新たな顧客体験とエコシステムの創造で席巻する【2022 Global Marketing Trendsスペシャルインタビュー vol.2】
NVIDIA日本代表 兼 米国本社副社長 大崎真孝氏
NVIDIAエンタープライズマーケティング 本部長 堀内 朗氏

  • Digital Business Modeling
2022/3/31

コロナ禍の過去18か月は、企業やブランドにとって、前例のない複雑かつ不確実な環境をもたらし、顧客とのエンゲージメントの在り方を再構築する必要に迫られた。デロイトグローバルが発行した「2022 Global Marketing Trends」では、7つのマーケティングのキートレンドと共に、こうした環境下でも成長を続ける企業がどのように業界をけん引しているのかを明らかにしている。

本稿では、今年のキートレンドのうち、日本企業・組織が特に重視すべき「パーパス(存在意義)」「人財」「ファーストパーティデータ」「End To Endな顧客体験の提供」について、本レポートのエグゼクティブインタビューにご協力頂いたNVIDIA日本代表兼米国本社副社長 大崎真孝氏、エンタープライズマーケティング 本部長 堀内 朗氏の見解や自社の取り組みを紹介したい。

1993年に設立したNVIDIAは、GPU(Graphics Processing Unit)の開発・生産からスタート。これまで蓄積した技術でディープラーニングなどAI技術の進化を支える。現在、GPUは世界中の様々な研究施設で活用されており、特にディープラーニングや自動運転の開発などの領域において、同社の技術開発の動向については多くの企業が注目している。

“Mission is your boss” -フラットな組織構造で全社がひとつに

――今年のレポートでは、成長率が高い企業ほどパーパスを(1)従業員の意思決定の指針としている、(2)CSR投資戦略を推進する存在として重視していることが明らかになった。NVIDIAはどのようなパーパスを掲げて活動しているのか

大崎:NVIDIAのパーパスは“他社ができないことで、科学技術を推進する”というもの。社内の全組織がテクノロジードリブンで、科学技術を推進し、社会課題を解決することを目指して事業を展開している。事業展開のみならず、災害などの有事の際には、CEOが声をかけるだけで一致団結して行動することができる。

――NVIDIAは全世界50か所以上で事業を展開するグローバルカンパニーだが、パーパスは共通のものか。また全世界の従業員にどのようにパーパスを浸透させているのか

堀内:NVIDIAがユニークなのは、パーパスが日本支社独自のものではなく、グローバル共通ということだ。多くのグローバル企業は、本社のものとは別に、地域独自のパーパスを作成し、地域ごとでの浸透を図っている。大きな組織の場合は階層が複雑になりがちなため、同一のパーパスを浸透させるのが難しいからだ。

NVIDIAの場合は、組織が最小限の階層しかなく、極めてフラットな組織構造となっている。創業者/CEO Jensen Huangが「Mission is your boss」というように、ミッションを達成するため、組織ではなく全従業員が一丸となって取り組むといった組織文化ができている。

大崎:創業者Jensenの考えを聞く機会も高頻度に設けられており、四半期毎の全社会議や役員会議では、創業者自身がパーパスについて語る。創業者が自らの声で「想い」を伝えることが、世界規模でのガバナンスの構築や方向性の統一にも繋がっていると考える。Jensen自身もいうように、まさに「2万人のベンチャー企業」を体現していると思う。

マーケターの役割は、 テクノロジーを理解し、わかりやすく伝えること

――従来クリエイティブな分野と見られていたマーケティングだが、ビッグデータと人工知能などの台頭により、人財の採用において、分析的スキルも重視されていることが明らかになった。
こうした左脳/右脳の複合的スキルに加え、多様なスキルを持つメンバーやハイブリッドな就労環境下での強力なコラボレーションスキルも求められている。
これからのマーケターに求められるスキル・マインドセットについてどのように考えるか。

大崎:NVIDIAの場合、デベロッパーやリサーチャーが主な顧客になる。マーケターの役割は、テクノロジーを理解し、顧客に対して分かりやすい言葉で伝えること。そのため、左脳的・右脳的問わずオールラウンドなスキルセットが必要と考えている。

堀内:まず左脳的スキルはマーケターに関わらず、全従業員に必要。右脳的スキルについては、現在は日本でも専門性を持つ人材が増えてきているが、IT業界におけるB2Bマーケティングが変わり始めた15年ほど前の状況に似ていると感じている。15年前、営業の現場とマーケティングの部署が連携してビジネスデベロップメントを行い、PL等の分析能力を持つ人が現場の声をうまく取り込んで製品開発にも携わっていた。現在は、当時の状況に似ている。左脳的スキルや単なるデータドリブンではなく、部門間のコラボレーションを活性化させるような意味での右脳的スキルなども重要視されてきていることに対しても、違和感はない。

――複合的なスキルを持つ人財の育成についてどのように考えるか

堀内:当社ではトレーニングやキャリア開発プログラムなどを通して、オールラウンドなスキルを身に付けられるようにしている。特に営業とマーケティングでは日頃からのコミュニケーション、コラボレーションが重要。販売、営業の経験や現場をしっかり理解しないと効果的なマーケティングはできないし、マーケティング担当が営業のペインポイントを深く理解することでコンテンツ作成のリードタイムの短縮など質の高いアクティビティにも繋がる。

注目度の高いコンテンツで集客し、ファーストパーティデータでナーチャリング

――サードパーティクッキーが廃止される中、高成長企業はいち早くファーストパーティデータ戦略に移行している。NVIDIAではもともとファーストパーティデータを活用しているため大きな影響はないということだが、どのように集客、活用をしているのか

堀内:NVIDIAでは、年次のテクノロジーカンファレンス「NVIDIA GTC」を開催している。新型コロナウイルス感染症の感染拡大によってオンライン開催にシフトしているが、2021年は全世界で20万人を超える集客に成功した。こうしたイベントへの参加者データを数年に亘って蓄積し、ナーチャリングを行っている。

集客の秘訣については、創業者であるJensenの基調講演など、注目度の高いコンテンツを盛り込み、技術者とビジネス層の両方に刺さるテーマをローカル市場に合わせて取り上げることで、多くの集客を獲得している。テックオーディエンスと、ビジネスオーディエンス両面に対してアプローチすることで、NVIDIAが一部の人向けの製品ではないことをアピールしている。

シームレスな顧客体験の提供とAIの活用はNVIDIAの得意領域

――多くの企業が、来年以降オンライン/オフラインのハイブリッドな顧客体験(CX:Customer Experience)の提供に向けて投資を拡大し、新たなパートナーシップへの参入を計画している。NVIDIAでは、どのような取り組みを推進されるのか

堀内:NVIDIAが提供しているゲーミングプラットフォーム「GeForce NOW」では、いつでもどこでもゲームが可能。オンライン/オフラインでのシームレスな顧客体験の提供と、当プラットフォームを利用するテレコム企業などを巻き込みながらの新たなエコシステムの創造に取り組んでいる。

オンライン/オフラインでのシームレスなCXの提供やAI活用は、NVIDIAが得意とする領域。レコメンダーシステムや自然言語処理、AIチャットボットなどの活用も進んでいる。

――顧客コミュニティについては、コロナ禍で何か対応の変化はあるか

堀内:AI ディープラーニングのフレームワーク毎に存在するユーザーコミュニティへのサポートを提供している。コロナ前は各コミュニティに対して、独自の勉強会や情報共有の場の提供を行っていた。現在、オンラインでもコロナ前のような体験を提供できる仕組みを検討している。

オンライン/オフラインでのシームレスなCXの提供や、AIの活用はNVIDIAの得意分野だ。レコメンダーシステム、自然言語、AIが対応するチャットボットなどを活用し、NVIDIAの顧客でもAIの活用が広がっているという。「2万人のベンチャー企業」を体現するNVIDIAの今後の取り組みに注目していきたい。

【インタビュイープロフィール】
NVIDIA日本代表 兼 米国本社副社長 大崎真孝氏
大学卒業後、1991年に日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社。大阪でエンジニアと営業を経験した後、米国本社に異動し、ビジネスディベロップメントを担当。本社勤務を含め20年以上、DSP、アナログ、DLP製品など幅広い製品に携わりながら、様々なマネジメント職に従事。

2014年、エヌビディアに入社。エヌビディア ジャパン代表として、パソコン用ゲームのグラフィックス、インダストリアルデザインや科学技術計算用ワークステーション、そしてスーパーコンピューターなど、エヌビディア製品やソリューションの市場およびエコシステムの拡大を牽引し、日本におけるAIコンピューティングの普及に注力している。首都大学東京で経営学修士号(MBA)を取得している。

NVIDIAエンタープライズマーケティング 本部長 堀内 朗氏
慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、国内企業、外資系IT企業数社を経て2019年6月より現職。

PROFESSIONAL

  • 宮下 剛/Go Miyashita

    カスタマー・マーケティング リーダー 兼 広告・マーケティング・EC・ブランド リーダー
    デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

    DTCのCRM組織責任者。外資系、総合系コンサルティングファームを経て現職。コンタクトセンターなどの顧客接点変革をはじめ営業力強化、顧客サービス向上といったテーマの戦略立案からオペレーション・組織変革、IT導入変革支援まで幅広い領域に従事し約25年の経験を有する。寄稿、講演等多数実施。

  • 熊見 成浩/Narihiro Kumami

    デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

    外資系コンサルティング会社を経て現職。「マーケティング」領域に専門性を持つ。コンサルティングの特徴として「Latest Marketing(新しいマーケティング)」を掲げ、深い顧客インサイトの理解と、プロダクト&サービス、価格+インセンティブ、コミュニケーション、複合的チャネル(特にデジタルやNew Media)、そしてBrandを統合的に考えることで顧客価値を最大化する。近年は、デジタルトランスフォーメーションやグローバルマーケティングのプロジェクトを多数推進。

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