デジタルで拓くスポーツの新たな価値-SUPER GT「Astemo REAL RACING」×BMX 「GANTRIGGER」スペシャル対談

  • Digital Business Modeling
2022/7/26

デロイト トーマツ コンサルティングがデータアナリティクスの知見を活かし支援するレーシングチーム「Astemo REAL RACING」とプロBMXチーム「GANTRIGGER」。チームの監督を務める金石 勝智氏と代表の阪本章史氏、両チームを支援するデロイト トーマツ コンサルティング パートナーの宮下 剛、マネジャーの高見 航平が、データを活用したチームマネジメントの本質、競技を超えたスポーツの社会的価値まで、幅広いテーマで対談を行いました。

—本日は、SUPER GT GT500クラスに参戦するレーシングチーム「Astemo REAL RACING」の監督を務める金石 勝智さんとプロBMXチーム「GANTRIGGER」代表の阪本章史さんにお越し頂きました。まずは、自己紹介をお願いできますか。

金石:元々はレーサーをしていました。雨の時は前が見えない、夏はコックピットの温度が50度を超えるといった過酷な中のレースも経験しています。そんな時にチームをまとめていた鈴木亜久里さんから「レーサーは引退してからの方が長い。先のこともきちんと考える必要がある」というアドバイスを頂きました。そのことはずっと頭にありましたね。だからこそ、引退後もいろいろな人と出会い、チャンスを頂くことができたのだと思います。今回ご縁があり、チームを立ち上げることができました。いま、デロイトとの取り組みの機会を頂けているのも本当にありがたいですね。

金石 勝智氏 | Mr.Katsutomo Kaneishi

Astemo REAL RACING 監督 / 株式会社リアルレーシング 代表取締役

阪本:私はBMXのプロ選手として、競技生活を送ってきました。BMXには、コースを走りスピードを競う「BMXレーシング」と、様々な技を披露し、難易度や独創性を競う「BMXフリースタイル」があります。私は、スピードを競う「レース」の選手として、ありがたいことに長期間活動することができました。本場アメリカのトッププロの競技を子供の頃に見て、世界のトップ選手になることを目指してきました。

自身の競技生活を通じて感じたのは、若い選手を育成し、活動を支援するチームが必要だということ。プロチームがあり、競技に専念し活動している選手がいれば、子どもたちの目標にもなるでしょう。これは、BMXという競技を広めるためにも必要なことだと思いました。実際、BMXの本場であるアメリカでは、いくつものチームで選手を育成し活動を支援しています。日本でもこうした環境を創りたいと強く感じ、2017年にプロBMXチーム「GANRTIGGER」を立ち上げました。

阪本 章史氏|Mr.Akifumi Skamoto

Gantrigger 監督 / 株式会社GANalliance 代表取締役

データアナリティクスをチームマネジメントに活かす

—デロイト トーマツ コンサルティングでは、SUPER GT「Astemo REAL RACING」やBMX「GANTRIGGER」のチームにどのような支援をしているかお話し頂けますか。

高見:データアナリティクスの知見やアセットを活用し、チーム強化・選手強化といった競技の支援活動を行います。「Astemo REAL RACING」では、車やコース、天候などのデータを活用して、いかにタイムを縮めるためのテクニカルサポートを行います。「GANTRIGGER」は、得られるデータの量が自動車とは異なるため、主に動画を活用・分析をしています。具体的には、選手の姿勢やスタート時の動画などを分析し、スタート効率よく進めるためのサポートをしています。つまり、データを活用してタイムを縮める支援をしているということです。

阪本:BMXは自動車に比べて部品点数も少ないですし、競技時間も30秒ほどしかありません。そのためスタートがとても重要で、スタートで前に出ることができればレース展開を有利に進められますし、出遅れると挽回のチャンスは少なくなります。だからこそ、データを活用して効率よくスタートを切れるようにすることが大きな意味を持つのです。

金石:止まっているところからスタートする競技は、メンタルが大きく影響しますね。SUPER GTは動きながらスタートを切るため、メンタル面ではまだ気が楽ですが、フォーミュラの場合、スターティンググリッドに置いていかれてしまうので不安になったのを思い出しました。

阪本:2012年のロンドンオリンピック決勝では、優勝した選手のスタートがとても良かった。スタート時点で一人抜け出し、そのまま優勝したんです。しかし、後からデータを見てみると、普段と同じスタートを切っていて、他の選手が出遅れていたということがわかりました。結局、大舞台でもいつもの力を発揮できる選手が勝つんです。

もちろん、データの活用も重要です。私の経験から一例をお話しすると、海外選手より小柄なので、他の選手同様のセッティングでは勝つことが難しい。そこで、ギアとペダルをつなぐクランクのセッティングを変えてみたところ、短い方が数値が良かった。理論的にはギアにかかる力が減るのですが、実際はそちらの方が速いということがわかったんです。こうした経験から、データの重要性は肌で感じていました。だからこそ、デロイトの支援はありがたいですね。

高見 航平|Kohei Takami

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー

—お二人ともチームの代表でありながら指導者という顔もお持ちです。選手として活躍されていた頃と現在では環境や状況も異なる中、指導・育成する上で難しいと感じること、工夫されていることはありますか。

阪本:最近は「そもそも伝わらない」ということが大前提だと思っています。最初は自分が感じた感覚などを伝えようとしていたのですが、どうも伝わらない。選手がみんな自分と同じ経験をしているわけでもないし、感覚も選手によって違うんです。そのなかで感覚の話をしても、伝わりませんよね。ただし、ぜひやってみて欲しい動作はある。今は、それをうまく伝えるにはどうしたらいいかということだけ考えています。教える側のアップデートが必要なのかもしれません。

金石:データの活用がヒントになるかもしれません。SUPER GTやフォーミュラではたくさんのデータを活用して、走りがどうだったのかを見ながら答え合わせをしています。レースをすると多くのデータが集まるので、それらのデータと向き合うことで選手自身が改善していける。

ここで特に気をつけているのは、結果が出ないのは「自動車に問題があるから」という言い訳を減らすことです。確かに車のレースでは、車の影響がとても大きい。速い車に乗れれば、タイムは出ますからね。

そこで、2レース毎に車やメンテナンスを変えて詰めていくということをしています。そうすると、結果が出ない原因が車ではないことが明らかになっていきます。言い訳の理由を減らしていくことで、自分を見つめ直すきっかけにしてもらいたいと思っているんです。

また、実際に速くないドライバーが速い車に乗ることはできません。遅い選手を、わざわざ速い車に乗せるチームはありませんからね。そういったことにも気がついてもらう環境を整えることも重要だと考えています。

阪本:BMXでは、日本代表に選ばれると海外のレースにも出場する機会が増え、こうした機会が増えることで、選手たちも成長していきます。

代表に選ばれる選手の中に、「言い訳」する選手はいません。チャンスを掴んで海外に行といったマインドを持っているからこそ、代表に選ばれるのです。モータースポーツとBMXとでは違う部分もあると思いますが、トップになる選手にはそういった資質が必要なのかもしれません。

金石:確かに、上のクラスに上がっていく選手を見ていくと、速くなる方法を常に考えて、工夫していきますね。走りながら気づく選手と比較すると、教えてできるようになる選手は1セッション遅れてしまいます。1周も無駄にせずに走るという選手でないと生き残りが難しいですね。

Lead the way-ロールモデルの不在の世界でどのように道を切り拓くか

宮下:お二人は、同じ業界にロールモデルがいない中、チームのマネジメントから競技の普及活動、社会貢献活動まで様々な取り組みをされています。そのエネルギーはどこから来るのか、どうやって道なき道を切り開いてきたのかを教えてくださいますか。

金石:鈴木亜久里さんからよく言われていたのは、「言葉に出すこと」。それで積極的に「チームを作りたい」と発言していたのですが、おかげさまでチャンスが巡ってきました。

私たちの世代は第2世代と言われています。次の世代に渡していくために、いろいろな人が応援してくれています。僕はレースで生活することができましたから、その恩返しをしたいという思いもあります。そのために、チームを作って後輩たちが進む道を作っていきたい。

私自身、決してすごいレーサーではありませんが、普通のレーサーでもチームオーナーになれると思えば、若い子たちの希望になるのではないでしょうか。そうやってバトンを渡していくことができれば、業界自体も盛り上がっていくんじゃないかな。だとしたら、絶対に失敗できませんね。

阪本:プロチームという観点だと、我々は第1世代ですね。日本ではまだ競技自体の認知度が低く、日本人がBMXで活躍すること自体が難しいと思われていましたから。そのため、道なき道を行くしかないし、開拓し続けるしかない。そういった中で何をモチベーションにしていたかというと、BMX業界に恩返しをしたいという気持ちもありますが、結局は「競技が好き」という想いだけなのかもしれません。

宮下:コンサルタントも、時代とともに求められることがどんどん変わっています。最近は、一企業を支援するだけでなく、大きな社会課題に対し様々なステークホルダーと協働することで、解決していこうという活動もしています。そうした中では、人間性がより重要視されるようになり、新たな価値を生むためのチャンスも増えてきていると感じています。

宮下 剛|Go Miyashita

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー

—デロイト トーマツ コンサルティングがスポーツ関連の支援をしはじめたきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

宮下:会社としては、2015年から元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが会長のFC今治のスポンサーをつとめさせて頂くようになりました。スポンサー開始当時は地域リーグ、その後、JFL昇格を経て、現在はJ3で熱戦を繰り広げています。私自身は、いわゆるCRM組織の責任者を担当しており、お客様の売上や満足度を向上させるといったコンサルティングを行っていましたが、この知見をスポーツにも活かすことができないかと考え、岡田さんにデジタルを駆使して観戦体験向上の取り組みのお話をさせて頂いたところ、非常に高く関心をもっていただいて取り組んだ事がきっかけとなりました。

当時、日本、アメリカ、ドイツでサッカーを観に来る人が何を期待しているのか、また何に不満を持っているのかの観戦体験を調査しました。試合を知ったときから、観戦後帰宅して、翌日報道やSNS等を見るまで、観戦体験を広義に捉えたカスタマーエクスペリエンスの調査をしました。そこでわかったのは、海外ではサッカーの試合だけでなく、試合前後の体験に期待や不満があるということ。一方日本では、試合の勝ち負けに体験の良し悪しが大きく左右される。この結果を見て、日本のスポーツはまだまだやれることがあると感じました。

FC今治では、「そこにいる全ての人が、心震える感動、心躍るワクワク感、心温まる絆を感じられるスタジアム」というコンセプトを掲げ、グルメやイベントなど、試合以外にも楽しめるコンテンツや仕掛けを展開しており、ホーム戦のではコロナ前は2-3千人規模のファンが集い、これは都市部に換算すると20万人規模になります。そのようなFC今治で同様の観戦体験調査を実施したところ、海外同様試合以外の観戦体験に対し期待や満足度が高いということが分かり、またその結果をもとにした様々な対応を検討していることで、サッカーという枠を超え、今治という町を元気にするようなスポーツの新たな価値を生み出していると思っています。

金石:我々も、そういった活動をしていきたいと考えています。おそらく、FC今治のファンの方は「我が街のチーム」だと思ってくれている。だからこそ、試合にも来てくれるし、応援をしてくれるのだと思います。

私はSUPER GTのチームを運営していますが、ファンの方に「我が街のチーム」だと思ってもらいたい。その足がかりとして、スポンサー企業から取り組みを始めています。スポンサー企業の地元にいくと、多くの人が集まってくれるようになりました。しかし、そこから先に広げていくのは本当に大変です。こうしたファンのすそ野を広げる部分でも、デロイトに協力してもらいたいですね。

阪本:実は、デロイトを知ったきっかけがFC今治でした。我々も大会の運営もしているので、FC今治の観戦体験向上の取り組み事例はとても参考にしています。BMXは国内ではまだ認知度が低いのですが、ファンを増やして裾野を広げていきたい。そういったスポーツにしていけるように一緒に活動していきたいですね。

宮下:スポンサーというと「ロゴの露出」のイメージがありますが、「一緒に何ができるのか」が重要だと考えています。そのためお声がけを頂いた時にはそうしたスポンサーアクティベーションについてお話をさせていただいています。

スポーツの社会的価値:“ハッピーのエコシステム”を創る

高見:コンサルタントは、企業の売上や組織力向上を支援する活動がメインです。しかし、その先には商品やサービスを利用しているお客様の幸せや社会のために活動していきたいという思いがあります。スポーツでは、もちろん勝敗が重要ですが、応援してくれている観客一人ひとりに幸せや感動を与えることができればと思っています。

こうしたゴールを実現するために、お客様と一緒に伴走している部分があります。クライアントとデロイトの1対1の関係ではなく、1対nという関係を作り、業界や社会を巻き込む活動をすることで、みんなでハッピーな世界を作り上げていくことができると思っています。そういった活動を皆さんと実現していきたいですね。

阪本:企業や地域とのつながりはどちらも相乗効果があり、こういった活動は「地方創生」にもつながります。

たとえば我々は、あまりBMXが普及していない地域で交通安全などの活動を行ったり、廃校にBMXのコースを作ったりしています。こうした活動を通じて多くの子どもたちがBMXに興味を持つようになり、現在はBMXの大会や村おこしイベントなどで地方創生を進めている事例もあります。

多くの地域の方から、「私たちの地域でも同じような活動をしたい」というお声がけを頂き、BMXが地方創生にも活用できるポテンシャルを秘めているということに、私たちも改めて気づくことができました。

高見:スポーツには、つなげる力・地域を活性化させる力があると思います。デロイトにゆかりがないところでも、フレームワークやソリューションなどを作っていくことで、スポーツの新しい価値を作り上げることができると思います。

宮下:スポーツの現場で共同作業をさせていただくときには、仕事や職位は意味をもたず、ひとりの人間として、その場で適切に動けるかどうかが重要であり、そういう機会を頂いているのだと思います。つまり「人間力」が問われている。人としての魅力や「本気度」が重要になるのかもしれません。そういったものが、人のキャリアや可能性を広げていくのかなと感じています。

阪本:本当にそうですね。私たちはまず、選手の姿勢分析から競技力を上げるという点で、デロイトに支援頂いています。しかし競技力だけでなく、この競技を日本でもっと大きなスポーツにしていきたい。一緒に取り組むことで、スピード感を持ってBMXを広げていくことができるのではないかと期待しています。

金石:デロイトは、これまでさまざまな取り組みをされていて、知見やノウハウの蓄積が多い。僕らが思いつかなかったようなデータの集め方や集客の仕方、人気の上げ方などをご存じだと思います。そういった知見を活用していただけると期待しています。交通安全の啓蒙活動などにもデジタルを活用した取り組みで支援していただいていますし、我々チームが安全に移動できるというところでも助けていただいています。
僕らはマンパワーが足りない部分もありますが、そういった部分を含め総合的な支援を期待しています。

—貴重なお話をありがとうございました。

<関連リンク>
デロイト トーマツ コンサルティング、プロBMXチーム「GANTRIGGER」と2022年のオフィシャルスポンサー契約を締結 - YouTube
デロイト トーマツ、リアルレーシングのテクニカルパートナーに|ニュースリリース|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

PROFESSIONAL

  • 宮下 剛 / Go Miyashita

    カスタマー・マーケティング リーダー 兼 広告・マーケティング・EC・ブランド リーダー
    デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

    DTCのCRM組織責任者。外資系、総合系コンサルティングファームを経て現職。コンタクトセンターなどの顧客接点変革をはじめ営業力強化、顧客サービス向上といったテーマの戦略立案からオペレーション・組織変革、IT導入変革支援まで幅広い領域に従事し約25年の経験を有する。寄稿、講演等多数実施。

  • 高見 航平 / Kohei Takami

    デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー

    総合電機メーカー、大手総合系コンサルティングファームを経て現職。グローバルロールアウトや業務改革のプロジェクトを経験後、北米最高峰のモータースポーツカテゴリであるインディーカーシリーズやバスケットボールなどのスポーツにおける競技力向上を目的としたデータ活用プロジェクトを複数リード。

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