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最新の会計不正の動向

クライシスマネジメントメールマガジン 第61号

シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第51回

公表された調査委員会報告書をもとに会計不正の最新動向を分析しました。コロナ禍前後の発生件数推移や発覚経路の特徴・変化を把握するとともに、テキスト分析で不正およびその対応の特徴を抽出し、それらを踏まえて、今後備えるべき課題について提言します。

I. 会計不正の最新の動向および推移分析

2018年から2022年までにおける調査報告書等の公表資料から、不正の発生件数を類型別に集計すると以下の推移となる。

<図1:不正の類型別5年間推移>  
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財務諸表不正の件数が各年度とも相当な割合を占めているが、2019年をピークとして以降は減少傾向が継続していることがわかる。また、贈収賄・キックバックや資産の不正流用については隔年一定件数が生じており大きな変動はなく、データ偽装については2018年に一時的に高い水準であったこと、労務・法令違反等については2021年に一時的に高い水準であったことがわかる。ここでは特に財務諸表不正の継続的な減少傾向に着目し、その要因を検討する。

財務諸表不正について発生件数をスキーム別に細分化した推移は以下の通りとなる。

<図2:財務諸表不正のスキーム別5年間推移>
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最も多くを占める架空売上・循環取引は2019年および2020年をピークとした後、2021年以降は公表件数が大きく減少している。また、原価・費用の繰延等および恣意的な評価も2019年をピークとして以降減少傾向であった。即ち、スキームに関わらず財務諸表不正は2019年以降、全体的に減少しており、テレワーク環境下の業務や事業遂行等により内部統制等の実効性が低下し、不正が潜在化している可能性を指摘できる。

内部統制等の実効性を、財務諸表不正の発覚経路に着目して推移を整理すると以下の通りとなる。

<図3:財務諸表不正の発覚経路別5年間推移>
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発覚経路の内訳は大きく変化しており、内部統制および内部監査は2019年をピークとして著しい減少傾向にあり、2022年において内部統制は1件、内部監査は0件にまで落ち込んでいる。一方で内部告発については2019年をピークとして2021年までは減少傾向にあったものの、一転して2022年には6件と急増する結果となった。この動向となった要因について可能性として二点ある。

一点目として、テレワーク実施率について2021年から2022年にかけてやや減少したという統計がある。現場戻りが徐々に進んでいる状況ではあるが、いまだに相当な割合でテレワーク継続中であり、テレワーク環境下の業務や事業遂行等により内部統制および内部監査の実効性が低下、不正が潜在化している状況が継続していることが考えられる。

二点目として、COVID-19影響により2022年は社内での配置転換等が多く行われたという統計もあり、従前は人員が固定化されていた業務に新しい人員が配置された影響により内部告発が増加している可能性がある。また、2022年6月より改正公益通報者保護法が施行され、会社の取り組みにより従業員に内部通報制度がより周知されたことも要因として考えられる。

II. テキストマイニングを用いた分析

さらに詳細な分析を実施することを目的として、2020年から2022年に公表された財務諸表不正に関する調査報告書にテキストマイニングを用いた解析を実施した。具体的には、文書中の名詞および動詞・形容詞の組み合わせの頻出度に着目した単語関係解析を実施し、財務諸表不正の特徴と不正発生会社の特徴に分けて結果を紹介する。

まず、財務諸表不正の特徴を示す単語につき整理すると以下の通りとなる。

<図4:単語関係解析 - 財務諸表不正の特徴>
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前項までの通り、財務諸表不正の件数自体は2020年以降減少傾向にあるものの、その内訳としてのスキーム別割合に変化はなく、3年間に渡り架空売上・循環取引や売上の前倒しに関連した単語の組み合わせが頻出している。また、2020年においては棚卸資産の評価に関連する単語の組み合わせが、2021年においては工事原価の付替に関連する単語の組み合わせが高いスコアとなっていたが、2022年においてはこれらの不正発生の絶対数が減少した影響で高いスコアとはならなかった。

次に、不正発生会社の特徴を示す単語につき整理すると以下の通りとなる。

<図5:単語関係解析 – 不正発生会社の特徴>
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2020年においては「意識 低い」が、2021年には「コンプライアンス 低い」が高スコアとなっており、全社的な意識や取り組みに関して問題があったと思しき不正発生会社が多く見受けられた。一方で2022年についてはそのような単語の組み合わせは散見されなかったものの、「(創業者の)影響力 強い」が高スコアとなっておりオーナー企業における不正事案が多く散見され、会社の成り立ちや構成に特徴を持つ不正発生会社が多く見受けられる結果となった。2020年から2022年にかけて、「牽制 効きにくい」「監視 届きにくい」「監査 行われなかった」という会社における実効的な内部監査に問題があったと思しき単語の組み合わせが継続して散見され、内部監査を経路とする不正の発見件数が減少している前項の分析とも整合する結果となった。

III. おわりに

COVID-19影響によるテレワーク環境下で、これまで機能していた内部統制・内部監査・内部通報の実効性が低下している可能性があらためて浮き彫りになった。不正の一般的な潜伏期間を考慮すると2020年頃に実行された不正はまだ発覚しておらず、ノーマルに戻りつつある現在、一気に表面化する可能性があり、その兆候はすでに出始めている。会計不正は対応が後手に回ると会計監査人の監査意見を取得するのに時間を要し、決算開示の期限延長など会社のレピュテーションにも大きく響くこととなる。早期発見のため、不正リスクプロセスの再点検、不正発見アナリティクスの導入、内部通報制度の実効性向上などの検討を開始することを提案したい。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック & クライシスマネジメントサービス
穂坂 有造(ヴァイスプレジデント)

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