デロイト トーマツ事例紹介:
運用と人材のグローバル化でPMIを実現した住友生命のチャレンジ
低金利環境を戦略と人材のグローバル化で
乗り切る住友生命のチャレンジ
「One Teamプロジェクト」

日本国内の低金利環境が続く中、グループ海外投資顧問会社に約3兆円の事業債運用を委託

人生100年時代といわれる超高齢社会が到来し、生命保険のニーズは多様化している。日本人は保険加入率が高く、生命保険文化センターの令和元年度「生活保障に関する調査」によると、生命保険に加入している人は、男性では81.1%、女性では82.9%だ。加入者の多くは死亡保障、医療や介護の保障などに加え、老後の生活への備えとしても保険を重要視している。

「日本国内の低金利環境が続いている中で、住友生命は一定の信用リスクをとることにより収益向上が見込める資産として海外事業債への投資を高めてきました。海外事業債は今後もさらに残高を拡大させる予定であり、その安定収益確保とパフォーマンス向上は、資産運用における重要な課題でした。その向上策の1つが今回のプロジェクトです」

住友生命の藤村俊雄執行役員兼運用企画部長

住友生命保険相互会社(以下、住友生命)の藤村俊雄執行役員兼運用企画部長は話す。今回のプロジェクトとは何か? 同社は22年7月に住友生命グループの海外投資顧問会社であるSymetra Investment Management Company(Director & Chairman of the Board:Mark E. Hunt、以下「SIM」)」への海外事業債の運用委託(以下「本委託」)を開始したのだ。本委託は22年4月に設立した住友生命グループの国内投資顧問会社であるスミセイ・アセット・マネジメント株式会社(代表取締役社長 宮原 広文、以下「SAM」)を通じて行われる。

デロイト トーマツ グループのパートナーである栗村一也は、住友生命のアカウントリーダーを務める

取材に同席した住友生命アカウントリーダーのデロイト トーマツ グループのパートナーである栗村一也は「投資のノウハウや投資先のユニバースの共同利用、そして規模。低金利が続く中で一定の信用リスクをとりながら収益が見込める海外事業債を計画実行していくうえで、SIMへの委託を決めたわけですね」とうなずく。

藤村氏は、それに応える形で次のように補足する。

「SIMは、住友生命グループの米国生命保険会社であるシメトラ社の資産運用を担っており、同社CEO兼CIOであるMark Huntのもと、投資経験豊富なメンバーから構成され、運用実績は良好であり、特に市場悪化局面におけるダウンサイド抑制に強みがあります。今回、コロナショックにも機敏かつ適切に対応できることが分かりました」

藤村氏によれば、SIMおよび住友生命の人財や知見等のリソースを有効活用し、グループ全体のシナジー効果を発揮することにより、住友生命の資産運用収益力向上を実現するため、本委託を決定したという。SIMに委託する資産規模は、現時点で3兆円程度となる。

大手邦銀、外資系金融機関で長年資産運用管理業務に従事した経験を持つデロイト トーマツ グループの跡部顕マネージングディレクター

同じくデロイト トーマツ グループの、大手邦銀、外資系金融機関で長年資産運用管理業務に従事した経験を持つ跡部顕マネージングディレクターが「日米両方にそれぞれ運用会社を作るのは、非常に労力がかかることです。そこまで行うほど経営上のメリットがあったということかと思います。しかし、歴史もあり、会社としての自負もあるシメトラ社で、このようなプロジェクトの賛同を得ることはご苦労もあったのでは?」と尋ねると、藤村氏は「人口動態なども踏まえると、国内の生命保険市場は競争環境が厳しくなっていくことが見込まれる。当社に限らず、海外の生命保険会社を投資・子会社化することで収益の向上を図ることが求められています。シメトラ社側も、シナジー効果を発揮し収益に繋げていくという目的を共有し、グループになった背景もあり、しっかりとコミュニケーションをすることで実現できたといえます。ともに歩むことで、収益だけでなく、シメトラ社のノウハウを住友生命に取り込み、シナジーを生み出すこともメリットと考えています」と応じた。

M&A後の統合効果を最大化する経営統合プロセス(PMI=Post Merger Integration)の難易度は多くの人が知るところだが、住友生命はそのハードルを乗り越えた。その内幕を紐解いていこう。

構想を実現させるために、業界の異なる投資顧問会社を設立する

本プロジェクトを実現させるためには、金商法上の規制があるため、日本に拠点のある投資顧問会社を経由して、SIMへ再委託する形で投資一任契約を締結する必要があった。そのため新しく投資顧問会社としてSAMを設立。実はSAMに先駆けてシメトラ社がSIMを先に設立した経緯がある。かなり前から、この計画がグローバルで練られていたことがうかがえる。そして、2021年度より1年以上かけて、日米3社間(住友生命、SAM、SIM)のシステム連携の開発、リスク管理・モニタリング体制の構築等を行い、委託スキームを整えたのだ。

SAMの宮原広文代表取締役はその役割について次のように話す。

スミセイ・アセット・マネジメント株式会社(SAM)代表取締役社長の宮原広文氏

「金融商品取引法に対応するため、SIMへは為替ヘッジも含めて全部委託にせず、一部業務を切り分けてSAMで行うことにしたわけですから、会社設立初日にスタッフには2つのことを伝えました。一つ目は“このプロジェクトは、住友生命とシメトラ社が一体的に事業債に投資をし収益を上げることが目的。SAMはそのパーツでしかないが、プロジェクトに絶対に求められている機能でもある”こと。そして、もう一つは“円が関わる以上、私たち日本人が為替ヘッジを請け負わなければならない”ということです。つまり、彼らに任せきりでもだめで、双方の力が必要になるということです」

これだけの規模のプロジェクトを決められた期間で達成することは容易ではない。プロジェクト・マネジメントはどのように推進されたのだろうか。今回のプロジェクトリーダーである住友生命の中野弘康運用調査室長が教えてくれた。

今回のプロジェクト推進した住友生命の中野弘康運用調査室長

「日本の投資顧問会社を設立するにあたっては、私たちは生命保険業界であり業界も異なるため、ノウハウが少なかった。私たちの未来に必要なものではあるが、実現には乗り越えなければならない壁がいくつも立ちはだかります。自分たちですべきこと、出来ることはやらなくてはいけないが、同時にプロジェクト達成のためには必要に応じて外部の知見も取り入れていくべきだと考えています。そこで、3社間の連携や子会社設立にあたり、デロイト トーマツに相談をしました」

SAMが機能しなければ、全体のプロジェクトが機能しなくなる。そのためには、SAMが予定通りに設立され、動き出さなければならなかった。

宮原氏は「短い期間、少ない人員で確実に成功するためには、アジャイルで取り組みをやっていくしかないと考え、スタッフには完全なものを作る必要はないと話し、機能としての早期実装を目指しました。当然、社内ルールの策定などには手が回らなくなる。そこは、デロイト トーマツに必要な手続きや、リスク面の管理を一つひとつ見てもらっていった。自社のスタッフだけでは、ここまでのスピード感は出せなかったでしょう」と話す。

住友生命とデロイト トーマツの関わりはこれが初めてではない。住友生命が2020年実施したITアーキテクチャ、ITガバナンスのプロジェクトで、運用部門の業務・ITや統制体制の現状、課題把握だけではなく、運用のグローバル化や、グループ会社との連携を見据えたデロイトからの業務・IT・統制に関する将来像の提言が行われたという。

この提言が今回のSIMへの運用委託スキームの設計・導入に向けてのある面、出発点につながったそうだ。

住友生命がデロイト トーマツに期待を寄せるのは内外のアセットマネージャ(投信・投資顧問会社等)だけでなく、保険会社の運用部門に関する知見や、そこで利用されている主要なシステムへの理解も深く、客観的、専門的なアドバイス。そこで今回のプロジェクトで開始から完成まで伴走してくれるパートナーとしてデロイト トーマツを指名した。

自社でしか行えないコアな部分を選択し、リソースをそこに集中。他の部分や全体のプロジェクトの支援を外部に支援してもらう。今回のプロジェクト成功要因の1つは外部プロフェッショナル人材の「使いこなし力」にもありそうだ。

伴走支援の中心となったデロイト トーマツ グループの成出由香

投資顧問会社の設立に関するデロイト トーマツの支援は、主に同グループの成出由香と村越憲一が中心となり推進されていった。成出は「ガバナンスの視点から投資顧問会社の機能の網羅性チェックや役割分担・責任の可視化、為替や会計業務プロセスの構築・フローの可視化や人事機能構築に向けた支援などデロイト トーマツ グループならではの幅広い支援をさせていただきました」と話す。

取材はデロイト トーマツのオフィスで行われた

本スキームを通じて、「資産」と「人材」のグローバル化を推進

「今回のプロジェクトは運用収益を上げていくことはもちろんですが、人材育成も狙いとしてはありました。これまでは海外事業債も日本国内のメンバーが運用していたわけですが、現地でなければ得られない企業の生の情報というものがあります。例えばB to Cの企業であれば、その会社の商品を店で手に取って他社の商品と比較したり、TVのCMや広告を目にしたり、実際に購入して使ってみたりすることで肌感から競争力やブランド力をより理解できるかもしれない。企業を分析するうえで、現地で得られる情報はやはり貴重だと思います。」

こう話すのは、今回のプロジェクトで人事・事業債を担当した住友生命の児玉志朗ALM証券運用部長だ。

住友生命の児玉志朗ALM証券運用部長

「そこで住友生命で海外事業債運用に携わってきた職員をSIMに派遣することにしました。現地では両社の統合チーム(One Team)を作り、グループ全体の運用パフォーマンス向上・効率性向上を図っています。ノウハウだけでなく、SIMのスタッフが持つプロ意識も含めたマインドに触れることで、刺激になることも期待しています。国際感覚も含めて、あらゆる面で成長につながるでしょう」

現在、住友生命から7人の職員がSIMへ出向しているという。彼らは新しいステージに最初に立つファーストペンギン----第一世代ともいえるメンバーだが、今後は第二世代、第三世代を育成していくことが求められる。そのためには、第一世代をモデルケースとし、彼らがまた日本に戻り、知見を住友生命にシェアしていく「好循環」を生み出していかなければならない。目指す仕組みは、人が関わるだけあり、一足飛びには実現できない。長い目で見ていく必要がある。

「SIMは長年運用の実績もあって、経験豊富なメンバーが揃っている。今後の海外社債運用を拡大していくには、同社の知見や経験は非常に魅力的でした。東京中心では、いずれ限界がきてしまう。このタイミングで、当社の未来を担う優秀な職員も送り出せたことは良かった。彼らのこれからの成長を見守りながら、次の世代の育成を進めなくてはならない。プロジェクトは、まだ始まったばかりです」

グローバルカンパニーとして企業間をデータで繋ぎ、シナジーを生み出す

日本における投資顧問会社(SAM)ができあがり、職員のSIMへの出向も決まった。運用も始まっているなかで、改善を続けているのがシステム連携だ。

「日米3社間のシステム連携の開発では、SIMのデータを日本に持ち込むことが、やはり一番ハードルが高かったですね」

住友生命の関谷充孝運用企画部次長

システム・業務を推進した住友生命の関谷充孝運用企画部次長は話す。幸いにして住友生命もSIMもブルームバーグ社の統合型ソリューションのアセット & インベストメントマネジャー(AIM)を利用していた。ベースとなるツールは同じ。しかし、取り扱うデータが異なる。

「一般的に扱うデータは企業ごとに違いがあります。さらに国も異なれば、なおさら。同じAIMを使っていても扱う情報が異なれば、同じ形にしていく必要がある。特に住友生命側で必要なデータで、SIMが持っていないデータがあれば、そのデータをSIMに入れてもらう必要があります。この部分を理解してもらうのには、時間がかかりました」

関谷氏とともにシステム連携の開発を支援したデロイト トーマツの村越は例えばと続ける。

成出とともに中心となったデロイト トーマツ グループの村越憲一

「米国に不要で、日本の制度では必要なデータがあります。一例を挙げるとすると、対象となる保険商品の販売月。こちらは日本の要件として必須事項ですが、向こうでは必要ではない。日本のレギュレーションやコントロールの要件がある部分を、なぜ必要なのか客観的にかつ丁寧に説明していく必要があるわけです」

SIM側にしてみたら、理由も分からず作業量が増えるのは納得できない。グローバルカンパニーとして、必要なデータをお互いが提供しあう必要性を、説明していかなくてはならない。コロナ禍と重なり、オンラインでのやりとりがほとんどだったが、週2回程度、ミーティングを繰り返し、要件をつぶしていったのだという。

「One Team」でスピーディーなPMIを実現し、競争力を高めていく

3社間を繋ぐ「仕組み」と「人」、そして「システム」が一体となって進んできた本プロジェクトは7月に始まったばかりだ。住友生命側のOne Teamメンバーはこれまで話しを聞いてきたが、デロイト トーマツ側のチーム組成もまたOne Teamの一員として設計されており、この役割はデロイト トーマツ グループの小林政浩ディレクターが担った。

デロイト トーマツ グループの住友生命チームの組成に携わった小林政浩ディレクター

「クライアントから支援のご要望をいただいてから、支援体制を構築するにあたり、生命保険会社の資産運用の役割の理解、および新会社設立に伴う規制・リスク、業務、IT、人財、海外とのやり取りなど多岐にわたる知見を有するデロイト トーマツ グループ全体を通したチーム組成を行いました。今回のプロジェクトはいろいろな経験のある専門家が各フェーズで必要。デロイト トーマツのフィナンシャルアドバイザリー、リスクアドバイザリー、コンサルティング各社から、クライアントのリクエストに合致するライトパーソンをチームに組み込んだことが特徴です」

今後、プロジェクトはどうなっていくのか? プロジェクトのリーダーを務めた中野氏は、「今回のプロジェクトは始まりに過ぎません。グループ間でそれぞれの力を活用しあい、資産運用を拡大していく。今の経験が一つひとつアドバンテージにつながっていく」と話す。

宮原氏も「資産運用に限らず、これからM&AにおけるPMIの重要性は増すばかりです。いかに素早くガバナンスも含め統合し効率的な体制が作れるかどうかが会社の競争力につながると考えています。これから、第二、第三のシメトラ社と私たちが組むことは当然ありえる。M&Aを活かして金融企業としていかに残っていくか? 生き残るためには、住友グループがOne Teamとなり競争力を高めていく必要があるのです」と話し、今回のプロジェクトは未来につながる一歩でしかないと捉える。

デロイト トーマツの村越は「PMIやシステムにおけるプロジェクト運営の短期化につながるアドバイスなどでご支援させていただいた中で、現在の取り組みが終わりではなく始まりだという感覚はありました」と話し、成出も「必ずしも余裕がない期間、リモート、多様な参加者といった乗り越えるべきハードルが多いプロジェクトだと感じていたが、私たちもOne Teamの中に組み入れていただき、期間通り終えられたのは良かった。プロジェクトは終わりではない。今後もデロイト トーマツのグループ力を活かしたM&A等も含む幅広い支援ができたら」と話す。

最後に藤村氏は自身の若き日を振り返りながら、今回のプロジェクトの来年度以降の意気込みについて次のように語った。

「私も30年くらい前になりますが、イギリスの投資顧問会社で9ヵ月ほど学ばせてもらった。企業に投資をしていくうえで、その企業を知る必要があることは言うまでもありません。知るためにはデスクで得られる情報だけでなく、現地の経験や人とのつながりも必要だろうし、執行面でも現地にいたほうが当然いい。収益向上だけでなく、持続的な成長のためには職員のレベルアップも欠かせない。そのために、現地にこだわりたかった。今はまさにならし運転のタイミングだが、既に成果も見え始めている。種は芽を出しつつあるので、来年度、より本格的にこのプロジェクトを推進していきたい」

One Teamプロジェクトは本年7月の業務スタートでもって名実ともにOne Team体制が実現し、その成果が問われていくことになる。

デロイト トーマツ グループの村越は、今回のプロジェクトについて次のように振り返る。

「One Teamのスピリットをもってある時は大胆に、ある時は一歩一歩乗り越えていくに違いないと考えます。文化や体制こそ違え、資産運用の高度化、効率化という共通の目標に向けて協業体制を強固に進めるこのイニシアチブの長期的な成功を共に目指していきたい」

デロイト トーマツ グループは、生命保険業界に関する知見に加え、資産運用領域をはじめとする幅広い領域において、デジタルトランスフォーメーションやSDGsの推進、デジタルガバナンス等のリスクアドバイザリー、M&A等のフィナンシャルアドバイザリーなど豊富な知見を有しており、グローバルネットワークも活用したまさしくOne Teamでの支援が強みの一つである。これからも、資産運用領域に限らず幅広く業界地域の垣根を超えたご支援をワンストップで提供していく。

*本文中の社名・役職・内容等は、取材時点のものとなります。