スポーツの新しい価値創造へのチャレンジと常勝チームを率いた元プロ野球監督の想い-

  • Digital Business Modeling
2022/10/21

2016年に野球殿堂入りを果たした福岡ソフトバンクホークス前監督・工藤 公康氏をお迎えし、スポーツの可能性や未来への想いについて、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 スポーツ ビジネス グループ リーダー 兼 Deloitte Digital Japan Lead の宮下 剛が「Deloitte Digital Week 2022」で鼎談を行いました。モデレーターは、フリーアナウンサーの望月 理恵氏に担当頂きました。

「常勝チーム」を作る

——今日は「スポーツの新しい価値創造へのチャレンジと常勝チームを率いた元プロ野球監督の想い」と題し、工藤 公康さんをゲストにお迎えしてお話を伺います。工藤さんは、プロ野球選手として29年間マウンドに立ち続けた後、福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。退任までの間に日本シリーズを何度も制覇されています。監督在任中に大学院を修了し、いまは博士課程に在籍されています。お忙しい中、学ばれていることにとても驚いています。

工藤:監督をしているときは、やりたいことをやる時間を作ることが難しいですから、退任してから本来やりたかったことをやっています。学びたいということはもちろんありますが、僕を育ててくれた野球に対して、しっかり恩返ししたいという部分が大きいですね。博士課程では、子どもたちが障害や怪我などでスポーツを諦めることがないよう、考えたり研究したりしています。

工藤 公康氏 | Mr. Kimiyasu Kudo

福岡ソフトバンクホークス前監督

——監督時代にはチームを5回も日本一に導いていますが、ご自身の経歴を振り返ってみていかがですか。

工藤:チームメイトに恵まれたということもありますが、球団としても強いチームを作りたいという思いがありました。だからこそ球団のバックアップもあり、選手もそれに応えて結果を残してくれました。組織として全員が同じ方向を向いていたことが、結果に現れたのだと思います。

宮下:私もプロ野球ファンとして応援してきましたが、「常勝チーム」のエースとして活躍されまた常勝チームづくりを牽引し、そして、監督としてもご活躍されるなど、本日は様々な視点でお話を伺えることを楽しみにしています。

——常に勝つという「常勝チーム」というフレーズはすごいですよね。プレッシャーも大変なものかと思います。

工藤:中にいると、想像されるほどプレッシャーは感じていなかったかもしれません。それより、勝つためにどれだけ準備ができるのかということの方が重要だと思います。しっかり準備し、試合ごとにしっかりとシミュレーションを行い、反省するところは反省し、次に向かうところは次に向かっていくということしかありません。

とはいえ、ネガティブではいけないので、常にポジティブになるようにチームを持っていく。そうすることで選手も前向きになり、強いチームができていくのだと思うんです。

宮下:まさに、ビジネスパーソンにも通じるお話だと思います。工藤さんは著書の中でも「配慮はするが、遠慮はしない」というキーワードを語られています。組織のマネジメントする上で、配慮や遠慮という部分で悩む方はかなり多いと思います。

宮下 剛 | Go Miyashita

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員

スポーツ ビジネス グループ リーダー / Deloitte Digital Japan Lead

Lead the Sports -新たな価値を共に創る

——本日はビジネスパーソンにも色々なアドバイスも頂けそうなので楽しみです。ここからはデロイト/デロイト トーマツ グループのスポーツにおける取り組みをご紹介しながらお話を伺っていきたいと思います。

宮下:デロイトはグローバルでもスポーツに関する取り組みを行っています。たとえばIOCとのパートナーシップを締結し、2032年までの10年間に行われるオリンピック・パラリンピックに関する運営支援や体験の向上、安全性のサポートなどを担当しています。

国内でもスポーツビジネスという枠組みの中で、コンサルティングやアナリティクス、デジタルといった各種サービスをデロイト トーマツ グループで連携しながら提供しています。

パートナーやアライアンスという観点では、サッカー元日本代表監督である岡田 武史さんにグループのWell-being推進フェローという役割を担っていただいていますし、岡田さんが会長を務めているJ3 クラブのFC今治のスポンサーもしています。

また、レーシングドライバーの佐藤 琢磨選手への競技支援も行っています。こうした活動は、当社の広告的な露出を増やすという意味よりも、一緒に価値を創出していくことがメインです。同様の取り組みはBMXなどでも行っています。

さらに職員には、フェンシング日本代表でオリンピアンの徳南堅太が所属していますし、セカンドキャリアという観点では、元プロ野球選手の久古健太郎がデロイト デジタルのコンサルタントとしてキャリアチェンジにチャレンジしています。

工藤:プロ野球選手のセカンドキャリアは課題のひとつでもあるため野球界にとってもとてもありがたい取り組みですね。

「チャレンジする」という言葉がありましたが、これはプロ野球選手が得意とするものだと思います。久古さんは、野球とは違う分野でしっかりと自分を作っていこうと考えたのだと思いますが、非常にいい選択・決断だと思います。
プロ野球一軍選手の平均選手寿命は9年と言われています。そのためセカンドキャリアを探している選手は多いと思いますし、将来に不安を感じている人も多い。こうした中で、野球界に留まらず活動している姿をみると、僕自身も教えられることがありますね。

——キャリアチェンジの過程で久古さんも受講された教育プログラムについて詳しく教えていただけますか。

宮下:デロイトがセールスフォース社と共同で行っている「Pathfinder(パスファインダー)」という教育プログラムがあります。これは「道を見つける」というような意味合いとなりますが、元々はアメリカで社会問題となっている退役軍人のキャリア形成とデジタル人材不足の両方を解消するための取り組みでした。

日本でもデジタルスキルやビジネススキルを2社が共同で提供し、受講生の次のキャリアを探すお手伝いをしています。久古もこのプログラムを受講し、デジタルスキルを身につけています。

工藤:プロ野球でも、パソコンを使ってデータを見たり言及する人がいますが、自分自身でデータを組み替えたり操作して……というところまではできていないのが実状ですよね。

自分の力、自分の決断で新たな世界に踏み込めるというのは本当に素晴らしいことだと思います。久古さんの活躍は、次の選手たちの希望にも繋がると感じています。

宮下:先ほどご紹介したとおり、久古はまず自身がデジタルを学ぶことからスタートしましたが、今はデジタルを使って教える側に進んでいます。例えば野球とデジタルという観点で言えば、VRを活用して島根県の隠岐諸島で高校球児向けの野球教室を行っています。こちらについては、詳しい記事も公開されています。

こういった取り組みの中で、我々も学んだことがたくさんあります。例えば久古は、おそらく入社が決まるまでパソコンにあまり触れてこなかったと思うのですが、入社するまでにしっかりと準備している姿から、プロフェッショナルとしての心構えを感じました。

工藤:これまでは終身雇用という考え方もありましたが、僕は目標に向かって踏み出すということも大事だと思いますし、学びたい、知りたいといった行動で人の心も動くと思います。久古さんをはじめ、キャリアチェンジして新しい自分になったみなさんにはいろいろとお話を伺いたいですね。

宮下:異業種であっても、仕事の共通項を見いだし、価値を出すことはできると思います。そういった機会はこれからどんどん増えていく気がしています。

——可能性や限界は自分自身で決める必要はないということですね。

工藤:そうですね。限界というのは、もともと存在しないと考えています。ないのにあると思っているから、自分自身の可能性をそこで止めてしまう。人間は無限の可能性があるので、自分自身を信じてあげなければならないと思います。そういった意味でも一歩踏み出す勇気はとても大事です。

——デロイト トーマツ×スポーツの取り組みとして、FC今治との環境教育の取り組みについてもご紹介いただければと思います。

宮下:FC今治はサッカーチームの運営だけでなく、環境教育にも取り組まれています。たとえば、しまなみアースランドという公園の指定管理も行っていますが、ここには「地球の道」という460mのコースがあります。

そこでは地球が誕生してから現在までの46億年の歴史を歩きながら学べるようになっています。実際に歩くと分かるのですが、人類が誕生してからの時間はほんの僅かなんです。その短い時間の中で、人類は地球を壊してしまうかもしれない。そういうことをより多くの方に知っていただきたいと考え、デロイト トーマツ グループとFC今治で環境教育冊子「わたし、地球」を作りました。

この内容をもっと多くの方に知って頂きたい、そして楽しみながら学んでほしいと考えていたときに、ハローキティが国連のSDGsの普及促進活動をしていることを知りました。そこで、ハローキティ主演で「わたし、地球」の物語をショートムービー化し、現在は英語版も用意して海外にも発信しています。

工藤:何かをしようとすると最終的には世界に目が向きますよね。動画であれば、多くの人にも伝わりやすいと思います。実は、僕も自分の技術やビジョンを冊子や動画にして、世界に発信したいと考えたことがあるんです。今のお話を聞いて「あのときやっておけば良かった」と思っています。

宮下:ありがとうございます。我々もビジネスではいろいろな企業と協業してきましたが、これまではビジネスの内容が近いケースがほとんどでした。しかしこの取り組みでは、サッカークラブとコンサルティング会社とサンリオという、日頃のビジネスではなかなかご一緒する機会がないような会社との協業でした。そんな3社が、次世代に向けた環境教育という共通の「パーパス」で結びつくことができたんです。パーパスが色々な企業とご一緒するきっかけになるのだということを我々自身も感じ取る機会になりました。

——さらに、SROIという取り組みも行われていると聞いていますが、そちらについても教えていただけますか。

宮下:ビジネスの世界では「ROI」(Return On Investment)が使われています。これは、ある投資に対してビジネスリターンがどれくらいあるのかを図る指標となります。それに「ソーシャル」をつけたのが「SROI」です。社会的投資収益率と訳されますが、企業活動の社会的な価値を定量化していこうとしています。

昨今、売上や利益だけでなく、非財務価値の可視化が求められはじめています。「わたし、地球」の冊子や動画はまさに非財務価値だと思いますが、それにどれくらいの価値があるのかということはよくわからなかった。そういった見えないものを可視化していこうという取り組みになります。

この取り組みについてもグループでFC今治と協力させていただいていますが、環境教育やサッカー教育などの活動や、それによってもたらされた効果を数値に換算することで、どれだけの価値があったのかを可視化することができます。

工藤:可視化することで、ステークホルダーの方に納得してもらいやすくなると思います。口で説明して納得してもらうことはできるのですが、定量化することでよりわかりやすくなりますし、1つ1つの取り組みについての説明もしやすくなるでしょう。

また、パートナーになりたいと思っている企業が投資しやすくなることも期待できると思います。スポンサーの判断材料にもなりますし、より応援しようということも感じることができる取り組みになると思います。今、SROIの取り組みを聞いて、頭の中で妄想が膨らんでいますね。

私自身、山梨県で少年野球教室などの取り組みを行っています。きっかけは東日本大震災で「人の役に立ちたい」「困っている人の役に立ちたい」という想いに突き動かされたこと。野球を通じて自分たちにできることがないのかを一生懸命に考えた答えでもあるんです。

野球教室だけではなく、農業などにも取り組んでいて、いろいろなコラボレーションをしています。その中で、子どもたちの生きる力を育んでいきたいと思っています。
これらの取り組みでは、子どもたちがしっかり自分の頭で考えて行動することができるようになることがとても重要だと思っています。宮下さんのお話を伺うと、色々な広がりや可能性を感じることができますね。

——スポーツの観戦体験調査も行っていると伺いましたが、そのことについても教えていただけますか。

宮下:我々コンサルティングの知見をスポーツでも生かすことができないかと思い、ファンの方の体験を調査しました。これまでは、スタジアムで試合が終了した後の満足度を調査することはありましたが、ファンの方の体験を考えると、試合の前後の体験も知る必要があると考えました。

例えば、試合を見るまでにもチケットの購入やスタジアムまでの移動、スタジアムでの飲食などがあるでしょう。試合終了後も、SNSでコミュニケーションするという人も少なくありません。つまりファン体験を、試合中だけではなく、もっと長く続くものと仮定したんです。その調査データを、日本・アメリカ・ドイツで比較をしてみました。

そこで分かったのは日本の場合は、試合の勝敗に集中していますが、海外では、それ以外にも幅広く興味を持っているということ。いろいろな場面でファンの期待があるんです。この結果から、日本のスポーツにはまだまだ可能性があるということが示唆されています。

同じような調査をFC今治で行ったところ、海外と同様にいろいろなところに幅広くファンが興味を持っていることが分かりました。私もFC今治のホームゲームに足を運んでいますが、試合前からファンがスタジアムに足を運び、食事や会話を楽しんでいました。サッカーの試合を1つのイベントとして捉えていて、ファン以外の方もエンターテインメントとして楽しむことができるんです。

工藤:この分析を見ると、明らかに色々な楽しみがあるということが分かります。サッカーにしても野球にしても、球団は「エンターテインメント」を考えています。いろいろな催し物をやったりしていますが、まだまだ足りていない。こうやって分析したデータがあると、どこが足りないのか、何をすればいいのか見えますよね。また、実際の取り組みの結果についてもデータに現れるはずなので、考えたことがきちんとファンの方に届いたという満足や自信にもつながります。僕はそういったことが大事だと思っています。

宮下:実は、データはもっと細かくとっていて、スタジアムで座る場所による違いなども分析できています。サッカーチームを応援しているファンの方と、スタジアムの雰囲気を楽しみに来られている方との違いなども分析しています。そこから今後にどうつなげていくのかといった活動についても、FC今治と一緒に取り組んでいます。

——最後にスポーツビジネスの取り組みの展望について教えていただけますか。

宮下:ここまで説明してきた取り組みは、我々だけではできません。みなさんと一緒に活動させていただくことで生まれてくると思っています。スポーツの新たな価値を「共に作る」ということで、競技そのものを元気にするような支援をしていきたいですね。また、競技を超え、さまざまなものを掛け算することで、FC今治の事例にもあったような地方創生などの新たな価値を作っていくことができないかと思っています。そういったことを掲げながらスポーツと関わって行けたらと思っています。

——工藤さんのご感想や今後の取り組みについても教えて頂けますか。

工藤:(今のお話で)「共に」という部分は、僕がすごく好きな言葉です。やはり一人では何もできないですし、一緒にやってくれる、共有してくれる、スポーツをよくするためにデジタルで応援するというスタイルは本当に素晴らしいと思います。

「デジタル」は、僕らが知らない自分に会えるきっかけにもなりますし、選手にも見える形になったら活用も変わってくると思います。また地方での取り組みについても、ぜひ活用させてもらいたいと思いました。

僕は子どもたちには、自分で考えて行動する力、生きる力を育んでほしい。野球とともに、例えば防災や地球環境などとコラボレーションすることで、こうした力を身につけていってほしいですね。これからもどんどん活動を広げていきたいし、色々な方にこの活動の輪に入っていただきたいと思います。

——こうした掛け合わせを考えていくと可能性は無限に広がります。想像するだけでも楽しくなりますね。ありがとうございました。今後の活動にも大きく期待しています。

<関連リンク>
スポーツで新たな価値を創る - Sports Business Group|スポーツビジネス|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

PROFESSIONAL

  • 宮下 剛 / Go Miyashita

    カスタマー・マーケティング リーダー 兼 広告・マーケティング・EC・ブランド リーダー
    デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

    DTCのCRM組織責任者。外資系、総合系コンサルティングファームを経て現職。コンタクトセンターなどの顧客接点変革をはじめ営業力強化、顧客サービス向上といったテーマの戦略立案からオペレーション・組織変革、IT導入変革支援まで幅広い領域に従事し約25年の経験を有する。寄稿、講演等多数実施。

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