Posted: 14 Jul. 2023 3 min. read

スタートアップ創出におけるアントレプレナーシップ教育の重要性

【シリーズ】次世代アントレプレナーを創出するエコシステム×教育動向~日本のアントレプレナーシップ教育への提言~(Vol. 1)

我が国におけるアントレプレナーシップ教育の実施はこれまでのところ限定的である。アントレプレナーシップ教育の重要性を踏まえ、本シリーズでは、今後日本が取るべきアクションや方向性に関して、海外との比較や事例を交えながら、提言していきたい(全6回予定)。

1. 近年のアントレプレナーシップ教育への注目の高まり

近年、世界中にユニコーン企業が急増し、スタートアップへの支援が注目を集めている。日本では、岸田総理大臣「スタートアップ・エコシステムの構築」を掲げ、2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、5年間でスタートアップへの投資額を8,000億円から10倍越えの10兆円、スタートアップ10万社、ユニコーン100社を創出するという目標を掲げた5か年計画を策定した。その計画の中では、「イノベーションこそ成長のエンジンだと確信している。その担い手こそスタートアップだ」と語り、急激な社会環境の変化を受容し、新たな価値を生み出していく精神(アントレプレナーシップ)を備えた人材の創出に資するアントレプレナーシップ教育(以下、アントレ教育)等を軸とした育成支援の強化に関する方針を表明している1。そして、アントレ教育の裾野を広げるために、先行する大学等を中心に人材育成の後押しをするとしている。

一方、民間サイドにおいても、スタートアップによる新規事業創出や社会課題解決への期待が近年高まっており、アントレプレナーシップを有する人材の育成に注目が集まってきている。2022年3月には、日本経済団体連合会でも、「2027年までにスタートアップの裾野、起業の数を10倍にするとともに、最も成功するスタートアップのレベルも10倍に高める」という目標2を掲げており、スタートアップは社会課題の解決やイノベーション創出の重要な担い手だと強調している。日本経済全体を浮揚させ、再度競争力を取り戻すための切り札として、スタートアップ創出に資するアントレ教育が挙げられており、行政と民間が一体となって推進していく必要があると考えられる。

また、教育政策としても内閣府では、教育未来創造会議ワーキング・グループ3において、「未来を支える人材像」として、アントレプレナーシップを備えた人材を挙げており、アントレ教育に力を入れていく方針を掲げている。日本経済の成長のためには、科学技術・イノベーションの力は必要不可欠であり、大学等の高等教育機関でのアントレプレナーシップ人材の育成がその中核を担うとともに、産学官の連携を通した実現が期待されている。

2. 起業家(アントレプレナー)が少ない現状

これまで、スタートアップ関連政策が打ち出されている一方、日本のスタートアップ創出は少ない現状にある。世界のスタートアップ企業情報を提供するWEBサイト「Startup Ranking4」によると、スタートアップ創出国の1位はアメリカ、2位はインド、3位はイギリスであり、カナダ、オーストラリア、ドイツ等がランキング上位にあるのに対して、日本は24位(2020年7月時点)である。

また、2001年から2015年にかけての開業率は他国と比較しても低く、世界の主要国が参加する「Global Entrepreneurship Monitor(GEM)」調査の結果においても起業に対する意識の水準は諸外国と比べて極めて低い結果となっている5

上記図表はクリックすると拡大版をご覧になれます。
 

日本において起業家が少ない現状と「ベンチャー白書20206」での調査結果を踏まえて、日本の起業におけるビジネス環境の特異性について考察を行った。日本における起業率や起業意識の低さの原因は、「失敗に対する危惧(37.6%)」、「身近に起業家がいない(19.5%)」等が挙げられている。こうした結果を踏まえ、リスク受容に対する教育や産官学が一体となった起業家との接点の創出が重要であるといえ、アントレプレナーシップ人材を育成・創出していくためには、エコシステムの形成を見据えていく必要がある。

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3. アントレプレナーシップの醸成を促進するエコシステム

日本とは対照的に、スタートアップ創出の実績のある都市では、下図のように大学、民間企業、インキュベーション施設等がハブとなって、アントレ教育からスタートアップ創出支援までの一連のプログラムを提供しており、その中ではスタートアップ・エコシステムが機能している。

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これらの状況を踏まえると、日本におけるイノベーションを促進やスタートアップの創出に向けて、スタートアップ・エコシステムの構築に加え、アントレ教育のプログラムが必要不可欠である。海外都市の先行事例からもいえるように、スタートアップの創出や成長を支援するためには教育機関単体では実現が難しく、産学官連携による後押しが必要である。次回以降に具体的な国内外の事例を紹介するとともに、アントレ教育を軸としたエコシステムの概観を紹介していく。

注)

1: 読売新聞『「起業家精神」教育、小中高で強化…新興企業育成「5か年計画」に明記へ』2022年5月29日
2: 内閣官房「教育未来創造会議ワーキング・グループ 第4回」2022年4月18日
3: 日本経済団体連合会「スタートアップ躍進ビジョン~10X10X を目指して~」2022年3月15日
4: Startup Ranking https://www.startupranking.com/countries 2022年7月最終アクセス
5: CB Insights https://www.cbinsights.com/research-unicorn-companies 2022年7月最終アクセス
6: Global Entrepreneurship Monitor (GEM) 指標による

【シリーズ】次世代アントレプレナーを創出するエコシステム×教育動向~日本のアントレプレナーシップ教育への提言~
執筆者

森本 陽介/Yosuke Morimoto
有限責任監査法人トーマツ

薬事行政機関にて薬事行政に従事、医療系コンサルティングファームにてヘルスケア領域のコンサルティングを経て現職。地域におけるエコシステムの創出に向けて、多様なステークホルダーを巻き込んだ官民連携ビジネスの戦略立案と実行を支援。社会アジェンダ解決とイノベーション創出を基軸とした官民双方へのソリューション提示を得意とする。

 

後藤 耀/Yo Goto
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

コンシューマー・ビジネス、製造業、観光業、不動産業、スポーツなどの多岐にわたる業界に、新規事業戦略、マーケティング戦略、アナリティクスを活用した事業計画立案支援、産学連携など幅広い領域の案件に従事。顧客の市場環境や競合環境を踏まえて、中計の蓋然性評価を行い、最適なDX戦略の策定および推進の支援に携わる。

※所属などの情報は執筆当時のものです。

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