EPM (Enterprise Performance Management)を理解する ブックマークが追加されました
「デジタル経営管理基盤」としてのEPM(Enterprise Performance Management)活用の可能性について概観したいと思います。筆者はデロイト トーマツ リスクアドバイザリーにてEPMソリューションをベースとしたビジネスを展開しており、少しでも多くの方々がこのブログをきっかけに、EPMの活用の余地、そして私共の展開するEPMビジネスに興味を持っていただければ幸いです。
さて、EPMと聞いて皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか?
筆者の経験上、よく聞こえてくる声としては、ざっと以下のようなイメージでしょうか。
等々。
このようなEPMのもつイメージは、人によってさまざまかと思います。ある面ではどれも当たっており、決して間違ってもいないのですが、EPMの本質を括るには、もう少しEPMを深く理解する必要がありそうです。
そこで最初に、EPMの定義づけがどのようになされているのか見ていきましょう。
Gartnerによると「Enterprise Performance Management (EPM) is the process of monitoring performance across the enterprise with the goal of improving business performance(エンタープライズパフォーマンス管理(EPM)は、ビジネスパフォーマンスの向上を目的とした、企業全体のパフォーマンスを監視するプロセスです)」のように定義されています。
出所:https://www.gartner.com/en/information-technology/glossary/epm-enterprise-performance-management
また、とあるビジネスサイトでは「企業内の経営にかかわる数字を収集、分析し、適切な判断を支援するプラットフォームであり、それを活用するための管理手法およびプロセスも含めた取り組み」と説明されています。
さて、如何でしょうか? なかなかどうして、これらの定義からEPMの本質を理解できる方は少ないのではないでしょうか。そもそもこの手の概念規定は、用いる用語の汎用性から曖昧(幅広な解釈の余地を残す)になりがちです。
また、実際のところ、日進月歩のITテクノロジーの世界では、その進化のスピードに概念規定が追い付かないのが実情であるともいえます。
このためEPMもご多分に漏れず、さまざまな解釈を伴い種々多様な捉え方があるのも事実です。狭くとらえれば、それはあたかもBIの延長にある経営管理ツールの一つでしかなく、広くとらえれば、大量のトランザクションを処理するERP(基幹システム)の一部を構成するエクステンションのように解釈されます。
そこで一つの結論として、「一方向からEPMを一義的にとらえるのは難しく(EPMの用語上の定義はさておき)、むしろその活用における可能性こそが、EPMの在り方を規定する」と筆者は考えたいと思います。
EPMの特性を理解し、その特性からEPM活用の可能性を模索することにより、より明確にEPMを定義づけすることができるのではないでしょうか。
筆者は長年のEPM導入経験からEPMに経営データ基盤としての活用に最大の可能性を見出しています。
Excelシートに収まった中期経営計画から短期予算/予実管理、そして、ERPから取得した実績データから演繹されるトップマネジメントへの重要経営指標~現場KPIに至るまで、統合されたEPMデータプラットフォーム上で経営管理にかかわるすべてのデータを展開することは、経営管理の極みであると言えます。
また、これを連結ベースで捉えれば、EPMは企業グループで統合された全社デジタル経営管理基盤に他ならないのです。
それでは次に、EPMの特性を理解するにあたって、類似するBI等との相違を中心に、EPMの固有の特性を探ってみたいと思います。
そこでまず、筆者はその特質の一つ目としてEPM製品のもつストラクチャ―に着目したいと思います。これは、EPMにカテゴライズされる製品の共通項として括れるもので、以下の論理的な3層に集約して捉えることができます。
ⅰ データ層(データ格納域)
ⅱ アプリケーション層(データ処理、プロセス)
ⅲ プレゼンテーション層(データ可視化)
このようにEPMでは、通常、Fig1に示すような論理層を構成しています(勿論、製品によっては物理的にも切り分けられている場合もあります)。この論理的なストラクチャ―こそが、EPMを特徴づけるものと筆者は理解しており、EPM活用の可能性を広げるものと考えています。
ⅰのデータ層では、強力なデータベースが用意されており、ある製品ではERPのトランザクションデータ(仕訳明細データ)と同じ仕訳属性を保持してデータインポート、変換、格納できます。これは、ERP(基幹システム)でエントリーした仕訳属性としてのディメンジョンの属性をそのままEPM側のテーブルに定義可能であることを意味しており、実質的には、発生時点のデータ入力値を仕訳属性(ディメンジョン)で集約して、実行系データから実績値を取得可能であることを意味します(Fig2)。
この特性は、仕訳属性として定義したディメンジョン「組織」「製品」等から、計画業務における管理軸として定義した「地域セグメント」「製品グループ」等の集約単位へデータ変換することにより、管理軸を切り口とした予実対比やKPIと実績KPIとの差異を知るために有効に働きます。
計画系データは、ERP(基幹システム)にエントリーされる実行系データの前段で作成され、多くの場合Excelシートで管理されています。EPMではETL(Extract/Transform/Load)を標準で装備しているものが大半で、Excel(csvフォーマット)から簡単に計画系データを取り込むことができます。
各部門/部署に点在しているExcelシートの計画データをEPMプラットフォームへアップロードし、会社/組織として共通のデータとして活用することはガバナンスの観点から有効な施策となります。
EPMを理解する上で、計画系データと実行系データとの区分が重要です。
一般に、実行系データはERP(基幹システム)でエントリーされるトランザクションデータ(取引データ)を指します。これを会計の世界で考えると、会計上(の定義では)、取引とは会計の5要素(資産、負債、資本、収益、費用)に増減を生じることであり、これは複式簿記上の仕訳で表現されます。売上の計上を例にとれば、検収基準等の売上認識を満たしてはじめて会計上の仕訳を記帳できるわけです。
デジタルの世界でも同様に、売上認識基準を満たしてはじめて、システムにエントリー(仕訳明細トランザクションとして入力)することになります。このエントリーされた仕訳明細から、GL(総勘定元帳)へ転記されて、勘定科目ごとの実績値(科目残高: ※PL科目ではフロー、BS科目ではストック)が生成されます。
この一方で、デジタルの世界では通常、売上計上エントリーの前段階として、引合いや在庫確保のための在庫予約またはバックオーダー、さらに遡ると、需要予測から算定した供給割当枠等の売上計上につながる計画段階でのデータが存在します。そしてこれらの計画系データは、会計上の5要素の増減を生じることはなく、実績値(PL、BSの科目残高)へ影響を与えることはありません。
この実績値を形成するか否かが、計画系データと実行系データの境界であるといえるのです。
次にⅱのアプリケーション層に目を移すと、ここではデータ層で取り込んだデータを利用して様々な管理プロセスを実行するアプリケーション群を構築することを可能にしています。
通常の計画業務では、各部署で各々のExcelシートで管理が行われていることが多く、これらの各部署に点在した計画管理Excelシートを統合して、Excelライクな(Excelシートをトレースする)アプリケーション群をEPMプラットフォーム上に構築することができます。
EPM製品では通常、アプリケーションを構築する仕組みとして、スプレッドシート、埋め込み関数、グラフ等が用意され、Excelライクなアプリケーションの構築が比較的容易にできます。作成したアプリケーションをワークフローで構成・制御することもでき、管理プロセスをフロー上で運用管理できます。
この管理プロセスを実行するアプリケーションがEPMの最大の強みとも言えます。
静的な“断面”のExcelシート上の固定化されたデータでは、時間経過に伴うデータの推移を観察(ウォッチ)することが難しく、動的(ダイナミック)にデータを管理するには、時系列によるデータを管理するプロセスが求められます。EPM製品では、バージョンやシナリオといったデータ時限を実装しており、動的なデータ管理を可能としています。
BIにカテゴライズされる製品であっても、EPMに近似するストラクチャをもっているものもあります。ただ、データ層で言えば、実績/実行系トランザクションを大量に扱うに十分なパワーを備えた製品はEPMにしか見出すことはできません。また、アプリケーション層では、業務プロセスを構築するにあたっての複雑なデータ処理をこなす機能が不足しており、単純なファンクションレベルの操作しか提供できないものがほとんどです。
最後にⅲのプレゼンテーション層を見てみましょう。プレゼンテーション層は、アプリケーション層の業務プロセスで算出された重要経営指標やKPIを整理、可視化して、上位のマネジメントへの報告を効果的に行うことできます。
従前Excelシートで管理されていた管理指標を取りまとめて報告資料を作成する手間が省けるだけでなく、EPMではデータ層→アプリケーション層を通じてすべてのデータがプラットフォーム上で繋がっていますから、最終的に演繹される重要経営指標やKPIはEPM内で矛盾なく完全に整合します。
これはまた、プレゼンテーション層で表示される重要経営指標やKPIの値からドリルダウン/ドリルスルーして、その計算過程や計算要素(の値)を調査・分析可能であることを意味します。容易に、改善が求められる指標やKPIの値からその原因がどこにあるのかを追跡して原因を特定できるのです。
こう見てくると、BIやERPと異なるEPMの固有の特質として、論理的な3階層のストラクチャをもつことが挙げられ、各々は以下のように特徴づけることができます。
ⅰ データ層
機能面で以下を満たす
・強力なデータベースを内包している
・ETLを介してデータ取り込むことができる
・ERPデータとのリアルタイム連携が可能
・アプリケーション画面から直接入力
具体的に充足される要件
① Excelの計画管理シートから計画系データの取り込み
② 計画系データの画面入力(登録、更新、補正)
③ ERP(基幹システム)から実行系トランザクションデータ連携
④ ERP(基幹システム)の保持する実績データ(残高)収集
⑤ ERP(基幹システム)では保持されない非財務データの収集
⑥ 非財務データの画面入力(登録、更新、補正)
ⅱ アプリケーション層
機能面で以下を満たす
・管理/業務プロセスを実行するExcelライクなアプリケーションを構築
・管理/業務プロセス運用に即したワークフローを構成できる
・バージョン(版数)によりデータを管理、動的な計算構造を持たせることができる
具体的に充足される要件
① 計画業務におけるExcelアプリケーション(Excelシート群)の置き換え
② ERP(基幹システム)機能の一部の置き換え(計画管理と連携する一部機能)
③ 単純な計画/業績管理ツールの置き換え
ⅲ KPI/重要指標の可視化、ダッシュボードの構築
機能面で以下を満たす
・アプリケーションで算定された重要経営指標/KPIの要約と可視化(ダッシュボード)
・ダッシュボードの指標/KPI値からドリルダウンして計算過程、計算要素を追跡できる
具体的に充足される要件
① 経営意思決定に資する重要経営指標、KPIをダッシュボード上にグラフと構成比で展開
② ダッシュボードにトップマネジメント報告ベースのページを配置、報告会で参照
注: ExcelはMicrosoft社の製品名です。