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金融機関の破綻処理に関する国際的な枠組み:現状整理と今後の展望

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.113

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ファイナンシャルサービシーズ
楠田 祥也 

世界金融危機以降、国際的な金融機関の破綻処理に関する規制・監督強化が進められてきた。特に、金融安定理事会(FSB)は、「大きすぎて潰せない」問題への対応として、グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)等の破綻処理に関する国際基準やガイダンスの策定に取り組んできた。また、各法域においても、秩序ある破綻処理制度の整備が行われている。本稿では、こうした金融機関の破綻処理に関する国際的な動向を3つの観点で簡潔に整理した上で、本邦金融機関に求められる今後の対応を検討する。

まず、各法域の破綻処理に関する枠組みは、FSBの国際基準に沿って策定されている。FSBは2011年11月に、「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」を公表した。これは、破綻時に金融システムに重大な影響を及ぼす金融機関の破綻処理制度に関する国際基準である。具体的には、全ての法域の破綻処理制度に含まれるべき合計12の特性を定めている。FSBは、各法域に対して、主要な特性で示された破綻処理ツール・権限を反映した制度の整備を求めている。FSBの2024年の破綻処理報告書によると、銀行の破綻処理制度に関しては、本邦を含む多くの先進国は主要な特性の大部分を既に適用している。なお、2011年に公表された主要な特性は、追加的な実施ガイダンスの必要性を踏まえて、これまでに2度改訂されている。2014年の改訂では、破綻処理における情報共有およびセクター別ガイダンス(保険会社、金融市場インフラ等)に関する付属文書が追加された。加えて、2024年の改訂では、システム上重要な中央清算機関(CCP)の秩序ある破綻処理のための財源・ツールに関する追加ガイダンスが反映された。

次に、一部の法域では、国際基準を踏まえつつも、秩序ある破綻処理に関する独自の制度や措置を導入している。例えば、英国では、イングランド銀行(BOE)と健全性規制機構(PRA)が2019年7月に破綻処理可能性評価枠組み(RAF)を公表した。RAFは英国独自の制度であり、BOEとPRAが英国金融機関の破綻処理準備態勢を評価する際のアプローチを示している。特徴的な点は、金融機関が破綻処理可能とみなされるために最低限達成すべき3つの成果(①十分な財務的資源、②継続性・再建、③連携・コミュニケーション)を定めた上で、それぞれの成果に関する合計8つの障壁を特定していることである。こうした枠組みの下で、英国の主要銀行等は破綻処理に向けた自社の準備態勢を自己評価・開示し、BOEが当該銀行等の破綻処理可能性に関するステートメントを公表することになる。直近では、BOEは2024年8月に、英国の大手銀行8行の破綻処理準備態勢に関する2度目の評価結果を公表している。このように、英国においては、FSBの主要な特性に基づきながらも、破綻処理に関する透明性や説明責任の向上を図る独自の措置がとられている。

最後に、2023年春の欧米の銀行破綻を受けて、破綻処理枠組みの強化が国際的に議論されている。FSBが2023年10月に公表した報告書では、欧州の大手銀行の事案と米国の中堅銀行破綻から得られる破綻処理に関する初期的な教訓が示された。前者のG-SIBの事案では、例えば、クロスボーダーのベイルインの実行において、米国証券法に関連する法的問題やオペレーション上の課題が発生することが明らかになった。後者の米国中堅銀行の破綻に関しては、G-SIBではない銀行であっても破綻時に金融システムに影響を与えることが指摘された。こうした非G-SIBの破綻事例を踏まえ、FSBの将来の取り組みにおける課題として、破綻処理計画や損失吸収力に関する要件の対象拡大を検討する必要性などが示された。なお、FSBは2024年11月に、G-SIB以外のシステミックな銀行の破綻処理計画および損失吸収力の重要性を明確化したステートメントも公表している。具体的には、2023年11月にFSBが開催したワークショップの議論を踏まえ、当局がこうした非G-SIBの銀行の破綻処理準備態勢に関する規制・政策枠組みを検討する際の考慮事項が示された。

以上のように、世界金融危機を経て、FSBにおける国際基準やガイダンスの策定が行われるとともに、各法域では秩序ある破綻処理に向けた制度の構築が進められてきた。また、2023年春の銀行破綻を踏まえ、G-SIB以外の銀行を含む破綻処理枠組みの改善に向けた国際的な議論も進展している。なお、本邦では、関連する直近の動向として、金融庁が2024年4月に監督指針を改正し、破綻処理におけるバリュエーションおよびテスティングに関する期待等を明確化している。こうした状況を踏まえ、G-SIB等の本邦金融機関は、流動性危機を想定した再建・破綻処理計画(RRP)に関する訓練・自己検証を実施するなど、監督指針への対応を着実に進める必要があるだろう。さらに、FSBの動向等を踏まえ、今後はG-SIBに指定されていない金融機関であっても、破綻処理準備態勢の更なる高度化を求められる可能性がある。その際に、本邦ではRRP等に関する詳細なガイダンス等は策定されていないため、金融機関は海外の破綻処理関連の規制動向も注視した上で、海外当局のガイダンス等を参考に態勢整備を図ることが重要になろう。

(参考図表)銀行の破綻処理に関する国際金融規制の動向

 

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執筆者

楠田 祥也/Shoya Kusuda
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ファイナンシャルサービシーズ

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