Posted: 02 Nov. 2023 10 min. read

プライム上場企業を起点にバリューチェーン全体のSXを実現するESGソリューション

ESGソリューションサービスを展開する各社との対談シリーズ

IFRSでのサステナビリティ開示基準や欧州のCSRD/ESRS、SECの気候関連開示規則案の最終化が進む現在、有価証券報告書の開示項目にサステナビリティに関する記載欄が新設されるなど、経営戦略に企業のサステナビリティ対応が求められるようになった。サプライチェーン、Scope3、人権、生物多様性など、サステナビリティ対応の基盤となるESGデータは多岐にわたる。それら非財務情報の収集や分析だけではなく、連結で財務と同じタイミングでかつ制度や内部統制を含む第三者保証が求められる中、テクノロジーの活用は欠かせない。

今回はbooost technologies株式会社の大我猛氏と金子将人氏にお話をうかがった。

 

■SX領域に特化し専門性の高いメンバー
 

中島(デロイト):まずは自己紹介からお願いします。

 

大我氏:以前は大手ERPベンダーでクライアント企業のイノベーションや新規事業、サステナビリティトランスフォーメーションの支援などに携わっていました。booost technologies(以下、booost)に入社したのは2023年1月です。booostはサステナビリティトランスフォーメーション領域に特化した企業で、メンバーの専門性が高いという特徴があります。日本はまだまだサステナビリティトランスフォーメーションの動きが遅く、コンセプトが先行している状況ですが、我々はクライアントが具体的なアクションを取れるように支援しています。

 

金子氏:以前は国内大手のメーカーに勤務し、地熱発電の技術者としてお客様に価値を訴求する技術営業を担当していました。再生可能エネルギーとして太陽光や風力が普及した今、エネルギーマネジメントが大きな課題になっています。そういった中で、電力の問題をマクロで捉える必要があると感じ、booostへの転職を決めました。booostは脱炭素やESGに領域を拡大していますが、技術者としての経験を活かして活動しています。

 

三沢(デロイト):ESGを語る上で特にテクノロジー活用について様々な課題があると考えている人は少なくありません。中には「ベンダー側のポジションが定まっていない」と指摘する有識者もいます。サステナビリティトランスフォーメーションを支援している御社は、こういった指摘をどのように考えていますか。

 

大我 猛氏(booost technologies株式会社 取締役COO)

 

大我氏:多くの企業は、開示のための情報収集が不可欠で、規制に対応していくことが重要だと認識していますが、その情報を経営戦略に活かす視点が欠けているようです。今後そのレベルをどう上げていくかが肝要になるでしょう。

今後、経営者は財務的なROIだけでなく、CO2排出量などの環境負荷を見て投資の意思決定を行なっていく方向に進むでしょう。ある企業の経営者から、ICP(インターナルカーボンプライシング)を導入し、1トンあたりの金額をこれまでの約4倍にして、新規設備投資の意思決定をしているというお話を聞きました。こういった形で経営の意志決定を行うケースは増えるでしょう。

CO2排出量などの非財務のデータは、財務データと同様に全部門で必要になってくるはずです。例えば、需要予測に基づいて在庫が足りなくなるのであれば補充するというようなことは当たり前のように行っていますよね。非財務に関しても同様に各部門が自立的に動くためには、データが必要です。そこで我々は、「削減のための診える化」を実現するため、より精緻にデータを収集・把握できるようにしています。

このとき留意しなければいけないのは、経営と現場ではデータの粒度が異なるということ。例えば、購買部門はサプライヤーと連携しCO2排出量を下げていく努力が必要ですし、責任あるサプライチェーンを実現するには人権を守っていかなければなりません。事業部門では、環境負荷が低く経営効率の高い事業ポートフォリオに変えていくことが求められます。

このような意思決定を部門ごとに行うには、粒度が異なるさまざまな情報が必要になります。我々は非財務のデータドリブンマネジメントに資する情報を提供し、それに応じてプラットフォームを拡張していこうとしています。

 

三沢(デロイト):各部門が非財務データを自分事として捉えるのは現時点では難しい。例えば電力使用量は事業所や工場単位でしか見ることができません。そうなると、電力削減の責任者は工場長に任されてしまうため、他の部門の部課長は自分事として捉えられない。そういったデータを部や課の単位で提供し、各々が自分事として捉えられるようにする仕掛けが必要になります。そのための精緻な「診える化」は有効だとおもいます。

 

大我氏:我々は、精緻な「診える化」を実現するために、さまざまな仕掛けを作っています。例えば、拠点毎に電力使用量や電力プランを「診える化」し、生産部門や拠点の設備管理をしている部署等がチェックできるようにします。そうすれば、具体的な戦略が考えられるようになるからです。

 

金子氏:電気料金には、燃料費や再エネ賦課金などさまざまな分類があります。全国各地に多くの拠点を抱える企業の場合、エリア毎の状況を正しく把握し、どうやって減らしていくか分析できるようにする必要がありますが、現在多くの企業がスプレッドシートでデータを収集しています。開示目的であればそれでもいいのですが、削減に繋げようとすると難しい。具体的なアクションにつながるソリューションを提供しています。

 

金子 将人氏(booost technologies株式会社 事業本部 セールス部 ゼネラルマネージャー)




■SX推進の前提となるプラットフォームの必要性

 

大我氏:経営層、サステナビリティ担当、総務、施設管理、調達、人事など、さまざまなレイヤーや部門がサステナビリティトランスフォーメーションやDXを推進しようとする場合、集約されたプラットフォームが必要になります。我々は、全ての非財務情報を1つのプラットフォームに集約するという方向を志向し、ソリューションを開発しました。具体的に、どのような情報を取得するのかによって4つのアプリケーションを提供しています。

booost GXがフォーカスしているのはカーボンマネジメントです。ここは自社だけでなく、サプライヤーについても考慮しています。サプライヤーから一次データを取得するためには、サプライヤーとのコラボレーションツールであるbooost Supplierを使用します。業界でも先進的な企業から、booost Supplierを使ったサプライヤーからのデータを収集し始めています。
 

 

先ほど述べた我々のコンセプトに従って、非財務情報を全体的にマネジメントできるように、booost ESGというツールを用意しました。現在、水や廃棄物については実装済みです。その他、汎用的にデータを収集できるアンケート機能の実装を進めています。理論的には、この機能によってすべての非財務情報を集めることができます。使い勝手を上げるため、いくつかテンプレートを作成し、企業側でカスタマイズできるようにして提供したいと考えています。

booost Energyは、具体的に削減につながるように、エネルギーの精緻な「診える化」を行います。まずは電力の管理機能として、電力プランや10分毎/30分毎などの「診える化」を実現していきます。その上で、どこに省エネのポテンシャルがあるかを可視化するため、拠点の設備機器ごとに管理できる機能も用意しました。さらに「創エネ」にも対応しています。例えば店舗の屋根面積を計測し、そこに太陽光パネルを設置した際の発電量のポテンシャルもbooost Energyで管理できるようになっています。

 

中島(デロイト):今のお話にあった多頻度の電力使用量データはどこから取ってくるのでしょうか。センサーのようなものがあるのでしょうか。

 

金子氏:工場ではPLCで機器が制御されているので、そこからデータを取ることができます。使用量だけでは因果関係が見えてこないので、電力使用料だけでなく稼働のデータを取ることが重要です。稼働のデータを見れば、「稼働と電気使用量が見合っていない」、「待機電力が多すぎる」、「生産計画はどうなっているのか」など、様々な問題が浮かび上がってきます。さらに、そのデータからCFPを計算できるので、単なるコスト削減だけではなくCFP算出という2軸で進めることができます。

 

中島(デロイト):サステナビリティトランスフォーメーション領域に関する開発メンバーのリテラシーが高いというお話がありましたが、その背景について教えてください。現在、機能拡張も進行中で、顧客からの引き合いもある中、どんな体制・人数・規模で運営されているのでしょうか。リテラシーの高いメンバーによるシナジー効果があるようでしたら、それについてもお聞かせください。

 

大我氏:創業してから8年目が過ぎ、事業を通じて開発メンバーの知見が高くなりました。booost GXは小売のトップランナー企業が最初のお客様です。

プライムの大企業になるとカスタマイズも必要になってくるので、開発のメンバー、要件定義をするメンバーがお客様と対話できるだけのスキルを身につけていなければなりません。非財務情報は多くのデータポイントでかなりの量を収集しなければならない上、大企業の多くのステークホルダーに対応したプロジェクトの要件定義や管理ができる実装能力が必要となります。そういった意味では本当にお客様に育てていただいたようなところがあります。

 

金子氏:例えば、浸水リスクと地震リスクの管理が顧客の要望だった場合、それを作れば開発は終わります。しかし実装のタイミングで拠点ごとに様々な項目を管理できるといった抽象度の高い実装ができれば、その後幅広い活用方法が可能です。特定の顧客に閉じず、抽象度を上げて展開するのが我々の得意分野でもあり、そこが競争力の源泉になっています。

 

 

■将来のベストプラクティスを作る

 

三沢(デロイト):それでは、社会インフラとして政府が主導する仕組みについてはどのように捉えていらっしゃいますか。例えばOuranosやCatena-Xなども公表されており、従来型のバリューチェーンに外とつなぐ機能が提供されつつあります。将来的にはどのような融合になるのか、そのあたりの方向感についてもお考えをお聞かせいただければと思います。

 

三沢 新平(デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社 デジタルガバナンス マネージングディレクター)

 

大我氏:今ヨーロッパで先行しているCatena-Xは、あくまで企業間のデータ流通のプラットフォームだと捉えています。 そうなると、我々が提供している自社の非財務情報を管理するプロダクトが企業には絶対に必要になるでしょう。後は、各サプライチェーンの中でどのようにやり取りするかという話になります。 日本ではおそらくOuranos Ecosystemになるでしょうし、Ouranos EcosysemがCatena-Xのようなグローバルなプラットフォームとつながっていくというようなイメージを持っています。

一方で企業からすると、Scope1、2、3の対応という喫緊の課題に取り組まなければいけません。CO2排出量削減の努力が進められている今もCO2の排出は続いており、日本でも年間約11億トンずつ排出されています。つまり、毎年ストックとして11億トンが濃度として高まっていくということです。 Ouranous Ecosystemが実用化される2年後3年後までに、22億トン、33億トンというCO2が溜まっていくので、そこをいかに削減していくかが喫緊の課題です。

Ouranos EcosystemやCatena-Xなどとの連携が現実的になってくると、今まであったロジックはそのままで、それらと接続して連携すればいいと考えています。その仕様についても、我々はPACT(The Partnership for Carbon Transparency:炭素の透明性のためのパートナーシップ)に加盟して、国際的なルールでデータを異種システム間でやり取りできるように担保しながら展開しています。

 

三沢(デロイト):まずは関心の高い、視座の高いお客様に対して有効な仕組みを導入するということですね。バリューチェーンの外からのデータの繋ぎが一番難しいと感じている企業は多いですからね。

 

大我氏:多くの企業は、連結対象で非財務情報の収集に関するガバナンスが整備されていない。当然ながらサプライヤーとのコラボレーションもまだできていないのが実状だと思います。

これまで様々な企業のデータドリブンマネジメントを支援してきましたが、組織、人、プロセス、データの四位一体で変革する必要性を肌で感じています。非財務についても同様です。例えばガバナンスが構築されていないという点に関しても、非財務情報をスプレッドシートで集めるガバナンスを本当に構築できるのでしょうか。

社内で標準のルールを設定し、それをスプレッドシートに反映したとしても、各グループ会社の担当者に対する啓発活動という課題をクリアしなければなりません。そもそも何故実施しなくてはならないのか、それが何を意味するのかという教育やトレーニングにまで繋がる問題です。社内はまだガバナンスを効かせることができますが、サプライヤーは社外なので、それほど強制力を働かせることはできません。スプレッドシート整備して標準ルールを設定していくのではなく、 ガバナンスの構築自体にデジタルの力を活用する方が有用です。

毎回ルールの説明を読んで理解するより、システムの中にルールが埋め込まれていて、自然とできるようにしておけば、もっと早く浸透するはずです。我々が提供しているbooost Supplierでは、 活動量を入れたら裏でCO2の排出量が排出源全体のデータベースと照合されて算定できるようになっています。システムの中である程度リテラシーを担保する方が浸透速度を早めるという考えで、そのような機能を実装しようとしています。

 

三沢(デロイト):ESG関連のお話をお客様とする場合、サステナ推進室やESG推進室など、これまでCSRレポートを作っていたところが担当部署になることが多いのですが、デジタルリテラシーやガバナンスは苦手とする人が多い印象があります。こういった取り組みを単独の部門だけで実行するのは難しく、企業全体が一丸となって取り組まなければうまくいきません。ITドリブンとまでいかなくても、そういった視座も重要でしょう。

 

大我氏:そこは大前提だと思いますね。総論に関しては皆さん賛成だと思うのですが、各論に落ちた時にうまくいっていない。その各論をいかに具体化して進めていけるかが重要です。例えばサプライヤーに対してスプレッドシートを使ってデータを収集する場合、それぞれ算定のルールが異なるので、当然ばらつきが出てきます。それを統合したとき、本当に正しいと言えるのか、バイヤー側はその妥当性をきちんと検証できないという問題があります。また、サプライヤーが数千社ある場合、それをバラバラに集めなければならないので、非効率になってしまいます。

例えばシステムの中にある仕様書から材料や重量が自動で入力され、そこに所定の単位を当てて自動で算定し、「必要に応じて修正してください」という処理にすればサプライヤーの教育も楽になりますし、データのばらつきがなくなります。システムがあることによってサプライヤーへの浸透が格段に早まりますし、グループ会社についても同様ですね。我々は、ITデジタルの力を使ってサステナビリティ経営をいかに迅速に浸透させるかというところを支援したいと考えています。

 

中島 史博(有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 ESG統合報告アドバイザリー ディレクター)

 

中島(デロイト):御社の導入実績には大企業が名を連ねていますが、多くの国内企業はまだまだこれからというのが実状だと思います。そういった多くの企業にはどのような課題があり、御社としてはどのように取り組んでいくのか教えていただけますか。

 

金子氏:多くの企業に対し、我々のポジションを上手く伝えられていないと感じています。我々はプライム上場企業のESG全般を得意領域としています。専門性の高いメンバーが要件定義をし、抽象度の高い設計をする体制が整っていますからね。その開発力が我々を支える一番のバックグラウンドであり、それをお客様に正しく伝えていく必要があります。ここが競合他社との大きな差別化ポイントにもなっています。

 

中島(デロイト):よくわかりました。それでは、ESGの範囲拡張に伴う機能の実装についてもお伺いします。まず、規制への対応について、テクノロジーによってどのように実現していこうとしているのか非常に興味があります。直近では、CSRDが欧州に拠点を持つ多くの日本企業に2025年から適用され、2028年には連結ベースでの開示が義務づけられています。これらを見据え、どのようなスピード感で機能拡張やお客様への導入を考えているのかお聞かせいただけますか。

 

大我氏:今、我々が提供しているのは業種横断的なものですが、第一段階として、これをCO2からESG全般への拡張、データの精緻な「診える化」、そして削減や改善につなげていくところまで進化させていく。第二段階は、業種固有の対応です。業種によってルールやマテリアリティが異なるので、そこをより深掘りしなければなりません。第三段階では、大規模な先進企業とのコラボレーションで得た成果をサプライヤーに広めていく。こういった流れを意識しながらプロダクトを進化させていきます。

 

(対談の様子)

 

三沢(デロイト):ESG全般となると元々データを取得し難い領域や定義すら曖昧でどうやって取ればいいのかわからないというケースもあります。仮に取得できたとしても、それを手入力するのか、アンケートのエビデンスを内部統制的にどう判断するのかなど、悩ましい課題が残っています。そのあたりの解決方向や、将来的な対応方法についてお考えをお聞かせ願えますか。

 

金子氏:CO2の排出量に関しては、我々はISOの妥当性検証を受けているので、計算ロジック自体は世界標準に則っています。しかし、誤ったデータを入力されると、正しいアウトプットが得られないという課題があります。そこで、インプットされるデータの正しさを保証するため、入力者とは別に承認者を入れるフローで検証機能を働かせるようにしています。

また、それぞれのデータの単位に証憑を入力する機能も用意しています。これによって第三者保証を取得する時にもデータを辿りやすくなります。ERPにおける内部統制など同様に考えており、確実に監査証跡が辿れるという形であれば、安心して保証に耐え得る仕組みになると思います。同様の仕組みを非財務情報でも構築しなければいけないので、今それをシステムに実装しているところです。

 

大我氏:我々はプライム上場企業が重要なスタート地点だと考え、まずはそこにフォーカスした製品を開発・販売しています。プライム上場企業を起点としてバリューチェーン全体に広げていくことで、日本全体をよりサステナブルな社会にしていきたいと考えています。CO2を皮切りに、水や廃棄物、人権を含む他の環境要因、さまざまなサプライヤー、サプライチェーン全体へと展開し、それによって日本が社会全体のサステナビリティトランスフォーメーションを実現していきたいですね。

 

三沢(デロイト):ありがとうございます。引き続きお話をさせていただき、今後の展開においてもご一緒できればと思っております。

 

中島・三沢(デロイト):ありがとうございました。

(左から、三沢、中島、大我氏、金子氏)

プロフェッショナル

三沢 新平/Shimpei Misawa

三沢 新平/Shimpei Misawa

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー マネージングディレクター

コンサルティングファームおよび外資系ソフトウェア会社にて、デジタルトランスフォーメーション戦略、ビジネスモデル設計、デジタルマニュファクチャリング構想・設計、スマートファクトリー構想・設計、温室効果ガス(GHG)排出量削減を中心としたサステナビリティ戦略などをテーマに、自動車業界および製造業のお客様を中心にビジネス戦略を支えるDXコンサルティング業務に幅広く従事。 デロイト トーマツ グループに入社後は、デジタルガバナンスのマネージングダイレクターとして、自動車・製造業向けに複雑化・不安定化が増すサプライチェーンxサステナビリティxデジタル領域のリスクアドバイザリー関連サービスを提供。

中島 史博/Fumihiro Nakajima

中島 史博/Fumihiro Nakajima

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー マネージングディレクター

外資系大手コンサルティング会社、サステナビリティコンサルティング会社を経て現職。サステナビリティ経営や脱炭素戦略の策定、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応及び気候変動シナリオ分析などに従事。