社内に「タレントマーケットプレイス」を導入する方法 ブックマークが追加されました
ナレッジ
社内に「タレントマーケットプレイス」を導入する方法
タレントマーケットプレイス構築のポイントは 「イテレーティブ(反復的)なデザイン手法」と4つの「P」
COVID-19により人材の需要と供給に混乱が生まれた今、社内に労働マーケットの考え方や手法を持ち込み、人材のキャリアやスキルを可視化・拡張し、柔軟に配置転換をしながら育成、活用するマネジメント・プラットフォームのあり方、すなわち、人材のタレントマーケットプレイスが注目を集めています。本稿は「社内のタレントマーケットプレイス」の効果的な設計方法について、「イテレーティブ(反復的)なデザイン手法」と4つの「P」をキーワードとし、先進事例の紹介と共に解説します。
社内労働マーケット=「タレントマーケットプレイス」の導入
多くの企業が、「社内に労働マーケットの仕組みを導入し、変化する人材ニーズへの即時対応と人材配置の適正化を行えないだろうか」と考えたことがあるのではないだろうか。
しかし、これを阻む要素として、「人材の状況をリアルタイムに可視化するためのプラットフォームがない・未構築」「そのようなプラットフォームがあっても、各部門が適時・適切に情報を入力しないため、形骸化する」「そもそも可視化の目的が不明瞭」といったことが挙げられる。
特にタレントマネジメントシステムをはじめとした大規模システムは、導入の時間を要し、様々なステークホルダーと各種調整を行いながら推進するため、導入の目的やアプローチ、また目的に沿った成果を上げるまでのチェンジマネジメントにはいくつかの壁がある。
本レポートでは、いくつかの企業事例を引き合いに出しながら、これを実現するためのポイントを紹介する。
タレントマーケットプレイス導入は「イテレーティブ(反復的)なデザイン手法」がポイント
近年、「アジャイル」という方法論・考え方が企業に普及しつつある。アジャイルソフトウェア開発宣言(参考:アジャイルソフトウェア開発宣言 (agilemanifesto.org))にも記載されているが、「個人との対話」「変化への対応」といった方針を重視する方法論で、何らかプロダクト開発や変革を推進していくにあたり、「漸進的」「反復的」な進め方を重視する方法である。デロイトで実際にタレントマーケットプレイスのプラットフォームに投資を行っている13社にインタビューを行った結果、この「継続的なカスタマイズと小さな成功に目を向けた学習のプロセス」という考え方が共通項にあった。例えば、世界銀行では、採用凍結中の研修やプロジェクトワークのために社内マーケットプレイスをスタートさせたが、最終的には従業員のエンゲージメントや多様性を支援するマーケットプレイスへと発展し、進化モデルへと移行するといったように、マーケットプレイスの成熟に合わせて組織の戦略を進化させている。
反復的デザイン手法を支える「4つのP」
タレントマーケットプレイス導入に向け、4つの「P」の観点から反復的デザイン手法を実践する。
- 目的(purpose):さまざまなユースケースと測定可能な成果に基づいて戦略を定義する
- 計画(plan):社内のタレントマーケットプレイスの活性化に必要な反復ステップを決定する
- プログラム(program):人材とキャリアの流動性を高めるためのポリシーとプロセスを定義する
- プラットフォーム(platfom):テクノロジーエコシステムの統合に向けて取り組む
【目的purpose)】
タレントマーケットプレイス導入の目的は、前述した13社へのインタビューを通じ、下記3つがあることが明らかになっている。
【計画(plan)】
計画を行うにあたり、変革の指針となる原則と、導入加速に向けた行動変容に焦点を当てる必要がある。インタビューを実施した企業において主に重視していることは、誰がマーケットプレイスに役割・プロジェクトを追加したりそれらにアクセスしたりできるか、どのような業務を提供するか、またどのように業務をプロジェクトに分割するか(即ち業務の細分化)などが挙げられる。例えば業務の細分化について、Prudential Financialの人材ケイパビリティ部門の最高責任者であるVicki Walia氏は、組織が業務(例えばUX設計など)を構成要素に分解し、役割を満たすための人材ではなく、その構成要素を満たす専門家を求めるマーケットプレイスを構築することができれば、仕事のやり方を変えることができるだろう、と説明している。
また、インタビューを実施したすべての企業が、タレントマーケットプレイスを成功させるための最も重要な要素として「管理職の関与」を挙げている。これは、(フルタイムかパートタイムかにかかわらず)安定したギグの供給がなければマーケットプレイスは成り立たず、これが管理職の特権であるためである。驚くべきことに、管理職の46%は社内の流動性に抵抗を示しており、人材囲い込みの文化が根付いています。Prudential FinancialのTalent AcquisitionのヘッドであるElin Thomasian氏は次のように述べている。
「人材を囲い込むのは、ポジションを補充するのに時間がかかることや、利用可能な人材プールの透明性がないことへの不安があるからです。”タレントマーケットプレイス”は、社外で利用可能なスキルと比較してPrudential Financialではどのようなスキルが利用可能かを可視化することで、人材を囲い込むことから解放してくれます…誰かが退職すると、数日以内に10人の優秀な人材を紹介してもらえます。」
【プログラム(program)】
社内のタレントマーケットプレイスの導入は、大規模な人材変革であり、現場の理解や新しい行動様式に移行していくためには、チェンジマネジメントのプログラムが重要である。
【プラットフォーム(platform)】
企業の49%が、人材を特定し社内の新しい役割に異動させるための技術ツールを持っておらず、今後あり得るとすれば、既存システムの再プラットフォーム化を主に検討するだろうと考えている。インタビューを実施した企業は、プラットフォームに対して購入、構築、適応という主に3つのアプローチを検討している。
- 購入:マーケットプレイスを強化するための、大量のスキルデータを活用したAI対応テクノロジーを評価し、それらに投資する
- 構築:既存のソリューションエコシステム全体にわたって特注のソリューションまたはプラットフォームレイヤーのオーバーレイを構築する
- 適応:データを一元化する人材マネジメントシステムを拡張する
一方で、DellのTalent and Culture(人材・文化)担当ディレクターであるJosie Trine氏が、「買い手や売り手が不足しているオンラインの消費者主導のマーケットプレイスを想像してみてください。まず成り立たないでしょう。」と述べているように、出し手と受け手が一定数存在するよう、チェンジマネジメントを行っていくことが肝要である。
その他の記事
人事機能の高度化・効率化(HR Strategy)
「戦略人事」への変革
第3回 変革進む雇用と働き方の在り方(その1)
人事の新「世界スタンダード」~デジタル・イノベーションの中で変革を迫られるHR~