Posted: 25 Dec. 2023 8 min. read

スポーツビジネスコミュニティで推進するDEI

GANTRRIGER・FC今治と語るスポーツ×DEI

デロイト トーマツ コンサルティングはスポーツビジネスコミュニティパートナーとともにスポーツを通じたDEI実現に取り組んでいます。GANTRIGGER・FC今治の皆様と共に障がいの有無に関わらず楽しめるスポーツ体験イベントを開催し、スポーツ×DEIの価値・可能性について意見交換しました。

<開催レポート>

11月3日(金)に大阪府堺市大泉緑地公園で堺市主催のインクルーシブイベントである「堺市障害者スポーツ・レクリエーション大会」が開催されました。デロイト トーマツ コンサルティングは同時開催イベントとして同公園内にて、スポーツビジネスコミュニティに参画いただいているGANTRIGGER、FC今治の皆様と一緒に、障がいの有無に関わらず楽しめるスポーツ体験イベント(タンデムバイク乗車体験・ブラインドフットボール体験)を開催しました。

タンデムバイク体験では、障がいをお持ちの方は普段は乗ることのない自転車の体験に初めは不安そうな様子でしたが、GANTRIGGERの皆様とタンデムバイクを一緒に漕ぐ中で、次第にリラックスされ、天気の良い公園の清々しい風を感じる機会となりました。ブラインドフットボール体験では、FC今治の皆様がコーチとなり、目隠しをして耳だけでボールの位置を探りながらパスやドリブルを行うブラインドフットボールに障がいの有無に関わらずチャレンジを重ね、会場全体で大盛り上がり。

参加者はもちろん、ボランティアと運営も一緒に楽しめるイベントにより会場はたくさんの笑顔に溢れました。

デロイト トーマツ・GANTRRIGER・FC今治の運営者の様子

本記事では、デロイト トーマツ コンサルティング・GANTRRIGER・FC今治でイベント後に行った鼎談をご紹介します。座談会では、イベントを通じた感想、それぞれのDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン、組織や社会において多様性・公平性・包括性を追求する取り組み)の取り組み、スポーツ×DEIの価値・可能性について意見交換しました。
 

<座談会参加者紹介>

(左から)

株式会社今治.夢スポーツ(FC今治):ホームグロウングループ長 安倍 亮太

FC今治にて子ども向けのスクール活動に加え、特別支援学校での指導やブラインドフットボール体験会の実施など、誰もがスポーツに親しめる活動に尽力している。

GANTRRIGER(日本唯一のBMXプロチーム):監督 阪本 章史

BMX体験会をはじめ、タンデムバイクを活用し視覚に障害を持たれた方々の自転車イベントなどを定期的に開催し、自転車でのチャレンジを多角的にサポートする取り組みに尽力している。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社:スポーツビジネスグループ 今井 由貴子

スポーツ団体のブランド戦略・観戦体験向上などスポーツビジネスに関する様々な経験を有する。イベントにはボランティアとして参加した。

<堺市障害者スポーツ・レクリエーション大会同時開催イベント タンデムバイク体験・ブラインドフットボール体験に参加した感想>

今井:本日はイベントお疲れ様でした。我々デロイト トーマツ、GANTRRIGER、FC今治は運営としての参加でしたが、皆で汗を流す体験・参加者の皆様の笑顔はとても楽しいものでしたね。まずは本日のイベントを通しての感想を教えていただけますでしょうか。

阪本:これまでGANTRIGGERでは単体での取り組みとしてタンデムバイクイベントを開催していましたが、今回のように行政とも協力し合い、競技の垣根も越えてコラボをし、またデロイトさんのようなパートナー企業にも入って頂くことで機会創出の幅がこんなにも広がるのかと感じました。また、タンデムバイク、ブラインドフットボール共に体験を終えた後の参加者の皆様の満面の笑みが本当に印象的でした。スポーツをした後の心身ともに感じる気持ち良さを今回皆様も感じられていたのだろうなと思いました!このようなインクルーシブイベントは継続的に実施する事でその意味や価値にも繋がっていくことになりますし、楽しみに参加して頂ける方々が沢山居るとも感じましたので今後も1人でも多くの方々に参加して頂ける様に取り組んでいきたいと改めて思いました。

安倍:GANTRRIGERとのコラボレーションだけでなく、情報交換もできて大変刺激を受けました。他スポーツ団体やチームと協同でイベントを実施することはなかなかないので貴重な経験となりました。僕自身も空いている時間に目隠しを行い、タンデムバイクを体験させていただいたのですが、想像していたよりも恐怖を感じました。実際に体験することによって、参加者の気持ちを多少なりとも感じることができるイベントになったのではないかと思います。ブラインドフットボール参加者の方々は、アイマスクを着用してボールに触れる難しさを感じつつも、仲間の声やボールの音を頼りに取り組んでくれました。最後にはコーン倒しゲームやドリブル競争などサッカーを通して一緒に遊ぶことができました。参加者の方には子どもの頃にサッカーをしていた記憶が甦ってきたと子ども時代の話をしてくださる大人の方もいました。当イベントを通じて、自分自身でも「ボールがあれば誰とでも繋がることができる」サッカーの魅力を改めて感じることができました。

このようなイベントはどうしても単発になってしまいがちですので、継続的に取り組んでいけるような仕組みを行政や他団体と協力して作っていけたらと思います。その点で今回のイベントを堺市さんとともに実施できたことは今後の可能性につながるのではないかと思います。

今井:私も、楽しかったです。個人的には、DEIの推進には以前から興味はあったものの、具体的にはどのようなアクションをとればよいのか難しさを感じていました。当イベントにおける自分の役割は、障がいを持っている方がタンデムバイクを体験されたり、ブラインドフットボールをされたりする上でのサポートボランティアでしたが、ブラインドフットボールでは一緒にプレイをすることもでき、楽しく汗を流すことができました。DEIを推進するために自分ができることというのは一方通行ではなく、このように一緒に楽しんでいくという形もあるのだという学びがありました。

また、私の所属しているデロイト トーマツ コンサルティングのスポーツビジネスグループでは、今年の春にスポーツビジネスコミュニティを立上げ、スポーツ産業や社会が抱える課題に個々のスポーツ団体・会社で取り組むのではなく、クロスで取り組む活動を行っています。今回もスポーツビジネスコミュニティ活動の一環として、FC今治・GANTRRIGER・堺市といった複数の組織の方と競技・立場を超えて取り組めたことに価値を感じています。GANTRRIGERによるタンデムバイク体験+FC今治によるブラインドフットボール、堺市による場所の提供とクロスで取り組んだことで、参加された障がい者の方により楽しいイベントを提供できたのではないでしょうか。

<GANTRRIGER・FC今治・デロイト トーマツそれぞれのDEIへの取り組み>

今井:皆様の組織では、DEIに関しこれまでどのような方針でどのような取り組みを行っていますか。

安倍:私の所属するホームグロウングループでは、地域へのサッカーの普及活動を行っています。『全ての活動が地域の活力源になる』という方針のもと『関わる人全員が笑顔溢れる活動を行う』『人と人がつながるインクルーシブな活動を行う』『人が集まり賑わう街づくりに貢献する』の3つを使命として日々活動しています。

例えば、夏休みに『里山早起き編』と題して、3歳以上の子どもを対象とした運動遊びイベントを3日間今治里山スタジアムで行いました。年齢や性別など関係なく誰でも楽しめる遊びをした後に学校の休み時間のような子どもたちが主体的に遊べる時間を用意しました。延べ200名を超える子どもたちが参加してくれました。他にも特別支援学校や特別支援学級に在籍する児童生徒を対象にしたサッカー教室を行ったり、ホームゲームの前座イベントで複数の児童養護施設から子どもたちを招待したりするなど、サッカーを通して交流する機会を持っています。

活動には我々コーチだけではなく、FC今治からもアカデミー(育成年代)の選手たちが参加し、年代や立場を超えた交流が生まれています。参加いただいた方が「楽しかった!」と笑顔で感想をくださったり、訪問先の特別支援学校の先生方から「子どもたちがいつもより楽しそうに、思いっきり身体を動かすことができています!」との声をいただいたりと、我々としてもやりがいを感じて取り組んでいます。

阪本:GANTRIGGERではタンデムバイクイベントやBMX体験会、競技場の地域と連携し自転車乗り方安全教室などをこれまで継続的に実施をしてきました。タンデムバイクイベントは全ての方々に自転車で風を切ることの気持ち良さ、疾走する爽快感を感じてもらいたいという想いからスタートしました。体験会では幼稚園や小学校、またショッピングモールなどに出向き、先ずはBMXの楽しさを知ってもらい、そこから自転車の安全な乗り方を知ってもらいます。子供達にとって自転車は初めて手にする自分で操作することの出来る移動手段ですので、BMXと言う自転車競技の中でもハードな競技だからこそ、安全に自転車に乗ることの重要性を子供達に伝え、自転車事故を先ずは地域から少しでも減らす取り組みも行なっています。

今井:デロイト トーマツ グループでは、社会のDEI推進に貢献するため、自社のDEI推進のみならず、対外的なキャンペーンやアドボカシーなども積極的に実施しています。また、DEIに限らずの取り組みですが10月はImpact Monthとして、グループのあらゆる人材にボランティア活動の機会を提供しています。今回のイベントもImpact Monthでの呼びかけに賛同したメンバーがボランティアに来てくれています。会社としてはこうした取り組みに参加することで、社会貢献だけでなく、参加した社員自身のWell-being向上にも寄与するという期待をもってImpact Monthを設定しています。自分も実際に参加してみて充実感が素晴らしいなと思いました。

冒頭の感想でもお話しましたが、お互いに楽しむという意識が大切だなと思います。お互いが楽しむことで助け合い+参加者全員のWell-beingに繋がっていくとよいですね。
 

<スポーツにおいてDEIを意識した取り組みを行っていく価値・可能性>

今井:スポーツにおいてDEIを意識した取り組みを行っていく価値・可能性はどのようなところにあると考えますか。

阪本:実は、BMX競技においては障がいの有無に関わらず一緒に競い合います。勿論勝敗だけで語ると当然障がいのある方が勝てる可能性は低くなりますが、BMXの様なアクションスポーツと言われる競技では、『その人のスタイル』と言うものは時に勝利より高く評価されることもあります。そういったこともあり、以前よりスポーツの現場で障がいの有無などによって細かく分けて実施することには違和感を持っていました。現在はオリンピック、パラリンピックも完全に時期をずらし2大会としての開催をしていますが、共争可能な競技から今後は実施の在り方が変わっていくように思います。先ずは今回のようなイベントや地域の方々の集まるスポーツイベントなど、障がいの有無に関わらず共にスポーツを楽しむことでそれを支援する企業、行政、団体も今後取り組めることの可能性がより一層広くなると考えています。

安倍:できないことよりも、できることや共通点を探しルールや方法を工夫すれば誰でも楽しむことができることがスポーツの魅力だと感じます。我々がいる今治という土地は四国の田舎なのですが、そんな土地にあるサッカーチームにも多くの外国人選手が所属しています。日々の活動を通して、スポーツには簡単に国境を超えることができる、世間に強いメッセージを発信することができているのではと感じています。FC今治は、スポーツをきっかけに多くの人と交流ができると思っていて、そこには年齢や性別、障がい、所属など垣根のない笑顔あふれる空間が生まれると思っています。我々のホームスタジアム「今治里山スタジアム」は、日本でも数少ないクラブが保有する自前のスタジアムです。スポーツを行うだけではない「場づくり」といった観点でも、このスタジアムをすべての人にとって役割がある場所にしていきたいという思いがあります。

今井:スポーツの魅力はやはり人を惹きこむ力の強さにあると思います。DEIというテーマだけだとなかなか人・企業・団体のコラボレーションが生まれにくい側面があるのではないでしょうか。スポーツとDEIを掛け算することで、より多くの人が参加できる、楽しむことができるモノを作っていくことができる、そこにスポーツにおいてDEIを意識した取り組みを行っていく価値があると考えます。

東京オリンピック・パラリンピックでもパラ選手の活躍が話題でしたが、スポーツをきっかけにより多くの人がDEIを考えるきっかけが生まれるとよいなと思います。

今回のイベントでも、障がいの有無に関わらず一緒に楽しむことができました。自分自身も目隠しをしてタンデムバイクを体験することで、耳から入る情報に敏感になったり、風をより強く感じたりすることができました。視覚からの情報がなくなることによる恐怖感や他の五感の変化は体験することですとんと腹落ちさせることができました。その上で、障がいをお持ちの皆様の体験を支援したので、「どこで不安になるかな」や「どこが楽しめるポイントかな」など相手の気持ちになって接することができました。これは頭で理解するのではなく、スポーツによる身体での理解によるものだと思います。スポーツ、DEI、それぞれの単独テーマでは交われなかった人・企業・団体の理解が深まり、繋がりが生まれ、そこから新しい価値が生まれていくといいですね。
 

<スポーツ×DEIに関する今後の展望・意気込み>

今井:このようなスポーツ×DEIの取り組みに関し、今後の展望や意気込みを教えてください。

私としては、冒頭にスポーツビジネスコミュニティを紹介しましたが、今回の取り組みをきっかけに今後DEIといったアジェンダベースでもコミュニティの拡大・強化をしていければと思っています。我々はスポーツの力を信じるすべての人と共に、新たな価値の創造を目指した活動を進めていますが、DEIという点では、まずは、互いの事例を学びながら、クロスで取り組む可能性を一緒に検討させていただきたいです。

また、DEIの取り組みを持続させるには取り組みに参加することでのメリットも重要だと考えています。参加によりWell-beingが向上することも立派なメリットの一つではありますが、やはり企業目線では経済的メリットも重要ではないでしょうか。

日本では社会貢献活動を経済的価値と結び付けて話すことがまだまだタブー視されていますが、「いいことしたね」で終わらせないためにも社会的価値がいかに経済的にも価値あるものなのか適切に評価しPRしていくことが必要だと思っています。海外では女性スポーツ、パラスポーツといった従来はマイナースポーツとして扱われていたスポーツが経済的にも成功を収める事例が複数でてきており、日本でもそれは不可能ではありません。スポーツ×DEIの取り組みを積極的に行いつつ、それをもとにいかに経済的にも価値をもたらしていくか継続的に当社としても検討していきたいです。

阪本:GANTRIGGERでは、先ずはこれまでも取り組んできているタンデムバイクを中心としたインクルーシブイベントの機会を増やし継続的に開催することを実現していきたいと考えています。先の回答とも重なりますが、やはり多様な方々が参加できるスポーツイベントにすることで経済効果も高まりますし、そうすることでご協力いただく企業様にもメリットを生み出せる=継続的な開催にも繋がります。全ての人の幸せに繋がることが継続開催の鍵だと思いますので、スポーツイベントを主催する行政や団体などとも今後一層密に連携し、意見交換を重ねイベント実現に取り組んで行きたいと思います。

安倍:FC今治では、今治里山スタジアムを中心とした「共助のコミュニティ」づくりに挑戦していきたいと考えており、その際のひとつのテーマが「インクルーシブ」です。国籍や年齢などのボーダーを超えた多様な人が集まり交流が生まれるコミュニティを目指し、すでに社会福祉法人との連携にも動き出しています。

例えば、昨年までは、チームの用具管理やメンテナンス、クラブハウスの清掃といった業務を、障がいのある方々の就労移行支援事業として社会福祉法人を通じて委託していました。チーム内における用具の管理や清掃といった周辺環境をプロフェッショナルとして整備していただけたおかげで、FC今治のトップチームの選手たちはより一層毎日の練習に集中できるようになりましたし、選手との他愛ない会話を通じ、家族と試合に応援に来てくれるようになった方も沢山います。また、障がい者施設を利用する方々とFC今治のスタッフが協力し、スタジアムで花壇を制作しファンやサポーターにお披露目したり、試合運営のボランティアにも継続的に参加いただいたりすることで、地域との交流にも繋げることができました。

このような取り組みをさらに発展させるため、今年竣工した今治里山スタジアムの敷地内には、障がい者の方々が毎日通う複合福祉施設「コミュニティビレッジきとなる」が建設され、すでに小学生から大人までたくさんの方々が施設を利用しています。放課後にランドセルを背負った子供たちが毎日スタジアムにやってくる風景は、今治里山スタジアムでしか見られない光景かもしれません。また、スタジアム内に福祉施設が存在することで、併設するFC今治の直営カフェ「里山サロン」のお手伝いを委託したり、スタジアムにおいて夏祭りを一緒に開催したりするなど、これまで以上に連携を深めることができています。

今後はこのような取り組みをさらに多様化させることで、私たちは「互いを認め合える社会」そして「自然と助け合いが生まれるコミュニティ」を今治の街から世界に発信していくことに挑戦します。それが私たちの企業理念である「心の豊かさ」に繋がることだと信じています。

今井:本日はありがとうございました。今後もスポーツビジネスコミュニティで継続的にこうしたイベントを開催できればと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

 

デロイト トーマツ グループの
スポーツナレッジ・支援先戦績

デロイト トーマツ グループは、スポーツが持つ価値・力を軸に、社会課題解決やWell-being社会の実現に向けてグループの総合力を生かした取り組みを展開しています。

 

スポーツビジネス

グループのハブとなり、スポーツを取り巻くあらゆるステークホルダーに対して最適なチームを国内外で組成し、スポーツビジネスマーケットの健全な創出・拡大に向けた活動を推進しています。

プロフェッショナル

竹井 昭人/Akito Takei

竹井 昭人/Akito Takei

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

リテール&サービス業をはじめ、スポーツ、食品、製造、銀行など幅広い業種・業態のクライアントに対してデジタル、データ活用案件を推進。 2016年より国内外のモータースポーツに関するデータ活用コンサルティングに従事。 国内、北米のスポーツチーム・アスリートとともに現場帯同し、テクニカルパートナーとして競技支援業務を実施。 >> オンラインフォームよりお問い合わせ