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最近の不正・不祥事事例における内部監査上の課題

クライシスマネジメントメールマガジン 第60号

シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第49回

昨年2022年も、依然として一定数の不正・不祥事事案が報告されており、それら事案の原因の1つとして、内部監査に関する指摘が多く見受けられます。本稿では、調査委員会報告書を用いた事案分析を通じて、最近の内部監査上の課題を明らかにした上で、内部監査部門に対する期待や解決策のポイントを解説します。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをお断り申し上げます。

I. 最近の不正・不祥事事例における内部監査上の課題

2022年に公表された調査報告書(第三者、社内等、全69件)を分析してみると、事案を防止・早期発見できなかった要因の1つとして「内部監査」を挙げている事例(計25件)は、以下のように整理される。

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不正の類型として会計不正や品質不正などの不正な報告が25件のうち15件と半数以上を占めている。横領・窃盗・経費流用などの資産の流用、および、汚職・法令違反の件数はそれぞれ5件ずつとなっている。

事例を分析した結果、内部監査上の課題としては、「リスク評価の失敗/手続範囲不十分」が全25件のうち11件と半分近くを占め、これ以外の「リソース不足」「形式化・形骸化」「機能不全」に関する指摘はそれぞれ5件程度となっている。

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「リソース不足」においては、内部監査担当者が実質1名であり、作業量に対して明らかに人員不足だった事例等があった。

最も多くの指摘がなされている「リスク評価の失敗/手続範囲不十分」においては、リスク評価を誤ったことにより、監査対象範囲を見誤ったケースが多くみられた。品質コンプライアンスを監査対象としていなかった、不正の可能性を具体的に考慮した監査を行わなかった、内部監査上の重要拠点を見誤っていた、といった内部監査上の課題が指摘されていた。

「手続範囲不十分」においては、リスクを認識していたものの監査手続範囲が十分でない事例があった。このほか、業務の適法性や効率性を広範に監査する認識ではなかった、会計領域について外部監査に依拠していた、法的リスクや会計リスク等についてより十分な監査手続が実施されていなかった、といった内部監査の課題が指摘されている。

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「形式化・形骸化」は、形だけの監査を実施しており、本質的な対応を実施していないことを示している。例えば、外形チェックのみを行っていた、日付や担当者名を変えるのみで形式的に内部監査報告書や監査調書を作成するに留まっていた、J-SOX(内部統制報告書制度)のためのいわゆる3点セット(業務記述書、フローチャート、リスクコントロールマトリックス)のみを受領して監査を終了していた、といった内部監査の課題が指摘されている。

「機能不全」は、内部監査がそもそも機能をしていないことを示している。例えば、業務担当者と内部監査担当者が同一であった、社長がワンマンであったことに伴い内部監査が機能していなかった、検査・品質保証部門による牽制機能不足、自らの役割の理解の不十分によりそもそも内部監査が機能していないとの内部監査の課題が指摘されている。

II. 内部監査に求められる不正・不祥事への対応

内部監査に求められる役割・機能

これまで説明した内部監査上の課題を踏まえ、内部監査部門に求められる不正・不祥事への対応について解説する。

内部監査は、不正・不祥事の発見に関する責任を一義的に負うものではない。

しかしながら、デロイト トーマツが行った調査(企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2022-2024)によれば、内部監査部門には、内部統制の改善の助言に加えて、不正・不祥事の早期発見に対する期待も高まっており、不正・不祥事発生の可能性を早期に検知し、そのリスクを評価し必要な対応を促すことが求められている。

さらに、内部監査は、不正・不祥事の兆候を発見した場合の調査主体となり、適切な不正調査を実施する必要がある点にも留意が必要である。
 

内部監査上の課題に対する解決策

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不正・不祥事に対する内部監査の課題は個々の会社によって異なるので、状況に合わせた対応を取る必要がある。上記表にある解決策はその一例である。

不正リスクは、不正自体が様々な手口を利用して人為的に行われる点で、他のリスクと大きく異なる特徴を持っている。内部監査部門は、こういったリスクの特徴を理解し、その評価やシナリオ策定・手続設計に反映させた上で、手続きを実施することが期待されている。その期待に応えるため、不正リスクマネジメントや不正監査に対する知見や経験が求められることになる。内部リソースのみで不十分な場合、外部専門家の活用も一法である。

III. おわりに

コロナ禍で一時的に減少したかに見えた不正・不祥事は、足元で再び増加する兆候を示している。内部監査に対する不正・不祥事対応への期待が大きい一方で、多くの企業で本稿で示した課題を抱えているのが実情だろう。いきなりの全面導入はハードルが高いとも予想される。まずは、第三者による有効性評価、不正リスク評価など、手を付けやすいところから始めることを提案したい。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック & クライシスマネジメントサービス
髙山 和也(ヴァイスプレジデント)
小畑 暁広(シニアアナリスト)

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