デロイト トーマツが進める量子コンピューティングのユースケース ブックマークが追加されました
量子コンピューティングは数百年かかるようなコンピュータの情報処理・演算を数か月から数時間で可能にさせるなど、幅広い領域で社会や産業に革新をもたらすと期待されています。近年の技術進歩により実用化が現実味を帯びてきており、日本においても世界に遅れることなく量子コンピューティングの技術革新に備えることが求められています。
私たちデロイト トーマツ自身も備えの一環として、ユーザー企業やスタートアップと共に量子コンピュータの実証実験を開始しています。ここではその内容の一部をご紹介します。
デロイト トーマツは中外製薬と協力し、合理的な薬物デザインへの量子コンピュータ適用に向けた実証を進めています。
従来の薬物開発プロセスでは、膨大な化合物の組み合わせを試行錯誤しながら最適な薬剤を特定する必要があり、開発期間が長期化する傾向がありました。しかし、量子コンピュータの計算能力を活用して薬剤分子の相互作用を精密にシミュレーションすることで、候補化合物を大幅に絞り込むことが期待されます。
この実証では、アルゴリズムの構築とユースケースの確立を進めるとともに、将来的に必要となるハードウェアリソースの推定を行っています。特に、量子コンピュータと古典コンピュータのハイブリッドシステムによるアプローチが有効であることが分かっており、現段階では量子コンピュータを特定の計算領域に適用することで効率的なシミュレーションを実現しています。
ハードウェアリソースの推定を行うことで、今後見込んでおくべき投資額や運用方法などを事前に組み立てていくことが可能となります。
また、今回の実証により、薬剤分子の特性を分析する新しい手法が確立される可能性があり、今後、より短期間で効果的な新薬の開発が期待されています。
参考:デロイト トーマツが、創薬分野での量子コンピュータ実用化時期の見極めと早期化に向けて実証を開始、新薬開発の知見を有する中外製薬と連携|ニュースリリース
また、三菱ケミカルとイスラエルの量子ソフトウェアスタートアップ Classiq Technologiesと連携し、高性能な有機EL材料探索のための計算において、量子回路の圧縮を実証しています。
三菱ケミカルは以前より、有機EL材料開発における量子コンピュータの適用を研究しており、量子近似最適化アルゴリズム(Quantum Approximate Optimization Algorithm、以下「QAQA」)を用いた新材料の最適解探索を進めていました。しかし、長い量子回路の操作が必要となるため、量子ビットの状態に影響を与えるノイズが蓄積することによる計算精度の低下が課題となっていました。
そこで、デロイト トーマツは三菱ケミカルとClassiq Technologiesの協力のもと、量子回路の圧縮技術の実証に加え、誤り耐性量子コンピュータ時代に真価を発揮するアルゴリズムである量子位相推定アルゴリズム(Quantum Phase Estimation、以下「QPE」)についても実証を行いました。
今回の実証では、
このように量子回路の圧縮に成功したことで、量子コンピュータによる材料開発時の計算精度向上の可能性を示すことができました。また、今回の圧縮技術の応用範囲は有機EL材料にとどまらず、電池材料や半導体材料といった他の材料開発分野、さらには最適化や機械学習といった量子コンピュータの応用領域全般への適用が期待されています。
参考:デロイト トーマツ、ソフトウェア会社Classiq、三菱ケミカルが材料開発用途での量子コンピュータ早期実用化に向けて最大97%のアルゴリズム圧縮を実現|ニュースリリース
このようにデロイト トーマツはユーザー企業やスタートアップと協力し、量子コンピュータの実用化によって起きるだろう社会革新に向けて、黎明期から取り組んでいます。デジタル化など、日本はグローバルの動きに出遅れしまった過去があります。だからこそ、量子コンピューティングはこの萌芽のタイミングからチャレンジし、ユースケースの探索など様々な模索をすることが重要だとデロイト トーマツは考えています。
量子コンピュータによって資源エネルギー・素材、インフラ・公共サービス、医療・製薬、金融、情報通信、自動車・機械などさまざまな業界で、従来の技術では解決できなかった社会課題に対し、新たなソリューションを生み出すことが可能になると期待されています。デロイト トーマツは、リスクを覚悟の上で早くから取り組むことで、量子産業の発展に貢献し、日本社会が技術革新に備えるための基盤を築いていきます。ぜひ、一緒に未来の社会を共に創り上げるチャレンジをしましょう。
補足)
文中、量子力学の原理を利用したハードウェアを指す場合は「量子コンピュータ」、ソフトウェアや理論など、量子コンピュータを使った計算手法や技術全般を含む場合は「量子コンピューティング」、更に量子暗号通信や量子センシングなども含む場合は総称して「量子技術」と記載しています。
寺部 雅能/Terabe Masayoshi
デロイト トーマツ グループ 量子技術統括
日本の量子プロジェクトを統括。
自動車系メーカー、総合商社の量子プロジェクトリーダーを経て現職。量子分野において数々の世界初実証や日本で最多件数となる海外スタートアップ投資支援を行い、広いグローバル人脈を保有。国際会議の基調講演やTV等メディア発信も行い量子業界の振興にも貢献。著書「量子コンピュータが変える未来」。ほか、経済産業省・NEDO 量子・古典ハイブリッド技術のサイバ-・フィジカル開発事業の技術推進委員長など複数の委員、文科省・JSTの量子人材育成プログラムQ-Quest講師、海外量子スタートアップ顧問も務める。過去に、カナダ大使館 来日量子ミッション・スペシャルアドバイザー、ベンチャーキャピタル顧問、東北大学客員准教授も務める。