国際的な広がりを見せる気候関連リスクのストレステストやシナリオ分析~米国でも2023年に実施へ ブックマークが追加されました
最新動向/市場予測
国際的な広がりを見せる気候関連リスクのストレステストやシナリオ分析~米国でも2023年に実施へ
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.87
金融規制の動向(トレンド&トピックス)
有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
菅谷 幸一
金融当局・中央銀行が金融機関と連携して気候関連リスクに係るストレステストやシナリオ分析を実施する取組みが主要法域を中心に広がりを見せている。
米国では、9月、FRBが、気候シナリオ分析のパイロット演習を実施するとして、米銀大手6行が参加することを発表した。2023年初から年末頃にかけて実施され、その開始時に気候シナリオを構成する気候・経済・金融変数の詳細が公表される予定である。本演習は、監督当局・金融機関における気候関連金融リスクの測定・管理能力の向上を目的とするものとされており、シナリオ分析を気候関連金融リスクを評価する新たなツールに位置付けている。本演習では、参加行は気候シナリオによる特定のポートフォリオや事業戦略への影響を分析し、FRBによってその分析結果が検証される。FRBは、個別行の情報は公表せず、本演習から得られた総合的な分析結果を公表する予定だ。なお、本演習は、監督上のストレステストとは別個のものとして、自己資本上または監督上の影響はないとされている。これは、FRBのストレステストが、深刻な不況時に大手行が家計・企業への融資を継続するうえで十分な自己資本を保有しているかを評価するために実施される一方、本演習は、その性質上、あくまで探索的に実施され、自己資本上の要件に影響を与えるものではないと区別していると言える。
今回発表された米国の動きに先行して、英国では5月にBOEが、欧州では7月にECBが気候リスクストレステストの結果を公表しており、日本でも8月に金融庁・日本銀行がメガバンク・大手損保と実施した気候関連リスクに係るシナリオ分析の試行的取組(パイロットエクササイズ)の結果を公表している。いずれにおいても、データ不足の解消、分析手法の開発、リスク管理の高度化等が大きな課題として認識されている一方、欧英の気候ストレステストでは、例えば気候リスクを自己資本充実度評価の枠組みに統合している事例などのグッドプラクティスも紹介されている。
気候関連リスクに係るストレステストやシナリオ分析は、個々の金融機関における気候関連リスクの測定・管理に加え、経済・金融システムへの影響の評価においても、今後ますますその重要性が高まっていくことが考えられ、グローバル・各国での取組みが一層推進されていくであろう。NZBA等の連合への参加金融機関をはじめとする金融機関においては、投融資先のGHG排出量(ファイナンストエミッション)の計測が目先の課題として挙げられ、データ収集やエンゲージメント等を進めていくことが必要になると考えられる。欧英の先進的な取組みにも見られるように、自己資本充実度評価プロセスや信用リスクモデルへの気候リスクの組み込みも今後の課題となるだろう。当局による優れた事例の収集・公表等により、こうした取組みが金融機関全体として強化されていくことも期待される。
index
- On the Border:米国リセッション見通し再アップデート(勝藤)
- 金融リスクはどこに溜まっているか(市川)
- 国際的な広がりを見せる気候関連リスクのストレステストやシナリオ分析~米国でも2023年に実施へ(菅谷)
- 講演最新情報(2022年10月時点)
執筆者
菅谷 幸一/Koichi Sugaya
有限責任監査法人トーマツ マネジャー
証券系シンクタンクにて、地方銀行をはじめとする金融機関の事業動向・経営環境の調査・分析業務に従事。財務省国際局国際機構課出向中は、主に国際金融規制、FSB、IMFを担当。金融庁企画市場局市場課出向中は、主にソーシャルボンドガイドラインを担当。現職にて、海外金融規制動向の調査業務等に従事。