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不確実性の高まりに直面する世界経済:2025年の主要地域の展望
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.113
リスクの概観(トレンド&トピックス)
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
廣島 鉄也
今年、2024年の世界経済を振り返ると、中国や欧州の成長が下振れる展開となったものの、米国経済が大方の予想を覆す高い成長を実現したほか、IT関連需要の回復基調を受けてアジア新興国などがまずまずの成長となった。この結果、多くの不安要素を抱えつつも、世界経済は3%を幾分超える底堅い成長で着地したものとみられる。来年、2025年については、利下げの効果などから欧州がごく緩やかな持ち直しに向かうほか、中国が各種の政策支援によってある程度は回復傾向となることが見込まれる。もっとも、これまで世界経済のけん引役であった米国の成長ペースの鈍化を打ち返すことは難しく、世界経済全体としては、2024年対比若干の成長率低下という姿が展望される。また、各地域とも、様々な不確実性に直面しており、下方リスクには十分な注意が必要となる。以下、主要地域についてみていくこととしたい。
2024年の米国経済は、コロナ禍で積み上がった超過貯蓄が残っていたこと、良好な雇用所得環境が続いたこと、株価の上昇などから資産効果も働いたことを背景に消費の堅調な伸びが続いた。FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ見通しに係る不透明感や、払しょくしきれないハードランディングリスク、さらには大統領選に絡む不確実性に焦点が当たり、市場が不安定化する場面もあったが、足元ではこうした各種の懸念も落ち着いた状況となっている。これらの結果、足元では米国1強と呼ばれるような経済状況となっているが、先行きに関しては、労働需給が徐々に緩和傾向となる中で、個人消費の成長ペースは鈍るものと考えられる。また、第2期トランプ政権が一定の規模感で関税引き上げや移民規制の強化といった公約を実施に移すと見込まれ、それらの景気下押し効果も徐々に顕現化することから、2025年は減速傾向が明確化する年となろう。リスクをみると、トランプ政権は、各種の企業投資支援策を打ち出すと共に、減税延長を中心とした財政面の措置を決定すると考えられることから、企業や家計のマインドがいち早く押し上げられ経済活動を支えるといったアップサイドのシナリオも考えられる。一方で、関税引き上げや移民規制の強化が、関係国との交渉プロセスの中でエスカレートする可能性もあり、供給制約による直接的な景気下押しやインフレ圧力が想定以上に強まるダウンサイドリスクには十分な注意が必要であろう。
次に欧州をみると、本来はけん引役であるドイツ経済が、エネルギーコストの上昇や中国経済の弱めの動きを受けた製造業の低迷が、家計のマインド悪化にも繋がり、停滞色が強い状況となった。また、その他の主要国でも観光などサービス部門に減速感がみられており、2024年の欧州経済は弱さが目立つこととなった。先行きは、労働市場が一定の底堅さがをみせており所得環境が崩れないと見込まれる下で、利下げの効果が消費、投資を刺激する効果から、ごく緩やかに持ち直すと考えられる。もっとも、米国との通商問題が深刻化する可能性や、基本的には回復に転じるとみられる中国経済の下振れといったリスクに対しては、かなり脆弱な状況にある。また、ドイツとフランスの政治状況の不安定化は、不確実性の増大に伴う企業・家計のマインドの悪化、必要な経済政策の策定の遅れなどに繋がり得るだけに、やはり大きな不安要素と言える。
2024年の中国経済は、不動産市場の調整や、雇用所得環境の弱さを背景とした消費の伸び悩みから成長が下振れる展開となった。足元では、家電などの買い替え促進策の効果などから、一旦、上向きの力が加わっているが、弱めの基調の転換に繋がるとは考えにくい。その意味では、なかなか具体的な姿がみえてこないものの、発動が見込まれている財政支援が今後の中国経済を考える上での大きなポイントとなる。この点、中国当局は「より積極的な財政手段」の必要性を強調しており、米国による関税引き上げの可能性なども加味しつつ、相応の危機感をもって財政出動を行う構えを見せている。これを踏まえれば、大きな方向性として景気は回復傾向となると考えられる。もっとも、米国との通商対立がエスカレートし、2024年の景気の下支え役となった外需の下押し度合いが強まるリスクには注意を要する。また、潜在成長率が低下傾向にある中、成長期待の低下が企業や家計の行動の消極化に繋がり、景気刺激策の効果を弱める可能性も軽視できない。
改めて世界経済全体をみると、2024年は、日本を含む各国で、旅行や飲食などサービス消費の回復が続き、コロナ禍からの経済再開に伴う押し上げがまだみられたが、先行き、さすがにこうした特殊なプラス要因には期待が出来なくなる。一方、先進国、並びにその影響を受ける新興国で追加的な利下げが順調に進めば、ここまでの各国のインフレ率の落ち着きと相まって消費、投資を下支えし、2026年以降の成長速度の回復に繋がることとなる。そうした意味では、主要国のインフレの上振れリスクは、通商対立が激化するリスクと並び、2025年の世界経済をみる上での最重要のポイントと言えるであろう。
index
- 不確実性の高まりに直面する世界経済:2025年の主要地域の展望 (廣島)
- インフレと分断のリスクは続く:2025年の10大リスクシナリオ(勝藤)
- 金融機関の破綻処理に関する国際的な枠組み:現状整理と今後の展望(楠田)
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執筆者
廣島 鉄也/Tetsuya Hiroshima
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター マネージングディレクター
リスク管理戦略センターのマネージングディレクターとして、マクロ経済、地政学リスク、リスク管理高度化など、幅広いアドバイザリー業務を提供する。
日本銀行で、金融政策運営のほか、グローバル経済や内外の金融市場の調査、金融機関のモニタリングといった、幅広い政策関連業務に従事。国際部門の業務やIMFへの出向などを通じ、国際金融分野の仕事も多く経験。...さらに見る