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スピード対応力のあるネットワーク型組織とは
「既存事業」・「新規事業」の両輪経営に向けた組織のあり方 第2回
前回の振り返り
第2回である今回は、ネットワーク型組織を機能させるための要諦について示していく。詳細に入る前に、まずは前回の内容を簡単に振り返っておこう。第1回のポイントは以下の通りとなる。
- 対応すべき課題の複雑性が増しており、その課題に対していかにスピーディーかつ柔軟に対応できるかが、企業の業績の明暗を分ける
- 一方で、既存の組織の枠組みの中で課題に対応しようとしても、「権限がない」・「組織のサイロ化」などで持続的に成果を得ることは難しく、会社としての仕組み・ルールの抜本的な整備が必要不可欠となる
- 重要なのは、「メンバー個々人が適時適切に状況を判断し、他者と協力し合いながら課題を解決していく」事であり、これを実現しやすい仕組みを会社として整えることである
- これを組織面で実現しようとするのが、ネットワーク型組織である
スピード対応力のあるネットワーク型組織
組織としてスピーディーかつ柔軟な対応力がある、社員の自律性が高く、イキイキとしている、このような特長を持つ企業(大企業・ベンチャー企業双方、日系企業・外資系企業双方)約20社に対して、その秘訣を明らかにするためにインタビューを実施した。その結果、3つのポイントが見えてきた。「遠心力」・「求心力」・「マネジメントの仕組み」の3つである(図1)。
図1:遠心力・求心力・マネジメントの仕組みの関係性
「遠心力」とは、個人あるいはスモールチームが、自律的に動くことができ、スピーディーかつ柔軟に物事を判断することで、価値を発揮する力のことである。「デジタル」・「イノベーション」といった、「既存事業の延長線上からは解が見いだせない事」を行おうとする場合や、顧客ニーズの移り変わりが激しく、「現場でのスピーディーな判断」が必要な場合には、「いかに現場の力を最大化できるか(=遠心力を効かせられるか)」が重要となる。
次に、「求心力」とは、会社としてのミッション・ビジョン・価値観が明らかにされており、かつそれが個人の価値観と充分にすり合っていることで、組織と個人が“一体化”する力のことである。求心力によって、組織と個人のベクトル(向かうべき方向性)が揃っているからこそ、会社としては安心して個人に任せられる(権限を委譲できる=遠心力を効かせられる)のである。
最後の「マネジメントの仕組み」は、上記の「遠心力」と「求心力」を生み出すための仕組みである。これは、「フォーメーション面」と「ケイパビリティ面」に大別できる。「フォーメ―ション面の仕組み」は、「組織に柔軟性を与え、経営資源獲得と意思決定取得が容易となる制度・仕組み」のことである。具体的には、「適切なアサインメント(大胆な権限移譲、適時適切・柔軟なチーム組成)」や、「徹底的な見える化(情報基盤の整備、徹底的な情報公開)」が挙げられる。一方で「ケイパビリティ面の仕組み」は、「個人の志を明確にし、価値発揮に向けた役割獲得や安心して挑戦できるための仕組み」のことである。具体的には、「価値観のすり合わせ(価値観重視の採用、上司-部下間の価値観共有)」や、「心理的安全性の担保(カルチャー面の心理的安全性担保、経済(報酬)面の心理的安全性担保)」が挙げられる。
上記の「マネジメントの仕組み」を通じて、「遠心力」と「求心力」を最大限まで高めることが、スピーディーかつ柔軟に複雑な課題に対応するための要諦と言える。これらのポイントを押さえた組織は、固定化された指揮命令系統がなく、メンバー個々人が自律的に動き、他者と協力し合いながら目的を達成する。このような組織形態は、「ネットワーク型組織」と呼ばれる。
ネットワーク型組織が機能している状態
前述の通り、ネットワーク型組織とは、「固定化された指揮命令系統がなく、メンバー個々人が自律的に動き、他者と協力し合いながら目的を達成する組織形態」のことを指す。ネットワーク型組織では、課題に応じて自律的にチームが組成され、委譲された権限、あるいは意思決定者に直接アプローチすることによってスピーディーに意思決定を行える。ネットワーク型組織について、よりイメージしていただきやすいよう、「新しいソリューションのアイデアを素早くカタチにする必然性が高いとき」という具体的なケースを想定し、ネットワーク型組織の動きを、階層型組織と対比させながら見ていこう。
階層型組織の場合、現場で新しいソリューションのアイデアが浮かんだとすると、自身で企画書を作成し、組織長に上申するところから始まるのではないだろうか。組織長は、自身の権限内で決裁できる内容であれば判断し(残念ながらたいていは決裁権限内で判断できない)、決裁権限の範囲内に収まらない場合は、さらに上の部長・役員にまで上申することとなる。当たり前だが上に行けば行くほど決裁には時間がかかり、加えて「追加調査」の指示が降りてきて、更に時間がかかることもある。社内に知見を持つ人が居るのか居ないのか分からず、孤軍奮闘することも多い。そのうち段々と当事者の熱量が冷めていったり、他社に先を越されたりして、アイデアが日の目を見ないこともある。しまいには、「どうせ上申しても無駄だから」という“諦め”が現場に蔓延し、イノベーションが生まれづらい体質が強化されてしまう。架空の話ではあるものの、耳が痛いと感じられる読者もいるのではないだろうか。では、次に同様のケースがネットワーク型組織の場合どのようになるのか見ていこう。
ネットワーク型組織の場合、個人が自律的にチームを作りながら、意思決定者に直接判断を仰ぎ、素早くアイデアをカタチにしていく。具体的な動き方は次の通りとなる。ネットワーク型組織が採用されている企業では、そもそも個人が自由に使える時間が予め設定されている場合がある(業務時間の20%を自由に使って良い、等)。また、社員が自律的にネットワークを組成できるよう、社員全員のスキル・経験がデータベースに蓄積されているだけでなく、全社に公開されている。新しいアイデアが浮かんだとすると、まずは“仲間探し”を行う。社内のデータベースを活用し、知見を持つ人を探し出し、仲間入りしてもらえるよう口説く。共にアイデアをブラッシュアップしたうえで、上申する。この時、中間階層を挟まず、“面白い”と思ってくれそうな最終意思決定者に直接判断を仰ぐことができる。上申が通れば、時間や費用などが投資され、正式なチームとして組成できる。このように、ネットワーク型組織では、現場主導で自律的にチームが組成され、直接的に意思決定を仰ぎに行けるため、スピーディーな対応が可能となる。
ネットワーク型組織を機能させる方法(ネットワーク型組織への変革パターン)
では、ネットワーク型組織はどのように作るのだろうか。ネットワーク型組織の難しいところは、「ネットワーク型組織を“直接的に作れない”」ということにある。階層型組織であれば、組織図を描き、その組織図通りに責任・権限を設定し、組織に人を配置すれば、その組織の良し悪しは別として、階層型組織を作ることができる。一方でネットワーク型組織は、その時々でチームが変わるため、組織図を描くことができない。これが“直接的に作れない”ということである。ゆえに、ネットワーク型組織の場合、“作る”というよりも、“効果的に機能させる”と捉える方が良い。ここからは、実際にネットワーク型組織を採用している企業が、「どのようにしてネットワーク型組織を機能させているのか?」、言い換えれば、「マネジメントの仕組みを通じて、どのように遠心力と求心力を高めているのか?」、について見ていこう。遠心力と求心力の高め方は、大きく2つのパターンに分けられる。
1つ目は、メンバー個々人まで権限を委譲して運用するパターンである。ベンチャー企業や、大企業の特区(他の組織とは異なる制度・権限ルールが適用される特別組織)で用いられ、権限を委譲することで、個々人が自律的に動けるようにする。
2つ目は、チームリーダーまで権限を委譲して運用するパターンである。特定の能力を有している、あるいは会社の価値観を強く体現している、など、「任せるに値する」と会社が認めた特定のリーダーについては、大幅に権限を委譲することで、チーム主体で意思決定を行えるようにする。それぞれの代表例について、具体的に見ていこう(図2)。
図2:遠心力・求心力の高め方
① オープンな情報基盤を活用し、個人主体の動き方を習慣化するパターン
このパターンでは、「徹底的な情報公開」がキモとなる。経営会議の議事録、会社の財務状況、社員個々人のスキル・経験など、個人情報やインサイダー情報以外、ありとあらゆる情報を社員に公開する。判断に必要となる情報格差を無くすということである。また、その情報に対して「受け身にさせないカルチャー」を作ることも重要となる。例えば、情報の見方・活用の仕方の研修を行ったり、情報に対する疑問点を質問する責任を明文化したりするケースがある。社員個々人は、プロジェクト情報やチームメンバーの情報など、得た情報を活用して自由にネットワークを作り(手挙げによってチームに参加することも、自らがリーダーとしてチームメンバーを勧誘することもできる)、一定の枠の中で(例えば、費用がかからない範囲内、等で)自由に行動できる。更なる投資が必要な場合には、前述のように、意思決定者に直接上申することとなる。
② 価値観を浸透させ、自律的なリーダーに権限を与えるパターン
このパターンでは、「価値観浸透」がキモとなる。会社としての価値観を明文化するのはもちろんのこと、リーダー層に対して、自身の志を明らかにするプログラム(自身の半生を振り返り、モチベーションの浮き沈みを内省することで、価値観・志を明確化させるプログラム)を行ったり、価値観の体現度を評価指標に組み込むことで、継続的な価値観体現度を判断したり、昇格判断に価値観の体現度を用いたりする。このようにして、価値観を軸に徹底的にフィルタリングされているからこそ、経営層は安心してリーダーに任せられる(投資判断を含む権限を委譲できる)。
ネットワーク型組織の課題
「メンバー個々人が適時適切に状況を判断し、他者と協力し合いながら課題を解決していく」ことの必要性・重要性については、疑いようのない事実であろう。一方で、既存事業もある中で、そのような取り組みを促進する組織形態である「ネットワーク型組織」へ大胆に方向転換することの、心理的・制度的ハードルの高さもまた、事実であろう。今ある階層型組織を、いきなり大規模なネットワーク型組織に変革することは難しいかもしれないが、少しでもネットワーク型組織の効果を享受するために、既存の階層型組織は残しつつ、“部分的に”ネットワーク型組織の要素を取り入れることにトライしてみてはいかがだろうか。このような仕組みは、“ハイブリッド型組織”と呼ばれることもある。次回は、大企業にとっての現実解となり得る、この“ハイブリッド型組織”について示していく。
(2021.8.12)
※社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
執筆者紹介
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
マネジャー 橋本 洋人
マネジャー 樋口 誠