Posted: 18 Feb. 2021 3 min. read

Social Impact委員会 第2回ゲスト対談企画 「『レスポンシブルビジネス』の在り方とは -社会的責任とビジネスの両立-

ゲスト:元パタゴニア日本支社長 辻井隆行氏 2020年12月16日開催

開催レポート

デロイト トーマツ コンサルティングでは、持続可能な社会実現への貢献の一環として、ビジネスコンサルティングファームとしての専門性と知見を活用した社会課題解決活動「Social Impact」を推進しています。

その一環として、社内会議体「Social Impact委員会」では、当社のネットワークを基に社会課題解決の分野で活躍されるゲストをお招きし、当社CEOをはじめとするプロフェッショナルとの対談企画を開催しています。他のゲスト対談の開催レポートについてはこちらも併せてご覧ください。

2020年12月16日に行われた第2回Social Impact 委員会ゲスト対談企画では、「『レスポンシブルビジネス』の在り方とは -社会的責任とビジネスの両立-」と題し、元パタゴニア日本支社長 辻井隆行氏をお招きし、パネルディスカッションを開催しました。

パネリストとしては、当社Social Impactエクゼクティブアドバイザーを務める羽生田慶介に加え、2018年新卒入社の丹波小桃(Social Impact所属)がZ世代の代表として参加しました。モデレーターは、日テレNEWS24「the Social」など報道番組でのキャスター経験を持つ若林理紗(M&CE所属)が務めました。

辻井隆行氏 プロフィール

 

パネルディスカッション

※画面右上から時計回りに、若林理紗、辻井隆行氏(元パタゴニア日本支社長)、羽生田慶介、丹波小桃

 

 

「サステナビリティ」とは「自然環境が自ら再生できるスピードの範疇で活動すること」

若林:最近「サステナビリティ」という言葉をよく耳にし、私達も口にする一方、この言葉をきちんと理解できているのか、時々不安になります。辻井さんはこの言葉をどのように表現されているのでしょうか。

辻井:ご存知の通り、「サステナビリティ」は「持続可能性」という意味です。持続可能性と一口に言っても色々な捉え方がありますが、多くの場合は「人間を含めた生命がこれまで通り生きていくための地球環境が持続可能か」という文脈で使われていると思います。その場合、サステナビリティの定義とは「会社の経営や社会活動を含む全ての行為を、自然環境が自ら再生・回復できるスピードの範囲内で行うこと」と僕自身は理解しています。

例えばある森の中の大きな木を切って使う必要があるとして、切った後その木のようにまた育つまで40年かかる場合、40年に1回だけ切るのは「サステナブル」と言えるでしょう。ですが、効率を上げたいから、とそれを超える頻度で切り始めてしまったら全くサステナブルではない。対話が噛み合わなくなることを防ぐためにも、この定義を大事にしたいと考えています。

羽生田:端的で、すごく胸に刺さる表現ですね。我々コンサルタントは企業の方と話すことが多いですが、直近はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)関連の政策の広がりを踏まえ、「制度」対応としての議論は増えているものの、そういったサステナビリティの「本質」を考えるような話はあまりできていないかもしれません。

ネガティブなインパクトを最小限に抑えるのが企業の責任

辻井:実は、パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードはサステナビリティという言葉を使うことを嫌っていました。先ほどの定義で言えばパタゴニアも全くサステナブルではない、つまり「自然環境の回復より速いスピードで資源を消費してしまっている」と認識していたからです。ただ、出してしまったネガティブなインパクトをゼロにはできなくても、せめて最小限にすることはできる。それが企業として示すべき責任ある態度だ、という考えの下、彼はサステナブルの代わりにレスポンシブルという言葉を使っています。

若林:シュイナードさんの言葉を思い出すと、環境負荷を最小限にすることを非常に重視されていて、環境に対する畏敬の念を感じました。

辻井:そうですね。例えば最近浸透してきたオーガニックコットンも、環境に良いという文脈で売られることがありますが、実際は土を耕して炭素を空気中に放出しながら水を大量に使い、土壌を劣化させていくので環境に良い訳ではありません。そんな中、イヴォンは「Do No Unnecessary Harm(不必要な害をなさない)」というミッションを掲げてきました。農薬、枯葉剤、殺虫剤を使っていなくても、水を消費し、土を耕すことは避けられないので、せめてそうした「害」は最小限に抑えるという考え方です。

ソーシャルメディア等の普及を通じて情報の透明性が必然的に高まっている中、企業が本当にサステナビリティやレスポンシビリティに対して真剣か、という線引きは今後とても厳しくなってきます。SDGsのゴールをいくつか掲げるだけではグリーンウォッシュ(上辺だけの環境配慮活動)とも言われかねない社会になりつつある中、「Do No Harm」までは難しくとも「Do No Unnecessary Harm」を着実に行った上で、ポジティブなインパクトにも取り組むのが理想の企業の在り方だと思います。

企業は自らに向けられた「問い」の変化に気付くべき

若林:透明性という言葉がありましたが、特にZ世代は企業の社会課題への対応に関して厳しい目線を持っているイメージがあります。この点、丹波さんはいかがでしょうか。

丹波:まさにその通りだと思います。就職活動の際は、企業の製品・サービスの機能や認知度だけでなく「どの様な人が作っていて、どれくらい長持ちするのか」「いかに社会価値を創出しているのか」という視点を大事にして企業を選びたい、と考えていました。同世代との会話の中でも、同様の意見を聞くことが多かったです。最近では日経キャリアマガジンでSDGs基軸の就活に関する特集紙面が数回にわたって組まれるなど、就活において企業の社会的責任を重視する傾向が加速しています。そういった想いで企業と向き合おうとしているZ世代に対して、見せかけや上辺のSDGs施策はもはや通用しないのではないでしょうか。

若林:羽生田さんは先日TEDの気候変動対策イベント(TEDxOtemachi Countdown)に登壇されていましたが、世の中の変化をどう感じられましたか。

羽生田:気候変動に対する捉え方は参加者個々でステージは異なるものの、一企業、一個人では解決できないことに対してみんなで取り組んでいこう、という気運が高まっていると感じました。

一方で、コンサルタントとして多くの企業と話す中で、企業側の意識にはまだまだ差があることも痛感しています。今企業にとって重要なのは、自分たちに向けられる「問い」の変化に気付いているかどうかです。従来、企業への「問い」はいくら売り上げたか、どれだけ利益を出したかといった短期的な収益勘定がメインだったわけですが、今、この問い自体が変質しています。今企業が答えるべきは、「御社は10年後も存在するのか」という問いなのです。環境が急速に変化し、市場・産業自体が無くなっていく可能性もあるというリアリティを感じられているか。その上で「自社のみならず、この産業・市場、そして社会を保つ為の投資」を本当に我が事として捉え、実行できているかどうか。これに関しては、企業間で大きく差が開いていると感じます。

さらに言えば、危機意識に突き動かされるだけでなく、前向きな気持ちでそういった活動に取り組めている企業はほんの一握りです。その差を埋めるには、自社だけでは解決できない課題に目標を持って取り組むことで、従来接点のなかった企業やセクターとの繫がりができ、それが新規事業に繋がる…といった成功体験が必要なのかもしれません。

「サステナビリティを楽しむ」という考え方

羽生田:行動変容の必要性を企業や世の中にどう伝えるか、手を替え品を替え、工夫している最中です。例えばデンマークの建築家が提唱した「Hedonistic Sustainability(快楽主義的サステナビリティ)」などは面白い着想だと思っています。人々の生活に我慢を強いる気候変動対応は長続きしない。で、あれば、サステナビリティを追い求めることがどんどん「快楽」になっていくような仕組みを作るべきだ、という考え方です。企業にとっては「快楽」を「利益」と読み替えるのが分かりやすい表現かもしれませんが、「説教」だけでは伝わらないことも多い中、マインドをチェンジさせるためにはこの様な発想からもヒントを得たいと思っています。

辻井:その言葉で思い出した話があります。アパレル市場では、全世界でなんと毎年約3,000億着もの衣料が廃棄されているそうです。どんなに環境に配慮した素材を謳っても、そもそも70億人しかいないのに毎年3,000億着も廃棄するというのは、明らかに地球1個分の需要を超えていますよね。全体としてパイ(市場)を縮小させないといけません。マーケット全体は小さくしつつ、製品は所謂エシカルなものを増やす、という作業を同時にやっていく必要があります。

パタゴニアが取り組むキャンペーンに、“Better than new”をキャッチフレーズに、購入品を修理して長く使うよう呼びかける“Worn Wear”というものがあります。キャンペーンの一環として、長く愛用したパタゴニア製品とのストーリーを、ネット上で消費者にシェアしてもらうという試みも行っていました。僕が特に好きな話があります。確か、あるアメリカのフォトグラファーが、一枚の写真をきっかけに一躍有名になり、人生が大きく変わった。その写真を撮った時に着ていたパタゴニアのカッパを、彼はその後何十年も大事に取っておき、息子が大学を卒業する時に「お前もこれを着て、社会の大海原で本当にやりたいことを、自由に自分の責任で頑張りなさい」と言って渡す、といったストーリーだったと思います。この話を聞いて、確かに新品より素敵だな、父親のそんな思いがあったら大事に着るだろうなと共感を覚えました。

このキャンペーンは修理するほど長持ちするというメッセージを伝えるだけでなく、ポジティブな共感を通じて「長く着るならパタゴニアを買おう」と考える新規の顧客も増やしているわけです。一方で、全体としては市場を小さくしていきましょうというストーリーも備わっています。真面目にサステナビリティを訴求するだけでなく、ストーリーをみんなで共有していくという手法は、マーケティングのプロならではの発想ですよね。

ポストコロナは「一極集中」から「自律分散・域内循環」へ

辻井:僕らが育ってきた50年間は、高速道路、ダム、電力発電所、新幹線などの社会インフラを整える必要がある時代でした。そのために、効率性を追い求めた結果、一極集中が進みました。金融や政治、経済などの機能の多くは、東京に集まっています。でも実はリスクも一極集中させてしまっていることがコロナで明らかになりました。僕も最近知った事実ですが、東京の食糧自給率はカロリーベースで1.5%しかないそうです。地方からの流通が止まったら、東京は食べていけません。

これからは効率重視の一極集中から自律分散へ、という変革が起きてくるでしょう。100%は難しくても6~7割は域内で賄いながら、残りはお互い助け合う、といった域内循環が理想なのではないかと考えています。

羽生田:テクノロジーの進化も、最適化を追求した中央集権的なソリューションの方が先行していますが、やはりそれには限度があります。先ほど辻井さんがおっしゃったように、エコシステムとしての限界もすぐに見えてきますし、何より多額の初期投資を要します。対して、例えば電力デマンドレスポンスのソリューションも、1千億円の投資が必要な中央制御の新システムではなく、既に設置されているレガシー機器を用いた建物単位や部屋単位で最適化する自律分散型のシステムが進化するはずです。世界の気候変動対策は、途上国にも導入できる仕組みでないと成り立ちませんから、自律分散は1つのキーワードになってくるでしょうね。

企業も「財務価値」から「社会価値」で測られる時代へ

羽生田:ビジネスの世界でも、「財務価値」一辺倒ではなく「社会価値」が経営や産業に組み入れられる大きな変革が確実にやってくるでしょう。企業の方に話してもまだ実感いただけないことも多いですが、企業価値を測るにあたり「社会価値」という新たな指標が組み込まれようとしています。

競争の観点では、実はその方が日本にも勝ち目が生まれると考えています。所謂QCD(品質・コスト・納期)の最適化というコモディティ化した戦略の追求ではなく、「会社としての在り方」や「価値観」で選ばれるしか日本企業が生き残る道はないと言えます。そういう意味で、この様な大変革がポジティブに受け入れられることを期待しています。

若林:この大変革に乗らないと、本当に日本は世界に遅れをとってしまうという危機感はZ世代にも強いですよね。

丹波:そうですね、それはすごく感じます。学生時代、イギリスに留学していたのですが、世界各国から来た仲間の多くは「日本企業は文化的背景や技術力、デザイン性などの面でユニークネス(独自性)がある」とポジティブに評価してくれていました。一方、エシカルな商品の流通量やサステナビリティ・SDGsへの取り組み等に関する認知度やランキングは低いので、「せっかく魅力的な商品や技術があるのに、これらのスコアが低いだけで今後選ばれなくなるのは勿体ない」と言われたことがあります。

日本企業にユニークネスを感じてもらえていることを嬉しく思うとともに、「責任ある企業経営」という国際評価が低い領域のギャップを埋めていくことで、まだキャッチアップできるのでは、と希望を感じた瞬間でした。

コンサルタントならではの社会への貢献

若林:(視聴者からの質問を読み上げ)「例えばデロイトトーマツコンサルティングのように製品を持たず、環境活動にも直接関与していない企業は、どう環境問題の改善に貢献ができると思いますか」ということですが、いかがでしょうか。

辻井:パタゴニアの環境保護活動も、最初は「社員食堂内での紙コップの利用を廃止し、マグカップを持参しよう」という社員の声から始まったそうです。どんな企業でも購買機能はあると思うので、例えばそういった形で、自社が使っているものや購買によるネガティブなインパクトをとにかく最小限にする。結果、コスト削減に繋がって会社の経営状態も良くなればこんなに良いことはないので、まずそれが一つですね。

加えて、プロフェッショナルスキルもとても大事です。例えば先ほどの“Worn Wear”キャンペーンの様に、より少ないお金で多くの人にストーリーを知ってもらえる素晴らしいアイディアを出せる方を、世間ではマーケティングのプロと呼ぶわけです。優秀な頭脳と、これまで培ったノウハウ、ナレッジ、スキルセットを持つ皆さんは、困っている企業の手助けができる大切なアセットをお持ちの方達だと思います。

若林:羽生田さんはいかがですか?

羽生田:クライアントの立場にもなって考えられることが、コンサルタントの大事な資質の一つです。コロナ禍にあって、企業は明日の給料を払うために必死です。サステナビリティを広めるためには、「説教」一辺倒では通じません。今の社会のシステム、即ち、この瞬間の経済合理性にも適う語り口で伝えていくことが重要です。ただ変革を要求するだけでなく、「サステナビリティへの変革が利益にもつながる」社会づくりにも貢献できるのが、真のプロフェッショナル・ファームだと思っています。

若林:新卒でコンサルティング業界に入った丹波さんはいかがでしょうか。

丹波:私がこの仕事を選んだ理由として、幅広い企業・業界・課題と接点が持てる点があります。学生時代はエシカルファッションやフェアトレードに関する活動を行っていたので、繊維商社やアパレルメーカーへの就職も検討しましたが、「これらの企業に入社すれば『布』という特定の商材とは向き合えるかもしれないが、布の世界しか変えられない」と思ったのです。私は布以外にもチョコレートやコーヒー、エネルギーといった様々な商材のサステナブルなビジネスモデル構築に興味があったので、コンサルティング会社なら多種多様な業界・課題に関われると思って入社を決めました。

コンサルタントが身につける課題解決スキルは経営課題だけでなく、環境や消費の課題にも通用するものだと思っています。当社だけでも3,000人を超える課題解決のプロフェッショナルがいますが、その知見やスキルを色々な業界に転用できると強い希望を持って働いているところです。

完璧を求めて立ち止まるよりも「良いこと」に一歩踏み出そう

若林:それでは最後に辻井さんより、私たちがこれから変化を起こしていく一員となるために、メッセージをいただきたいと思います。

辻井:僕達日本人の長所の一つとして、とても誠実で正直で真面目だという点があると思います。そのせいか、サステナビリティについて考え始めて、環境問題を真剣に学ぶと、「自分が今完全にサステナブルな生活ができていない以上、発言してはいけない」と考える人が多いように感じています。しかし、それで口を噤んでしまうと環境問題は決して無くなりません。

支社長をしていた頃、よく若い学生の方から「パタゴニアが良いのは分かるが、高くて買えません」と相談されました。そういう時は、自分が実践できていないことでも、希望を語って欲しいと伝えてきました。つまり、「お金がない自分は仕方なくファストファッションを買って、それを大事に着るように心がけている。でも、本当は洋服の背景にいる生産者にも環境にもきちんと配慮された社会を望むし、そんな社会づくりを応援したい」と、発信することを躊躇わないでほしいです。

これは大人にも言えることです。「アクションだけが痛みを癒してくれる」とイヴォンはよく言っていました。完璧を求めて立ち止まっているよりは、ベターな方向に一歩を踏み出す方が絶対に良いはずです。自信を持って、ご自身のスキルセットや経験を活かしつつ、「良いこと」を少しでもやってみようとアクションをとっていただけたら、僕らにとってもすごく有難いですし、頼りになりますね。

 

 

後日行った参加者アンケートでは、「社会の一員として、消費者として何を選択するか見つめ直すきっかけとなった」、「デロイトのプロフェッショナルとしてどうやって『持続可能な社会』を創るかヒントをもらった」等の声が多数寄せられました。

Social Impact 委員会では、今後もテーマに応じてソーシャルセクター等で活躍するゲストを招いた対談企画を開催していく予定です。

 

【問合せ先】Deloitte Social Impact 事務局:JP DTC social impact (R)

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