第7次エネルギー基本計画を踏まえた企業のGX推進の考え方 ブックマークが追加されました
政府が2024年末に発表した第7次エネルギー基本計画の原案を発表したが、再生可能エネルギーや水素技術の導入拡大、そしてエネルギーシステム全体の構造改革が求められている。これを踏まえた企業のGX推進の在り方を考察する。
2025年に開催される大阪・関西万博では、水素エネルギーの実証実験やペロブスカイト太陽電池の展示など、最先端のグリーントランスフォーメーション(GX)技術が出そろう。万博で紹介される技術やシステムは、政府が2025年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画とも関連しており、再生可能エネルギーや水素技術の導入拡大、そしてエネルギーシステム全体の構造改革が求められている。この背景には、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の急速な進展による電力需要の増加、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーコストの高騰、円安や資材価格の上昇といった複合的な課題が存在する。
第6次エネルギー基本計画(2021年)では、原発の再稼働や再生可能エネルギーの順調な導入、電力需要の減少を前提としていた。しかし、DXやAIの急速な普及により、データセンターや半導体工場の電力消費が予想以上に増加し、この前提は大きく崩れた。第7次エネルギー基本計画では、こうした状況を踏まえて現実路線に移行している内容だが、多くのチャレンジを見越した「野心的」な目標といえる。政府は150兆円規模の官民投資を誘発するGX計画を推進しているが、補助金や公的資金だけでは足りない現実も浮き彫りとなっている。企業はこのギャップを埋めるために、自社の投資戦略やリスク管理の見直しを迫られているのだ。
GX推進には、水素、CCUS(炭素回収・貯留技術)、ペロブスカイト太陽電池といった次世代技術の導入が不可欠である。しかし、これらの技術はまだ成熟しておらず、高コストかつ不確実性が伴うため、企業にとっては大きなリスクとなる。企業は複数のシナリオを想定し、技術開発の進展状況や市場動向を見極めながら柔軟に対応する必要がある。
また再生可能エネルギーの調達競争も激化が予想され、省エネや再エネ導入を早期に進めた企業が市場で優位に立つ可能性が高い。特に、データセンターやAI技術の普及による電力需要の増加に対応するためには、従来の大規模集中型から分散型エネルギーシステムへの移行が求められる。
こうした状況下で求められるのはインテリジェンス機能だ。JERAも今年国内外のエネルギー動向にかかわるインテリジェンス機能の強化のために、シンクタンク「JERA Global Institute」を設立した。
デロイト トーマツもこのような不確実性に対応していくため、産業の枠組みを超えた豊富な知見と高度なエネルギーシミュレーションモデル※を活用している。これにより、企業は将来の需要や技術の進展を的確に予測し、複数のシナリオに基づいた戦略を練ることが可能となる。シナリオ分析を通じて、リスクの最小化と成長機会の最大化を図れるのが強みだ。
※ デロイト トーマツ グループのカーボンニュートラルにおける将来像検討支援
GXの推進に伴い、産業構造の再編も避けられない課題となっている。地方の電力会社は経営体力の低下により、新技術の導入や大規模な投資が困難な状況にある。このため、企業規模の拡大や異業種連携が不可欠であり、M&A(企業の合併・買収)による産業再編が進むと考えられる。また、GXを成功させるためには、技術、経営、ファイナンスの知識を兼ね備えたプロジェクトマネジメント人材の育成が急務である。日本全体での人材不足が深刻化しており、筆者も参画するGXリーグ人材市場創造ワーキンググループでもこの課題に対する具体的な解決策が議論されている。特に、業界・専門領域をまたいだプロジェクトマネジメント能力を持つ人材が不足しており、これを解消するためには、コンサルティング会社や商社の役割が重要になる。
企業にとってGX推進は避けられない課題であり、短期的な利益にとらわれることなく、2040年、さらには2050年を見据えた長期戦略を描く必要がある。省エネや再生可能エネルギーの導入を加速させ、リスクマネジメントを強化するとともに、必要な人材の育成に注力すべきである。GX推進は単なるコストではなく、持続可能な成長と競争力強化のための投資である。この変革の波に乗り遅れれば、企業の存続そのものが危ぶまれる可能性もある。今こそ企業はリーダーシップを発揮し、新たなエネルギー社会の実現に向けた先駆者となるべき時だ。その先にある成果こそが日本全体の経済成長と持続可能な社会の実現に直結するのではないか。
銀行系シンクタンク、米国系戦略コンサルティングファーム、再生可能エネルギー事業会社を経て現職。専門は再生可能エネルギーであり、黎明期よりコンサルティングおよび事業開発に携わる。2017年にDTCに参画後、GX・次世代エネルギー領域のリーダーとして、実事業を通じた経験をもとに官公庁のエネルギー政策から、企業の戦略立案・M&A・入札対応まで幅広く従事している。