Posted: 27 Oct. 2021 3 min. read

第11回:プライム市場、責任より重く

シリーズ:コーポレートガバナンス・コード改訂の要点

本稿は日経産業新聞に2021年8月25日~9月8日まで掲載された寄稿を一部改訂したものです。

東京証券取引所は1部、2部、ジャスダック、マザーズに分かれている現市場区分を、2022年4月からプライム、スタンダード、グロースに再編成する。これに伴う既存の上場会社による新市場の選択申請が9月より始まった。6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードは選択する新市場によって適用範囲が異なる。各上場会社は新市場に応じたコードの改訂項目に関する会社の現状を踏まえ、対応方針を検討し、経営陣や取締役会に報告する準備をしている時期だろう。

最上位となるプライム市場のコンセプトは「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする(責任を持つ)企業向けの市場」とされている。

東証は6月末時点で、現1部上場企業2191社のうち、プライム市場の上場維持基準に適合している企業数は1527社(約7割)、残り664社(約3割)は不適合という一次判定結果を発表した。不適合の要因は様々だが、時価総額基準を満たしていない企業が多いと思われる。また、時価総額の大きい企業でも、金融機関や事業法人の持ち合いが多い株主構成のため流通株式比率の基準を満たせずに不適合となった企業もある。

一次判定で不適合となった企業も経営戦略や株主構成の見直しを踏まえた適合計画書を作成・提出すればプライム市場に上場することは可能だ。しかし基準に適合しない場合、株価指数「TOPIX」における構成比率が段階的に引き下げられ、株価を押し下げる要因になるだろう。

またプライム市場は「より高いガバナンス水準」が期待されており、改訂コードではより厳しい内容にした原則が6つある。(1)議決権電子行使(2)英文情報開示(3)気候変動に係る影響について気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組みなどによる「対話・開示」に関する項目(4)独立社外取締役の割合(5)支配株主を抱える上場会社の独立社外取締役の割合もしくは特別委員会の設置(6)指名委員会・報酬委員会の独立社外取締役の割合と役割や権限等の開示といった「取締役会や委員会の構成」に関する項目――である。

お気づきの方もいると思われるが、これら6つの原則はいずれも実施済・未実施という対応水準が外形的に判別できるものだ。プライム市場が多くの機関投資家の投資対象であり、投資家との建設的な対話を中心に据えるというコンセプトを踏まえると、対応したほうが望ましいだろう。

しかし、6つの原則すべてに準拠していても資本効率が低く、業績や株価が低迷しているような企業は投資魅力に欠け、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットするという市場コンセプトには応えられていない。

プライム上場会社にまず期待されるのは、中長期な企業価値の向上を市場にコミットするために、その根拠となる環境変化を踏まえた事業ポートフォリオの見直しなどの経営戦略や、リスクテイクの裏付けとなるリスク管理体制の監督状況などの実態面を検討することだ。企業価値を創造するストーリーの中に今回の改訂で示された項目を織り込み、市場へのコミットに説得力を持たせることが、上場企業に求められている。

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山内 達夫/Tatsuo Yamauchi

山内 達夫/Tatsuo Yamauchi

有限責任監査法人トーマツ パートナー

有限責任監査法人トーマツに入社後、監査業務や株式公開支援業務に従事したのち、(社)日本証券業協会、(株)ジャスダック証券取引所上場審査部(現 日本取引所自主規制法人)に出向し、新興市場の上場審査業務に関与。 また、2012年より経済産業省経済産業政策局にて産業競争力強化法や、コーポレートガバナンス施策、組織再編税制・連結納税の改正業務に関与。 現在、取締役会・監査役会などコーポレートガバナンス、グループガバナンス、リスクマネジメント体制構築、経営戦略・事業等のリスクなど非財務情報を活用した経営管理体制構築などのコンサルティング業務に従事。 主な共著書として、『コーポレートガバナンスのすべて』(日本実業出版社)、『産業競争力強化法逐条解説』(経済産業調査会)他がある。