Posted: 05 Jul. 2024 5 min. read

事業創造と社会変革を加速させる「空間×量子」コンピューティングの破壊力

サマリー:テクノロジーが現実世界と仮想世界を融合させる「鏡の世界」によって切り拓かれる産業変革と事業創造の可能性について、デロイト トーマツ コンサルティングの先端技術の専門家が語る。

 

※当記事はHarvard Business Review(株式会社ダイヤモンド社)にて、2024年6月5日に公開された広告記事を掲載元の許諾を得て転載しています。

先端テクノロジーが、我々の生活や産業に非連続な変化をもたらす時代となった。各種の調査リポートなどからテクノロジーそのもののトレンドを把握することはできる。だが、そのテクノロジーが社会にどのような影響を及ぼし、どんな変化をもたらすのかを見通せないことには、みずからの未来を設計することは難しい。流れに身を任せて未来の到来を待つのではなく、あるべき未来を形づくるために知るべき世界観と意思決定の指針を、デロイト トーマツ コンサルティングの2人の専門家へのインタビューを通じて浮き彫りにしていく。

 

先端テクノロジーがつくり出す「鏡の世界」

不確かな近未来の姿を捉えるうえで参考にしたいのが、デロイトが提示する5つの世界観(*1)である。グローバルで約45万人のプロフェッショナルを擁するデロイトの洞察力に基づいて描き出された2030年の世界観は、次の通りだ。

 

内なる世界/Inner World

テクノロジーは人の体を治癒するだけでなく、長寿や根源的な健康、そして人間の能力を強化するといった世界が現出する。

 

外たる世界/Off World

宇宙の豊富な資源と微重力環境を利用することで、新たなエネルギー源の開発、どこからでも接続可能なネットワークの構築、先進的な製造手法の開発などが進む。

 

争いの世界/War World

テクノロジーが地政学的な敵対行動の中心となり、デジタル領域の中でも戦場を拡大させ、サイバー攻撃が金融と物理的インフラを脅かす。

 

居住可能な世界/Habitable World

環境適応型のスマートインフラ、二酸化炭素の回収・貯留、クリーンエネルギーなどの技術が、地球の持続可能性を高める。

 

鏡の世界/Mirror World

テクノロジーが現実世界のデジタルツインをつくり出し、新しい形のコミュニケーションや社交、コミュニティの形成、革新的なプロトタイピングなどを可能にする。

この5つの中でも本稿では特に「鏡の世界」を掘り下げ、それを支えるキーファクターである「空間コンピューティング」「量子コンピューティング」のハイブリッドな活用が切り拓く可能性について、デロイト トーマツ コンサルティングの先端技術R&Dチームをリードする寺園知広氏と、量子技術プロジェクトを統括する寺部雅能氏に聞いていく。
 

 

空間と量子、2つのコンピューティングの相互補完性

——空間コンピューティングと量子コンピューティングのハイブリッドな活用が進むことによって、どのような世界が現れるのでしょうか。

 

寺園 一言で言うと、現実世界と仮想世界の融合です。デジタル空間で現実世界が臨場感を持って再現される一方で、私たちがいる空間にまるで本物のような物体や人、情景をデジタルコンテンツとして呼び出せるようになります。そして、2つの世界はリアルタイムかつインタラクティブに融合します。

寺園知広
Tomohiro Terazono
デロイト トーマツ コンサルティング ディレクター
先端技術R&Dチームリード

 

そのような鏡の世界では、人類の欲求は物質的な充足よりも「精神的な満足や安全と健康」に向かうと予想されます。企業は、より人間らしい要素、人の五感に働きかける要素に食い込んでいかなければ、ニーズを満たせなくなります。

その状況においては、現在のAI(人工知能)を活用したデータ分析で実施されているレベルを超えて、これまで認知できていなかった次元(空間・環境、深層心理など)の情報を把握、補完し、デジタル空間上でプロトタイピングを走らせ、プロトタイピングの主体の内と外(社内と社外など)の情報を組み合わせたシミュレーションができてこそ、ニーズを満たす施策が打てるようになっていきます。

個人のレベルだけでなく、コミュニティ、企業、社会、国家、地球のそれぞれのレベルで、プロトタイピングとシミュレーションが日常的に行われ、人も企業も政府も、より適切に、安全に、低コストで意思決定できるようになるでしょう。

 

寺部 そうした鏡の世界を実現するには、センシング技術の高度化と圧倒的なシミュレーション精度、リアルタイム応答性が必要であり、空間コンピューティングと量子コンピューティングが大きな柱となります。

シミュレーションには2つのアプローチがあります。物理法則や経験則、研究結果などに則った方程式に基づく方法と、実測されたデータからパターンを見つけ出し、データドリブンで動かす方法です。現在はこの2つの組み合わせが重要となってきています。

寺部雅能
Masayoshi Terabe
デロイト トーマツ コンサルティング 量子技術統括

 

空間コンピューティングは、これら2つのアプローチの組み合わせとして、データセンシングとAI、メタバースなどの技術や物理法則を統合したシミュレーションを可能にしますが、シミュレーションの精度や速度には限界があります。そのため、量子力学が支配するミクロ空間の物理シミュレーションと、高速な計算を可能にしうる量子コンピューティングが加わることで、将来さらなる価値が提供されていくでしょう。


 

——空間コンピューティングと量子コンピューティングをどう組み合わせることで、どんなことが可能になるのでしょうか。

 

寺部 ミクロからマクロまで3つのユースケースを説明します。

まずミクロレベルについて言うと、量子コンピュータは量子の性質を利用しているため、分子・原子のシミュレーションに非常に適しています。たとえば、創薬や材料開発において分子・原子の振る舞いを計算する量子化学計算は、計算量が膨大です。そのため、シミュレーションはある程度の近似をせざるをえないのですが、近似が入ることで実物の振る舞いとは異なるため、試作の回数も多くなってしまいます。

量子コンピュータを使えば、劇的に計算時間を短縮できるようになることが期待されます。そのシミュレーション結果を空間コンピューティングで可視化することで、創薬や材料開発の生産性が飛躍的に高まります。

 

寺園 ミクロとマクロの中間レベルでは、人体シミュレーションの例が挙げられます。高精度な量子センシングによる細胞レベルでの診断、空間コンピューティングを使ったセンシング技術とAIによる臓器や血管などのプロトタイピング、量子コンピューティングによる膨大な計算量が必要な人体構造・機構のシミュレーション統合などにより、病気の早期発見や新たな治療法の開発、本番さながらの手術トレーニングといったユースケースが想定され、一部は実証的な研究が進んでいます。

マクロレベルでは、市場や商圏の高度なシミュレーションが進みます。たとえば、動的なデータセットを使った金融市場シミュレーションの試みはすでに始まっています。また、一人ひとりに個性や特徴を持たせたデジタルキャラクターの集団が、都市の物理世界を再現したデジタル空間上で店舗を出店した時にどう反応するかといったシミュレーションを高精度に行うことができるようになるでしょう。

いずれも、量子コンピュータの桁違いの計算能力や量子AIとの組み合わせで、飛躍的な進歩が期待できます。

 

 

鏡の世界を実現する技術コラボレーション

——デロイトでは、鏡の世界を実現する取り組みとして、何を行っていますか。

寺園 2023年秋に開設した、スマートファクトリーを体験できるイノベーション施設「The Smart Factory by Deloitte @ Tokyo」(*2)では、製造ラインのデジタルツインを構築し、センシングデータに基づく故障予知やトラブルシューティングなどを生成AIが支援する環境を実現しています。また、Deloitte Tohmatsu Innovation Parkをミラーリングし、人の位置などのセンシングデータによるリアル・デジタル空間の融合を実現させ、実証実験環境としてご提供しています。

クライアントとは、人の脳波をセンシングして心理状態を把握し、それによる照明の自動調節、音楽などのコンテンツの切り替え、利用者への接客方法の変更などを制御するプロジェクトも行っています。加えて、自治体とはデジタルツイン空間を利用した地域活性化の検討などを進めています。

 

寺部 量子コンピューティングの領域では、がんの要因となるタンパク質と薬の化合物の結合性評価を分子シミュレーションで行う実証試験などを実施しています。


 

——鏡の世界をビジネス実装するうえでのポイントは何でしょうか。

寺園 技術の「コラボレーション」と「オーケストレーション」です。空間コンピューティングでは、AI、XR(クロスリアリティ:仮想現実・拡張現実・複合現実などの総称)、センシング、web3などの技術、データアナリティクスや人間工学、アートなどの専門性をかけ合わせる必要があり、さらにアクセラレーターとして量子技術が加わってきます。

今後、社会に変革をもたらすようなビジネスやサービスを実装していくうえでは、最初から技術・専門領域を超えて組み合わせることを前提とした発想が重要です。

私たちデロイト トーマツ コンサルティングは、2023年に30人体制の先端技術R&Dチームを発足させ、専門技術の深掘りと、異なる領域のコラボレーションを加速させることで、技術横断でクライアントをサポートできる態勢を整えています。

 

寺部 2024年初頭には、日本の量子産業創出に向けて「Quantum Harbor」プロジェクト(*3)を発足させました。量子分野のR&D、ユースケースの企画、ビジネス活用など事業創出を進めるとともに、国内外のプレーヤーとのエコシステム形成、量子人材の育成を手掛けています。

これは50人体制のプロジェクトで、各インダストリーに精通したコンサルタントと、化学や金融工学、理論物理の博士号取得者といったサイエンティストがそれぞれの専門性をかけ合わせ、さまざまな業界を量子技術で変革していくことを目指しています。

先端技術R&Dチームの他のプロジェクトとは積極的にコラボレーションしており、化学業界向けに製造ラインのデジタルツインを量子コンピュータとの組み合わせによって高度化する検討を進めたり、ある製造業の2030年をターゲットとしたサービスコンセプト構築のために、AI、センシング、XRなどの技術横断でMVP(実用最小限の製品)開発を支援したりしています。


 

エヌビディアとのアライアンスが実装の大きな力に

寺園 技術コラボレーションの成果を実装するには、実装レイヤーでのオーケストレーションや統合力がカギになります。この実装レイヤーでデロイトの大きな力となるのが、エヌビディアとのアライアンスです。

エヌビディアの産業メタバース開発プラットフォームのNVIDIA Omniverse Enterpriseや企業AI開発のプラットフォームのNVIDIA AI Enterprise、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)プラットフォームは、CUDA(Compute Unified Device Architecture)並列処理プログラミングアーキテクチャーをベースとした同じ設計思想でつくり込まれていて、実装レイヤーではKubernetesコンテナーによってスムーズに連携でき、高性能GPU(画像処理半導体)の計算能力を最大限に引き出せます。

エヌビディアの技術コンポーネント群は、まさに技術オーケストレーションを可能にする土台といえます。同社は、量子コンピューティングのアプリケーションやアルゴリズムを開発するためのクラウドサービスを開始するなど、量子技術の探究にも力を入れています。

これらのプラットフォームをデロイトの先端技術知見でフル活用し、技術要素を統合的に編成して価値あるものに仕立てていく。それが、ミラーワールド(鏡の世界)の世界観を実現する最短の道だと考えています。

 

*1 「2030年、テクノロジーの進歩がもたらす5つの世界」について、詳しくはこちら
*2 「Quantum Harbor」プロジェクトなどデロイト トーマツ コンサルティングの量子産業創出に向けた取り組みについては、こちら
*3 デロイトとNVIDIA(エヌビディア)のアライアンスについて、詳しくはこちら

 

プロフェッショナル

寺園 知広/Tomohiro Terazono

寺園 知広/Tomohiro Terazono

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

デロイト トーマツ インスティテュート フェロー 金融機関・製造業をはじめ、様々な産業向けに先端技術の調査/探索・評価・ユースケース検討・ビジネス適用/実装などのコンサルティングを数多く手掛け、AI・量子技術・空間コンピューティング(メタバースなど)・web3/DAOなどの技術を幅広く担当している。大学などアカデミアを含めた産学官のテクノロジーエコシステム形成の経験も豊富。   >> オンラインフォームよりお問い合わせ