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品質不正の特徴と組織風土への対応

クライシスマネジメントメールマガジン 第73号

今なお日本企業の品質不正が後を絶たない。なぜ日本を代表する企業で繰り返されるのか。本稿では、日本企業で繰り返される品質不正の特徴を紹介するとともに、その背景にある組織風土への対応について紹介します。

I. はじめに

今なお日本企業の品質不正が後を絶たない。なぜ日本を代表する企業で繰り返されるのか。そこには、組織的な関与が認められるケース、経営層からの業績に対するプレッシャー、従業員のコンプライアンス意識の低さなど様々な要因がある。本稿では、日本企業で繰り返される品質不正の特徴を紹介するとともに、その背景にある組織風土への対応について紹介する。

II. 品質不正の特徴

品質不正の特徴としてまず挙げられるのは、長期にわたって実行されていたケースが多い点だ。調査委員会報告書で公表されている品質不正のうち7割近くが10年以上前から継続し、中でも20年以上に及ぶケースが最も多いことがわかる。

理由はいくつか考えられるが、外的要因としてまず、環境問題や健康・安全への社会的関心の高まりに伴って、ここ10~20年で規制が厳格化されてきていることが挙げられる。排ガス規制や食品表示に関する規制などがわかりやすい例である。それらに対応しきれなかったといえばそれまでだが、その一方で、日本企業は過剰品質とも揶揄されることもあるように、そういった規制をむしろバネにしてビジネスを広げてきた歴史がある。例えば、少々古いが、オイルショック時の省エネ規制にいち早く対応し、アメリカを凌駕した日本車がその最たる例だ。こういった事例が多々あることを考えると、外的要因もさることながら、その得意技が機能しなくなった内的要因にこそ目を向けるべきだろう。

なぜ、そうした得意技が機能しなくなったのか。そこには日本企業の同質性を背景とした人間関係重視の組織風土、忖度する組織風土がここに大きく影を落としている。働き方改革や雇用の流動化を受け徐々に保てなくなってきているが、日本企業の終身雇用・年功序列の気風は未だ残っており、安定的な雇用関係の中で濃密な人間関係が構築されている。これは企業内に限らず、元請・下請関係などの取引関係も固定化されがちで、共通する部分である。もっとも、この固定化に伴う同質性は必ずしも悪いことばかりではなく、目標や価値観が共有されやすく、暗黙知的な情報も共有されやすいため、阿吽の呼吸で物事を効率的かつスピーディに進め、品質も高められる可能性を有しており、実際に、それが日本企業の強みの源泉であったことは間違いない。しかしながら現在は、企業の現場でも少子高齢化が急激に進み、保守的な空気がまん延して、同質性が社内政治の横行や同調圧力へと機能することが多くなっている。社内調整ばかりが増え、それが一方で、意思決定の遅さとなり、もう一方で、忖度による品質不正を生み出し、かつての強みが弱みに転化している状況にある。

品質不正の特徴として、BtoB企業で多発していることも挙げられる。業種別でみると、自動車・輸送機業界、鉄鋼・非鉄業界、素材・化学の割合が高くなっている。最終製品における規制の厳格化がサプライチェーンに影響を及ぼしている。日本企業は元請・下請関係が固定化しやすく、自動車業界を例に見れば元請企業に逆らえないといった構図がある。長く固定化された元請・下請関係の中で、その場しのぎだったものが正当化され、いつしか社内常識化し、当初の意図に反して長期化してしまうのが共通した特徴として挙げられる。

最後に、一度品質不正が発覚すると別の類似事案が発覚することが多いことも際立った特徴として挙げられる。顧客・取引先からの指摘への対応や、規制当局その他のステークホルダーへの説明責任を果たすため、類似事案の有無を調査することが多いが、ほとんどのケースでなんらかの追加事案が発覚する。これは、組織風土の問題が真因として控えており、それが企業グループ全体に広く波及していることを示している。

 

III. 組織風土への対応

では、その組織風土を改善するにはどのような対策を取るべきなのか。

まず、どこに問題があるのか把握・分析する必要がある。「風土」という概念は曖昧で、目に見えるものではないため、いくつかの手法を組み合わせて立体的に把握する必要がある。ベースとなるのはアンケートによる従業員意識調査だ、モノをいいやすいか、同調圧力が高くないか、新規性への受容は十分かなどをある程度把握でき、管理職層とスタッフ層での認識ギャップも見えてくるだろう。加えて、意思決定、予算策定、業績評価などの経営上の根幹となるプロセスの実態を文書やインタビューで明らかにし、マネジメントスタイルを推し量る。この従業員意識調査とマネジメントスタイルが組織風土評価上の大きな2軸となる。相互に影響し合っている部分もあり、因果関係を分析するとともに、その組み合わせから、発生しやすい不正のパターンを推定できる。

次に、組織風土の評価を踏まえて、改善のための施策を検討することになるが、品質不正が発生する組織では疑心暗鬼による閉塞感や無力感が支配していることも多く、経営の透明性を高めて職員層の主体性を引き出す必要がある。例えば、以下のような施策が考えられる。

  1. 上意下達の計画・予算策定を見直し、ボトムアップで現場職員の声を反映
  2. 複数評価者による定性評価中心の評価制度
  3. 内部監査の強化等による現場への第三者目線の導入
  4. 社外取締役による経営層への監視強化
  5. 経営層と現場の直接のコミュニケーション機会の増加
  6. リニエンシー制度導入等による内部通報制度の活性化

組織風土醸成の施策は広範囲にわたり、風土改革自体も数カ月のような短期間で達成できるものではなく、数年がかりの中長期的な取り組みとなるであろう。

IV. おわりに

以上、品質不正発生の背景、組織風土への対応を紹介したが、組織風土の改善は極めて経営的な課題である。まずもって経営層の高いコミットメントが必要であり、制度改革を伴うかたちで本気度を示す必要がある。制度改革も単に導入するだけでは不十分であり、評価制度一つをとっても、実際に運用しようとすると、かなりの手数とエネルギーを要することになる。管理職層に相当の負荷がかかることになるため、いかに納得して実行してもらうか、といった課題が派生的に生じてくる。この点、制度改革を実行できるのは経営層以外にないし、高い負荷に正当性を与えられるのも経営層以外にありえない。経営層の覚悟を起点に、その高い熱量で管理職層、職員層を巻き込み、お互いの甘えを断ち切って、全員が当事者意識を持つことができるかどうかが組織風土改善の鍵となり、品質不正問題含む経営課題の根本的な解消につながっていくであろう。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック & クライシスマネジメントサービス
清水 隆之 (ヴァイスプレジデント)

 

(2024.5.2)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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