ナレッジ

風通しのよい組織風土作り

商工中金・関根社長に聞く:不正発覚後に組織風土を変革するには(後編)

企業の不正・不祥事の原因としてよく指摘されるのが「組織風土」です。不正再発防止策の1つとして「風通しの良い組織作り」、「上にモノを言える風土」の醸成が掲げられます。しかしながら、組織風土は長い年月をかけて培われるものであり、変えることは簡単ではありません。どのような取り組みを行えば、組織風土改革を実行することができるのでしょうか。

不正融資事件で揺れた株式会社商工組合中央金庫(商工中金)の組織風土改革を主導した関根社長と、コンプライアンス統括部署責任者の明石氏に、同社の取り組みとその成果について、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の中島祐輔と三木要がお話を伺いました。

なお、本記事掲載の意見に当たる部分は個人の見解であり、組織の見解ではありません。取材日:2022年8月3日、肩書は当時。

 

※当記事はFinancial Advisory Portal 「DTFA Times」に掲載された記事を一部改訂して転載しています。

組織活性化につながったダイバーシティの取り組み

中島
商工中金はダイバーシティにも大変力を入れておられます。

関根
社長に就任して1年ほどでダイバーシティ推進室を作り、「これからダイバーシティに力を入れていく」と全支店長を集めて宣言しました。一般職の女性たちもちゃんと活躍できるように位置付けて、しっかり評価もする。そうすることで、彼女たち自身も変わりました。今では女性たちがものすごく活躍してくれています。そもそも非常に優秀な人が多かったため、自分たち自身が変わらないといけないと、すぐに理解してくれました。それが自分たちの成長にもつながり、会社の役にも立つとわかれば、さらに働き甲斐につながります。

三木
社外取締役の方々の顔ぶれも多彩になりましたね。どの会社でも、社外取締役をどう活用していくかが問われています。不正事案の際にも再発防止を考える面からも、社外取締役の顔ぶれをどうするかは重要だと申し上げてきましたが、なかなかその真意が理解されない。有名人をアサインすればいいと思ってしまう場合も多い。女性のメンバーを入れれば体裁が整うと思ってしまう場合も少なくありません。その点では、商工中金さんは違うな、と思っています。

関根
社外取締役もまさに多様性の証左です。語弊を恐れずに言うと、私たちにとっては実際に活用できる人であり、社外取締役ご自身としても面白く活躍できる場であることが、大切だと思っています。

商工中金の社外取締役には女性が2人いますが、1人ひとりに対して、大きな意図があります。日本航空の稲盛改革を経験した大川順子さん、ネットイヤーグループを立ち上げて上場までさせた石黒不二代さん。彼女たちの経験は、何物にも代えがたいものですよね。ぜひ商工中金の再建に力を貸してほしいと思いました。女性だからということではありません。

彼女たちも含め社外取締役の方のおかげで、取締役会は活性化してすごいですよ。スタッフは皆困っていると思いますね。いろんなことを言われるから、まとまる話もまとまらない。それがすごく刺激になっていると思いますよ。

現場とトップの距離を縮める

中島
現場のマネジメントでは、どのような取り組みをされましたか。

関根
「リーダーシップスタイル診断」を行っています。私が社長に就任した初年度の支店長のリーダーシップスタイルは、ほとんど全員「指示命令型」でした。今は全く違って、「指示命令型」はすごく少なくなり、代わりに、それ以外の「ビジョン型」、「民主型」、「関係重視型」、「率先垂範型」、「育成型」が多くなっています。かつ、1人でいくつものスタイルを使いこなせるリーダーも多数出ています。

中島
そこまで大きなビヘイビアの変化は10年くらい掛かるものでしょうから、こんなに短期間で変化したのは稀有ですね。なぜできたのでしょうか。関根社長が先導役になったのは間違いないですが、その考えをどうやって組織中に浸透させていったのでしょうか。

明石
私が感じるのは、現場と社長との距離感が本当に近くなったことです。それまでは、社長は雲の上の存在で、役員もそうでした。それどころか、各店で支店長に対して普通に話すことすら、簡単ではない世界だったと思います。ところが、関根社長就任後は、社長自身が現場に行かれて何の準備もシナリオもなく職員と直接対話し、ざっくばらんな質疑応答を念入りにされます。そんなことをかなり長い期間やっていくうちに、距離感がぐっと縮まりました。職員は経営層に言いたいことが言えるようになりましたし、社長は社内ブログを発信され、今では社長に気軽にメールする人も少なくないです。

コンプライアンス統括部だけでなく、監査部やキャリアサポート部など本部のさまざまな部門が支店の職員とコミュニケーションを取れています。それこそガラス張りです。だから、自ずと現場のリーダー自身が変わっていかないといけない。支店をマネジメントしていく上で、支店の職員との合意形成を図って、目指す方向に行くということをしないと、支店運営ができなくなります。「社長の言っていることと支店長のやっていることは違うじゃないですか」という意見は、すぐに本部や役員に伝わります。

個々人の力を認めることが組織風土改革の鍵

中島
このような改革に抵抗する人は多かったと思いますが、どのように対応されてきましたか。

関根
まずは上から目線では絶対にダメです。1人ひとりが悪いわけでも、できない人間というわけでもないのですよ。そういう組織、環境の中で育っただけで、マネジメントの仕方やガバナンスが悪かっただけです。実際には、いいものもたくさんあるはずです。商工中金だって、職員の質はものすごく高いですよ。能力もポテンシャルもすごく高いし、1人ひとりはものすごくいい人たちです。悪い人がいないのに、組織として過ちを犯してしまうというところに問題があるのであって、元々のいいところはたくさんある。まずはそのいいところを認めてあげるということです。そして、リスペクトする。リスペクトが基本にないと、絶対にうまく行かないと思いますね。

必要なのは、いかにプロパーの人たちを活かすか、です。例えば、MBA出身で頭のいい人をたくさん投入すれば経営改革はうまく行くのかといえば、そうではないでしょう。少し賢ければ、経営計画やコストダウン計画は、誰にだって作れます。問題は、誰がやるのか、です。それは、そこにいる社員です。どんなに優秀でも、自分1人で改革ができると思ったら大間違いです。計画さえ作れば終わりなんてことはあり得ないわけです。それでうまくいかない会社も少なくないですよね。

上から目線では信頼関係が醸成できない。依って立つべき文化や言語が違い過ぎるからです。大切なのは、お互いが共感できるかどうかです。一緒にやっていけるか。そこにいる人たちのことを本当に親身に思えるか。私は私心ではなく、そこに骨を埋めるほどの覚悟があるかだと思って来てみたら、実際すごくいい人ばかりで優秀です。お客様もすごくよくて、この人たちのためになるにはどうしたらいいかなと思って、仕事をしているだけなのです。

中島
貴重なお話をありがとうございました。

お役に立ちましたか?