日本の科学技術イノベーションの課題とハイブリット人材の必要性 ブックマークが追加されました
日本経済は、新型コロナウイルス感染症に直面し、2020年4月-6月のGDPが-27.8%と戦後最大の落ち込みとなった。これらの状況を打開するための国家の生存戦略の一つとして、科学技術を基軸としたイノベーションが挙げられる。当シリーズでは、日本における科学技術イノベーションの現状を踏まえ、産学連携や社会実装に繋げるための要点を具体的な課題と解決策の案を交えながら解説していく。
日本は、アメリカ、中国に続き、研究開発費が世界で3番目に大きく、その投資額も近年増加傾向にある。今後の経済社会はサイエンスとテクノロジーによって力強く加速していくことが期待されており、特に、日本の国際競争力が近年低下するなかで、「科学技術の社会実装」は喫緊のテーマである。しかし、なぜ日本では研究シーズの事業化とスケールを伴った社会実装が難しいのか。ビジネスの視点からみると以下3点があげられる。
これらの課題から、アカデミア発のシーズを活用した構想を社会実装するまでには、部分ではなく総合的に取り組むことの重要性が浮かび上がってくる。
ここで、研究を社会実装するために主要な役割を担う産学連携組織に着目すると、その活動は以下のようなステップを経ることになると考えられる。
上記の産学連携組織を通じた研究シーズの事業化とスケールを伴った社会実装のためには、研究シーズの内容をある程度理解した上で、ビジネスプラン策定やその実行戦略、マーケティング、ブランディング、プロモーション、資金調達、知財戦略、プロジェクトマネジメントといった専門性を伴うビジネスのスキルが求められている。さらには、研究業界以外のビジネスサイドの関係者と会話・交渉するために、研究シーズをわかりやすく説明してビジネスプラン化する翻訳能力や、戦略立案や調整能力も含めたリーダーシップを取る能力も長期にわたって必要になる。
このようなサイエンスとテクノロジーをビジネスとつなげる人材の役割の重要性は意外と知られていない。現在、文部科学省や経済産業省の事業にも、産学連携を促すプログラムは多数創出されており、研究シーズの事業化は全企業・全研究機関にとっての好機ともいえる。研究に情熱を注ぐ研究者と科学技術を求めている企業がマッチングし、社会実装という成功を収めていくために、伴走するハイブリッド人材が求められている。
後藤 耀/Yo Goto
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コンシューマー・ビジネス、製造業、観光業、不動産業、スポーツなどの多岐にわたる業界に、新規事業戦略、マーケティング戦略、アナリティクスを活用した事業計画立案支援、産学連携など幅広い領域の案件に従事。顧客の市場環境や競合環境を踏まえて、中計の蓋然性評価を行い、最適なDX戦略の策定および推進の支援に携わる。
※所属などの情報は執筆当時のものです。