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マネー・ローンダリング防止の取組み

統合型リゾート(IR:Integrated Resort)

本稿では、統合型リゾート(IR:Integrated Resort)の設置に際し、社会的関心事として懸念されているマネー・ローンダリングを防止するための規定の概要ならびにIR整備法について解説します。

日本のIR法規制においても、マネー・ローンダリング対策に関する厳格な規制の導入が検討されている

マネー・ローンダリングは全世界の社会的関心事として懸念されており、日本においても2018年2月に金融庁は、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表しました。

FATF勧告(Financial Action Task Force、金融行動タスクフォース)においても公表後の改訂の際にゲーミング(カジノ)施設が対象に追加され、ゲーミング(カジノ)におけるマネー・ローンダリングの防止が求められています。IR整備法の中でもマネー・ローンダリング防止のため、以下の条文が規定されています。

※アンチ・マネー・ローンダリング(AML)等に関する国際協調を推進する金融活動作業部会が策定した国際基準


IR整備法のうちマネー・ローンダリング防止に関連する条文

条文番号

概要

第40条 第2項8号

免許申請時の添付資料として「犯罪収益移転防止規程」を添付

第54条 第1項4号

「カジノ施設利用約款」に犯罪収益移転防止法に規定する取引時確認を記載

第56条

「犯罪収益移転防止規程」に記載すべき事項
(取引時確認の実施、取引記録の作成保存、疑わしい取引の届出など)

第103条

カジノ事業者による取引時確認等の措置等の適切な実施のための措置
(犯罪による収益の移転防止のための措置)

第104条

カジノ事業者によるチップの譲渡等の防止のための措置
(犯罪による収益の移転防止のための措置)

第105条

カジノ事業者によるチップの譲渡等の禁止の表示義務
(犯罪による収益の移転防止のための措置)

 

FATF勧告においてもゲーミング施設はマネー・ローンダリング対策を講じなければならない対象施設になっている

FATF(Financial Action Task Force)勧告は、1989年に設置されたアンチ・マネー・ローンダリング(AML)等に関する国際協調を推進する金融活動作業部会が策定した国際基準で、マネー・ローンダリングを防止する基本的な枠組みとして知られています。各国の金融当局は、この FATF勧告に基づいてマネー・ローンダリング対策を行っています。

FATF勧告の構造は「40の勧告」と「9の特別勧告」に分けられ、カジノ事業者は「40の勧告」において「指定非金融業者及び職専門家」とされています。また、「40の勧告」では、カジノ事業・運営に係る項目ついても規定しています。

【参考】「40の勧告」より、カジノ事業・運営に係る項目

No.22

(前略) 顧客管理義務及び記録保存義務は、以下の状況において、指定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs)に適用される。 (a) カジノ:顧客が一定の基準額以上の金融取引に従事する場合

(後略)

No.28

(前略) 指定非金融業者及び職業専門家は、以下に定める規制措置及び監督措置の対象となるべきである。 (a) カジノは、必要な資金洗浄・テロ資金供与対策を効果的に実施していることを確保するための包括的な規制制度及び監督体制の対象となるべきである。少なくとも、 ■カジノは免許制とすべきである ■権限ある当局は、犯罪者又はその関係者が、カジノの所有者又は受益所有者にならないよう、カジノの重要な又は支配的な資本持分を所有し、カジノの経営機能を所有することのないように、またカジノの運営者とならないように、必要な法律上又は規制上の措置を講ずるべきである。 ■権限ある当局は、カジノが資金洗浄・テロ資金供与対策の義務を遵守するために効果的に監督されることを確保すべきである。

(後略)

 

※出典:財務省 「FATF勧告(仮訳)」よりデロイト トーマツ グループ IRビジネスグループが作成

日本の法規制・運用方法等の策定においては、ネバダ州のマネー・ローンダリング規制が参考になることが想定される

ゲーミング(カジノ)産業が盛んなネバダ州では、ネバダ州法上にも関連規制はあるのものの、主邦従ったAML対策を講じています。連邦法の中心となるのは、財務省が1970年に施行した銀行秘密法(The Currency and Foreign Transactions Reporting Act of 1970、通称Bank Secrecy Act(1970))で、財務省管轄下の金融犯罪捜査網(FinCEN; Financial Crimes Enforcement Network)が主体となって対策を行います。

1.ネバダ州のゲーミング(カジノ)法規制について

ネバダ州では、1931年にゲーミング(カジノ)が合法化されてから、ゲーミング(カジノ)産業を主産業としており、ネバダ州議会は、経済及び州民の福利向上のため、州の政策としてゲーミング(カジノ)産業を重視していくことを明示しています。ネバダ州法(Nevada Revised Statutes)では、ゲーミング(カジノ)産業の継続的成長のために社会的信頼が不可欠であるとしており、ゲーミング(カジノ)産業の透明性を維持するため、ゲーミング(カジノ)に係る法規制を整備し、規制当局による監視・管理の下、その運営を行っています。

日本における法規制の整備や規制当局の設置に際して、長い歴史を持つネバダ州のゲーミング(カジノ)に係る法規制、規制当局が参考なることが想定されます。

2. ネバダ州のゲーミング(カジノ)に係る法規制、規制機関の概要 

ネバダ州では、ネバダ州法とゲーミング規則(Regulations of the Nevada Gaming Commission and State Gaming Control Board)において、カジノに係る諸規制を規定しています。ネバダ州法は州政府、ゲーミング規則はゲーミング委員会(Gaming Commission)によって制定されています。ネバダ州法では、ゲーミング(カジノ)産業全般について規定しており、カジノ事業に関わる民間事業者のライセンス取得や保持、カジノ関連税、カジノ関連不正のほか、競馬や宝くじについても規定しています。ゲーミング規則は、ネバダ州法に規定されている項目をより具体的に規定しており、ゲーミング(カジノ)事業の実施における実際の手続きや運用方法について規定しています。 

出典:各種法規制及び各省庁公開情報よりデロイト トーマツ グループ IRビジネスグループが作成

連邦法である銀行秘密法(Bank Secrecy Act(1970))に従ったマネー・ローンダリング防止制度に基づき、カジノ事業者はNBFIs(銀行以外の金融機関)とされ、金融機関と同様本人確認と、疑わしい取引記録作成・保存届出を行ってます。また、各カジノ事業者にコンプライアスプログラムの策定及び文書化が義務付けられており、カジノ事業者は、内部統制度の策定や、非日常的又は疑わしい取引を発見するための従業員のトレーニング等を実施しています。

日本のIR導入においては、既存の法制度への規制の上乗せが検討されている

現在、我が国では、マネー・ローンダリング対策の標準的な枠組みとして犯罪収益移転防止法が制定され、金融機関やクレジットカード会社等に対して一定の義務を課しています。

日本のIR導入に向けては、マネー・ローンダリング対策として、FATF勧告や諸外国の規制と比較して遜色ない対策が講じられるよう、既存の法規制への上乗せ等が検討されています。

検討されている主な内容は以下のとおりです。


(1) 犯罪収益移転防止法では、内部管理体制の整備は努力義務にとどまっているため、カジノ事業者に内部管理体制の整備を義務付けること

(2) カジノ事業者にマネー・ローンダリング対策に係る自己評価・内部監査の実施を義務づけること

(3) 一定金額以上のすべての現金取引についてカジノ管理員会への届出の義務付けること

 

IR事業への参入を検討する事業者においては、マネー・ローンダリング防止に備え、事前の準備をする必要があると考えます。

デロイト トーマツ グループでは、マネー・ローンダリング防止に関連する以下のアドバイザリーサービスを提供しています。


・AML(資金洗浄対策、Anti-Money Laundering)規制対応

・AMLプログラム評価、改善コンサルティング

・AMLリスクアセスメントプログラムの評価改善

・KYCプログラムの評価、改善

・KYCに関するコンサルティング

・顧客デューデリジェンス(CDD)

・取引監視システムに関するコンサルティング

・疑わしい取引検出、監視、分析体制構築 等

 

また、IR参入に関するリスク検討の進め方についてのサービス内容は、「IR事業(カジノ事業)における特徴的なリスクとリスクマネジメント」に詳しく記載されていますので、ご覧下さい。

 

IR(統合型リゾート)ビジネスグループとは

IR(Integrated Resort:統合型リゾート)実施法案の審議開始から免許交付までの間に、IRビジネスグループでは参入を目指す日本企業に対し、さまざまなアドバイザリーサービスを提供します。

また、カジノ施設の設置と運営にはさまざまな課題やリスクが指摘されています。そのため、IRビジネスグループでは、日本企業に対する事業支援サービスだけでなく、企業と自治体に対し、IR施設を設置・運営する上で懸念される課題と社会問題の解決に関するアドバイザリーサービスも提供します。

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