に組み入れたハイブリッド型組織の姿について示していく。

 

対応すべき課題の複雑性

昨今世の中の情勢変化スピードは日々刻々と早まってきており、企業はその機微を捉えた対応を余儀なくされている。

特に近年対応が急務となっているのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)である。データやデジタル技術の活用は単なる業務効率改善のみならず、顧客付加価値創出へと目的を変え、製品やサービス、ビジネスモデルの変革や組織、プロセス、企業文化・風土の変革が求められている。

顧客ニーズも多様化し、取り組むべき課題の難易度も増しており、企業にとっては既存事業の延長線上で考えるだけでは対応が難しくなってきている。イノベーション・ブレークスルーが求められ、かつ業種・業界を超えた連携やシナジーを生み出すために、企業としても均質的な人材の集合体でなく、より多様な人材を抱えていく必要性が高まってきている。

また、社員としても近年就業・仕事に対する価値観が大きく変化している。たとえば、以前は社員の志向・モチベーションの源泉が、昇進(評価)・報酬等の会社内での処遇が中心であったのに対し、近年は自己成長・自己実現、心身の健康、社会貢献など、個々人で求めるものが多様化している。また、「一人ひとりが、仕事を通じてワークとしてもライフとしても十二分に満足できる」Well-beingな状態を会社として整備・提供してくれることを望む社員も増えている。

いずれにしても、目まぐるしく環境が変化していくなかで、新たに発生する様々な事象・課題に対して、いかにスピーディーかつ柔軟に対応することができるか、そのための準備をきちんと行っているか、が重要となる。企業によってその対応力に圧倒的な差が生じており、結果として企業の業績の明暗につながっているのはみなさまご存じの通りである。
 

組織としてのあり方の抜本的な見直しの必要性

こうした状況の変化に対応しようと各企業は日々努力を続けているが、特にCOVID-19のような有事の環境においては目の前の業務課題に対処することに手一杯となり、なかなか組織のあり方を抜本的に見直すことまでは検討できていない。しかしながら、既存の組織の枠組みの中でこのような目まぐるしい環境変化へ対処しようとしても、制約・足枷が多く、思うように対処しきれないことが多いように思われる。

特に多く見られるのが、「現場の変革対応スピードの向上」「イノベーティブな新規事業/プロジェクトの立ち上げ」「DXをはじめとした事業横断での動き」を社内で巻き起こしていきたいものの、なかなか上手くいかないといった状況である。これらは「現場へ権限委譲がなされていない」「多階層のレポートラインにより意思決定に時間を要する」「縦割り組織(事業軸)による情報・ナレッジの蛸壺化」が一因であると考えられる。

例えばこういった状況に陥り悩んだ経験はないだろうか。

 

  1. 製品・サービス価値向上を目的としたアプローチを検討しようとするものの、他部門との連携がスムーズに行われなかったり、部門内で情報が閉じられていたりすることで、社内には有用な知見が一定量溜まっているにもかかわらず、情報が共有されない。
  2. COVID-19の影響により既存製品が売れなくなる中で、事業ポートフォリオの再編が余儀なくされているものの、なかなか新規事業を生み出すことができない。
  3. 「働き方改革」など、世の中のトレンドに追従していく必要があるが、このような部門横断的な検討が必要な問題に対して、皆が必要性を感じているものの、誰も主導権を握ろうとせず、宙ぶらりん状態になってしまい取り組みが進まない。

 

まさにこのような、状況が日々刻々と変化している中で、求められているニーズも変化していること自体は理解しているものの、どこを変えれば良いか分からない、どのように変えれば良いか分からない、声を上げた人が結局対処せざるを得なくなるため誰も音頭を取ろうとしない、対処しているのだが成果がなかなか見えない、といった状況は思い当たる節があると思われる。

必要性を感じながらも、なかなか思うような行動や成果に結びつけられない場合、もしかすると、そもそもの企業としての枠組み・仕組み自体が障壁となってしまっている可能性がある。それが正であるのならば、いくら小手先の施策や現場運用でなんとか対応しようとしても限界が来るのは目に見えている。

社員が新たな動きを自発的に考え、社員同士でフラットに情報交換・連携し、様々なことに挑戦しながら、わくわくとした楽しい気持ちを持って仕事をしていける、そういった環境をつくっていくためには、従業員の意識・行動変容やスキルアップ等にとどまらず、組織・制度といった会社としての仕組み・ルールの抜本的な整備が必要不可欠となってくる。

ビジネス・社風の持つ特徴チェックリスト

ここで少し、簡単なチェックリストを用意したので、読者の所属する企業/組織のビジネス・社風の持つ特徴を確認してみていただきたい。もしかすると、課題を達成していくためには、より相応しい組織形態があるやも知れない。以下のチェックリストにおいて、A、Bのどちらがより当てはまるだろうか?

 

 

 

観点

 

A

B

1

企業/事業の将来の見通し易さ

□ 将来を見通しやすい(3-5年後の計画を立てやすい)

□ 将来を見通しづらい(3-5年後の計画を立てづらい)

2

対象となる顧客/顧客のニーズ

□ 対象となる顧客/顧客のニーズは明確/変わりづらい

□ 対象となる顧客/顧客のニーズが分かりづらい/変わりやすい

3

顧客への提供価値(製品・サービス)

□ 顧客のニーズを満たすための提供価値が分かっている

□ 顧客のニーズを満たすための提供価値を都度検討する必要がある

4

ビジネスモデル・プロセスの確立度

□ ビジネスモデル・プロセスが確立されている(業務はルール/マニュアル化しやすい)

□ ビジネスモデル・プロセスが確立されていない(業務はルール/マニュアル化しづらい)

5

求められる知識・スキル

□ 求められる知識・スキルは時期・タイミングで大きく変わらない(同質な人材の方が効率的・効果的)

□ 求められる知識・スキルは時期・タイミングで大きく変わる(都度最適なメンバーでチームを組成する方が良い、多様な人材の組み合わせが効果的)

6

必要な判断スピード

□ 迅速な現場判断よりは、ルールの遵守や、上長からの指揮命令通りに業務を遂行することが求められる

□ 迅速な現場判断が求められる(製品開発へのアイデアの反映、顧客ニーズへの対応、等)

7

失敗の許容度

□ 失敗が許されない(ビジネスモデル上、失敗が許されない、社風/制度として着実・安定な業務遂行が評価される)

□ 途中で失敗しても、結果的に成功すれば良い(ビジネスモデル上、トライ&エラーが重要、社風/制度として挑戦が評価される)

 

チェックリストを踏まえた、あるべき組織形態

いかがだっただろうか。読者の所属する企業/組織にAの項目が多く当てはまる場合は、「既にある基盤を活かす、どちらかというと1→10のビジネスモデル」であるのに対し、Bの項目が多く当てはまる場合は、「新たな事業・イノベーションを生み出す、どちらかというと0→1のビジネスモデル」ではないだろうか。さらに詳しく見てみよう。

チェックリストのうち、Aの項目が多く当てはまる場合、「予め決められたことや、上位者に指示されたことをミスなく忠実に再現する」ことが重要となる。特に「既存事業の安定・着実な推進」をミッションとする組織の場合、Aの項目が多く当てはまる傾向が強い。このような場合、指揮命令系統がはっきりしており、個々人の役割分担が明確な「階層型組織」との親和性が高い。
一方で、Bの項目が多く当てはまる場合、「メンバー個々人が適時適切に状況を判断し、他者と協力し合いながら課題を解決していく」ことが重要となる。特に「新事業創造/イノベーション」をミッションとする組織の場合、Bの項目が多く当てはまる傾向が強い。これを階層型組織で実現しようとする場合、「現場での権限のなさ」・「意思決定の遅さ」・「組織のサイロ化(縦割り)」がネックとなり、成果が限定的となっている可能性がある。

成果を最大限享受するためには、「ネットワーク型組織」・「プロジェクト型組織」・「アジャイル型組織」などと呼ばれる、従来の階層型組織とは異なる新たな組織形態を採用することが1つの解決策となり得る。このような組織形態(以下、「ネットワーク型組織」と呼称)を耳にしたことがある読者も多いのではないだろうか。少し前までは、ネットワーク型組織は、「新興ベンチャー企業であれば実現できるものであり、大企業では難しい」組織形態とみなされていたものの、近年大企業においても成功させる事例が出始めている。

重要なことは、業務特性や課題に適した組織形態を採ることではあるものの、ネットワーク型組織については「必要性や効果について、分かってはいるものの、どのように作れば良いか分からない。試してみたものの、社員が自律的に動かず思ったような効果が出なかった」といった意見を頻繁に聞く。次回の第2回では、社員個々人の自律性を活かしたネットワーク型組織の作り方や、ネットワーク型組織を機能させるための要諦について、詳しく紹介する。
 

(2021.7.8)
※社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
 

執筆者紹介

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
マネジャー 橋本 洋人
シニアコンサルタント 樋口 誠

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