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Industry Eye 第87回 テクノロジーセクター

国内DX環境に関する変遷および将来展望について

近年のデジタル関連技術トレンドは、急速なサイクルの開発・発展・衰退反復が業界横断的な規模で散在する状況となっており、国内企業を取り巻く事業環境も技術革新を伴って未曽有の変容段階へ移行しているものと多方面にて議論されています。そこで本稿では国内のDX環境の変遷および将来展望について整理します。

I. はじめに

経済産業省が現在までに作成したDXレポート内記載の国内企業のDX取り組み推進における現状分析および課題解決へのアプローチを基に、国内DX環境に関する変遷の要旨を追行する。

II. 「2025年の崖」の問題提起

2018年9月発行『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』要旨

本レポート内にて提唱された「2025年の崖」問題は、デジタル関連技術の進歩に伴う新たなビジネスモデルの創出および探求が喫緊となる一方で、今後加速するDXトレンドと逆行する日本企業の既存ITシステムにおける構造的課題・複合的阻害要因について取りまとめている。

既存システムの本質的な問題点として、自社システム要件定義のブラックボックス化および事業毎の個別最適化を背景とする設計の複雑性に起因する反復的なマネジメント不十分性およびシステムレガシー化を指摘する。

レガシーシステム内には、短期的志向にて開発された後に運用・保守費が中長期的に膨張するケースも多く、技術的負債としてDX戦略実現の基礎を成すIT投資への適切な資源配分が阻害される可能性が示唆される。また現状国内企業の多くが、IT関連予算の約80%を現行ビジネスの維持・運営に投じており、技術的革新を活用した新規ビジネスモデルの創出等のバリューアップ投資には非常に消極的な点も相関関係が推察される。

出典1:
経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』
(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf)DX に向けた研究会 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会説明資料


他方、システムレガシー化の構造的問題としては、ユーザー企業およびベンダー企業間の依存関係が一因と示唆される。国内においては一般的に外部委託先のベンダー企業が各ユーザー企業のシステム開発を実質的に主導するため、ベンダー企業側にITエンジニアの大多数が所属し、ノウハウが蓄積される事となる。結果として、ユーザー企業側はシステム全体の要件定義を主体的に取り組む事が困難となり、現行システムがブラックボックス化し、既存システムの刷新阻害の一因となるものと推察される。

当該環境下におけるベンダー企業側は、多く現存するレガシーシステムの維持管理に注力せざるを得ない状況となっており、一方現状のユーザー企業側は技術的な知見・経験に乏しいため、将来的な人材の育成および先進技術への対応が共通の喫緊課題として浮上する。今後は、ユーザー企業側およびベンダー企業側間の関係性再定義が望まれ、協働関係の中で既存システムの最適化および新規ビジネスモデルの創出に一体として取り組む必要があるものと推察される。

出典2:
経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』
(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf)
DX に向けた研究会 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会説明資料
独立行政法人情報処理推進機構「IT 人材白書 2017」

III. 目指すべきデジタル産業の業界構造

2020年12月発行『DXレポート 2 中間取りまとめ』および2021年8月発行『DXレポート2.1 (DXレポート2追補版)』 要旨

前述レポート内にて提唱された「2025年の崖」問題の警鐘に関して、レガシーシステム刷新のみをDXの対象と捉える企業が急増した事を背景として、改めてコロナ禍によるテレワーク等の環境変化への対応を含めた変革意識加速および変革後のデジタル産業における業界構造形成における課題点を提起している。

DXの推進取り組み状況としては、自己診断提出企業の約95%が依然として未着手または一部門での限定的実施に留まっており、先行企業平均との乖離が著しいものと指摘する。未だ国内企業の多くがDX途上の段階であり、全社的な取り組みとして経営陣・各事業部・IT部門での共通理解形成を図る必要性から、今後CIO/CDXO等の牽引的役割が期待されるものと推察される。

また、コロナ禍の緊急事態宣言を契機として、従来の勤務体制および業務プロセスの再設計が必要となり、国内企業の事業環境に対する適応能力に関しても迅速性の二極化が示唆されており、経営陣による既存企業文化刷新へのリーダーシップと共に、業務プロセスの恒常的な見直しが望ましいものと指摘する。

今後目指すべきデジタル産業の業界構造としては、市場環境および事業環境への迅速的な可変的かつ水平的なネットワーク型の構造を有し、共通プラットフォームの活用による業界横断的な繋がりが求められ、労働力および資本力に左右されない価値創出への参画が特性として定義される。当該デジタル産業の業界構造実現の前提として、企業共通の変革に対する危機感の欠如 (危機感のジレンマ)、技術陳腐化速度および技術習得所要期間の比較衡量 (人材育成のジレンマ)、 ベンダー企業側主導からユーザー企業側内製化への移行支援に伴うペイン (ビジネスのジレンマ) の解消が肝要であり、今後更に経営陣の明確なビジョンおよびリーダーシップの提起・実行力が問われるものと示唆される。

出典3:
経済産業省『DXレポート2.1 (DXレポート2追補版) 』
(https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005-1.pdf)

IV. 効率化投資からバリューアップ投資への転換必要性

2022年7月発行『DXレポート 2.2』要旨

前述レポート内にて示唆されている通り、個社単独でのDX推進は困難であり、既存産業の低位安定構造を解消すべく、産業全体での変革が求められている中、デジタル産業への変革に向けた具体的方向性および行動指針の提示を企図している。

DX推進の重要性認知および取り組み企業数は一定の増加傾向が認められるものの、依然として多くの国内企業がIT予算の約80%を既存ビジネスの維持・運営 (効率化投資) に投じており、資源配分に関する企業行動変容の実現には至っていないものと示唆される。

バリューアップ投資に関する取り組みについては、各企業の消極的な傾向が継続しており、効率化投資からの転換必要性は広く理解されているのに対し、収益向上等の具体的成果の現出は未だ限定的な状況と推察する。

出典4:
経済産業省『DXレポート 2.2』
(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/covid-19_dgc/pdf/002_05_00.pdf)
JUAS 企業IT動向調査報告書2022(2022年)

V. 国内DX環境の将来展望

「2025年の崖」の行方

経済産業省が2018年に『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』を発表して以来、国内企業のDX推進への関心が高まり、自社システム要件定義のブラックボックス化・レガシーシステムによる技術的負債に起因する経済不合理性が広く認知される事となったものと推察される。他方、当該経済不合理性が提言内容として特に印象付けられたのか、多くの国内企業の重点が「本筋のDX推進」から「レガシーシステムの刷新」へ置き換わってしまったものと類推され、結果的として既存産業の低位安定構造や将来的な人材育成・先進技術への対応等の課題が2025年を目前とした今日も残存し、解消目途は依然として不透明である。

当該状況下においても、デジタル関連テクノロジーは加速度的な進化を遂げており、クラウド環境でのシステム運用をはじめとするIT基盤の変化、アジャイル開発を含むローコード・ノーコード開発等の開発アプローチの多様化、システム堅牢性およびセキュリティ強化方策としてのサイバーセキュリティー関連技術、機械学習/ディープラーニング・生成AIや量子コンピューティング等の最先端テクノロジーを駆使したデータ活用技術の飛躍的発展など、国内企業を取り巻く事業環境および競争環境は今後も急速に変容するものと推察される。

VI. おわりに

国内のDX取り組みの現状および残存する既存産業の構造的課題を鑑み、日々変化を続ける厳しい技術的環境下においても迅速性および弾力性を維持しつつ、各企業の新たなビジネスモデルの積極的な創出を促進するべく、CIO/CDXOを含む経営陣の明確な牽引力とベンダー企業が一体となった協働体制のもとで、共通プラットフォームを活用した業界横断的な産業構造への変革に取り組む必要があるものと考えられる。

当社としても、日々の取り組みの累積が産業構造の変革実現へ向けたモメンタム形成の一助となることを強く期待する。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
テクノロジー・メディア・通信セクター
パートナー 横田 智史
ヴァイスプレジデント 増田 王馬

(2024.5.10)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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