Posted: 25 Nov. 2024 10 min. read

AIで経営を加速:未来からのバックキャストで取るべきアクション

「WIRED Singularity powered by デロイト トーマツ グループ AI Experience Center」登壇者アフタートーク

デロイト トーマツ グループは”未来を実装するメディア”『WIRED』日本版とタッグを組んだ、1dayビジネスカンファレンス「WIRED Singularity powered by デロイト トーマツ グループ AI Experience Center(外部サイト)」を9月2日(月)に大手町三井ホールで開催した。申込開始から2週間程度で約500席が満席という盛況ぶりで、ビジネスでAIをどう実装するかという点に注目が集まっている証左となった。

カンファレンスのオープニングは著書『シンギュラリティは近い』で知られ、続編『The Singularity is Nearer』を上梓したレイ・カーツワイルが登壇(録画)。シンギュラリティがもたらすインパクトとその後の世界に迫った。

具体的な内容は本編のレポート(外部サイト)に任すとして、ここではこのイベントのパートナーを務め、日本初となる共創型AI体験施設「AI Experience Center」を東京・丸の内に設立予定のデロイト トーマツ グループの登壇者たちの声から、AI×ビジネスの未来についてさらに読み解いていく。

 

AIトランスフォーメーションが不可逆に起きている「今」に向き合う

Session 2 AI Company Vision 2045では慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏らが登壇。「AIは幻滅期のタイミング」(宮田氏)と現在地をとらえながら、しかし指数関数的な成長は起き続けており、この流れは止まらないことについて登壇者らが同意。だからこそビジネスは未来からのバックキャストでアクションプランを練る必要性が説かれた。

 

AI研究の資金と関心が減少する時期をAI Winter(AIの冬)といい、過去に何度もその時期はあった。しかし、オープニングでレイ・カーツワイルがAIによる世界のトランスフォーメーションは不可逆的に起きていることを強調。社会・経済の変化があっても、テクノロジーはその動きにほとんど左右されず、指数関数的に進化を遂げてきたと話した。つまり「今ダウントレンドだからAIに手を出さない」ではなく、ビジネスで必須となったAIをどう使いこなしていくかという点に誰もが向き合わなければいけない時代となったのだ。

「Session 2:AI Company Vision 2045」では慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏らが登壇し、AIが未来のビジネスに与えるインパクトを議論。その中で世界ナンバーワンであった日本の携帯電話市場・技術がスマートフォンの波にのまれてしまったことを例えにし、AIで同じ轍を踏んではいけないという話も出た。

現在はインターネットやスマートフォンが生まれたばかりの時代と同じ様に、世界中のビジネスマンや起業家がAIによる新しいビジネスやトランスフォーメーションを考え、まさに社会実装に移そうとしている状態だ。ここでこの大きな波に乗らず足踏みしていると、世界の潮流に追いつくことができない。でも、どうやって?

ビジネスにおけるAI実装がどのような成果を生み出すのか――? その問いに答えるのが日本初となるデロイト トーマツの共創型AI体験施設「AI Experience Center」(AEC)だ。AECはCxO向け体験型施設で、2~3時間でAIについてのビジネス実装における解像度を圧倒的にあげられるプログラムを用意。リアルな場だからこそ、オンラインでは得られない高密度の体験を得られ、一気にAIトランスフォーメーションを加速できる。この施設の設立よりも前から、デロイト トーマツでは全世界150を超える国・地域のメンバーファームとのネットワークを通じて蓄積されたナレッジを元に、AIをビジネスや社会に実装し、すでにユースケースも多数生まれている。

その一部のユースケースは本イベントのメインセッションと同時進行で催されたソリューション・ラウンジで紹介された。ここでは、デロイト トーマツとそのアライアンス企業であるGoogle、NVIDIA、Adobe、富士通など注目企業がピッチを行い、いかなるAI戦略を採用し、具体的にどう実装を進めているのかを紹介したのだ。

 

情報過多と加速度的な進化に振り回されない「ぶれない軸」を持つ

Session 3 Who Leads the AI Transformation?にメタ・プラットフォームズ AIパートナーシップ・ディレクターのサイ・チョウドリ氏らと共に登壇した首藤。メタがオープンソースの「Llama 3」を公開する狙いから、多様化するAIモデルとその先にあるAIトランスフォーメーションの見通しを探った。

 

「AIの最前線をお伝えできるイベントになりました」そう話すのはデロイト トーマツ コンサルティングの首藤佑樹だ。首藤は「Session 3:Who Leads the AI Transformation?」に登壇し、多様化するAIモデルとその先にあるAIトランスフォーメーションの見通しを語った。

「私のセッションで見えてきたのは、この1年半でChatGPTが主流だった生成AIの世界がGoogleやメタも含めた多様なプレーヤー、汎用型や特化型、大小様々な規模のAIモデルが登場し“選択の難しさ”が浮き彫りになってきたことです。ユーザー側は選別眼、目利き力が必要となり、技術的・ビジネス的にしっかりと評価して自社の戦略に適合するかを判断しなければなりません」

首藤 佑樹│デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Chief Growth Officer

20年以上のコンサルティング経験を有し、現在はCGOとして戦略、アライアンス、イノベーション、AIを含む先端技術等を統括。また、Deloitte Asia PacificにおけるTechnology, Media & Telecommunications(TMT)のリーダーであり、Global TMTのエグゼクティブボードメンバーも担う。

 

そして、それが企業力に直結すると首藤は断言する。大企業向けであればCRMならセールスフォース、ERPならSAPやOracleといったような選択するにあたり軸となるソリューションがAIの世界ではまだ確立していない。技術的革新は日々行われており、今日のスタンダードが明日には消えている可能性もある。

「大切なのは、経営側でスタンスをかためてどのようなAIが自社に適切かを判断する“ぶれない軸”を用意すること。技術の進化が早いからこそ、技術に振り回されてはいけません。その上で、2030年時点で自社は何をしているのか(すべきなのか)を予測し、バックキャストで現在取り組むべき事に目を向けていく」

セッションでは、日本のAI投資は足りていないことも話題になった。日本ではROIを重視されがちだが、今やインターネットやスマートフォンをROIで見る人は誰もない。

「自社のデータ、それも非構造化データを含め、そこに価値を見いだし、AIドリブンで成長戦略を描くことは簡単ではない。経済社会の全体像を俯瞰し、自社の競争優位と差別化ポイントをデータとリソースに沿って適切に描き、その上で必要なところからAIを取り入れていくことが求められます。まずは社員が使いこなして慣れることが重要ですが、その後は自社や業界視点で変革シナリオを描く必要があります」

生成AIもテキストデータのみを扱う大規模言語モデルLLMや小規模言語モデルSLMから画像も理解するVLM(Vision-Language Model)へ。そしてマルチモーダルAIに成長していくだろう。その時に自社の経営と成長にAIをどう使いこなすのか判断をするのは他の誰でもない、企業の経営層だ。

 

新技術に人間はどのように関わるのか? という「問い」に向き合い続ける姿勢

Session 4 Humans Flourish and AI Ethicsは歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリのレクチャーを起点に、東京大学 理事・副学長の林香里氏とデロイト トーマツ リスクアドバイザリーの金英子らが登壇、AIの開発を人間の意図や社会の倫理原則に合致させるAIアライメントについてディスカッションした。

 

「ハラリ氏が技術的発明は益にも害にもなり得る。刃物は凶器にもなれば、医療用メスや調理器具にもなれると語ったように、AI技術にはその両面があり、私たちがどう向き合うかが問われています。YouTubeの例では、かつてはコンテンツの受動的な消費者であった人間が、数年後には能動的な創作者へと変わっていった流れがありましたよね。ここで共感できるのは、新技術やサービスが生まれた時、そこに注目するだけでなく、将来人間がそこでどのような役割を果たすのか? つまり人の可能性について考慮する必要性があるということです」

金 英子│デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 パートナー

情報理工学博士。国内大学院や海外研究所での研究員職、IT事業会社や総合コンサルティングファームでの経験を経て、現職にいたる。現在は、幅広い業界・業種のクライアント向けに、顧客分析、知財分析、人事データ分析、介護・医療データ分析、異常検知など、データやデジタル技術を活用したデータドリブン経営のコンサルティングプロジェクトをリード。また、ライフサイエンス・ヘルスケアにフォーカスしたAnalyticsチームをリード。

 

デロイト トーマツ リスクアドバイザリーの金英子は、「Session 4:Humans Flourish and AI Ethics」に登壇。ハラリ氏の語る「人間はどのような存在か?」「新たな技術と人間はどのように関わるのか?」という問いは企業が特に真剣に考えるべきテーマだと指摘した。

「例えば、車と高速道路、運転手の関係を考えてみましょう。車という技術が登場したことで、人々はより速く、遠くへ移動することが可能になりましたが、その恩恵を受けるためには、高速道路というインフラや交通ルール、運転をする人のマナーが不可欠です。これがなければ、車はただの危険な道具にすぎません。AIも同様です。AIという強力な技術の恩恵を最大限に享受するためには、各国で整備されているAI規制やガイドライン、そして企業や個人が守るべき倫理が必要です。技術の進化は重要ですが、それを活かすためには「攻め」の姿勢だけでなく、倫理やリスクマネジメントといった「守り」の部分も同様に重要です。企業がAIを経営に組み込むに当たり、リスク面を視野にいれて具体的なHOWにつなげていく必要があります」

ハラリ氏の言葉を借りるなら、かつて「哲学者は理想的なユートピアを描き、技術者はそれが実現できない理由を説明する」という長い歴史の役割が、今は逆転し「技術者がさまざまな新しいツールを生み出し、哲学者がそれら追いつけない時代」となっています。企業は単に足元の技術で利益を追い求めるだけでなく、AIや技術が持つ潜在的な可能性を再認識し、それが人間社会にどのような影響を与えるかを深く考え、長期的な目線で企業が持つべき社会的責任、そして倫理的な問題も含めた広範囲なリスクマネジメントの観点から自社の技術やサービスを戦略的に考える必要があります。シンギュラリティが社会にもたらすインパクトに対し、人間はどう向き合っていくべきか? イベント最後のセッションにふさわしい参加者に考える種を蒔く内容だった。

このカンファレンス全体を通じて首藤は「イベントの熱量を受けてあらためてデロイト トーマツが提供する価値やAECの必要性をさらに感じました」と振り返る。「ビジネスにAIを実装し、企業が、社会が、どんな未来を紡げるのか? デロイト トーマツはAECをビジネス変革の入り口に、攻めと守りの両面で支援をしていきます」 

 

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デロイト トーマツは、AI活用に必要なデータ収集、分析基盤の整備からAIの導入、運用まで、AIをビジネスの中核に据え、大胆な変革を一気通貫で支援します。

プロフェッショナル

首藤 佑樹/Yuki Shuto

首藤 佑樹/Yuki Shuto

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 Chief Growth Officer

テクノロジー・メディア・通信インダストリー アジアパシフィックリーダー メディア/総合電機/半導体/システムインテグレータ/ソフトウェア等の業界を主に担当し、事業戦略策定、組織改革、デジタルトランスフォーメーション等のプロジェクト実績が豊富である。Deloitte USに4年間出向した経験があり、日系企業の支援をグローバルに行ってきた。 関連するサービス・インダストリー ・ テクノロジー・メディア・通信 ・ 電機・ハイテク >> オンラインフォームよりお問い合わせ

金 英子/Yingzi Jin

金 英子/Yingzi Jin

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー パートナー

情報理工学博士。国内大学院や海外研究所での研究員職、IT事業会社や総合コンサルティングファームでの経験を経て、現職にいたる。現在は、幅広い業界・業種のクライアント向けに、顧客分析、知財分析、人事データ分析、介護・医療データ分析、異常検知など、データやデジタル技術を活用したデータドリブン経営のコンサルティングプロジェクトをリードしている。 対応可能な言語:日本語、英語、中国語、韓国語