Posted: 24 Nov. 2020 3 min. read

日本の科学技術イノベーションの課題とハイブリット人材の必要性

【シリーズ】サイエンス・テクノロジー×ビジネス 産学連携と社会実装

日本経済は、新型コロナウイルス感染症に直面し、2020年4月-6月のGDPが-27.8%と戦後最大の落ち込みとなった。これらの状況を打開するための国家の生存戦略の一つとして、科学技術を基軸としたイノベーションが挙げられる。当シリーズでは、日本における科学技術イノベーションの現状を踏まえ、産学連携や社会実装に繋げるための要点を具体的な課題と解決策の案を交えながら解説していく。

日本は、アメリカ、中国に続き、研究開発費が世界で3番目に大きく、その投資額も近年増加傾向にある。今後の経済社会はサイエンスとテクノロジーによって力強く加速していくことが期待されており、特に、日本の国際競争力が近年低下するなかで、「科学技術の社会実装」は喫緊のテーマである。しかし、なぜ日本では研究シーズの事業化とスケールを伴った社会実装が難しいのか。ビジネスの視点からみると以下3点があげられる。

  • 研究シーズの事業化から社会実装までは長い時間が掛かる。このため、大学、産学連携組織、弁護士・弁理士等の専門家、起業家、大企業の関係者が初めから出口戦略まで一気通貫して見通すことが難しく、関与が途切れ途切れになる。
  • 各人の専門性も学術分野ごと、ビジネスコンピテンシーごとに細分化されており、様々な組織・機関に所属している故に関与のモチベーションや関与可能程度、KPIが異なっている。このため、一つのシーズを関係者で連携して最後まで推進することが難しい。
  • サイエンス・テクノロジーとビジネスのハイブリッド人材の集団が、研究開発という中長期の時間がかかる活動に安定して取り組むことのできる組織が日本には不足している。

 

これらの課題から、アカデミア発のシーズを活用した構想を社会実装するまでには、部分ではなく総合的に取り組むことの重要性が浮かび上がってくる。

ここで、研究を社会実装するために主要な役割を担う産学連携組織に着目すると、その活動は以下のようなステップを経ることになると考えられる。

  1. ビジョンと戦略の構築:産学連携組織の存在意義や目指す方向性を定め、ビジョンと戦略へ落とし込みを行う。
  2. 組織の強化:産学連携組織の組織力強化のために、研究シーズの収集を行い、必要に応じてブラッシュアップを促す。営業力やアレンジメント能力や知財などの専門的能力の強化により組織力を向上させる。
  3. スタートアップとしてのExit:有望なシーズについて産学連携や起業を行い、IPOやM&Aを目指した成功事例を創出する。
  4. 社会実装:外部企業の力も借りながら研究シーズを製品化して実用化、さらに収益化を実現することによって、好循環を作り出し持続可能でかつ大きなビジネスに成長させる。


上記の産学連携組織を通じた研究シーズの事業化とスケールを伴った社会実装のためには、研究シーズの内容をある程度理解した上で、ビジネスプラン策定やその実行戦略、マーケティング、ブランディング、プロモーション、資金調達、知財戦略、プロジェクトマネジメントといった専門性を伴うビジネスのスキルが求められている。さらには、研究業界以外のビジネスサイドの関係者と会話・交渉するために、研究シーズをわかりやすく説明してビジネスプラン化する翻訳能力や、戦略立案や調整能力も含めたリーダーシップを取る能力も長期にわたって必要になる。

このようなサイエンスとテクノロジーをビジネスとつなげる人材の役割の重要性は意外と知られていない。現在、文部科学省や経済産業省の事業にも、産学連携を促すプログラムは多数創出されており、研究シーズの事業化は全企業・全研究機関にとっての好機ともいえる。研究に情熱を注ぐ研究者と科学技術を求めている企業がマッチングし、社会実装という成功を収めていくために、伴走するハイブリッド人材が求められている。

執筆者

後藤 耀/Yo Goto
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

コンシューマー・ビジネス、製造業、観光業、不動産業、スポーツなどの多岐にわたる業界に、新規事業戦略、マーケティング戦略、アナリティクスを活用した事業計画立案支援、産学連携など幅広い領域の案件に従事。顧客の市場環境や競合環境を踏まえて、中計の蓋然性評価を行い、最適なDX戦略の策定および推進の支援に携わる。

※所属などの情報は執筆当時のものです。

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