Posted: 05 Oct. 2021 3 min. read

第5回:指名委員会で監督機能拡充

シリーズ:コーポレートガバナンス・コード改訂の要点

本稿は日経産業新聞に2021年8月25日~9月8日まで掲載された寄稿を一部改訂したものです。

2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、独立社外取締役の役割がポイントとなっている。これは経営の監督機能と執行機能を分離するために、取締役会が監督機能をより発揮できるようにすることを狙ったものだ。

監督機能強化については前回の2018年6月の改訂でも「任意の指名委員会」の設置を求めた。任意の指名委員会とは、指名委員会等設置会社でない企業における取締役会の諮問機関であり独立社外取締役を主な構成員とする組織で、役員の選解任や社長・最高経営責任者のサクセッションプランの策定・運用を担う。

東京証券取引所が2021年8月に公表した調査では、東証1部上場会社の66.3%が指名委員会を設置しており、社長・CEOの指名プロセスの客観性を高める活動が浸透されつつあることがうかがえる。

今回の改訂ではさらに一歩踏み込んだ形で監督機能強化のため、量と質の両面からのアプローチを要求している。

量では、2022年4月の東証再編で最上位となるプライム市場で過半数、それ以外の市場で3分の1以上の独立社外取締役を任用することを求めている。

質では、指名委員会で各取締役のスキルについて企業戦略上必要なものがそろっているか棚卸しするとともに、取締役会として持つべき知識や経験、多様性を把握し、取締役会が期待する役割を果たすことができるのか議論するよう求めている。

このスキルを棚卸しして明示したものが取締役の知識や能力を一覧表にした「スキル・マトリックス」である。特定のスキルを持つ取締役を社内外で計画的に採用・確保するために指名委員会で継続的に議論することが重要である。


では、指名委員会はスキル・マトリックスをどのように使えばよいのだろうか。例えば、豪英資源大手BHPグループは2018年に自社で不足するスキルを特定・開示した上で、それを補う社外取締役の採用活動を継続的に実施。2020年にテクノロジーや鉱山に知見のある専門家を社外取締役に招いた。スキル・マトリックスを効果的に活用している好事例だ。

スキルだけではなく、役員にはふさわしい行動特性と資質も求められる。それらを指名委員会で定義し、現状との格差をどう埋めるかに関して「後継者計画」「選解任案」を議論することも重要だ。

不確実性に対応するには取締役は特定の企業内のみで通用する特殊スキルではなく、社外でも通用する様々なスキルや資質が求められる。そのため、将来の経営を担う執行役員や部長といった管理職をはじめ、一般の従業員も含めた全社での多様性が求められる。このため、社長・CEOの後継者計画は全社の人材プランと連動させて検討することが肝要である。

今後の指名委員会の役割は全社を挙げて多様性ある次世代経営層をいかに育成するかにあるともいえる。この取り組みが、一段と激しくなっている経営環境の変化と経営課題の複雑化が進む現代を勝ち抜くカギになる。

 

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