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トーマツが、多様な「人財」が活躍する組織を目指す理由

シリーズ 監査に進化を 第9回

DEI(Diversity, Equity & Inclusion)やWell-being(ウェルビーイング)といった概念が、社会に急速に浸透している。有限責任監査法人トーマツは、組織としてこれらにどのように取り組み、社職員の活躍の場を広げ、また、ステークホルダーとの関係を変革しているのか。未来を見据え監査の変革と高付加価値化にむけた取り組みを進めるAudit Innovation部長 外賀友明が、Audit & Assurance(A&A) DEI兼Well-beingリーダーである淺井明紀子と、監査業務に携わりながらWell-beingを推進する活動に参加している黒川達生に聞いた。

 

トーマツが目指す3つのWell-being

外賀:まず、お二人が担当している業務について教えてください。

淺井:私は名古屋を拠点に監査業務に携わりながら、A&A全体のDEIやWell-being、エシックス(職業倫理)の領域をリードすることを役割として担っています。

黒川:私は入社3年目で、スタッフという立場で会計監査をしています。3年目といっても1年目は大学に通いながらでしたので、まだまだ勉強中です。監査業務に携わりながら、「Just Do It !! 地域イニシアチブ(JDI)」という地域課題の解決を目指すグループ横断のプロボノチームの活動や、Well-beingを高める方法を研究し、研究した内容を対話を通じて実践・発信していく「DIALABO(ダイアラボ)」の活動に参加しています。
 

外賀:トーマツの多様性への取り組みについて聞かせてください。

淺井:多様性やDEIというと、一般的に「女性やマイノリティの立場の方の活躍推進」という捉え方をされがちです。トーマツではそれだけでなく、約1万7000人のデロイト トーマツ グループのメンバーが、自分が持つ能力を組織の中で存分に発揮し、一人ひとりが幸せである組織を目指しています。

組織の一番大事な仕事は、メンバーの能力を引き出し開花させることだと、私は考えています。そのためには多様な人材を集めるだけでは不十分です。すべての人に同じ機会やリソースを提供するEquality(平等)ではなく、個人の違いを踏まえた上で適切な機会やリソースを提供するEquity(公平)によって、はじめて個が輝き、最大のパフォーマンスが発揮できるのだと考えています。

トーマツはWell-beingについても積極的に取り組んでいます。私たちはグループに属する一人ひとりのWell-beingを確保するPersonal Well-being(パーソナルウェルビーイング)、持続可能で活力ある地域社会の実現に主眼を置いたSocietal Well-being(ソシエタル ウェルビーイング)、気候変動への対応やカーボンニュートラル社会の実現を目指すPlanetary Well-being(プラネタリー ウェルビーイング)という3つのレベルでWell-beingに取り組んでいますが、その中でもPersonal Well-beingが土台になると考えています。

有限責任監査法人トーマツ DEI 兼 Well-beingリーダー 淺井明紀子

 

黒川:私が参加しているJDIは、地域の活性化を通じてSocietal Well-beingを目指す活動のひとつです。東日本大震災を機に発足した復興支援プロジェクトを起源とし、現在では障がいや介護といった福祉領域の課題やサーキュラーエコノミーの実現に向けた課題など、社会が抱えるさまざまな課題に取り組んでいます。監査法人だけでなく、デロイト トーマツ コンサルティング、税理士法人など、グループの幅広い法人から異なる専門性を持つメンバーが集まっています。具体的な活動としては、日本各地の経営者やNPO法人の方をオンライン・オフラインで繋ぎ、彼らの取り組んでいる課題について議論する「Just Do It !! 会議」を柱として、幅広いテーマに取り組んでいます。国内を対象としたテーマに留まらず、最近ではアフリカ部会も立ち上がり、すでに70名ほどのメンバーが参加しています。
 

外賀:JDIなどの活動は通常業務の一環になるのですか?

淺井:基本的にはプロボノ(スキルを生かして取り組む社会貢献)や、自主的な活動という扱いですが、組織公認の活動です。

黒川:私は東京で監査業務を行いながら、JDIの活動に参加しています。通常業務との両立はラクではないですが、普段の業務では出会えない人たちとともに活動できるので、大きな刺激になっています。グループ全体にわたり、本当に個性豊かな方々が集まっているのは、デロイト トーマツならではだと思います。

デロイト トーマツのメンバーの中にはバーベキュー研究家として活躍していたり、アメリカやアフリカでの学生団体の活動経験があったり、一級建築士の資格を持っていたり、東京から北九州のこどものWell-beingを追求していたりと、ユニークな個性を持つ方々もいます。仕事以外に自分の好きなことを持ち、それを磨き続けているメンバーが多いですね。

有限責任監査法人トーマツ 公認会計士試験合格者 黒川達生

やりたいことを後押しする、トーマツの組織文化

淺井:個性的なメンバーが多いことに加え、年次や部署の垣根を越えたメンバー同士の風通しの良さも、トーマツの特徴だと思います。私は1995年入社で、黒川さんは入社3年目。でも普段からこうしてフラットに交流していますよね。この風通しの良さは、他のファームから転職してきたメンバーに驚かれることもあります。

もうひとつ、JDIとして取り組むプロジェクトが、経営層からトップダウンでつくられるのではなく、ボトムアップで自発的に生まれているというのも、トーマツならではの組織文化だと思います。

黒川:確かに私も「やりたいことがあるなら、やってみなよ」と、上司はもちろん、会社全体としても後押ししてくれる風土があるのは強く感じますし、ありがたいことだと思います。

私が参加しているJDIは、完全に自発的な活動ですので参加も脱退も自由。だからこそ、本当に「やりたい」という気持ちがある人が集まります。参加に際して知識や経験も不要で、問われるのは「目の前の社会課題を解決したいという想いがあるかどうか」だけです。もちろん活動をする以上は目指す成果やKPIなどを設定しますが、決して参加を強制されるものではありません。

私個人はどんな業務も楽しんで関与していますが、中にはそうではない方もいるかもしれません。仕事だから、辛かったり苦しかったりするのも仕方がない、もしくは、自分の生活より仕事を優先しようと考えている人もいると思います。しかしそれでは、先ほど申しあげたPersonal Well-beingが組織として実現できているとは言えません。

そこで、すべてのメンバーが幸福感をもっていきいきと仕事に取り組むためには、どうすればいいのか。そんな想いから立ち上げたのが「DIALABO」です。こちらも若手メンバー発のプロジェクトで、私も参加しています。

DIALABOとは「DIALOGUE(対話)」と「LABORATORY(リサーチ)」を掛け合わせており、Well-beingの向上に必要なことをメンバーで研究し、対話を通じて発信していくことで、一人ひとりのWell-beingを高めていくことを掲げています。

例えば、淺井さんをはじめとする社内のエキスパートにお話しいただくこともありますし、ときには外部の専門家を招くこともあります。研究した内容を活かして、社員一人ひとりが与えられた業務を漠然とこなすのではなく、想いをもって業務に取り組める動機付けやそのために必要な環境の整備ができるきっかけになれば、と考えています。

 

淺井:DIALABOは若手メンバーが中心に動いていますが、予算の話や関係各所とのやり取りいったネゴシエーションは経験や個別判断が伴うことから難しいこともあるため、そのような場合には我々がサポートし、一緒になって進めています。

多様なつながりが新たな価値となる

外賀:DEI推進に取り組むことで、どんなメリットを感じていますか。

黒川:一番大きいのは、グループ内外の多様な人たちと関われることです。さまざまな価値観や考え方に触れることができるのは大きいですね。職位・職域ともに本業では関われない人たちとコミュニケーションをとる機会がかなり多いです。

「自分の価値」を実感しやすいのもメリットです。私はまだ3年目で経験も浅いため、普段の監査業務では経験豊富な先輩方と比べると至らない点も多く、自分の価値を実感しづらい状況です。ところがJDIやDIALABOの活動では、いろんな分野のメンバーが集まるからこそ、その中で私の会計の知識を活かし活動に貢献することが、バリューと捉えてもらえます。このため、自分自身がチームの役に立っているという実感や手触り感を得ることができ、社会から求められているものへの気づきを頂けます。

またこれらのプロジェクトでは、特に自分が発案したテーマを進める場合などは自らが率先して動き、チームをまとめていく必要があります。このためリーダーシップなど、通常業務とは違ったスキルが自然と身についてきていると感じています。

実は、私は元々人前で話すことが苦手なタイプだったのですが、これらの活動を始めてから、いつの間にか関係性の構築やファシリテーションを評価してもらえるようになりました。

参加者から感謝の声をもらえるのも、大きなモチベーションになります。DIALABOの活動で「心理的安全性」をテーマとしたイベントを開催したときは「イベントに参加したことで上司との距離の取り方を改善することができた」、とうれしい言葉をもらったこともあります。

淺井:私から見ても、黒川さんは経営者のメンターをしたりイベントのファシリテーターを務めたりと、自分の入社3年目のころと比べてはるかに早いスピードで成長していて、頼もしい限りです。確かに通常業務において、経験が少ないうちは相応の責任を伴う業務に限定されます。でもDEIやWell-being関連のプロジェクトでは、自分の想いがあれば、どんどん大きな仕事を経験できるので、成長のチャンスだと思います。

 

外賀:DEIを推進することで、ステークホルダーに対してどのような価値が提供できるのでしょうか。

淺井:DEIのようなプロジェクトに関わることで、自分自身がリーダーとして、あるいは現場のプレーヤーとして課題解決の経験を積むことができます。そういった経験をもとに、監査業務においても、経営者が抱える課題や、社会課題解決に取り組む意義や難しさを、会計士自身が実感を持って語れるようになります。DEI活動を通じて得られた経験を活かすことで、関与先の課題をより深く理解し、経営者の悩みなどへ共感しながら業務に関与していくことで、付加価値の高い監査業務を提供できるようになるのではないでしょうか。

黒川:JDIやその他の活動で支援してきた経営者の中には、男女の格差が都心より大きかった地域において女性活躍を推進するため、地元の女性の得意を活かせるWebデザインの事業を立ち上げた方がいらっしゃいました。また、別の地域では外国人技能実習生として地域に来た若者に対して、他の従業員と同じように雇用し、宗教等の違いがあっても生活しやすいように様々な工夫をした結果、インバウンド需要の創出や事業の海外展開に繋がったという方がいらっしゃいました。彼らに「トーマツの支援があったからこれらを達成できた」と話して頂けるのは我々の成果だと感じております。

その他にも、会社内で自分のテーマを追求できる法人だからこそ多様なスキルや知識を持った人材が集まり、それらを伸ばしていけるのだと思います。多様な人材のスキルを活かし業務に取り組めることは、ステークホルダーにとって大きなメリットになると思っています。また、監査人の第三者的な視点だけではなく、経営者の立場から社会問題を見つめてきた者だからこそ理解できる事柄もあるのではないかと信じています。

 

全員をWell-beingに導く組織を目指して

外賀:今後の取り組みについて教えてください。

淺井:まだJDIやDIALABOといった活動に参加しているメンバーは一部です。これから、こういった活動をさらに活発にしてメンバーを増やし、扱うテーマの範囲も広げていきたいと思います。同時に、社内のメンバーはもちろん、社外にも輪も広げていくことで、よりパワフルな取り組みにしていきたいと考えています。

黒川:私は家庭環境やスタッフという立場から、こういった活動に参加しやすい状況です。ただイベント等に参加頂いた方の中には、非常に関心を寄せて頂いたものの、本業や家庭が忙しくなかなか時間を作れないという方や中途半端になってしまいそうで参加しにくいという方もいました。これらの活動は皆さん本業の傍らで自己実現やスキルアップ等の本業とは別の目的をもって参加されると思いますので、本業が忙しい時には遠慮なく活動を休止したり、お互い支え合ったりしながら、柔軟に活動を進められるような枠組みを作っていきたいなと思っております。

淺井:人事部門でも、希望者が誰でも参加できるような制度の整備を、現在進めているところです。

転職も含めたキャリアチェンジは個人それぞれの考えがあり自由ですが、トーマツにいれば監査業務でのキャリアを積みながら、本日お話ししたように他のさまざまな業務スキルも身につけることができます。

このような取り組みや環境が整っていることを知らないメンバーも少なくないので、これからも積極的に情報発信を続けるなどして、トーマツの全メンバーのWell-beingが実現する環境を構築していければ、と考えています。

外賀:不確実性がますます高まり企業が向き合うリスクや課題が年々増大・複雑化する中、情報に対する「信頼性」と、それを保証する監査法人への期待を強く感じています。このような変化の中で、従来の監査・保証業務に加え、自ら課題を発見・設定し解決に向けた支援を行うといった、企業の価値向上へ貢献する「課題解決型」の業務提供は、高品質かつ高付加価値なこれからの監査・保証業務を確立していく上で、なくてはならないものです。地域が抱えている課題に取り組むJDIなどを通じて、グループ内外の色々な分野の方と関われ、自分の価値を実感できる。課題解決の経験を積むことで会計士自身が実感を持って語れるようになるといった言葉がありましたが、「課題解決型」の業務提供に向けて何が大事か貴重なお話を伺うことができました。本日は、ありがとうございました。

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