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サービス
AIを活用したケアプラン作成支援サービス
健康状態の悪化防止のために高齢者一人ひとりの「目指すべき健康状態」をAIが特定し、質の高いケアプラン作成に寄与することを目指します
はじめに
国民の4人に1人が後期高齢者となる超高齢社会の到来に向けて、今後、介護サービスの利用者数は増加し、介護ニーズはますます高まることが予想されます。このニーズに応えるための重要な要素が、現在、国が目指している介護データを用いた「科学的介護」の実現であると考えます。そして、科学的介護の恩恵の一つとして挙げられるのは、ケアマネージャーが作成するケアプランの質の向上と平準化です。
本稿では、これまで介護データを用いて様々なデータ分析に取り組んできたデロイト トーマツが、ケアプランの質を向上させ、平準化に繋げる「AIを活用したケアプラン作成支援」をご紹介します。
ケアプラン作成における介護ソフト(介護システム)の現状と課題
多くの介護現場では、介護ソフト(介護システム)を導入し、介護に必要な情報を一元管理することで、業務効率化や利用者の安全性・介護の質の向上を図っています。
そして、この介護ソフトには、様々な介護データが蓄積されていることから、データを活用した機能を高度化することで質の高いケアプラン作成の一助になると考えます。
しかし、現在多くの介護ソフトに搭載されている機能は、日々の介護内容に関する記録と、介護データの可視化がメインであり、AIを用いた個人の健康状態の予測や健康状態の維持・改善に向けた提案などの高度な機能は、ほとんどの介護ソフトには搭載されていません。
介護データを活用した介護ソフトの機能および機能を搭載している介護ソフト会社数の関係性は次のとおりです。(図1)。
図1:介護ソフトの機能と介護ソフト会社数の関係性
機能1:介護記録(データ入力と蓄積)
- 担当者が介護ソフトに記入した介護情報がデータとして蓄積され、検索機能で必要な情報を簡単に検索することが可能
- 現在ほとんどの介護ソフトに搭載
機能2:可視化
- 高齢者の介護データを可視化することにより、直感的、視覚的に健康状態の把握が可能
- 介護記録の機能のように標準搭載された機能ではないが、多くの介護ソフトに搭載されている機能
機能3:健康状態の予測
- AIモデルが、高齢者の将来の「改善」「維持」「悪化」などの健康状態の予測が可能
- 限られた数社の介護ソフトが搭載
機能4:維持・改善方法の提案
- AIモデルが、高齢者の健康状態を維持、向上させるために改善すべきケアに関する介入観点の提案機能
- 現在搭載している介護ソフトは、ほとんど存在しない
このように、介護ソフトの多くは介護記録機能と可視化機能を搭載していますがAIを活用した高度な機能については、未だ発展途上の段階です。一方で、現在国が取り組んでいる科学的介護システム(LIFE)の方針からも、フィードバック機能は科学的介護において重要な役割を担うと位置づけています。それにより、今後は介護データを用いて構築したAIによる予測、提案などの高いレベルのフィードバック機能が、より一層注目されると考えられます。
そして、特に「維持・改善方法の提案」については高齢者の健康状態を維持向上させるために必要な介護支援内容を提案する高度な機能であり、ケアプランの質の向上と平準化が期待できます。
デロイトのアプローチ:AIによる利用者の目指すべき健康状態の提案
デロイト トーマツは、「維持・改善方法の提案」機能の実現のために独自のAIモデルをディープラーニング手法の一つであるCVAE(Conditional Variational AutoEncoder)[1] を応用して試験的に開発しました。このAIモデルのコンセプトは、健康状態の悪化防止のために高齢者一人ひとりの「目指すべき健康状態」を特定し、ケアの優先付けを支援することです。
例えば、図2で示している現在のAさんは、筋力低下に伴い、移動の際には車いすを使用しています。Aさんが受けている現在のケア内容は「一部介助」の項目もあれば、「見守り」や「全介助」の項目があるという状態です。
図2:分析コンセプト
このAさんについてのADL(日常生活で最低限行う動作)やアセスメント情報(高齢者の状態やニーズの把握を目的とした面談)、また栄養状態に関するデータをAIモデルに適用させることによって、Aさんの健康の維持・向上のために改善すべき観点をAIが洗い出します。
図2の例では、Aさんのいくつもある健康状態の観点から、立ち上がりADLや移乗ADL、室内ADL、外出頻度がピックアップされ、これら4つが優先的に改善すべき項目となります。そして「立ち上がりADL」を例にとると、まずは「一部介助」から「見守り」を目指すことがAさんにとってより良い状態に近づく可能性が高いと解釈することができます。
実際の業務での活用例としては、図3に示すように、従来のやり方では課題整理統括表のようなアセスメントツールを用いて、担当者の経験と勘に基づきAさんの改善維持の可能性がある項目を判断していましたが、本アプローチでは、Aさんの着目すべき観点をAIが洗い出し、理想の状態からギャップが大きい項目を定量的に特定することが可能となります。そして、その項目がAさんの健康の維持・向上のために「改善が見込めるケア」と推定することができます。
図3:従来のやり方との比較
本アプローチの導入のメリット
本アプローチの導入メリットとして、図3で示す従来のアセスメントからケアプラン作成までのやり方を比較した際に、大きく3つあると考えます。
メリット1:いくつもの観点から健康状態の維持・向上に着目すべき観点を絞ることができる
上述のAさんの例で示したとおり、アセスメントツールとして使用される課題整理統括表を用いた従来のアプローチでは、「改善維持の可能性」の項目を担当者の経験と勘を頼りに記入します。したがって、担当者の経験値によって質にばらつきがでてくる部分となります。
そこで本AIを活用することで、着目すべき観点を洗い出し、それにより、経験の浅いケアマネージャーでも、ベテランのケアマネージャーに近い視点を持てることが期待できます。
メリット2:対応すべきケアの優先度をつけることができる
課題整理統括表の「見通し」、「解決すべき課題」の項目では改善の可能性がある項目について検討し、ケアプランに反映させます。そのうえで、ケアの優先付けについては、通常はケアマネージャーの経験値に依存します。
本AIを活用した場合では、着目すべき観点について理想の状態とのギャップをスコア化することにより、客観的に対応すべきケアの優先度をつけることが可能となります。
メリット3:新たな気づきとデータに基づいた科学的根拠を生み出す
蓄積された介護データを用いて構築した本AIが導いた結果は、ベテランのケアマネージャーの視点をカバーできるだけでなく、通常の業務では考えていなかった新たな気づきを得ることができます。また、これまでの介護の経験に対してデータに基づいた科学的な「根拠」、「裏付け」を生み出すことが期待できます。
以上が、本アプローチを導入するメリットです。
最後に
本アプローチにより、ケアの質の向上と平準化が実現できれば、介護度の重度化の予防に繋がると考えます。そして、図4に示すようにフィードバック機能の高度化が、高齢者の「自立支援」および「介護予防」に貢献することができれば、介護事業者や介護ソフト会社だけでなく厚生労働省・自治体にも介護給付費の抑制やエビデンス創出(自立支援・重度化防止のための科学的裏付け)等の恩恵を享受することができるでしょう。
図4:フィードバックの内容に応じた効果
今後デロイト トーマツは、介護事業者、介護ソフト会社、自治体等のステークホルダーとディスカッションを重ね、日本中どこでも質の高い介護を受けられる環境を目指すために本AIを活用したサービスの具体化と高度化を図ってまいります。
【参考文献】
[1] CVAEを用いた理想状態推定
第34回人工知能学会全国大会論文集 2P5-GS-3-04 2020年
有限責任監査法人トーマツ 宮村 祐一、神津 友武
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2020/0/JSAI2020_4Q3GS903/_article/-char/ja/ (外部サイト)
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